表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
罪深い男の想像話  作者: 病み谷/好きな言葉は『贖罪』
《第一章》 怒る彼は全てを殺し尽くす
176/369

無効

「おおっと。」


剣の雨の中、リンを抱えてヴィクティムが駆け抜けている。地面に突き刺さった剣はゆっくりと消え、その分更に剣が作成され、ヴィクティムを狙って放たれる。


そして、全ての剣が突き刺さって消えるのではなく、地面の中を回転しながら走り回る剣達が地面からもヴィクティムを狙う。


「ヒュ~凄いね凄いね!!」


だが、当たる寸前で剣の勢いが弱まり、ヴィクティムの弱い打撃で簡単に破壊されてしまう。


「忌々しい……」


そんなヴィクティムを、ヴィオラはしかめっ面で眺めている。想像以上の身体能力に、ヴィクティムの弱体化の能力が思った以上に強力なものだった。


ヴィオラが独自に戦闘中に研究したところ、ヴィクティムの弱体化の能力には際限がない。


落ちるところまで落ちるのだ。赤子がつついた程度でも崩れるほど、ヴィオラが作り出す剣の耐久力を削ぐことができるらしい。


どんな能力でも弱体化、又は無効化までも出来るのだろう。


憶測の域を出ないとはいえ、その可能性は無きにしも非ず。ヴィオラは警戒しながら剣の舞を披露する。


「君達が大事にしてるこの子に当たっちゃうよぉ!!」

「その娘に当たる攻撃は、お前にも当たるということだ。」

「はっはぁー!!よく分かってるねー!!」


挑発するような口調のヴィクティム。だがヴィクティムはどんどんヴィオラから距離を取っていく。


つまりは逃げているのだ。ヴィクティムはヴィオラに立ち向かおうとはせずに、リンを連れて逃げる気でいる。


「ふ。」


ヴィオラが指を上に向けると、地面の中から突き上げるように大量の剣が出現した。弱体化の能力で切れ味が下がっているため、ヴィクティムを押し上げることしか出来ないが、足止めには十分だ。


ヴィオラは剣を1本作り出し、それを掴んでヴィクティムに剣を突き出す。


弱体化させられた剣は、ヴィクティムの叩きで簡単に崩れてしまう。ヴィオラの飛行能力さえ、無効にされかけた。ヴィオラは面倒な相手だとイラつきを隠せずに剣をヴィクティムに叩きつける。


本来ならば既に微塵になっているはずの敵が、これ程剣を叩きつけてもピンピンしているのが気に食わないのだ。


「面倒な………」

「『0-0-1』は渡さないよ!!この子は最高傑作なんだ!!限りなく人間に機械なのさ!!『ヒト』なんかよりもよっぽど使えるし、何より強い!!『神殺し』の仲間にするならこれぐらいじゃなきゃね!!」

「何を言っているかさっぱりだ。」

「そう?だったら君も仲間になろうよ!!君は強いんだし、そこらの天使なら簡単に蹂躙できるはずだ!!」


そう言ってヴィクティムは懐から1つの球体を取り出してヴィオラに投げつけた。一瞬のうちに剣で粉々に粉砕されてしまったが、ヴィクティムは顔色1つ変えずにヴィオラに語りかける。


「君が僕らの仲間になってくれたら、僕らの悲願が叶う確率がグッと上がると思うんだ!!」

「余に服従せよと言うのか。恥知らずめが。」


剣が数を増す。ヴィクティムを全体から包むように剣の波がおしよせ、地面、天空、左右前後ろ。全方向から剣が殺到した。


しかしその剣の波を、まるで薄い氷を破るようにぐしゃぐしゃに潰しながらヴィクティムが飛び出した。


「チ………。」

「そんなにカッカしない。綺麗な顔が台無しだよ。」

「言われずとも知っている。」


ヴィオラは怒りを露わにして更に浮び上がる。そして、1つの剣を出現させた。


「?」


その剣は真っ白な鞘に収まっており、柄や鞘を見る限り、相当な上物のようだ。


ヴィオラはその剣を掴むと、鞘から剣を抜かずにヴィクティムに振り抜いた。


「なにそれ。刃じゃなかったら意味ないよ。」


ヴィクティムは自身の能力がある故、その攻撃を簡単に跳ね返せる気でいたし、しようとした。が、


「ッ!?」


ヴィクティムの顔面に吸い込まれるように叩きつけられた剣の威力は、普通人が受けるダメージと同等のものだった。つまり、ヴィクティムの能力が効かなかったのである。


「くっ………!!」


ヴィクティムは悔しげな声を上げて距離を取り、口端を滴る血を拭って笑う。


「何年ぶりだろ。血を流すなんて。」


それから脇に抱えたリンを抱え直す。リンは何故か抵抗することなく、ずっと虚空を見つめ続けている。何か、よからぬものを見てしまっているのだろう。ヴィオラはその特別な剣をヴィクティムに向け、更に剣を生み出した。


「時に大臣。余のこの剣が、なんと呼ばれているか知っているか。」

「ご存知ないなぁ。」

「ならいい。教える気など毛頭ない。余は貴様を叩きのめしてその娘を取り返す。『不死』の騎士は、余にそれを望んでいるようだからな。」

「はっはー!!それはいいね!!人間らしい、感情的な話なのか!!その剣なら、僕の能力も関係なしに戦えるんだ。なら、本気で行こうかなぁ。」


ヴィクティムが拳を握りしめてから、懐に手を入れた。何かを取り出すのかと、ヴィオラが身構えたその時、


「と、言いたいところだけど。」

「?………ッ!!」


空から投下された爆弾がヴィオラが今まで立っていた場所を爆撃し、ヴィクティムはその隙に戦闘機に回収されていった。


「大臣!!貴様!!」

「ごめんね!!この子の記憶が、あと少しで戻りそうなんだ。それに早く戻れって司令もあったしね。それじゃあ、また今度!!」


ヴィクティムはそう言って、颯爽とその場を立ち去ろうとする。ヴィオラは大量に剣を生み出し、戦闘機達に向けて放つ。


「『無効インヴァリッド』ォ!!」


ヴィクティムが両手を広げて、球体のバリアのような物を作り出した。それが戦闘機達をそれぞれ包み込み、雪崩込む剣の波全てが球体に触れた直後に崩れて灰になる。


「な………」

「流石に驚いたかなぁ!!」

「チ………」

「僕がここに選ばれた理由はねー!!君が相手になる可能性があったからだよー!!『弱体化』の能力を持つ俺だからこそ!!選ばれたのさ!!」

「とうに知っている。」


ヴィオラを何十万本と剣を叩きつけたが、結局ヴィクティムにその刃が届くことは無いと分かり、剣での追撃を諦めた。


飛行能力をフルに活用して、ヴィクティムらを追いかけるのも選択肢の一つだが、


「ふむ。」


今、『竜の都』は大乱戦の戦場となっている。これ以上国民や建物などの財産を失う訳には行かないと考えたヴィオラは、ヴィクティムの追跡を諦める。代わりに、


「往けるか。元王子。」

「はい!!」


隣を全速力で駆け抜けるライトに聞こえる速さで出された声。ライトは元気よく返事をすると、ヴィオラが投げ飛ばした物を1つ引っ掴んでヴィクティム達を追いかけ始めた。


「さて。」


ヴィオラが後ろを振り向いた。未だ戦闘を続けている高谷と『0-0-3』。だが消耗戦では高谷の右に出る者はいない。放っておいても必ず勝つだろう。そう判断したヴィオラは飛行能力を駆使して戦場へと飛び去って行った。


「………。」


それを確認した高谷が悔しげに唇を噛んでから『0-0-3』の顔面を殴り、地面に押さえつけた。


「ヴォルルァァアアアーーー!!!!」


獣のような雄叫びを上げて『無限の打撃インフィニテッド・アタック』を放つ。


全身に穴が空くほどの力で殴り続けられた『0-0-3』は、既にほとんどの機能を失ってスクラップになりつつあった。


「ルァッ!!」


最後の一撃を、高谷が『0-0-3』に叩きつける。顔面を踏み潰し、割れた外側から内側に手を突っ込んで『安寧の崩御』を発動。自身諸共、『0-0-3』を爆破した。


半身を血だらけにして吹き飛んだ高谷は、何度か地面をバウンドしてからすぐに止まり、そして肌はすぐさま再生した。


「はぁ………はぁ………」


肩で息するほど息切れが酷い。高谷が息切れするなんて相当の負荷だが、高谷自身、その原因には検討が着いている。


『???』が関係しているのだろう。嫌なものだと呆れて、高谷はため息をついて立ち上がろうとした。


瞬間、


「ゔっ………」


凄まじい頭痛を感じて倒れ込んでしまった。


「あァァ……また、寝ることに……なりそうだな………」


起き上がろうとする体にとてつもない重圧がかかったかのように疲労が訪れ、視界が揺らぐ。


限界に達するまでにそう時間はかからない。高谷は誰も見ていない戦場の真ん中で、静かに眠りについた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ