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罪深い男の想像話  作者: 病み谷/好きな言葉は『贖罪』
《第一章》 怒る彼は全てを殺し尽くす
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ヴィレス

「ふぅ!!」


大剣が振り下ろされ、地面から大量の杭が突き出され、魔道兵達が穿たれて壊れてゆく。


攻めてくる魔道兵達は他の国よりも数は少ないが、この国の戦力相応の数であるのが屈辱的だ。


四大剣将と呼ばれているとはいえ、その中で最弱であり人望もあまり高くない。エレジアは自身をそう評価している。


その評価は周りの人間も同じようで、敵もそう考えたようだ。


「く………」


快斗はエレジアと初めて出会った時に強すぎると言っていたが、今では実力は同じぐらいだ。


世界全体からみれば、セシンドグロス王国は最弱の国だ。だからといって、この世界の人間達はこの国を卑下しないし、そもそもこの世界で人間同士の差別というもの自体が存在していない。


だがエレジアとしては、逆に卑下して欲しい立場であるのだ。


マゾという訳では無い。快斗が騎士に就任した時に送られてきた手紙には、エレジアのことを『くっころさん』と称していたが、エレジアはそれの意味を知らない。


まぁ、だからこそ快斗はその文字を書いたのだろうが。


エレジアは本当は四大剣将になるつもりなどなかったが、姉の必要以上の推薦によって任命されてしまった。恨んでいる訳では無いが、その出来事を境に姉との関係性はギクシャクしている。


今では『拳豪』と謳われ、『勇者』と共に世界中を駆け回る姉、エリメア。可愛らしいその名に合わない大雑把な性格に、分けて与えられずに偏った鬼人の血を受け継いだ強い姉。


貧乏人から見事に成り上がったのは姉の功績で、エレジアはおまけのようなもの。正直必要ないと思っているが、求められたのだからしょうがない。


決して強者ではない自分を叱責しつつ、時にはきちんと褒めて褒美を与える。バランスは何よりも大事と考えているエレジアは努力家だ。


だがこれ以上自分の実力が上がらないことをエレジアは知っているし、上がる気もない。


結局のところ、エレジアは四大剣将に相応しくないのだ。


「エレジア!!」

「ん。」


轟く声にしゃがみこむ。頭上を弾丸が通り抜け、エレジアは大剣を振るって弾丸を放った重機を両断する。


そのエレジアを囲むように魔道兵達が飛び降りてくるが、それら全てをゼルギアが切り落とし、隠れて飛んできた弾丸をセルティアが作り出した氷が弾いた。


「止まるなエレジア、セルティア。撃ち抜かれるぞ。」

「分かっておりますわ!!あなたなんかに言われずとも!!」

「あっち。兵士を助ける。」

「了解だ。」


死にかけの仲間を庇おうとしている兵士を追い越し、魔道兵を叩いて切り落とす。大剣を地面に突き刺して銃弾から兵士を庇いつつ、他の兵士に瀕死の兵士を運ばせる。


銃弾を放っている重機には、既にセルティアが乗り込んでおり、魔道兵を仕留めている。


「希望はありますわ!!負けは認めませんわよ!!」


セルティアが兵士達に呼びかける。全体として、まだまだ士気は下がっていない。むしろ強者3人の活躍を見てやる気を出す兵士の方が多い。


だが、それは魔道兵達に対しての殺気であり、人間に対してのものでは無い。それが、3人の悩みの種でもある。


魔道兵側についている人間のほとんどが、裏切りの兵士達だ。寝返った人間と親しい関係の兵士達もいるだろう。


だからこそ、剣を振り抜けない兵士が多いのだ。


そしてエレジアは知っている。ゼルギアにも1人だけ、剣を振り抜けない相手がいた事を。


見たのだ。ゼルギアが逃げ出した瞬間を。相手を瀕死まで追い込み、周りに殺したと勘違いをさせて逃げ出したのだ。追い込まれたという事実によって、相手が更生してくれることを願って。


しかし、それは叶っていない。


「ん。」

「チ………」


刃を受け止める。舌打ちと共に当事者は飛びず去り、剣の柄ををエレジアに向ける。


そこには銃が取り付けられており、弱いながらも銃弾を放つことは出来るが、エレジアは簡単に弾丸を弾いて当事者を蹴り飛ばした。


「ふ……」


その男は吐くように笑ってエレジアを見つめる。その瞳の奥には得体の知れない何かがある。魔力ではない、それ以外のエネルギーが。


「君は………」

「はぁ。大人しく堕ちて欲しいんだがなぁ。」

「こっちも同じ意見。さっさと寝て。ゼルギアが悲しむ。」

「人の心配をしてる暇があるのか。」


男は確実にエレジアを格下と思っているようで、にやけ面のままだ。エレジアはその表情に顔を顰める。


たった今も心配してくれる人がいると言うのに、それを無視して笑う彼に憤慨しているのだ。


「ヴィレス……君は、最低。本当に人間?」

「言うじゃねぇか。まぁ、確かに俺は人間じゃねぇ。でも感情がないって訳じゃねぇよ。」


目を抑える彼は、小さな鍛冶屋で務めていた男、ヴィレスだった。ヴィレスは簡単に答えて、黒装束のポッケの中から1つの球体を取りだした。


「俺の同士を殺し回ってる連中がいてな。あいつらに効くのはどうやらお前のようだ。だから、エレジア。お前は俺らの仲間になれよ。」

「断固拒否。君に従う義理はない。」


バッサリと斬り捨てるように言ったエレジア。ヴィレスはケラケラと笑って、


「じゃあ、俺が無理矢理仲間にしりゃいいだけだ。」

「ゼルギアが可哀想。」

「そうだなぁ。じゃあ、あいつも連れ込むか。氷女に効くんじゃねぇかな。」

「ッ……どこまでも……!!」


いつまで経っても、何を言っても軽い態度のヴィレスに苛つきを隠せず、大剣を強く握りしめて鋭い眼光で睨めつける。


ヴィレスは軽く手を振って


「カッカすんなやエレジア。」

「君は、嫌い。半殺しで連れていく。」

「言うなぁ。」


ヴィレスは頭を抑えてひとしきり笑ったあと、スっとエレジアに真顔を向ける。


「本気で俺に勝てるとでも?」

「ッ………!?」


口調は変わりないが、雰囲気は急に暗く恐ろしくなった。エレジアを見つめる瞳。真っ直ぐそれを向けられて、エレジアは初めてそれが人間の瞳ではなく、ガラスのようなもので覆われた何かなのだと分かった。


「ゼルギアでも瀕死にできた。」

「あれは友のよしみさ。本気出してるわけない。」


真顔のままヴィレスは答える。先程とは打って変わって暗い雰囲気に、エレジアは混乱したままだ。


「本当に、君は………」

「仲間になれよ。エレジア。」

「絶対、断固拒否!!」


エレジアが大剣を構えて飛びかかる。微動だにしないヴィレスはエレジアを見つめるのみだ。


その視線の奥には感情がないように見えた。ただ、エレジアのことを分析しているに過ぎない。


先程の会話だってそうだったのかもしれない。人間らしく話しているだけで、本当はエレジアをずっと分析解析していたのかもしれない。


エレジアは彼を恐れたが、逃げる訳にも行かない。たった今この場において、最も実力を持っているのはエレジア。だからこそ、敵陣地で最も力を持っているヴィレスと戦わなければならない。


そして、中途半端な力の自分を、エレジアは全力で心の中で責めたのだった。

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