ヴァイス
「はぁ………はぁ………」
全身傷だらけの少女は、瓦礫によりかかって息を潜める。
すぐ側には目と思われる部分を光らせる物体が歩んでいる。その足音はゆっくりと着実にこちらに向かってきていて、何やら装填する音も聞こえた。
足音が消える。瓦礫を挟んですぐ後ろにそれがいるのがわかった。既に探しているのではなく、見つけているのだと分かっている。
「う、わぁぁあああ!!!!」
痛む右肩を抑えながら声を張り上げ、鎖でそれを両断する。轟音が鳴り響き、周りにいたそれらが一斉に銃口を向ける。
少女は笑い、諦めが入り交じった溜息をついて叫ぶ。
「いいよ。最後まで!!出来るだけ壊してあげるから!!」
残りの力を、鎖に託して竜巻を起こす。鎖が回転し、銃口を向ける重機達を薙ぎ払い、魔道兵を潰して駆け回る。
幾度となく『光剣落下』を放った後が、地面に刻まれている。鎖が履い回った跡がある。少女が流した血がある。
「はぁ………はぁ………」
瓦礫を積み上げる。倒した重機達の残骸を積み上げる。
砂煙で見えなくなった辺りを見渡して居ると、増援と思われる軍隊が姿を現した。ほとんどが魔道兵で構成されたそれの中には、1人だけ、人間が混じっていた。
「我らの軍隊を壊滅させた少女とやらはお前か。」
白衣を着た青年だった。整った顔立ちに高い身長。むき出しの腹筋は割れて力強い。
「だったら、何……?」
少女、サリエルは吐血を零しながら青年に問う。青年は白衣についたポケットから1つの球体を取り出して
「お前を従える。本当なら排除してしまいたいが、上がうるさくてな。」
「そんな、易々と……!!」
サリエルが飛び出した。鎖を縦横無尽に振り回し、青年の首をはね飛ばそうとしたが、
「『止まれ』」
「う………!?」
青年がサリエルに命令した瞬間に、サリエルの体が動かなくなった。しかし、鎖だけでも動かすことは出来るため、サリエルは鎖を青年に向ける。
「『落ちろ』」
鎖が落ちた。まるで超重力に押しつぶされるかのように地面に埋まっていく。空中で固まってしまったサリエルは驚いたように目を見開いている。
「裏切りの天使よ。我々の仲間となれ。」
「君達は……何者?」
「言う義理はない。あのアホなら言っただろうが………生憎俺はアホじゃない。」
青年は球体をサリエルの額に押し付け、面倒くさそうに呟いた。
「共に世界を救おう。天使、いや、堕天使サリエル。」
「………あぁ。思い出したよ。道理で、私の名前、を………」
意識が遠のいた瞬間に殴られた感覚があったが、衝撃が蜘蛛の糸に絡まったかのように伝わりが悪い。
内側では何かが燃えているような感覚があった。サリエルはそれに耐えながら、小さな声で呟いた。
「『神殺し』、機械部門副隊長、ヴァイス君。思い出したよ………。」