不可思議な力
快「今日でなんとこの小説1年経つらしいぜ。いやまぁ別にどうでもいいと思うけどよ。」
風が吹くように殺気が撒き散らされている戦場にて、次々と降りてくるアンドロイドや魔道兵を、黄色い閃光が一瞬にして粉々に粉砕する。
アンドロイドは捉えられない速度の敵に解析を進めつつ、魔道兵は後方のアンドロイド達を守るように立ち回るが、
「えい!!」
魔道兵達の間をすり抜けて、ライトはアンドロイドの頭を蹴り壊す。仕込まれた銃弾の的にならぬよう、蹴り壊してからは直ぐにその場から姿を消してまた走り出す。
光と同等の速度に対応出来る魔道兵はおらず、また魔道兵には解析機能は施されていない。主力は魔道兵であるのだろうが、それには敵を解析するアンドロイドの機能が必須なのだ。
核を潰された陣営を壊すのは容易い。今ライトが行っていることはまさにそれだ。
「『我雷咆牙』!!」
雷で作り出された金色の虎がライトの右手に纏われ、魔道兵達に叩きつけられる。壮絶な破壊力を持つその一撃は、電気に弱い魔道兵達に耐久性以上の電流を流し、単純な破壊力によって吹き飛ばした。
「まだまだ!!」
吹き飛び瓦礫のように動かなくなった魔道兵とアンドロイドを踏み潰し、追加で降りてくる魔道兵達にライトは吠える。
それからチラとライトは高谷に視線を向ける。未だ気絶したままの原野は一応隠したが、探せば簡単に見つかってしまうため注意している。
その隠し場所の前に、高谷が壁となって立ち塞がり、『0-0-3』と呼ばれた機体と戦闘している。
機体と言っても、今は飛行機の形ではなく、ライトが戦っていた魔道兵と同じようなルックスの戦闘兵へと変貌していた。
だが、あの二人の戦況としては、圧倒的に高谷が有利だ。『不死』であり、血を操る高谷に刃で立ち向かう『0-0-3』は、大量の返り血を浴びては爆破されということを何度も繰り返され、表面は無傷に見えても、間接などの弱い部分はボロボロだ。
「オォォオオオ!!」
腹の奥底から湧き出る怒りを表すように響く雄叫び。肥大化した両腕が『0-0-3』を真上から押さえつけ、地面に広がる血の海が刃を突き出してダメージを与える。
追撃で高谷は右足を振り上げて『0-0-3』を突き上げ、遥か高く、打ち上げる。
「『安寧の崩御』!!」
スパークを放つ青い炎の玉を同じように蹴り飛ばし、『0-0-3』にぶつけた。天空で起こる大爆発。しかしそれはあまりダメージを負わせることが出来ない。
高谷が使う『崩御』は精神を持つものに対してダメージが増すというもの。つまり感情を持たない『0-0-3』には大してダメージを与えられず、
「あれ?」
爆煙を突き抜けて飛び出した『0-0-3』は腕を変形させて刃を作り、それを高速回転させて高谷の眉間に突き刺した。
落下の力と重力に乗ったこの一撃は、高谷の顔面を抉りながら体を貫通した。
「『超回転刃』。」
初めて『0-0-3』が発した言葉は、高谷がそれはもう何度も聞いたことがあった声だった。
今敵となっている『0-0-3』とその声の印象が合わなすぎて、高谷は心の中で笑う。顔面を抉られているので、ちゃんと笑うことは出来ないが。
高谷は顔に大穴を開けられても死なず、『0-0-3』の腕を強く掴んで本体を殴り続ける。顔はすぐさま再生した。
「ちゃんと消失させてあげるさ!!その声の通りにね!!」
快斗ならこの言葉の意味が分かっただろうか?そんなことを考えながら、高谷は『0-0-3』を踏んで押さえつけ、全力で掴んでいた腕を引っ張って引きちぎろうとする。
「『超音波』。」
「ぐ………」
『0-0-3』も負けじと『超音波』を発した。両耳から血が吹き出す。だが『酉』よりはまだマシだ。頭がキンキンとなるだけで、死にはしない。だだ、動きが一瞬強制的に止められてしまうが。
頭を抑えた高谷の隙をついて『0-0-3』は高谷に足払いをして体勢を崩させ、先程自分がされたように蹴りあげた。
「目標、人間。出力、第3段階。『爆裂弾』。」
背中や腹から沢山の砲撃口が現れ、ロックオンした高谷に向かって一斉に射撃した。落下していく高谷を追うように軌道を変える『爆裂弾』は正確に高谷に命中して爆発した。
「ルゥァッ!!」
瞬間、猛獣のような叫び声が響き、噴煙を掻き分けて『血獣化』した高谷が肥大化した腕の鉤爪で『0-0-3』の左腕を切り飛ばした。
クルクルともぎ取れた腕が宙を舞う。高谷はギラりと『0-0-3』を睨みつけ、追撃をしようとしたところで、たった今もぎ取った腕の着いていた部分があまりに綺麗であることに気がついた。
アニメでもよくあるように、通常ならアンドロイドの腕は無理矢理もぎ取ると導線や配線が丸見えになるものだが、『0-0-3』の傷口にはそれが見当たらない。それどころか、取れた腕と接続するための穴のようなものも見える。
まるで、腕をもがれることを想定していたかのような構造だった。
「あァ!?」
と、高谷の首が何かに強く捕まれ、地面に埋まってしまうほどの力で押さえつけられた。何かと見下ろしてみると、先程高谷が吹き飛ばした『0-0-3』の腕が、自立して高谷の首を絞めている。
「くそ………これくらい、予想出来たのに……ッ!!」
馬鹿力で腕を引き剥がし、高谷は地面を蹴って本体へ飛びかかる。が、『0-0-3』も本気を出したのか、全身から炎を吹き出して高谷の攻撃を避け、ブースト付きの回し蹴りを顔面にお見舞した。
踵には小さな刃が着いていた。引っ掻くように高谷の顔面が引きちぎれ、頬の肉が取れて歯茎がむき出しになった。血のマスクですら防ぎきれない一撃だった。
腕がいつの間にか接続されており、一撃一撃にブーストの勢いが上乗せされているおかげで、高谷の体は強化されているにもかかわらず簡単に破壊されていく。
だが、高谷の本領発揮は、血をまき散らしてからだ。
「ルゥァ!!」
高谷は『0-0-3』の回してきた踵に、自ら自身の踵をぶつけた。刃が着いている『0-0-3』の足の方が当然強く、高谷の足は健が着れる寸前まで深く傷つけられた。
だが、それは高谷もブーストを使いたかったからだ。
今度は逆に足の甲で『0-0-3』を狙う。踵の傷からは、無限噴射される血が蹴りの威力を上げ、『0-0-3』の顔面を捉えた。
地面にたたきつけ、未だ残る余力で回転し、『0-0-3』の体を強く地面に押し付ける。それから何度も打撃を打ち込み、ついに完全にハメ技持ち込むことが出来た。
「『無限の打撃』!!」
目に見える速度と音が聞こえる速度が変わってしまうほどに高速かつ威力の高い攻撃が雨のように降り注ぐ。
硬い『0-0-3』の体でも、流石に地面の固い岩盤と高谷の打撃の挟み撃ちには耐えきれず、その体にヒビを走らせた。
だが、黙って殴り続けられる訳でもなく、『0-0-3』は背中からブーストを放つと、胸からドリルを飛び出させて高谷を逆に突き上げた。
胸にできた大口にドリルが入り込み、壮絶な痛みが体を蝕むが、死ぬことは無いので高谷は気にしない。
「ガァァア!!」
大口でドリルを噛み締め、全身に一瞬力を込めると、ドリルが粉砕され、『0-0-3』は無防備になった。
「ッ………想定外。」
「一気に、押シ潰シテあげルよ!!」
高谷は『0-0-3』をもう一度地面に向かって投げつけ、強い一撃をあびせたあと飛びず去る。
「君は硬いカラ、少シ、いや、本気で行くよ!!」
高谷は胸を上に突き出すようにして顎を上げ、『0-0-3』を見下ろすような視線を向けた。『0-0-3』に感情があるかは分からないが、奴はその高谷の視線を向けられた瞬間、ブースト全開で、腕から飛び出させた刃を突き出してくる。
「『強制走馬灯』。」
時空の流れが遅く感じる。この技は時間の流れを遅くさせているように感じるが実はそうではなく、これは対象の視覚、聴覚、嗅覚など、ありとあらゆる感覚の能力を10倍以上に底上げさせ、あまりに早すぎる思考に時空を遅く感じさせているのだ。
簡単に言えば、考える速度に体がついてきていないのである。そして相手の思考が早ければ早いほど、その分高谷の動作が早くなり、完璧なまでにゾーンに入ることが出来る。
そうして遅くなった『0-0-3』の視界では、妙なことが起きていた。
高谷の能力は、ご存知の通り血を操ることだが、それには自身のことを傷つけて血を出す必要がある。今ではそれ以外の能力も身についているため回数こそ減ったが、それでも高谷が自分自身を傷つけることに違和感を覚えることは無い。
だが、高谷の能力も上達して、指先から滴る一滴の血でも、最低10リットルにまで増殖させることが出来たはずなのだ。
だからこそ、上半身の大口を無理矢理引っ張って裂いている高谷の姿が妙なのだ。
「今マデの分は、あまり使いタく、ないからネ。」
そう言った高谷の顔が縦に亀裂がはいり、ついに下半身を残して真っ二つに避けてしまった。未だ繋がったままの内臓が尾を引き、大量のドス黒い流血が高谷を取り囲む。
「あァ、ァ、ァァア………」
あまりの痛みに呻く高谷。しかしすぐに再生して痛みは消え失せた。
「マダ、足りない。」
今度は足をもいだ。重大な血管が一緒にちぎれてしまい、痛みと流血が比例するように量を増す。
「足りない。」
右目をくり抜いた。前歯を折った。耳を引きちぎった。頬を引っ掻いて穴を開けた。爪を剥いだ。手首に指を突っ込んだ。下を噛みちぎった。それら全ての痛みが同じようで違うものをもたらして、すぐさまなかったことになる。
この無意味に思える行動に、一体何があるというのか。自虐にしか見えないこの行動に、彼は何を見いだして、何を望んでいるのだろう?
『0-0-3』は、自身の持つ解析技術をフル稼働させ、高谷を観察するが、特に変わったところはない。いや、これだけ痛みを感じて変化がないことが変わっているのだが。
戸惑う『0-0-3』。その刃の切っ先は既に高谷の首を捉えている。しかし、高谷は決してその場から動こうとしない。むしろ、その攻撃を受け入れようとまでしている。
「あぐ………」
首が見事に跳ねとんだ。その瞬間に『強制走馬灯』は解除され、それでも宙を舞う高谷の首と体は連結して元に戻る。
振り返る『0-0-3』。そして、ゆっくりと顔をあげる高谷。『血獣化』も何もかもが解けてしまった高谷は今無防備だ。
殺害とまでは行かぬとも、動きを封じることは出来る。『0-0-3』はそう判断し、手首から杭を取り出して装着。高谷を地面に縫い付ける準備を整えた。
高谷が顔を上げ終えた。目を閉じている。『0-0-3』が跳ぶ。額を目掛けて杭を突き出して、そのまま地面に押し倒そうとしたその時、高谷が目を開けた。
先程までと何ら変わらない、優しさが垣間見えるほど奥深く慈悲深いその瞳と視線が交差した瞬間、
「ッ!?」
『0-0-3』の視界は真っ暗になり、気づいた瞬間に凄まじいほどの圧力を上から感じた。
それから地面に自分が押し付けられていると理解するまでに2秒ほどかかってしまった。
上から押し付けられる力に地面が反作用で同じ力で押してくる。が、圧力がその反作用に勝って地面が抉れた。
顔を上げられない『0-0-3』は、項に設置された隠しカメラで様子を確認すると、高谷が『0-0-3』の頭を踏みつぶしていることがわかった。
『0-0-3』がブーストを発動。その場で回転して高谷の頬に蹴りを入れようと足を伸ばした…………はずだった。
「………理解不能。」
先程まで視界の中に絶対に存在していた左足が、太ももから下がもぎ取られていた。高谷はその足を掲げるように持って『0-0-3』を見下ろしている。
足も取り外しは可能だったが、不意打ちだったため外すという判断をくだせなかった。
そして、見下ろしてくる高谷の能力が、何らかの形で上がっていることが分かったが、その方法が思いつかない。
だがやはり強化する場面があったとすれば、先程の『強制走馬灯』だ。彼は自分の体を剥いでまで自分を傷つけようとした。何故それをしたのかは不明だが。
と、高谷の表情を観察していた『0-0-3』のカメラに向かって、高谷は優しく微笑んだ。
「それじゃあ、すぐに終わらそう。あまりこの状態でいたくはないからね。この先のことも考えてさ。」
優しい声と裏腹に、殺気が段違いに鋭く増した。『0-0-3』に搭載されたプログラムの中に高谷の対象法は乗っていたが、この能力に関しての情報はなかった。それは事前に確認していたからわかったし、今確認しても情報はなかった。
即座に『0-0-3』は解決策も思案し、分析に分析を重ねて高谷を倒す方法を考える。が、意味が無いとばかりに高谷は笑った。
人差し指を顎に当て、あざとく笑った顔はまるでいたずらっ子だ。
そして高谷は、その声に不相応な回答な回答を投げ掛ける。
「言っただろう?消失させてあげるって。ねぇ、『初めての音』さん?」
「………超危機。状態を『通常』から『暴走』へ移行します。」
1人と1つが本気を出した。ぶつかり合う殺気が撒き散らされ、肌がピリピリとなる。
「ふむ。あれは………」
高谷を眺めているヴィオラが興味深げに顎を撫でている。口を閉じて少し強く唇を噛むと、ヴィオラは吐き捨てるように言った。
「無理するでないぞ高谷。それは、お前が今まで誰よりも積み上げてきたものだろう。」