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罪深い男の想像話  作者: 病み谷/好きな言葉は『贖罪』
《第一章》 怒る彼は全てを殺し尽くす
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空襲だ。

暖かい光を感じて、ヒバリは目を覚ました。


「トゥットゥルルットゥルットゥットゥル。」

「ん、んぅ………」

「そこに大体……」

「なんだ……?」

「お、起きたかヒバリ。」


陽気な歌声に上体を起こすと、焚き火の奥に棒を振って歌を歌っている快斗がいた。左目をパタリと閉じたまま笑う彼は、どこか笑いを誘う表情だ。


「ふっ。」

「なんだよ?」

「なんでもない。気にするな。」


ヒバリは快斗に体を向け、彼が見つめる焚き火を同じように見つめ始めた。


「あの後は………」

「んあ。ヒバリがボス蜘蛛を倒したから、後の蜘蛛達は殺して逃げてきた。グロすぎて逆に耐性ついてもう蜘蛛は怖くなくなった。まだ百足は無理だけどよ。」

「はぁ………?」

「んで、出口を出てみたら夜で、適当に歩いて進んでたら、帰り道が消えてた。」

「消えた?」

「ん。行き止まりになってた。茨が壁になっててよ。だからそのまま進んできたらあら不思議。完全に封じられちまったってわけさ。」


快斗が半笑いで上を見上げる。上には星空が見えるが、その範囲が前よりも狭い。つまり壁の高さが伸びたのだ。


目分量にして、前いた茨の道の壁の約2倍の高さだ。


「跳び越えて出ようとしたけど無理だった。多分2人合わせても無理だ。」

「だがお前には翼が……」

「ここは前よりも魔力を封じる力が強えみてぇでな。どう頑張っても出来なかったよ。」

「なる、ほど……。」


つまりは、脱出はほぼ不可能ということ。快斗の言うことが正しければ、本当にヒバリと快斗の力を合わせても意味が無いのだろう。


軽い快斗を、あわせて跳んだヒバリが風を付与した剣で打ち上げる。そして快斗がダメ押しの翼生成で更に浮き上がる。


この方法を使えば、前の壁は辛うじて超えることが出来た。が、今回は壁の高さは2倍。しかも魔力が更に使いづらくなっているとなると、


「絶望的だな。」

「そうだな。でもよ、ここ。悪い部分しかねぇってわけじゃねぇんだぜ。」

「何?」


快斗はそう言うと、自身の手のひらを草薙剣で引き裂いた。真っ赤な鮮血が流れ出たが、その傷は直ぐに再生して閉じてしまった。


「これは……?」

「俺らじゃない誰かが、俺らに『無限再生』みたいな術を発動してやがる。ここまで来たら、諦めるのは禁止って事だな。」

「そう、か……。」


ヒバリも同じように指の切り傷をつけてみたが、その傷は見るまもなく消え去ってしまう。


「あの眠気は、もう感じねぇが……」

「そうだな。」

「ん。で、出れそうな場所があんだよ。」


快斗は立ち上がると、1つの壁の側まで歩み寄っていく。その壁はほかの壁よりも薄く茨の隙間からほんの少しだが外が見える。


「破壊できるのか?」

「んにゃ、他の壁より強度が薄いってだけで、簡単には壊せねぇよ。ちょっとずつ壊そうとしてもすぐに再生するし、それにな………『死歿刀』。」


快斗が獄炎を纏わせた草薙剣を壁に向かって振るった。獄炎は茨を焼き、壁を消滅させるかと思われたが、獄炎の燃焼よりも、再生の方が早く壁は壊れない。


そして、快斗がその場から直ぐに跳び去ると、快斗が立っていた場所に大きな切り傷のようなヒビ割れが起こった。


「コレ見て壁に追加された効果は分かったろ?」

「あぁ。『反射リフレクト』だ。」


字面通り、この術の効果は受けた攻撃を反射する。


反撃カウンター』とは別物で、『反射リフレクト』の方が格としては下になるが、それでも厄介なこと極まりない。


「『反撃カウンター』は躱せないもんだったが、今回は逃げればまだダメージは受けねぇし、受けても回復できるからな。」

「だが、ここからの脱出は困難だと言うことか。」

「そ。この壁の再生力を上回る力ででかい穴を開けて走り抜けるしかないだろうな。でもきっと、壁は壊れても反射はするはずだ。それに耐えつつここから駆け抜けるって結構きついな……」

「ふむ………」


ヒバリは考え込むように壁を見つめてから大きく溜息をついて、


「天野はどれほどの力をぶつけた?」

「ここじゃ魔力が使えねぇからな。『死歿刀』最高火力と、『魔技・絶望の一閃フラッシュ・デスペアー』をぶつけたけどなぁ。結局、穴は空いても抜け出す前に閉じて反射でダウンだし、そもそも穴が小さくて出れなかったからな。」

「そう、か。なら私でも開けることは出来ないか。」


『怨力』は魔力のカテゴリーに含まれないらしく、この空間でも自由に使うことが出来るが、その『怨力』の最高火力の『魔技』でもその結果だということは、魔力無しのヒバリでは穴を開けられないだろう。


回復はすると言っても、やはり2人とも傷を受けるのを進んでするタイプでは無いため、出来れば別の脱出方法を見つけるか、簡単に壁を破壊する方法を見つけるまでは壁を傷つけたくないと考えていた。


手っ取り早く脱出する別の方法は、壁を飛び越えるということなのだが、


「…………。」


今の2人の力を使って飛んだとしても無理だということはわかっている。


と、ピンときたヒバリが思いついた方法を伝えようと快斗に振り返ったが、口を動かしたのは快斗の方が早かった。


「『魔技』の反動で跳ぶのも試したさ。確かに本気の『絶望の一閃フラッシュ・デスペアー』なら越えられるかもしれねぇが、それだと範囲攻撃でヒバリに当たっちまうからな。」

「ここにいる限りは死ぬことは無いぞ。私の心配はしなくとも……」

「違う違う。」


快斗は人差し指をゆっくりと揺らして、


「死ぬ死なないとか、心配無用とかじゃなくて、俺がお前を傷つけたくないから、やらない。」

「ッ………」

「そういうことだ。異論は認めねぇ。自己決定権だ。なんとしてでも俺はお前に自虐思想はさせねぇよ。」


快斗はにっこり笑って、


「傷つくのは、俺だけで十分だ。言うほど俺も傷ついてねぇし、どっちかっていうと高谷の方が傷を受けた回数は多いけどよ。」

「………そう、か。」


静かに目を逸らしたヒバリ。噛み締めるように力が込められている口元。快斗は首を傾げ、それからニヤリと笑って、


「なんだよ男にこんなこと言われたのは初めてか?」

「む………天野はあるのか?」

「あぁ。あるな。ルーネスさんに。」


エレスト城でくつろいでいた時、部屋の端を蠢く黒い影に快斗が悲鳴をあげてルーネスに飛びついた時、ルーネスが金色槍を握りしめて泣きじゃくる快斗に振り向いて言った言葉。


「大丈夫です。傷つくのは、私だけで十分です。」


その後、ルーネスは女王という肩書きを完全に捨て去って黒い影を追い詰め、更には巣まで発見して影達を撲滅した。


次の日、ボロボロの、主にメンタルがボロボロのルーネスが快斗にその報告をよこした。


それからというもの、快斗は無慈悲にもルーネスを害虫駆除によく呼ぶようになった。高谷や原野は辞めるように呼びかけたが、虫怖さに泣く快斗に何も言えなくなり、更にはそんな快斗を可愛がるルーネスの構図に近づけなかった。


「やっぱルーネスさんって頼りになるよな。」

「それは………そうだな。」


若干ズレた信頼に、ヒバリは呆れたように頭を抑えた。


余談だが、害虫駆除に駆け回るルーネスをヒバリも目撃したことがあり、気色悪く飛び回る害虫達に金色槍を振り回すルーネスには、その槍術に畏怖の念を抱くと同時に、している事のくだらなさに今と同じように頭を抑えたのだった。


「彼女はお前の道具では無いのだが………」

「わーってるって。虫に強い優しいお姉さんだ。」

「彼女も小さい生物は苦手だと聞いていたが………」

「んあ?そうなの?」


相手が無理していると言うことを考えることの無い快斗の悪い癖だ。無意識に周りに苦労をさせてしまう。


彼には自信を見直す時間が必要だと、ヒバリは心の中で思った。


それからもう一度上を見上げ、変わらず高い壁に溜息をついて振り返る。


「さて、どうする?」

「薄い壁があるんだ。素直に破壊して出た方がいいんじゃねぇか?」

「確かに。破壊できる壁を用意したのなら、それを乗り越えろということか。まるで試練だ。」

「そういえばあいつそんなこと言ってたな。」


快斗の脳内では、快斗とヒバリを無理矢理押し込んだ暁が写っている。


暁は試練があると言っていたが、彼女自身はこの茨の道に踏み込んだことがあるのだろうか。


試練があるとは言い伝えか、はたまた自身で体験したのか。仮に実体験だとして、暁は『真剣』を手に入れているのだろうか。


だが、きっと暁ならこんな壁でもものの数分で破壊できるだろう。反射対策も完璧に施して、傷一つなく外に出るのだろう。


そんなことを考えている快斗の様子を見てヒバリが口を開いた。


「暁のことを?」

「まぁ、そうだな。なぁ、暁はここに入ったのか?」

「私が聞いた限りでは、歴代最速でこの茨の道を攻略してきたようだが、『真剣』は手に入らなかったということだ。」

「なるほど……他の一族は、ここを出たら『真剣』を手に入れてるのか?」

「あぁ。だからこそ不思議なんだ。彼女は何故『真剣』を手に入れなかったのか。……いや違うな。何故手に入れられなかったのか、だ。」

「手に、入れられなかった?」


その言葉が快斗の心にに蜘蛛の巣のように纏わりついて離れなくなった。


確かにもう手に入れなくても十分強いであろう暁だが、それならなおのこと、何故彼女は手に入れることが出来なかったのか。


「私にもわからん。気の問題では無いだろうか。」

「気の問題ねぇ……」


精神の弱さが関係しているのではと語るヒバリ。快斗は首を傾げるが、それに意味が無いと思い、そのことを一旦考えるのをやめた。


「取り敢えず、どうにか出る方法を考えねぇとな。」


快斗はさっきまで座っていた場所に寝転がる。


「ま、俺はタイプのお前と一緒にいて悪い気はしないk………」

「早めにここを出るぞ天野。ここ数日、ライトに会えていなくて不安だ。」

「はぁ……そうだな。」


快斗は必死に頭を働かせるヒバリを見てあーと視線を空にあげる。


「まぁ、ゆっくり行こうぜ。あいつなら高谷が着いてるから、そんな簡単に死にはしねぇよ。」

「だと、いいがな。」

「そんなに心配してると、反抗期が来るんじゃねぇか?」

「ライトに限ってか?」

「来るかもしれねぇだろ?本人の気持ちの変化は誰にも…………」

「?天野?」


突然快斗の言葉が止まり、ヒバリは不思議がって振り返った。快斗は真上を見上げたまま、じっと止まって動かない。


ヒバリは快斗に釣られるように上を見上げ、そして驚愕した。


「な………」

「おいおい…………マジかよ………」


茨の壁にかくどられた四角い空。その半分を、真っ黒な物体が大量に飛んでいる。


「あれは………なんだ……?天野。」

「あぁ。あれは俺、見たことがある。」


黒い物体はいくつもの何かを落としている。その光景を見て、快斗はかわいた笑みを浮かべて、怯えた様子で言い放った。


「あれは俺の地元じゃあなぁ、『空襲』って言うんだ。」

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