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罪深い男の想像話  作者: 病み谷/好きな言葉は『贖罪』
《第一章》 怒る彼は全てを殺し尽くす
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終わりの始まり

久々にめっちゃ長くなってしまった………

さて、ヴィオラとの朝食を終えた一行は、リンを起こしてもらうため、ヴィオラと共に『遺霊の祠』と呼ばれる石造りの建物に居た。


「ふむ。相当な負荷がかかったようだな。」

「負荷がかかk、ふk、負荷がかかった?」

「凄い噛むね、どしたの原野。」

「…………。」

「?。原野?」

「え、いや、なんでも、ない。」


目にクマが酷い原野は、調子が悪そうに高谷に寄りかかっている。


「きついなら寝ていてもいいけど……」

「そう、だね。そう、する、ね………」


ライトによると、原野は昨夜暴れかけた高谷が心配で一睡もしていなかったとのこと。


石でできた長椅子に座らさせられた原野はゆっくりと寝息を立てて眠りについた。


「ふん。」

「ん?」


ヴィオラが魔力を込めると、リンの体からキラキラと光る半透明のダイヤのような宝石が飛び出した。


「これは?」

「魂の具現化。言ってみれば模型だ。本物ではないが、これは本物と同じ見た目をしている。この娘の魂は透き通って綺麗よのぅ。」

「へぇ………」


人によって違う形の魂は、輝きや色、大きさや価値等が全て違う。


リンの魂は非常に綺麗で透き通っている。ヴィオラが驚くほどの透明さを持っているようだ。


「ほれ。見よ。ここが負荷がかかった部分だ。」

「へぇ。」


ヒビ割れた1部を指さして、ヴィオラは魔力を流す。ヒビがみるみるうちに修復され、宝石は綺麗に元通りになった。


「治ったの?」

「たわけ。この程度で治るはずなかろうて。これはほんの一部だ。この娘はこの年齢にして、魂に残した記憶が多すぎるのでな。」


確かにリンは年齢に不相応な体験をいくつもしている。死の間際まで行ったり、崖から落ちたり、敵を殺したり、斧を担いで振り回したり。かなり色が濃い人生を歩んでいると言えよう。


「これを後20回ほど。これよりもヒビが大きいものばかりだ。それに、これは見た目以上に魔力を消耗する。久々に、骨が折れる仕事であるな。」


ヴィオラは楽しそうに口元をゆがめて笑い、リンの治療を開始した。体から飛び出す宝石が直されていく度、ヴィクティムが何故だか嬉しそうに笑いを増していく。


その反応にライトと高谷が不気味に思った。だが、特に何をする気配もないので放置。と、後ろで寝ている原野が静かに呻き声を上げ始めた。


「うなされてる。」

「なんだ。お前らは精神汚染された者達ばかりなのか?余は治さんぞ。」

「大丈夫だよ。多分たまたま悪夢見てるだけだと思うから。」


人は疲れるとナイーブになり、悪夢を見やすいと快斗が言っていた。恐らくそれだろうと推測した高谷は、原野の隣に座って様子を見ることにした。


それから数十分、


「これで、21個目だ。」


大部分がヒビ割れた宝石を見て、ヴィオラがそういった。


「これが最後ですか?」

「あぁそうだ大臣。その目に焼き付けておけよ。正当な報酬をエレストから貰うためには、お前の証言が必要になるであろうからな。」


宝石を直しながら言うヴィオラ。ヴィクティムは笑みを浮かべて、


「えぇ。この目にしっかりと焼き付けますよ。この景色を。」

「?」


ヴィクティムの口調に疑問を持ったヴィオラはチラとヴィクティムに視線を向けたが、直ぐに宝石に視線を戻した。


「よし。そろそろだ。」

「おお。」

「やっと、ですね。快斗さん喜ぶでしょうか?」


宝石が直っていくのを見ながら、高谷とライトがワクワクした様子で話している。


「ん………あぁ……?」

「あ。起きた?原野。」


と、ちょうど原野が目を覚ました。すると彼女は急に上半身をガバッと持ち上げて起きたあがった。


「うわ。どうしたの原野。」

「………高谷君。あの宝石は何個目?」

「え?」


緊迫した様子の原野。高谷はその表情を見て何かを感じとった。とてつもない、嫌な予感がした。そんな2人を見ていたライトが首を傾げて、


「21個目です。あれが直れば、リンさんは起きるみたいですよ。」

「21個目?」


原野が時間が止まったように動きを止めた。瞬間、直ぐに原野はヴィオラの方を向いて、今までにないほどに大きな声で叫んだ。


「それを直しちゃ駄目ーーーー!!!!!!」

「は?」


何を言っているのかと視線で語るヴィオラ。原野がその言葉を叫んだ時には既に宝石が完成し、リンの体の中に戻ってしまっていた。


「あ………」

「待って原野。何かを見たんだろう?何を見たか今ここで話して。早く!!」


絶望に染った表情の原野の肩を掴んで、高谷が大声で語り掛ける。ヴィオラはそんな2人の様子を見て首を傾げた。ライトも同じだ。


「リンちゃんは起こしちゃダメなの!!」

「どうして……」


原野は涙目で高谷に言う。その理由を聞きたい高谷は疑問を口にしようとしたが、それよりも早く原野が大声で宣言した。




「滅びちゃう!!この世界が!!滅びちゃうのぉ!!」




そう叫んだ原野の顔面が勢いよく蹴り飛ばされた。


「原野さん!!」


壁にめり込んで気を失った原野に駆け寄ったライト。頭から血を流している原野の傷に布を巻いて止血する。


「……おい。何してるんだ。ヴィクティム。」

「大臣。貴様。」


高谷とヴィオラは、殺気立った様子で、原野の顔面に蹴り飛ばした張本人、ヴィクティムに問う。


ヴィクティムは手に持っている資料を投げ捨て、天を仰ぐように上を見つめたあと、


「アッハハハハハハハハハ!!!!!!やっと見つけたよ!!僕の俺の私の某の拙者の小生の吾輩の!!!!宝物をさぁ!!」

「ぐっ!?」

「ち………!!」


非戦闘員だったはずのヴィクティムの力とは思えないほどの威力で殴られた高谷とヴィオラ。互いに突き放された時、ヴィクティムはリンを抱いて天井を破壊して祠を脱出する。


「待て!!」

「追いつきます!!」

「余への不敬……生き残れると思うなよ!!」


実力者3名が祠を突き破ってことに飛び出した。ヴィクティムはそんな3人を見て「うわぉ」と声を上げて、


「皆いいよーー!!!!出できてねーー!!!!」


点を向かって叫んだ。すると、祠を護っていた護衛が姿を変えた。


「なっ!?」


真っ黒な黒装束。『侵略者インベーダー』とはまた違うその服装の彼らは、この世界には無いと思われていた武器、銃を懐から取り出して3人に発泡した。


「ふ………」


ヴィオラが剣を作り出して弾を弾く。そして直ぐにその護衛だった彼らを剣で突き刺した。


が、血が流れない。それどころか痛がってすらいない。


「アッハハハハ!!!!無駄無駄!!それは人間じゃないからねぇ!!」


ヴィクティムの笑い声が聞こえた。その言葉を聞いて何かに気づいた様子の高谷が剣で貫かれた彼らの黒装束を剥ぎ取った。


「これは………!!」


装束の内側にあったのは人間の肉体ではなく、金属で作られた人型の物体。つまりは、


「アンドロイド!?」

「そうさ!!さぁ、悲願を叶えよう。ね?」


未だ眠ったままのリンに語り掛けるヴィクティムが、リンを空中に放り投げた。


そして、口元に手を当ててこう言った。




「『殺人鬼幼女型0-0-1』!!起動!!」

「あ、あれ?」




その言葉に、リンが急に目を開けた。途端に表情は困惑へと突き落とされた。


地面に上手く着地し、何事かと周りを確認する。


「リン!!」

「あ!!高谷お兄ちゃん!!」


駆け寄ってくる高谷に気がついて、リンは嬉しそうに飛びついた。


「起きたんだね。」

「起きれたよ!!ねぇ、快斗お兄ちゃんは?」

「ここにはいないけど、後で会えるよ。それより今はあいつをね……」


高谷がヴィクティムに視線を向けた瞬間、視界の左半分が真っ赤に染った。右隅には誰かの左手が見える。


「………あ、れ?………え?」


リンが呆気に取られたような声を上げる。


リンの胸から、『地球』でいうチェーンソーが飛び出して、高谷の左半身を切り飛ばしていた。


「流石だ!!『0-0-1』!!作ったかいがあった!!」

「こん、のぉお!!」


再生した高谷がヴィクティムを睨みつける。リンもまたヴィクティムに視線を向けた。そして、驚いたように目を見開いて、小さく呟いた。



「お父、さん?」



その言葉を言い終わった直後、リンを中心に衝撃波が舞い、高谷が吹き飛ばされて祠に直撃。間一髪でライトが原野を連れ出したが、祠はボロボロに砕け散った。


「お父さん、て………」

「え?リンさん……?」

「お父さん、なんでここにいるの?」

「久しぶりだね。君の父親だよ。『0-0-1』。寝たきりになってしまったって聞いて心配したよ。よく生き残ってくれたね。」

「何を、言って……?」

「大丈夫。君は俺の言うことを聞いていてくれればいいから。」


リンが怖がるのは、ヴィクティムの歪な笑顔が嫌いだからだ。本能的に恐怖心を掻き立てられる。生理的に無理、と言うやつだろう。


「『0-0-1』って………?」

「ん?あぁ、そっか。記憶は消しておいたんだ。」

「記憶?なんの事?お父さん?」

「いいかい?人間にとって、1番強さに直結するものはなんだと思う?」

「え?」

「それはね……」

「はぁあ!!」


戸惑うリンの様子を見兼ねてライトがヴィクティムを殴り飛ばそうと超高速で迫った。躊躇なく『光の刃(ライト・セイバー)』を発動した拳を突き出す。


が、こちらに見向きもしていなかったヴィクティムは、ライト自身が突き出した拳によって生じた死角から拳をぶつけた。


軽いライトは簡単に打ち上がり、砂埃を立てて遥か遠くへ転がって言った。


「な………」


いくらなんでも吹き飛びすぎなライトを見て、高谷が呆気に取られたように固まった。


「彼奴、対象の能力を一時的に下げる力を持っているようだ。」

「え?そうなの?」

「見てわからぬか。」


宙に浮くヴィオラが難しい表情で呟いた。高谷はその表情をする意味が分からずにヴィオラの表情を見つけたが、ヴィオラは高谷に振り返って、


「分からぬか。能力を一時的に制限なく下げることが出来ると考えた場合、そなたの回復力を消え失せるということだぞ。」

「ッ!?」


予想以上の厄介さに高谷が驚愕した。


「もっとも、」


だが、ヴィオラはそんなものは前置きだと言わんばかりに笑いながら高く浮かんでいく。


「彼奴をそなたに相手どらせることなどない。」


剣を数本出現させた。眼光は鋭くヴィクティムを捉えている。


「元メサイア幹部『一番』。四大剣将の余だ。負けるはずもない。なぁ、大臣!!」

「ん?」


ヴィオラの雄叫びに反応したヴィクティムが振り向くと、既に剣の切っ先が目の前に迫っていた。


「よっ、と。」


と、寸前で剣が止まってしまった。何かに阻まれるような、ぎこちない受け止められ方だった。


ヴィクティムは剣を全て指で弾いて砕き、リンを抱き抱えて持ち上げる。


「さぁて、『0-0-1』!!覚醒まではあとどれ位だい!?」

「かく、せい?」

「おーっと、また記憶が無いことを忘れていたよ。えーっと………」


ヴィクティムが懐を探る。それから「おっ」と声を出すと、小さな物を取り出した。


「あれは………」

「これは君の大切な記憶さ。世に放つ前の、ね!!」

「ッ!!USBか!!」


キャップを外し、恐らく膨大な量のデータが取り込まれているであろうそのUSBを、ヴィクティムはリンの顔の前に持っていく。


「本当はSDカードとかにしたかったんだけど、余裕がなくて、、ごめんね。」

「え………っ?」

「よいしょ。」


リンの額を、ヴィクティムが優しく3回指でつついた。すると、額の一部が四角く象られ、ゆっくりと蓋が両開きに開いた。


中には不思議な形の穴がある。不思議と言っても、この世界では不思議なだけであって、高谷や原野達にとっては日常的に見てきたものだ。


この穴に、ヴィクティムはUSBを差し込もうとする。


「ふ…………」


剣が数十本放たれた。完全に隙だらけなヴィクティムに吸い込まれるように剣達は迫っていくが、


「『0-0-3』ーー!!!!」


超高速の黒いメタリックな機体が割り込んだ。その物体は思わぬ所から現れた。


「む。あれは……空から?」


ヴィオラが訝しんで視線を真上に向けると、


「ッ………」

「本気で、言ってるのか……?」


空には複数の空飛ぶ鉄の塊。つまり、飛行機、それも凄まじい速度を誇るジェット機が爆弾を投下していた。


「なんだあれは。街の警備隊は何を……」

「警備隊?ハハ!!笑わせるね!!」


ヴィクティムは嬉しそうに笑って、


「君が警備隊だと思ってた人達、半分位、私の仲間だよ?」

「………何?」


ヴィオラが目を細めた。その瞳はヴィクティムの言葉を疑っているようだが、ヴィクティムはヘラヘラと笑っているだけだ。


「く……急展開過ぎて追いつかないよ。」

「関係の無いこと。全て打ち落とすまでよ。」


ヴィオラは剣を出現させると、空飛ぶ機体目掛けて放ちまくった。直ぐに機体は爆発を起こし、黒い煙を放ちながら地面に落ちていった。


「次は貴様だ大臣。」

「あなたの剣は僕に届かないのに?」

「あれで余が全力を出していると思ったか?めでたい頭だな。余の国に対して攻撃するということがどれほどの自殺行為か、分かっておるのか?」

「あー怖いなぁ。でも、心配しないで。」


軽はずみな態度のヴィクティムは中々本気になってくれない。そんな彼の口から衝撃の言葉が発せられた。


「ここはヴィオラ皇帝、あなたが居るから送られた戦力はこの程度なんだよ?」

「何?」

「あなたがいると分かって、大量の戦力を送ってくる馬鹿が何処にいる?」

「どういうことだ。」

「んー、簡単に言うと、この国以外の国、『セシンドグロス王国』、『フレジークラド王国』、『鬼人の国』、特に『エレスト王国』は既に、我らの手の中に落ちているのさ。」

「はぁ!?」


高谷が怒りと驚愕が混ざった声を上げた。一方のヴィオラはというと、


「し……。」


地面から剣を飛び出させてヴィクティムを狙う。身の軽いヴィクティムは簡単に剣を躱した。


「他の国が、既に陥落して………」

「『不死』の騎士よ。動揺するな。まだ彼奴の言葉の信憑性は薄い。他の国がいくら余の国より弱いと言っても、簡単に落ちるような貧弱ではない。まぁ、『セシンドグロス王国』、それと主戦力がほぼいない『エレスト王国』は本当に落ちたかもしれんが……」

「ッ………」

「それより今は、あの娘を助けるのが先決であろう?」


高谷はヴィオラの言葉にリンに視線を向けた。ヴィクティムが未だ肩を掴んで離していないリン。その表情は怯えているのが丸わかりだ。今朝の高谷のようだ。


怯えた少女を放って置けるわけもない。それに、快斗とも約束した。必ず助け出さなければならない。


高谷は気絶した原野の口に、手首を斬り裂いて出た血を流し込む。傷は癒えるが未だ目は覚めない。


「大臣は余が。機体はそなたがやれ。」

「分かった。」


2人とも眼光は鋭くそれぞれの敵を見据えている。ヴィオラはヴィクティムを。高谷は邪魔する『0-0-3』を。


「「ッ!!」」


殺意を用いて、2人は敵に飛びかかる。


この世界の歴史上で最も激しい戦争が、今幕開けた。

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