エーエスエムアール?
「くらえぇぇええ!!」
「後押ししてカリム!!」
「ああ、えっと、ハイパーキネシス……」
「だぁーそっちじゃなくて!!」
「あぁもう……『昇華』!!」
前線で虎の魔獣を殴りまくるトリックの後ろから、カリムが腕力と脚力をあげる技を放つ場面で何故かヘマをかまし、代わりにノヴァがそれを放った。
「おおお!!必殺!!『最強は俺だ』ぁ!!」
「名前だせぇ!!」
トリックが虎を掴みあげてぶん投げた。回転しながら空中へ投げ飛ばされた虎は足場がない故になにも出来ない。
「カリム行くよ!!」
「おし!!『烈火彩翔』!!」
「『烈火彩翔』!!」
「名前かっこいいですね!!『次元の矢』!!」
真下から打ち上がる彩り豊かな光を放つ2線の炎と、真横から放たれた3本の矢。
炎は互いに引き付け合って繋がり、威力を倍以上に上げる。矢は途中で次元がねじ曲がることにより生じた凄まじいエネルギーに後押しされて鋭さを増した。
「ガル………」
2つの閃光が虎を中心にぶつかり、目を開けられないほどの光を放って爆裂。虎の体が跡形もなく消滅した。
「あぁ、見えてるよ。」
と、そう言ったノヴァがナイフを4本、ないもない虚空に投げつける。すると、歪な声が響き渡り、空間に溶け込んで隠れていたコウモリが地面に落ちた。
「ノヴァさんカッコよ!!」
「かっこいい!!」
「アハハ。そう?」
残党をスムーズに倒して見せたノヴァを、インとカリムが賞賛する。空からはヒナを回収してきたサリエルがゆっくりと降りてきた。
「いいよいいよ凄くいい!!様になってきたね。」
「まぁ、俺らだからな!!」
「カリム今回ヘマめちゃめちゃしてけどね!!」
胸を張るカリムにインがジト目を向けてヘマを指摘する。
と、サリエルの後ろから猿魔獣が三体ほど飛びかかってきた。
「サリエルさん!!」
「やべぇ!!サリエル!!」
「ん?あぁ、はい。」
ノヴァとカリムの叫び声に後ろの魔獣に気がついたサリエルが『天の鎖』を出現させて横凪に振るう。鈍い音がして、猿魔獣の頭蓋が3つ全て破壊された。
「じゃあ、進もうか。」
「やべぇ……サリエルまじパネェ……」
「なにそれ。SMP?」
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「うまっ!!」
「なんか………味変じゃい?」
「じゃあお前が作れよ!!」
「料理なんてやった事ないよ!!」
怒鳴り合いが響く。それが魔獣を引きつける要因だとも知らず、2人はいつだって大騒ぎする。
「ちょっと静かにしなさい。」
「はいはい!!トリック先生!!」
「はい何?」
「この料理の味どう思いますか!!」
止めに入るトリックにカリムが自信の作った料理、『カッレー』を食べさせる。
「なんか………味変じゃない?」
「ちょま、デジャヴデジャヴ!!」
鍋でグツグツに煮られた茶色の液体の中に突っ込まれた野菜。それを食べて、一同は微妙すぎて首を傾げた。
「特別美味しくないし、特別不味くない。」
「なんか、不思議な味ですね………」
「みんなして何だよ!!」
サリエルとヒナもその味の表しずらさに唸り、カリムはいよいよ憤慨する。
「原野ちゃんの『カレー』は美味しかったけどなぁ。」
「あぁ。確か原野さんの1番得意な料理でしたね。食べたくなってきましたね~~。」
森の木々の隙間に垣間見える星空を眺めながら、2人は原野が作った料理の味をしみじみと思い出していた。
「それって、僕ら以外の転生者?」
「そ。『地球』だっけ?そんな世界から来たらしいね。他にも快斗君と高谷君がいるよ。」
「他の転生者は死んだんでしたっけ?」
「え。」
「高谷君が数人殺して、後は色々事故かなんかで死んだみたい。快斗君曰く、死んで当然な人達だったからどうでもいいとか、そんなこと言ってたなぁ。」
「なんかやばくね?俺ら以外の転生者。」
話を聞いたカリム達が顔を見合せ、少し引いている。
「あなた達は快斗君達と同じ世界から来たんだよね?名前に漢字が入っていないのはなんで?」
「俺らの世界だと、『日本』とか『アメリカ』とか、見た目とか価値観とか言語が違う人達が沢山いて、そのうちの日本語を喋ってるのが俺ら日本人。多分その快斗って人も日本人だよな?」
「多分ね。で、国ごとに名前の付け方も違くて、日本人はだいたい漢字が入ってるんだけど、僕らはゲームの名前で呼びあってるからね。そっちの方が馴染み深いし。」
「ふーん。」
昔の話を語るカリムとインは楽しそうだ。自分たちしか知らないことを他人に教えるのは楽しかろう。
ただ、サリエルも彼らの知らない情報を知っている。とっておき、『快斗転生記』を話し始めた。
その夜は夜遅くまで快斗の今までの出来事の話で盛り上がった。
「快斗君はね。自分を犠牲をするのが好きなんだよ。」
「高谷さんもですけどね。」
「でも2人とも私らを守ってくれて。」
「2人ともレディーファーストを弁えてるみたいで、一緒にいてとても楽しいんですよ。」
「へぇ~。」
「その2人今くしゃみしてそうだよな。」
「アハハ。そうかもね。」
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「はっくしょん!!」
「寝ながらくしゃみを!?」
「余所見か女!!」
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「くしゅん!!」
「わ。大丈夫?風邪?」
「なんだろ。わかんない。」
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「会ってみたいなぁ。」
「多分気が合うと思うよ。」
「絶対合うと思います。」
「そのバカ加減がちょうどいいからね。」
「ちょおい!!誰がバカだよ!!」
完全に視線がカリムに向いてしまっているサリエルに、カリムが憤慨する。
「別にカリム君がバカだとは言ってないよ~。」
「いい性格してんな本当に。」
弄りも毎日続くと慣れてくる。カリムは完全に身についた弄り耐性を存分に発揮した。
それからサリエルはパンパンと手を叩いて、
「さ、もう寝よ。『カッレー』美味しかったよ。」
「さっき美味しくないって言ってたよね。」
「はいはい思い出さない思い出さない。ほら、ヒナ寝るよ。」
「はーい。」
「じゃあおやすみなさい。」
「うん。おやすみ~~。」
地面に敷いた寝巻きにくるまるヒナとサリエル。残りの4人は張ってあったテントに飛び込んで直ぐに眠りに落ちた。
「ヒナ。」
「はい。」
「明日、このペースで進んだらようやく、」
「はっ!!ついに着きますか!!」
「そう。着くよ。」
「長かった~~!!」
「長いって言っても2週間くらいだけどね。」
ワクワクした様子のヒナ。子供のような笑顔にサリエルの頬も綻びる。
「だからちゃんと寝て、体力を回復して。あそこに着いたらいい宿とかあるだろうからさ。」
「はい!!おやすみなさい!!」
「うん。おやすみ。」
寝ると宣言しているが、きっとそこまで早くは寝られないだろうとサリエルは判断し、少しヒナに音を聞かせることにした。
「ヒナ?」
「はい?」
「え~~~い。」
「おお?」
ヒナの耳をサリエルがゆっくりと撫でるように触り、それから優しくマッサージのように耳を揉み始める。
「ん~~………」
耳の穴を弱めになぞられ、体の芯から眠気が湧いてくるヒナ。不思議な感覚だが、気持ちがよく眠くなったため、ヒナは大人しく眠りについた。
「本当に眠っちゃった。」
高谷に教えてもらった眠気を増す方法。エーエスエムアールというやつである。
実際に眠くなるのか疑問だったし、サリエルにこれは通用しなかったが、人間相手なら話は別らしい。
「ふふ。面白いものを見たなぁ。」
サリエルは不思議なこともあるものだと笑いながら、ゆっくりと眠りについた。