アドバイス
「回れ回れ!!背後背後!!」
「ちょちょ、無理だってぇ!!」
「あーー!!」
「もぅ、どうしようもない………」
「あちょっと!!射線に入らないでくださいよぉ!!」
フレジークラド王国近くの森林にて、サリエルが見守る中、ヒナ達戦闘初心者が叫び合いながら奮闘していた。
相手は猿型の魔物で、一体なら大したことではないが、群生性を持つその魔物は、1度の戦闘で約15体も相手することになる。
上級者、ましてや中級者でも、大魔術でも放って通り抜ける門なのだが……
「彼らには無理そうね………」
連携も何も無く、我武者羅に魔術を放っては逃げ惑い、逃げる割には活躍しようとでしゃばって、ヒナ以外は列記とした戦闘スタイルがない。
つまりはノーマルタイプ。何にだってなれるし、何にもなれない。カリム達の現状はそれである。
「クソ!!俺がもっと足が速ければ……50メートル走で俺は最高で10秒なんだよ!!」
「そんなどうだっていいこと言わなくていいから!!」
地面を殴ってそう語るカリムを、インが憤慨して蹴り飛ばす。
「わぁ!?ノヴァさんどうにかして!!」
「えぇえちょ、ここじゃ無理だってぇ……」
前線で猿達を殴り続けるトリックは『鬼人化』を発動していたが、割と早めな魔力切れを起こし、短剣で何とかやりくりしていたノヴァに無理を頼む。
だがノヴァだってギリギリな戦闘だったため、トリックを守る余裕はない。猿達は、1番仲間を殺したトリックを狙うようで、ノヴァを巻き込んで一斉に飛びかかった。
しかし、ノヴァとトリックが、猿達の鋭い鉤爪で裂かれる寸前、
「『閃光の矢』!!」
光の純粋な魔力にに包まれた矢が数本、猿達の眉間を正確に撃ち抜いた。
「おおっと!?」
「充填が切れたので、残りはどうにかしてください!!」
猿達の死に様に驚いたノヴァに、ヒナが凛とした声で伝える。だがやはり初心者、1度死を覚悟した事のあるヒナとは適応力が低いようだ。
「え、えっとえっと……!!」
「とりあえず離れましょうノヴァさん!!」
「離れて2人!!『炎玉』!!」
「『氷玉』!!」
カリムとインが放った対局属性の魔術が、猿達4体のうち、2体を倒した。だが、これがもし2人の魔術が同じ属性なら、4体全てを倒せている。
「だぁー!!だからなんでお前すは直ぐに氷結魔術を打とうとするんだよ!!」
「だってカッコイイんだもん!!」
「いやだから……んな事言ってる場合じゃないだろって!!」
やはりあの2人は息がとてつもなく合わないようだ。言い合っている間に、猿2体が近づいてきていることにも気が付かない。
「おりゃあ!!」
「うぅ、よいしょ!!」
ノヴァが短剣を猿の頭に突き刺し、よく狙ったヒナが猿の首を矢で射抜いた。
「はぁ……もう大変すぎる……」
「リーダーとインさんは言い合うの辞めてくれる?」
「だってこいつが!!」
「だってカリムが!!」
呆れたトリックがカリムとインにそう言うと、2人は同時に互いを指さして責任転換をしようと試みる。
「あのーちゃんとしてくれません?」
流石のヒナも苦笑いで4人に言った。上空から見ていたサリエルはこれ以上ないほど深い溜息をつきながら降りてきた。
「今日はもう暗くなってきたから終わり。明日に向けて休憩しよ?」
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「「はぁ………」」
夜、焚き火を囲んだカリムとインがため息をついていた。
「落ち込まない落ち込まない!!磨けば光るから!!」
そんな2人に、サリエルは自信の整った顔が1番映える角度と笑顔で2人を励ます。
「近距離は私は苦手ですし、その点4人は前線で戦うってことでカッコイイですよ!!」
言うことが何も思いつかず、ヒナはとりあえず思いつく言葉を並べ尽くした。カリムとインは少し気が楽になったようだが、それでも罪悪感が残っているようで、表情は晴れない。ノヴァとトリックも同じだ。
「うーん……取り敢えず、皆の実力を伸ばすために魔物と何体か戦わせたけど、どう?なにか掴んだ?」
「やっぱり役割は分けた方がいいッスね。遠距離係と近距離係で。」
「そんなにスっと出てくるのになんで本番で出来ないの?」
サリエルが4人に聞くと、カリムが食いつくように答える。あまりにすぐに出た答えに、サリエルは実はカリムは嘘をついているのではないかと思ってしまう。
「皆の得意なのは何?」
「俺はやっぱり魔術っすね。特に火炎魔術。」
「僕は氷結魔術が得意だよ!!」
「俺は短剣とかかな~。とにかく刃物系は得意かも。でも剣とか長いのは苦手。」
「私はとにかく殴ることですね。私、鬼人なので。」
「見事に片寄ったわね。でも近距離と遠距離は分かれてる。」
4人の情報を元に、サリエルは適切で安定した編成を考える。
「うーん………1番は近距離、中距離、遠距離だけど………」
「「「「はい………」」」」
「近距離と中距離は微妙だね。トリック君は絶対に近距離タイプ。中距離の候補はノヴァ君だけど………それだと投げる武器を覚えないと行けないかもしれない。だからここはあえてカリム君とインさんにするべきだと思う。遠距離はヒナだけで手薄だとしても全然大丈夫だし、ヒナの命中率はすごく高いからね。」
「「「「なるほど。」」」」
「ほえ~~。」
完璧ととれる指摘に4人が頷き、ヒナが感心したように拍子抜けたような声を上げた。
「でも俺ら魔術しか使えないっすよ。あとなんかその立ち位置あんまカッコよくなさそう。」
「そうそう。武器とかそういうの全然練習してないよ?」
「大丈夫。氷結魔術と火炎魔術は範囲技が多いから、近距離の2人に隙が生じたときに範囲技で足止めしたり、近距離の2人を強化したり………他にもいろいろあるけど、中距離って結構大変な立ち位置だから、こなせたらカッコイイよ?」
質問した2人に的確なアドバイスを与えたサリエル。プラス映える笑顔で、2人は完全に納得して頷いた。
「遠距離はどうしたら?」
「遠距離は、中距離の補佐と近距離との合わせ技とかをやった方がいいと思うよ。近距離と中距離のタッグはかなり強いし、敵としては突破しずらい形だけど、それでも度に合わない敵と戦うことになったらそれだけじゃカバーできない。そこで遠距離。中距離まで突破した敵は、崩れた形成の中から暴れ始めていくのが多いけど、その穴を遠距離で埋められたらいよいよ完璧。陣形を丸々破壊する力を持っている敵じゃない限り、この3つが揃えば滅多に崩れない。それにヒナは固有能力で表に出てなくとも影から撃てるから、これほど完璧な遠距離タイプ居ないよ。」
「おお~~!!自信出てきました!!」
教育がうまいのか、サリエルは5人の心を鷲掴みするような教えをする。褒めて伸ばす方法が、この5人にピッタリ合ったようだ。
「あと指摘するならトリック君の魔力の使い方かな。かなり杜撰な使い方だと思う。出来れば魔力を節約しながら、最後の大技とか、ずっと使うとかじゃなくて所々で使っていく方が絶対に長持ちするし厄介。あとは魔力を増やすような訓練をして、純粋な筋力を伸ばし、どんな敵にも対応できるような戦闘スタイルを手に入れた方がいいかも。殴りまくるより、生物としての弱点をつくように練習したらいいよ。」
「なるほど。ご指摘ありがとうございます。」
トリックが礼儀良くお辞儀をする。
「明日からはこれでやってみようか。」
「「「はい!!」」」
「了解。」
「分かりました。」
ヒナとカリムとインが大声を出して頷き、ノヴァとトリックが穏やかに了承した。
「じゃあ、寝ようか。」
「はーい。」
「おやすみなさい。」
「ではまた明日。」
「はいはい。おやすみね~。」
カリム達4人は、彼らが用意していたテントに潜り込んだ。インは女なのだが、男3人の間に入ったとしても違和感はないらしい。
「ほら、ヒナ寝るよ。」
「はい。」
2人は特にテントなどは用意しておらず、あるのは薄い布団のみ。
「もうちょっと持ってくればよかったですね………」
「ヒナが、『私弓より重いものは持てないんです!!』っていうから持ってこなかったんだよ?」
「うぅ……ふざけたこと言わなければよかったです……。」
テントを眺めて羨ましそうに歯を鳴らすヒナに、サリエルは呆れてものも言えない。
この日はこれで終わり。焚き火を鎖で囲んで密閉し、酸素が入らぬようにして直ぐに消した。快斗から学んだ、手軽に火を消す方法だ。
「まぁ、家とかが燃えてる時は使えないらしいけど。」
ふと思い出した仲間の顔。皆各々の向かう土地で奮闘しているだろう。
隣国で呼び出されたヒバリと快斗。砂漠に囲まれた『龍の都』にリンを起こすために向かった高谷と原野とライト。そして謎の大臣。
「原野ちゃん……大丈夫、かな………」
そんなことを呟きながら、サリエルはゆっくりと眠りに落ちた。