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罪深い男の想像話  作者: 病み谷/好きな言葉は『贖罪』
《第一章》 怒る彼は全てを殺し尽くす
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絶対未来視

砂漠地帯を抜け、邪魔くさい服を脱ぎ捨てた原野と高谷が、湖のほとりで水の中の魚を見つめていた。


「綺麗だね。」

「そうだね。」


月の灯りを仄かに反射して輝く水面を眺めて、原野が沈黙を破って高谷に話しかけた。

素っ気ないという訳では無いが、思ったより短い返しに頬を膨らませた。


「快斗だったら、『お前の方が綺麗だよ』とか言いそうだね。」

「えー、くど。」

「ハハ。くどいかそうかそうだよね。」


先程まで静かだった高谷が膝を叩いて笑った。快斗に対する『くどい』というセリフが予想以上にツボにハマったらしい。


そんな高谷を、原野は少し訝しむような視線で見つめた。


「高谷君。」

「何?」

「疲れてるの?」

「え?」


何気ない質問のつもりだったが、高谷の表情は笑みから一変、素っ頓狂な声を上げて驚いた。


「そう見える?」

「え?いやその、なんか最近、高谷君病んでるように見えるから………」

「病んでるか。俺が?へぇ………」


高谷が面白そうに顎に手を当てて考え始めた。


確かに最近の高谷は言動が少しおかしいと、原野以外の人間も感じているようだ。自覚がないのか、高谷は「そうかなぁ……」と呟いている。


「ごめん、そんなこと、なかったかも。」

「………気にしなくていい。」


あまりに高谷がそのことを自覚していなかったため、原野は自分の発言が間違いだと思ってしまった。


謝罪に答える高谷の声音はいつも通りで、しかし表情は影になって見えない。


「…………。」

「…………。」


しばらく沈黙が続く。2人とも湖に視線を釘付けし、その輝きを見たい反面、互いの顔を見ないようにしている。


「♪~~♪~~♪」

「あ………その歌………」


静かな空気が嫌になったのか、高谷が鼻歌を歌い始めた。原野はそれを聞いてハッとしたように高谷に目を向けたが、それに驚いた高谷と目が合い、視線を逸らしてしまった。


「?♪~~♪~~……」


高谷は首を傾げ、しかし歌うことを辞めず、そして歌は鼻歌から歌詞のある明確な歌となった。


原野にとっては何度も聞いて飽きかけているその歌は、高谷が一番好きなボカロ曲であり、高谷は落ち着いていない時や本当に気が抜けた時しか歌わない。


一通り歌い終えてた高谷の表情は満足気な笑みだ。


「メサイアにいた時も歌ってたね。それ。」

「そう、だったかな。まぁ、一番好きな歌だからね。」

「………知ってるよ。」

「?」

「ううん、なんでもない。」


原野は笑って誤魔化した。疑問符を浮かべる高谷だが、実際きちんと全て聞こえており、その言葉の意味を本気で考えている。


「『竜の都』の皇帝ってさ。強い人なのかな。」

「え?まぁ、強いだろうね。ルーネスさんも気をつけてって言ってたし。なにしろ皇帝だしね。」

「………私は、外に居よう、かな……。」

「え?」


震えた声で言う原野に、高谷は振り返って不思議そうに首を傾げた。


「どうして?」

「あの、ね、高谷君。私ね……」


原野は思い切って話すことにした。


今、原野の能力は『死者の怨念』を操る、ということしか皆には伝わっていない。だがもう1つ、その霊力を使って応用することが出来た能力がある。なんならそちらが重点を置くべき能力であり、完全なるチート能力、


「私、『絶対未来視』が、出来るんだ。」

「ふーん………え?もっと早く言ってよそれ。」


高谷としては聞き慣れた能力だが、実際よく考えてみれば未来を見えることができ、来る災害や魔獣の襲来に対策することも可能。


そしてなにより、対戦相手の能力や動き、武術なども全てが筒抜けになるのだ。


そして、高谷にとってその能力者は、仲間に出来るだけ持ちたくない者だった。


「寝てる時しか出来ないんだけど……」

「へぇ……」

「そ、それでね。私……剣で撃ち抜かれて穴だらけの、高谷君を見たんだ……。」

「…………。」

「その後、高谷君が一瞬だけ物凄い力で皇帝を………その、高谷君のもう一個の能力で、」

「………黙れ。」


温厚な高谷にしては、珍しく棘のある言葉だった。意外な返答に、原野の肩がビクッと跳ねる。高谷は立ち上がり、原野の横に座って笑顔で質問を始める。その笑顔に、暗闇が垣間見える気がして、原野は恐怖に駆られながら目を逸らす。


「その、能力を、理解したの?」

「は、はい………」

「そっか。………その未来視は、どこまで見えるんだい?」

「ど、どこまでって………あ……」


原野が高谷の質問の行き着く先にある答えを理解し、今世紀最大の恐怖を感じた。だから、嘘をついた。


「1週間先、ぐらいまで………」

「ふーん。なら、いいや。」

「あ………」

「それ、誰にも言わないで、な?」


いつもよりも意地悪な笑顔で、高谷は人差し指で原野を強く制した。


それから高谷は震える原野の肩を優しく叩いて立ち上がる。


「もう夜遅いし、皆の所に戻ろうか。」

「うん………。」

「先、行くよ。」


一切振り返らずにそう声をかけて歩いていく高谷。原野はその背中を見て、何も言わせないという意志を感じた。


彼に強めの言葉を言われたのは初めてで、だから心に酷く傷として印象に残ってしまった。それが理由で嫌いになるという訳では無い。


ただ、見てはいけないものを見てしまったのは変わりない。興味本位で踏み込んだ高谷の未来は、原野が想像していた『幸せな未来』に似ていたのだろうか。


先程、原野は1週間前まで観ることが出来ると言ったが、実際は部分的でしかないものの1年先までは観る事ができる。


現時点から時間軸が遠ければ遠いほど、観る事ができる幅も縮まる。原野が見た1年後は一瞬、本の一瞬。


「…………。」


思い出したくない。本気で拒絶し嫌悪する景色を、原野は記憶から除外した。


「………はぁ。」


それから思った。これから先の旅で、高谷との人間関係はどうなる。気まずいのは間違いなく、他人に相談できるものでもない。


そしてあの歩む速度、あれはそう、確実に、


「嫌われちゃったかな………」


そんなことを呟きながら、原野は重々しく立ち上がって高谷の後を追い始める。


どんなに嫌われたとて、原野が高谷に一目惚れしたのに変わりはなく、その気持ちが揺らぐこともまず無いと言えよう。


故に、原野は、訪れる厄災に…………。

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