『真剣』
「はぁ………はぁ………し、死ぬ……。」
暁に連れてこられた快斗は、圧倒的スピードと体力に負けて疲弊していた。
「いってぇ………酸欠で耳周りがキンキンする………」
「流石に……これは……無理があるな……」
ヒバリも息を切らし、未だ口呼吸を辞められない。そんな2人を見て、暁は首を傾げた。
「もう体力切れでござるか?」
「切れた切れた………はぁ……」
暁の言葉に、快斗とヒバリは地面に寝そべって息を大きく吸う。
そして、姿勢をうつ伏せから体育座りへと変えてゆっくりと立ち上がる。それから数回跳ねたあと、
「ん。もう回復した。ある程度はな。」
「うむ。私もだ。」
「おー早いでござる。」
汗を脱ぐって答えた2人に暁が嬉しそうに飛び跳ねて笑いかける。
「で、目的地はここなのか?」
「そうでござる。」
「こんな茨の通り道が?」
快斗は目の前に広がる茨に囲まれた暗い道を指さした。暁は大きく頷いたあと、2人に向き直って、
「2人は『真剣』なるものを知っているでござるか?」
「なにそれ。高谷のやつ?」
快斗が『真剣』と聞いて思いついたのが、高谷の『真・崩御の剣』だ。だが、確かに真と言う言葉は着いているが違うようで、その技を知らない暁はキョトンとした顔で快斗を見ている。
「『真剣』といえば、斬嵜家秘伝剣術だ。暁を除く斬嵜家当主達が有していた特殊剣技で、『神刀』とも呼ばれていたらしい。」
剣に関しては博識なヒバリが悠々と答える。
『真剣』は、斬嵜家のみが手にしていた秘伝剣術。13代の当主達は全員がこれを所持しており、その能力は神と呼ばれるほど強力だ。
例えば、2代目斬嵜家当主の『真剣』の能力は『時間停止』。いつでもいつまでも、彼は自分以外の時間を完全に止める『真剣』を得た。
「ふーん。それでそれがなんなんだよ?」
「かつての当主達は、皆この道を通り抜けて『真剣』を得ていたという話があるが……」
「おーよく知ってござるな。」
ヒバリの知識量に感心した暁が手を叩いて賞賛している。暁は2人に1歩近づくと、
「ここだけの話でござるが、『真剣』は誰だって習得は可能でござる。」
「あ?」
「………何?」
「無論、何をせずに得ることは出来申さん。それなりの修行を積み重ね、最後、剣に対する情さえあればどうにでもなるのでござる。当主達がここで『真剣』を得ていた理由は分からぬでござるが、今までの当主がここで発症したためここで修行した、と父は仰ってござった。一応、ここには試練が用意されているらしいでござる。」
「へぇー。」
「………何?」
暁の小さな声で語られた衝撃的事実に快斗は興味なさげに声を上げたが、ヒバリは長年信じ崇められてきた斬嵜家の伝説が誰だって可能な範囲の話であったことに対する驚きと、自分も修行の果てに手に入れることが可能であるという嬉しさで手が震えている。
「うむ。2人にはここで『真剣』を手に入れてもらうでござる。」
「なんだってまたそんなこと……」
「何となくでござるよ。」
「あ?」
快斗が理由を聞くと、暁はあっけらかんと理由を言った。理由の内容が薄すぎて、快斗は眉を上げて疑問符をうかべた。
「たまにあるのでござる。夢に出ることが。」
「いや、それはなんで……」
「拙者の勘は当たるでござる。」
空を見上げて語る暁は、快斗の言葉を遮るほどの勢いで快斗を見ていた。その強い視線に、快斗は息を呑む。その真っ白な瞳には殺意こそないが、その他の強い何かがあった。
と、暁は自分の態度に気がついて目を擦る。それからいつも通り笑うと、背中に回って2人を押した。
「とりあえず、行ってみるでござるよ!!『真剣』があれば、2人はさらに強くなるでござる!!剣を使うのならば、手に入れておいて損は無いでござるよ!!」
「おい、ちょっと待て!!」
「『真剣』を、得られる……?私が?」
強く押される2人は、暁の強い力に負けてされるがままである。快斗は抵抗していたが、ヒバリは未だ『真剣』の新事実を信じられないようで、何かをずっと呟き続けている。
「試練は大変なものでござるが、頑張るでござる!!」
「あ………?」
快斗の足が茨を超えた瞬間、その体が引力のような何かに引っ張られていく。ヒバリは自分から歩んでいくため気がついていないが、抵抗し続ける快斗は引力の強さに目を見開いている。
「試練が終わるまで、又は死ぬまではここを出ることは出来ぬ故、頑張れ!!でござる!!」
「は!?マジk………」
快斗が全部言い終わる前に、快斗とヒバリは更に奥の茨の空間へ転移させられた。声が途切れ、急に静かになったその場所で、暁はしばらく茨を見つめていたが、途中で何か思い出したようにその場から走り出した。
「厄災が降り注ぐとき、2人の剣士がそれを斬り落とす。」
呟いた言葉には重圧があり、 空気が重くなった。
「しかし、厄災はそれに留まらず、2人の剣士を地獄へと突き落とすであろう。」
目を瞑り、少し渋い顔をしてから、
「片方は立ち、片方は落ちる。か………。」
目を開けた暁は速度を上げ、街中を駆け抜ける。
「不吉な夢でござった。」
暁は最後にそれを呟くと、いつも通りの笑顔を取り戻して商店街へ食事に行くのだった。