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罪深い男の想像話  作者: 病み谷/好きな言葉は『贖罪』
《第一章》 怒る彼は全てを殺し尽くす
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眠り

静かな夜の城の中。明かりも消え、殆どが暗闇に包まれた城内で、耿耿と光る部屋が1つ。


地下に位置するそこには特殊な魔晶石が埋め込まれた石台があり、その上にはリンが寝かされている。そばではベリランダが目を瞑ってリンに向かって両手を広げて何かを唱えている。


そして、その光景を石の椅子に座る快斗とルーネスがじっと見つめていた。3人とも一言も発することなく、ただ眩い光に包まれるリンを見つめている。


と、ベリランダの表情が曇ったかと思うと、両手をさげて溜息を着いた。光が消え、3人は唐突に暗闇と静寂に包まれる。


誰が見ても結果は分かるが、快斗は一応の確認でベリランダに問うた。


「効果は?」

「………ダメ。私じゃ魂に触れて動かしたり揺らしたりするぐらいしか出来ない。魂を入れ戻したり、逆に抜き取ったことはあるけれど……治したことはないのよ……。」


快斗は、分かっていた事とはいえやはり受け取りがたい現実に肩をガクンと落として俯いた。ルーネスが優しく快斗の頭を撫でる。


「死んでもねぇけど、生きてるわけでもねぇって考えでいいのか。」


快斗は俯いたままベリランダに質問する。


「そうね……。死んではいないわ。でも生きてるかも分からない。息もしていないし、排泄物やらなんやらも出ないみたい。でも心臓は動いてるし、多分両方の間なんでしょうね。」

「………起こす方法はあると思うか。」

「あるわ。」


思いの外強く断定された答えに、快斗は思わず頭をあげる。ベリランダは首を横に傾けて骨を鳴らして、


「北西の方向に、『竜の都』がという国があるわ。そこの皇帝なら出来るはずよ。」

「んじゃ、そこにリンを連れてきゃいいんだな。」

「ええ。でも、あなたは行けないわ。」

「あ?」


ベリランダは快斗に意外な事を告げる。快斗はリンと共にその国に行く気満々だったため、少々強めの言葉で返してしまった。


「実は呼び出しはあったわ。あんたとヒバリよ。」

「なんでだ。誰が呼んだ?」

「そう怒らない。呼んだのは四大剣将の暁よ。」

「あ?なんであいつが。」

「知らないわよ。それは自分で確かめてきなさい。」

「そう、か……。」


快斗は再び項垂れて視線を床に落とす。ベリランダはリンを『サイコキネシス』で持ち上げて快斗に渡して、


「ほら。面倒はあんたが見なさい。あぁ、でも体を拭いたりするのは禁止よ。男のあんたが何をするのか分からないしね。まぁ、だいたい男がすることなんて予想できるけど。」

「可愛すぎて噛み付いて殺しかねないってことか。心配すんなよ。手加減はする。」

「私が想像してたことの斜め上を行く答えね………」

「噛み付くなら私はどうでしょうか快斗様?」


リンを抱いて答える快斗に、ルーネスが希望に満ちた表情で聞くが、快斗は辛辣にもそれを聞こえなかった振りをして無視をした。


「まぁいい。その『竜の都』ってとこには、高谷と原野とサリエルとライトを向かわせる。俺はヒバリと暁のとこでランデブーだ。」

「あー。サリエルは行かせられないわ。」

「あ?なんでだよ?」


思わぬ否定が入ったことで、快斗の機嫌が悪くなる。ベリランダはルーネスに視線を向け、ルーネスはその言葉の続きを受け取った。


「サリエル様は、ヒナと共に耳長族の土地へおいきになるそうです。」

「なんでまたそんな所に。」

「私には分かりかねますが、きっと深い意味は無いでしょうね。単に私の弟子の心配をしてくれているのでしょう。」

「ヒナがそこに行きたがる理由は?」

「修行だなんだと言っておりました。おそらく酒ではなく、戦闘の。」

「はぁ………?」


戦力外だったヒナが何故だか実力を鍛える旅に出る。なんとも微妙なタイミングで告げられた快斗は困惑してしまう。


「仲間が別れるって事か。いや、元々仲間ってわけじゃねぇやつもいるしな。各々行きたいところを縛る必要もねぇし、何より自由権の侵害だしな。」

「流石快斗様です。」


リンを背負って立ち上がる快斗。ルーネスも一緒に立ち上がり、快斗を支えながら2人は部屋を出る。


「悪魔。」

「なんだ?」

「あんたとヒバリの出発時刻は明後日よ。それまで準備しておきなさい。て言っても、荷物は少ない方がいいでしょうけど。ヒバリにも言っておいて。」

「あぁ。分かった。ヒバリに伝えておく。」


快斗は扉を開けてくれたルーネスに礼を言って、そして振り返らずにベリランダに、


「今日は、ありがとうな。」

「………えぇ。」


快斗とルーネスはそのまま暗闇に消えていく。ベリランダは部屋の中の片付けをしながら唇を噛んで苛立ちを必死に隠していた。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


リンをサリエル達の元へ預け、その日にやるべきことを終えた快斗はフラフラになりながら用意された寝室へ向かう。


「はぁ………面倒なことになった……な……」


足取りは重く、次第に安定したものではなくなり、呂律も回らず、視界がぼやけて酔ったようになってしまう。


「はぁ……はぁ……」


息苦しさが頂点に達し、快斗は壁によりかかってやり過ごそうとしたがそれは出来ず、壁に到達する前に体が動かなくなってしまった。


「ぁ………」


浮遊感が一瞬脳を震わせ、視界が下に落ちた。床が顔面に近づいてくる光景を、無気力な瞳で見続けている。


「快斗様!!」

「うぐ………」


そんな快斗を、後ろからルーネスが倒れる寸前で支え、ゆっくりと立ち上がらせる。


「立てますか?」

「あぁ………多分な……」


頭を抑え、快斗は自力で立ち上がろうとするが、やはり足に力が入らずルーネスに寄りかかる。


「部屋までお連れします。」

「………すまねぇ………」


ルーネスは快斗を支えながら、快斗の寝室へと連れていく。


部屋に着くと、ルーネスはゆっくりと快斗をベッドに座らせ、その隣に自身も座る。


「はぁ………」

「無理をなさらないでください。着いてこなければどうなっていたことか。」

「面目ねぇ……」


眉間を抑えて謝罪する快斗の頭を、ルーネスは優しく撫でる。それだけで気分が少し良くなる自分に、快斗は自嘲気味に笑った。


だがその笑みさえ、力の入らない体は表すことが出来ない。


その理由は、ヒバリに与えた因子の大部分を吸い取ったことだ。


快斗の体に眠る力を呼び覚ますことは出来たが、逆にそれが強烈な疲労となって体を縛り付けた。


今までは耐え忍んできたが、さすがに限界に達したようだ。とはいえ、何人かは隠しているのを気づいていた。そのうちの一人に、ルーネスも入っている。


「大分あちらで無理をなさったようで……」

「まぁ、そうだな。」


快斗は襲いかかる睡魔に必死に抵抗しながら、ルーネスとの会話に集中する。


ルーネスは渋い顔をすると、快斗を抱きしめてベッドに横たわる。体に力が入らない快斗は抵抗できずに、なされるがままにルーネスに弄られる。


「眠っていただいて構いません。私はただ快斗様を癒すために来たので。」

「いや、流石に……これは………」

「構いません。」


顔に感じる柔らかく暖かい感触に、快斗は少し体を離そうとしたがルーネスがそれを許さない。


そして、快斗の体を引き寄せて、ルーネスは太ももあたりに感じた硬い感触に少し微笑んで、


「ここは元気なようですね。」

「ッ………」


快斗は体の向きを変え、下腹部のそれがルーネスに当たらないようにしようとしたが、ルーネスががっしり体を掴んでいるため動けない。


当のルーネスもそれが当たるのが嫌ではないようで、微笑みながら快斗の髪をいじっている。


「いいのですよ。男の子なんですから。」

「超恥ずいんだけど………」

「ですから気にしないでください。力を抜いて、私の懐で寝てください。」

「ぁ…………」


抵抗しようとした快斗だったが、やはり睡魔に勝つことができず、徐々に感覚が消えていく。


消えゆく視界の中で、変わらず微笑むルーネスを見た。快斗は、自分の為に笑い続けてくれるルーネスを、その時とても大切なものに感じた。


離れようとしていたが、何故だか笑顔を見てからは離れたくないと感じた。


快斗はルーネスの体を抱いて、胸に顔を埋めて、ありのまま全てを預けた。ルーネスは頭を優しく撫でている。


「………少し、寝る……。」

「えぇ。ごゆっくりどうぞ。」


快斗は体全身から力みが抜け、糸が切れた人形のように動かなくなった。


ルーネスは快斗を抱いたまま、これ以上ないほど嬉しそうな表情で小さく囁いた。それが、本人に届かないと知っていても。


「おやすみなさいませ快斗様。良い夢を。」


この後、快斗はほぼ半日寝過ごしてしまい、起きた頃には流石のルーネスでさえ眠りについており、2人は部屋を尋ねたサリエルにベッドから叩き落とされてしまったのだった。

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