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罪深い男の想像話  作者: 病み谷/好きな言葉は『贖罪』
《第一章》 怒る彼は全てを殺し尽くす
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1週間

完全に事件が収束した頃、快斗達は『鬼人の国』に着いてから約1ヶ月ほど滞在していた。快斗達が戦った異空間での出来事は、現実世界の6時間ほどだったらしい。


他国へこのことが漏れるのを防ぎ、快斗達への多額の慰謝料と、行きで使用した馬車よりも丈夫で美しい馬車の贈り物。


ベリランダ、ヴィクティム、フーリエ、流音、その他の派遣された兵士達への慰謝料と報酬。暁への報酬などなど、色々と面倒事が重なり続け、時間が凄まじくかかってしまった。


そして今、やっと快斗達はエレストに帰ることが出来た。


今までは零亡がこれでもかとライトを可愛がり、なかなか手放してくれなかった影響で帰るのが遅くなったが、流石にライトも父親が心配になったようで、零亡を宥めて帰ろうと言い出した。


そんなこんなで、回復した流音と暁に見送られながら、一行は『鬼人の国』を出発して川市やらなんやらに寄り道を繰り返した。


ヒバリはそうでもなかったが、ライトがお土産を買いたいと言って譲らないので仕方なく寄っていた。


そのせいで、本来最遅でも1週間で着く経路を、2週間かけて帰還することになってしまったが、ライトが嬉しそうだったので、快斗もヒバリもそれでいいだろうと納得していた。流石にこれだけ通りまわりをすると、ヒバリでさえ疲れを隠せてはいなかったが。


「ライト………流石に買いすぎだぜ………」

「え?そ、そうですか?」

「いやだって、食いもんはリドルの奴食えねぇだろ。槍なんだし。あと、宝石類も付ける部位が少なすぎてやばいし、これ全部つけたら槍全部がキランキランになっちまう。」

「だ、駄目ですか……?」

「俺は別にいいけどよ。あれって一応ルーネスさんの武器だからなぁ………」


金銀財宝宝石飾りでキラキラにされたリドルを想像して、快斗は苦笑いをする。ライトは忘れていたとばかりに口に手を当てて驚いた様子だ。


「た、確かに……」

「ま、お前が買った土産は、全部俺の好物を選ばせたから、最悪俺が全部食べるわ。」

「快斗は抜け目ないなぁ……」


最初から注意すればいいものを、快斗は完璧に自分の利益になるように利用してみせる。

高谷は快斗のその無駄な頭の良さに呆れてしまう。


「私も食べたいです!!和菓子!!洋菓子!!それとういろうも!!」

「ヤだ!!これは俺が食べるもんだぞ!!お前にゃ譲らねぇ!!」

「ういろうは和菓子じゃないの?」


馬車の荷台に積まれた大量の菓子類に飛びつこうとしたヒナを抑えて、快斗が菓子類を死守する。そんな光景の端で、原野は素朴な疑問を口にして首を傾げていた。


「あ、そろそろ着くよ!!」

「おお!!マジか!!」


その愉快な空間に、サリエルの歓喜の声が聞こえた。外を走っているエリメアがその言葉に嬉しそうに叫んだ。


快斗が馬車の窓から外に顔を出すと、そこには随分と久しく感じる壁があり、その前にある底なしの巨大な堀に大河の水が流れ落ちている。


「お?」


と、快斗は首を傾げた。何故だか壁の入口が全開に空いているからだ。確かに兵士は着いているが、明らかに普段とは違う雰囲気だった。


そして、その入口の真ん中に、1人の人影があった。そして、目のいい快斗はそれが誰だかわかると同時にその姿に思わず吹き出してしまった。


そこに立っていたのはルーネスだった。だが何故か服は汚れており、髪もボサボサで、しかし姿勢は正しく、笑顔でこちらを見ている。


馬車で到着した時、快斗は開口一番にその有様について問うた。


「ただいまルーネスさん。」

「おかりなさいませ。快斗様。」

「えっと……その姿は一体……」

「快斗様。」

「は、はい。」


笑顔を乱さず、同じ声音で話すルーネスは不思議なことに迫力がある。怖気付いた快斗は、名を呼ばれて姿勢を正した。


「随分と、遅かったですね。」

「え?あ、あぁ。それは、ライトがお土産を買いたいって……」

「本当ですか?」

「あ?ほ、本当だけど……」

「…………。」


快斗の問いを聞いてルーネスは天を仰ぐように視線を空に向けてから、ゆっくり快斗に視線を戻して、


「…………。」

「え?え?何、俺なんかした?」


本気で分からない快斗は振り返って高谷に答えを求めた。が、何故か高谷は快斗の後ろを見たまま動かない。快斗がそれに対して疑念を抱いた瞬間、


「良かったです!!!!」

「おわっ!?」


後ろから力強く抱きしめられ、快斗の息が止まる。柔らかい感覚驚きつつ、それがルーネスの胸だと理解してあまり触らないようにした。


「あそこの女帝様に誘惑やらなんやらされたのかと思って心配しておりました!!確かにピアスは1晩ほどしか危険信号を発しませんでしたが、妖術で無効にされたのかと……」

「いや、ないない、って……息止まって苦しいから離してくれ………」


快斗が苦しいということを表明すると、ルーネスは快斗を離して、


「何はともあれ、無事で何よりです。」

「結構危なかったけどな。この前もさっきもな。」


快斗は首を摩って未だ残る痛みを感じる。ルーネスはとても嬉しそうに笑っていて、快斗を優しい目でずっと見ている。


「で、なんでそんなに汚くなったの。ルーネスさん。」


快斗はルーネスの服を指さして、汚れている理由を聞く。ルーネスは首を傾げて、


「快斗様方が帰ってくるのは本来先週のはずですよね?」

「そ、そうだな……」

「本来の予定なら、既に1週間前に着いているはずです。」

「はい………」

「帰ってくると思って待ってました。その日からずっと。」

「1週間ここでずっと立って待ってたのかよ!?」


流石に快斗もルーネスの行動に驚愕して大声を出してしまう。ルーネスはさぞ当たり前のように頷いて見せる。


「え、それ飯は?ちゃんと食ってたのか?」

「いいえ。」

「まぁ、ここにいる限りな………てか、1週間ってほぼ死にかけの状態だけど……」

「水は飲んでました。兵士様がくれたので。」

「飯も与えてやれよ兵士共………」


快斗は頭を抑えて溜息を着く。ルーネスはいつもの様に微笑んで、


「大丈夫です。こうして会えただけで体力は全回復しますから。」

「なんだよそれ………」


快斗はルーネスの謎の行動に言葉が出ないようで、こめかみを抑えて俯いた。


ルーネスは快斗に向かって微笑んだ後、後ろの馬車に積まれている大量のお土産と、中からサリエルが背負って出てきたリンを見つめた。


「リン様のことは聞いております。あちらの治癒術師では起こせなかったと。」

「あぁ。まぁ、そうだな。起こせなかった。つか、あれは普通の治癒術師じゃあ起こせねぇのさ。」


リンが寝続けたままの理由は、魂の損傷。ベリランダでさえ迂闊に手を出せない繊細な部分を簡単に修復できる治癒術師なんてそうそういない。


「そうですねぇ………。とにかく、城へ戻りましょうか。その馬車で向かいましょう。それと、今回の事件は公にはなっていないことなので、あまり大声で言わないようにお願い致します。」

「ん。分かった。」


快斗はルーネスに簡単に答え、馬車に皆を馬車に戻らせる。そして、ルーネスも馬車に乗ろうと1歩踏み出した、その瞬間、


「ぁ………。」

「え?あれ師匠倒れてません?倒れてますよね!?」

「あー………多分、栄養失調と貧血と脱水症状だろうなぁ………」


快斗は本当に本心から呆れて、倒れて動かないルーネスを肩に担いで馬車に乗り込む。


「じゃあ、行きますよ?」

「おう。頼むぜ。」


運転役になったライトが馬を進ませる。快斗は高谷の血を少しずつ飲ませながら、城に着くまでルーネスを看病することになった。

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