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罪深い男の想像話  作者: 病み谷/好きな言葉は『贖罪』
《第一章》 怒る彼は全てを殺し尽くす
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『鬼人の国』での事件は、大規模な集団魔力欠症として扱われた。


零亡の権力を横暴と言えるほどに活用し、事件のことは完全に有耶無耶にされた。


頼み込んだのは快斗で、理由は多々あるが、なによりライトが快斗にそう相談したことが1番大きな理由だ。


それに、公に晒せば晒したで、快斗の嫌いな面倒事が増えるのみで、特に得がないのだ。


そんなわけで、零亡の凶行はなかったことになり、ベリランダは、『鬼人の国』側が呼んだ治癒士という扱いになり、1部で英雄として名を残した。


その他諸々はヴィクティムに丸投げされ、ヴィクティムはそれを嫌がって拒んだが、快斗がベリランダ経由でルーネスに頼んでヴィクティムの給料を5倍にしたおかげでやる気が出たようで、今では昼夜問わず働いているらしい。


その後、快斗達は最初に泊まった旅館にもう一度泊まることになった。零亡がもう少しいて欲しいとただを捏ねたためだ。


何故だかそんな駄目母にライトは激甘で、ライトに言われればヒバリが了承し、ヒバリに言われれば快斗が了承し、快斗に言われれば高谷が了承し、高谷が言えば、という感じで、結局全員が残るということを選択したのだった。


ベリランダから聞かされたが、エレスト元国王のリドルは出来るだけ早く帰ってきて欲しいと言っていたようだが、ライトは母親を優先し、ヒバリはライトを優先したため、誰もその言葉に同意はしなかった。


そんなこんなで今現在、快斗はベランダから星が見える夜空を眺めている。床が畳の為、寝転んでしまうのは日本人の本能だろうか。隣では同じように寝転ぶ暁と酒を嗜むヒバリがいる。


「美女に囲まれながら星空を眺めるのは優越感があるな。」

「むぅ?」


大の字で寝ている快斗は視線を右を向けると、同じように大の字で寝ている暁と目が合った。


真っ白な瞳に反射して映る自分を見て、快斗は少し陰鬱な気分になった。


「?如何したでござるか?」

「んにゃ、何でもねぇよ。」


無機質ともとれる感情が伺えない真っ白な瞳を向けられ、快斗は自身の負の感情を隠した。


それは、ヒバリには分かったようだ。彼女もまた同じことを考えているだろう。


ヒバリが因子に打ち勝てなかったことと、快斗が因子を半分吸い取った反動で能力が大幅に上がったこと。


この2つのうち、考えるべきは前者のヒバリのことだ。


快斗は、ヒバリが因子を取り込んだ理由は何となく分かっている。取り込むタイミングが、ライトが『鬼神因子』を取り込んだすぐ後、つまり、ライトが快斗らの仲間になるということを理解したヒバリも、ライトと同じ立ち位置につこうとしたのだろう。


だが無理だった。ヒバリは因子に強く拒絶され、結果、自我を保つことが出来ないということが発覚した。


因子の力は強大だが、決して抑えられないものでは無い。受け入れようとしていれば、何一つ問題なく因子は体に馴染むはずなのだ。

快斗と高谷は不意打ちで入れられたため、受け入れるも何も無く終わってしまったが。


だから快斗はヒバリが因子を上手く受け入れられなかったことが意外だった。


何者にも流されない、真っ直ぐで澄んだ心を持っていると快斗は思っていたが、ヒバリにも決意以外の感情があったのだろうか。


快斗が考えるに、それはきっと『抵抗』だろう。『魔神因子』は、取り込むその魔人を悪魔にする。高谷は取り込む際は未だ普通人だったため、1段階下の魔人に昇格したが、いつかは悪魔になるのだろう。


確かに悪魔というのはあまりいい立場ではない。忌み嫌われ、呼ばれる時は「悪魔、悪魔!!」と呼ばれる。


快斗は、ヒバリが悪魔になったとして、皆に嫌われ迫害され訳では無いと考えているし、それを伝えようともしたが、本当にヒバリがそのことのせいで因子を受け入れられなかったのかどうかが定かではない以上、余計なことを言って精神を乱したくない。


だから、快斗は立ち上がって、それに気づいたのに気付かぬ振りをし続けるヒバリの頭を軽く叩いて、


「月が………綺麗だな。みんな、そう感じると思う。」

「………そう、か。」


途切れ途切れの声を聞いた快斗は、ヒバリがどんな表情をしているかは見えない。が、ここはあまり構い続けるのは良くなさそうだ。


快斗は暁を適当な理由で立ち上がらせ、その場を共に立ち去る。


その時、快斗は後ろが気になって振り返った。ヒバリは、手に持つ自前のグラスをヒビが入るほどの力で握りしめていた。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


同時刻、快斗達がいるベランダの2つ上で、快斗達と同じように星空を見つめている原野がいた。下の階にはリンとヒナが寝ている。


「はぁ………」


深い溜息をついて、原野は畳に寝っ転がった。


視線の先には美しい星空。日本から見える星空に良く似ているが、原野が知っている星座がひとつもない。やはりここは地球ではないらしい。


「どうしたのさ。そんなに落ち込んだ感じで。」


溜息ばかり着く原野に、高谷が優しげな声をかけた。原野は体をゆっくりと起こして高谷が差し出した緑茶を受け取る。


「ふぅ………」


高谷が疲れ果てたように手すりに寄りかかって緑茶を飲む。原野も同じように手すりに寄りかかって熱い緑茶を冷ましながらゆっくりと飲む。


「…………。」

「…………。」


暫し沈黙があり、2人は何も話を切り出せないままに数分が過ぎた。


だが、流石に数分も経つと緑茶も冷め、すんなり飲めてしまうようになり、ついに2人は緑茶を飲み干してしまった。


高谷がすることが無くなって困っていると、原野が難しい顔をして口を開いた。


「あの……今回は、お疲れ様。」

「あぁ……。ありがとう。」

「凄いね高谷君は。エリメアさん助けて、みんなを回復させて、ライト君に因子を渡して強くして………ホントすごいと思う。」


原野は寂しそうに言葉を繋ぐ。そこまでの賞賛を求めてはいない高谷は首を傾げたが、原野の顔を見てギョッとした。


原野は、涙を流していた。


緑茶が入っていた焼き物を強く握り締め、震えることでまた言葉を発する。


「私が……出来ないこと……何でもやって……でも、私は……何も出来な、くて……ホントに、馬鹿だね……私。」


自嘲気味に呟く原野は頭を抑えて笑っていた。しかしその笑顔は、涙のせいで決していいものでは無いと分かる。


「私のせいで……サリエルとか、リンちゃんは……傷つい、ちゃって………私が、弱いから………」


震える背中を、高谷が慌てて優しく撫でたが、それは返って原野から負の感情を溢れ返させる。


「私って……なんのためにいるのかな……みんなに迷惑ばかりかけて……私なんて……」


その次に続く言葉は予想できた。しかし、今の高谷にはそれが出来なかった。


「いないほうが……いいよね……」

「ッ!!」


原野がそう呟いた瞬間に、高谷は瞬時に原野の顎を掴んで視線ををこちらに無理矢理向けさせた。


「え………?」

「あ、ご、ごめん。何でも、ないよ。」


高谷は我に返ったように原野の顎から手を離すと、優しく頬を撫でて視線を斜め下に向けて言う。


「別に、原野が悪いわけじゃないよ。誰だって弱いところはあるし、今回はみんなが強かったのと、敵が強すぎたのが悪かった。原野は原野なりに頑張っていたじゃない。」


原野の頬をつたる涙を指で拭い、高谷に笑いかけて、


「ちゃんと反省して、次に活かせばいい。人生はテストと同じなのさ。ゆっくりと考えて、限られた時間の中でどうするか、一つ一つの物事に時間配分をつけるのさ。」


頬を撫でる手が暖かい。原野は無意識に頬に触れている高谷の手を握り締める。高谷はそれに抵抗せず、話を続けた。


「きっと失敗するし、難しい問題にだってぶつかるさ。そういうときはそれを飛ばして後からやり直せばいい。取り返しのつかないことだってあるけど、もう過去のことは変えられない。俺だったらいつも、終わったことだし別にいいかな、とか思っちゃうけど……原野は違うみたいだね。」


原野と高谷の目が合う。原野は顔を逸らそうとしたが、高谷の手が顔を固定して動かせない。


「原野は優しくて、いい子だよ。俺とは違う何かを、持ってる。だから……俺は、原野がいなくなると寂しいよ……」

「ッ………。」


悲しそうにつぶやく高谷の様子を見て、その言葉が嘘ではないことを原野は理解する。手を握る力が強まり、離れたくないと意思表示をする。


「原野には、これが嘘じゃないって分かるだろう?」

「………うん。」

「やっぱり、ね。君は他の人の感情に敏感で、直ぐに変化に気づけたりする人だ。その人がどんな人で、どれほど周りから好かれているかも。でも、自分のことはよく分かってないみたいだね。」


高谷は原野の頬から手を離す。原野は名残惜しそうに手に触れたまま俯いた。そんな原野の頭をゆっくりと撫でて、


「俺は、みんなのために自分を責めれる原野はすごいと思う。俺なんかよりもずっと。 」


原野はゆっくりと首を振る。それは自分がしたことではないと表現するように。


「原野が抱え込むことじゃないさ。もう少し自分に甘くても誰も責めないと思うし………」


高谷は一瞬言葉を途切らせ、


「それに、俺が守るって、言ったしね。」


原野の肩が少し跳ねた。どんな感情か高谷には分からないが、少なからず、悪いものでは無さそうだ。そして最後の一押し。


「俺に、甘えてていいから、ね?」

「…………うん。」


原野が涙の勢いを増して大きく咳き込んだ。止まらなくなり、高谷に寄りかかってそれを隠そうとしたが、濡れてくる部屋着でバレバレだった。


高谷はもう一度、原野だけに聞こえる声で、呟いた。


「もう、寝よ。」


不思議な感覚を感じた原野。その瞬間に凄まじい疲労感が全身を襲う。そして、原野は高谷の体の温かみを感じながら、深い眠りについたのだった。

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