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罪深い男の想像話  作者: 病み谷/好きな言葉は『贖罪』
《第一章》 怒る彼は全てを殺し尽くす
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生還

揺さぶられる感覚を感じて、高谷はゆっくりと目を覚ました。


「ふぁ………」

「おはよ。高谷君。」

「?………あぁ、原野か。」


高谷は上半身だけを起こして、自身を揺すったのであろう人物、原野に目を向ける。


原野は笑って「うん。」と答えると、高谷の手を引いて立ち上がった。


「行こ。みんな帰ってきたよ。」

「帰ってきた、ってことは?」

「うん。」


原野は頷いて、


「終わったよ。また快斗君がトドメを刺して、ね。」

「………そっ……か……。」


高谷はそれを聞いて歯噛みした。ギリギリと奥歯を鳴らす。原野はその態度に首を傾げたが、高谷の顔を覗き込むと、高谷はすぐに笑顔を取り戻し、


「そっか。それは良かったよ。行こう。何処にいるの?」

「え……うん。あっち。着いてきて。」


高谷のいつもの優しそうな声音に違和感を覚えつつ、原野は高谷の手を離して歩いていき、高谷はそれに着いていく。


「サリエルとリンは起きたの?」

「サリエルは、起きたよ。でも、リンちゃんはまだ起きてない。」

「………そっか。まぁ、しょうがないよね。」


実際、今回の出来事で1番の重症を負ったのはリンであり、年齢に合わない超過度な刺激と攻撃を繰り返した反動が魂まで伝わっているようだ。


魂の傷というものは簡単には直せない。快斗は魂に干渉し、破壊することは出来るが、治すという行為をすることは出来ない。


高谷もそれは同じで、干渉できるのは精神のみ。体が治せても、魂は治せない。


「厄介な……。」

「うん。私のせい。だから、高谷君は悩まないで。」

「え?あ、うん……ありがとう……。」


原野が振り返って笑顔で言った。その笑顔は何故だか寂しそうな、悲しそうな者に満ちた

嫌な笑顔だった。


だが高谷がそれを指摘するよりも早く原野は前に向き直って歩いていく。心做しか歩く速度が速くなった気がした。


瓦礫を掻き分けて進む。足場の悪い所だ。原野が大きな瓦礫を飛び越えようと、それに足をかけた瞬間、


「わ、きゃ!?」

「おっと。」


足を滑らせて落ちる、寸前で高谷が受け止めた。原野が驚いたような表情を高谷に向けたが、慌てたように顔を逸らして、


「あ、ありがとう。やっぱり、頼りになるね!!高谷君!!」

「あぁ、うん……。」


何か取り繕っているように見える原野の様子に疑念を抱きながらも、高谷は先方に見える、手を振ってこちらを招く快斗の方へ歩くのだった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


黒いヒビが、空間の中心に広がっている。その向こう側には、何人かの人間と、平然と建ち並ぶ和風の建物がのぞいている。


「ここか、あるいは向こう側が偽物か。」

「あっち側にはベリランダがいるようだ。おそらく、偽物はこちら側だろう。外部からヒビを広げているらしい。」

「ベリランダがヒビを広げてくれれば、俺らは本当の現世に出られるってわけか。どんぐらいかかるんだろうな。」

「ベリランダはあれでも世界最高峰の魔術師。ものの数分で済ませるはずだ。」


寝転ぶ快斗は、ヒビを見つめて呟く。先に目を凝らすヒバリは、ゆっくりと振り向いて快斗に答える。


快斗は早めにここから出たいのか、指で地面を叩いている。それを見た高谷は苦笑して、


「気長に待とうよ。今更急いだって意味は無いんだし。」

「せっかちってのは勘違いされがちだが、実はメリットしかねぇんだぜって、誰も聞いちゃいねぇか。」


快斗は上半身を起こして膝の上で寝ているキューを持ち上げる。


「こいつ、こちとら死に物狂いで戦ってたってのに、呑気な。」

「まぁいいじゃない。キューは戦力外なんだし。」

「お前結構毒舌だよな高谷。」


快斗はキューをフードにしまい、隣で寝こける零亡を膝枕しているライトに目を向ける。


「因子は上手く馴染んだみたいだな。」

「はい。高谷さんから渡された時は驚きましたけど………どうにかなりました。」

「よく瞬時に因子に打ち勝ったもんだな。」

「高谷さんに『負けるな』って言われたので。」

「至る所で高谷の功績が出てくるのな。お前、裏で働いた方が絶対効果出るぜ。」


快斗が高谷に言うと、高谷はやはり苦笑するのみ。


「んで、一つ問うけどよ。その猫耳はなんなんだ。」

「はい。分からないです。」

「分からないのかよ………」


快斗はライトの膝の上で寝ている零亡の頭に出現した2つの大きな猫耳と、亜麻色に変わった髪を指さしてライトに問うたが、ライトは知らないとのことだ。


それを聞いていた暁が首を傾げて答える。


「女帝殿の本当の姿はそれでござるよ。」

「あ?これが通常なのか?」

「女帝殿は少し特殊な過去を有してござる。確かそれは30年ほど前、幼い女帝はそれは好奇心旺盛で、あの塔内に現れた猫耳の魔物にかぶりついたらしいでござる。まるで魔物のように。」

「なんだそれ………」

「それがきっかけで、今では立派な巨耳を有してござる。悪魔が来る時は、耳が無い方が息子殿の親としてふさわしいとかなんやらで隠していたようでござるが………」

「僕、こっちの方が可愛くていいと思うんだけどな………」

「見ての通りで、効果は薄かったようでござる。」


零亡の耳を撫でて笑うライトを見て、暁はそう呟いた。快斗は狙ったかのように現れた猫耳キャラに渋い顔をしつつ、好奇心に負けて耳を触ってみる。


すると、


「ふぁ!?」

「うぉ!?」

「うわ!?」


素っ頓狂な声を上げて零亡が起き上がった。快斗とライトも同じようにおかしな声を上げて飛び跳ねた。


「な、なんじゃいきなり………また暁の奴か?」

「女帝殿、拙者はここに座ってござる故、そこまで手は届かないでござるよ。」


耳を抑えて言う零亡に、暁は手を伸ばして届かないということを証明した。


零亡は暁を見てから何度か瞬きをして辺りを見渡し、それから凄まじい速度で顔を真っ赤にして、


「む、息子よ……」

「はい。」

「こ、この耳のことは忘れろ!!も、もう出さん!!だから、失望しないでくれぇぇ………」

「??」


零亡がライトに飛びかかって、その胸に顔を埋めた。ライトは混乱しているようで、上手く言葉を繋げられない。


「なに、あいつ猫耳コンプレックスだったの?」

「『こんぷれっくす』が何かは知りもうさぬが、あまり人前に出さないようにしていたのは事実でござる。幼い時は陽気で、人前でも堂々としてござったが、今では身内と拙者以外とは上手く話せないようでござる。」

「はぁ………。」


快斗はこめかみを指でつまんで、


「あいつの父親を見た時に、なんでライトが内気なのかと思ったが、それはこっちの血だったのかよ……」

「耳がなければ風格と威厳はあるでござるが………耳がある時はただの弱っちい猫でござる。ちなみに、寝る時は必ず丸くなって寝ているでござるよ。」

「暁!!余計なことを言うでない!!弱っちいとは何を言うか!!」


零亡が拳を振り上げて暁に抗議する。暁は首傾げて、「真実を言ったまででござる。」と

答えると、零亡はさらに憤慨して、そしていじけてライトにもう一度顔を埋める。


「別にいいのじゃ……気にしてない、妾は気にしておらんぞ。ただ、その、少し恥ずかしいだけで………」

「え、えっと、僕は可愛いと思う、けどなぁ……。」


弱々しく呟く零亡の頭を優しく撫でて、ライトは苦笑する。その光景を見て、大きく溜息をついた人物が2人。


「なんだよそりゃ………」

「あんなに強キャラ感あったのに……憎めない人ねぇ……。」


エリメアとサリエルは、揃って溜息をついた。確かに、2人は割と長い間気絶していた訳で、恨みや怒りも多少なりあるはずだが、零亡のこんな姿を見るとそれもどこかへ消えてゆく。


快斗は頬をかいた後、今も寝続けているリンの頭を撫でる。


「いつまでも寝てんなよリン。お前も耳つまんだら起きたりしねぇのかよ。」


快斗は小さなリンを胡座をかいた快斗の足の上に乗せ両耳をつまむ。しかしリンがそれで目覚めることは当然なく、無意味に終わる。


それを不憫に思ったのか、高谷が快斗の頭を撫で、快斗はその行動に渋い顔をして手を払う。


「俺は別に、撫でられたって嬉しかねぇよ。」

「それは俺が男だから?」

「1番でけぇ理由はそれだけど、撫でられたって変わる現実じゃねぇんだよ。これは。」

「知ってるさ。でも、気持ちは変えられるでしょ?快斗の悲しいって気持ちはさ。」


当然のように言ってのける高谷。その笑顔に軽くなる気持ちが確かにあり、そしてそうしてくれる仲間を持っていることを、改めて誇りに思った。


「俺は………もしお前が女なら結婚してるかもな。」

「ハハ。冗談。」


そんな快斗の本心を、高谷は華麗にスルーした。


「もうじき開くぞ。天野、リンを背負っておいてくれ。」

「わーった。」


ヒバリがヒビを見て快斗に言う。快斗はリンを優しく背負うと、立ち上がってヒビを見上げる。全員が同じ動作をしたところで、ヒビの向こう側からベリランダの声が響いた。


「はいオッケー!!みんな来ちゃってー!!少ししか持たないから早くー!!」


それを聞いた快斗達は瞬時にヒビへ向かって飛び上がる。零亡は少し抵抗したが、ライトが力ずくで引っ張ったため連れてこられたようだ。


光に包まれる。快斗はすんなり出れると思っていたが、時空の間には思っていた以上に距離があるようだ。


快斗は背中の軽い温もりを失うまいと、力ずよくその足を抑えた。きっと、リンはその思いに応えられない。


リンは、運命は、快斗の思いどおりには、行かない。

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