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罪深い男の想像話  作者: 病み谷/好きな言葉は『贖罪』
《第一章》 怒る彼は全てを殺し尽くす
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終結

昔、神々と渡り合える天使の一族が居た。その天使達は一人一人、それぞれの得意な属性がある。阿修羅が『神殺し』と戦ったのは、神聖属性の天使が『神殺し』の仲間に討たれた後だった。


同じような場所だった。和風の建物が建ち並ぶ世界での戦闘だった。


出会った瞬間から刀を使い、そして、


捻り潰された。


油断していたわけではなかった。油断しているなら刀なんて使わない。本気を出したってかないっこなかった。


初め、話した時はいい者だと思った。気楽だし、軽いノリで話していて楽しかったのだ。


なのに、蓋開けて見ればやはり『神殺し』。特攻でもついているのかと勘違いするほどに、一撃一撃が苦しいものだった。


「いーじゃねーか。頑張れよクソ神。もっと来い。来ねぇなら………」


『神殺し』は草薙剣を投げた。跪いた阿修羅の首元を通り抜けた草薙剣の元に、『神殺し』は転移した。


一瞬にして『神殺し』は阿修羅を撃沈させる。足で蹴られたのは理解出来たが、それ以降の記憶が消えている。


ただ、その出来事のせいで、阿修羅は神位を奪われた。無様に負けた阿修羅を、最高神は神位と腕1本を、罰として奪ったのだ。


神界から放り出されかけた阿修羅は、邪神に拾われ、その身が滅んでしまう前に、何とか生き延びた。


それから阿修羅は、邪神の元で『神殺し』への復讐を誓う。しかし、それから1年と経たず、『神殺し』はこの世から消え去った。


ついに最高神まで到達した彼だったが、やはり最高神には勝てなかったようだ。


魔神の地位を持っていた『神殺し』の神位は新たな者に受け渡され、そうして神々と『神殺し』の大戦は終結した。


だが、阿修羅は邪神から、『神殺し』の体がまだ残っていることを知らされる。その体には生を入れ込むことが可能で、いつしか誰かが『神殺し』を復活させる前に、その体を破壊する必要があった。


だが、体の在処はわからず、結局その体が自由に動けるようになるまではその体を見ることさえもなかった。


探している間はもう消え去ったのではないかと思うほどに見つからず、手がかりさえもありはしなかった。だから、邪神は狂神と協力をして、その体の在処を炙り出した。


そして今、目の前にはすっかり弱体化して記憶をなくした悪魔がいる。阿修羅は歓喜し、意気揚々と悪魔を痛ぶろうとした。


付属のように着いてきた人間共は予想外に強く、神位を失った阿修羅には辛いものだったが、それでも押し切ることは可能だ。


阿修羅は悪魔を捻り潰して、それを表明して最高神から神位をもう一度賜ろうとしていた。


しかし、悪魔は何故だか過去の力を取り戻しつつある。理由は阿修羅も予想外なもので、昔に見たものから遡って記憶を辿っているのだ。


つまり、彼は阿修羅と共にいる時間が長ければ長いほど、力を取り戻し、その代償として今の人格は歪んでいく。ただの化け物ができるのだ。


なのに何故だか、今の悪魔は、今入っている生と、過去の持ち主の1部の感情は完全に一致し、阿修羅を殺そうと殺気立っている。


きっと阿修羅は負けるのだろう。いや、正直負けて欲しい。この戦いで滅びて欲しい。


阿修羅ジャマモノを排除するために、ここまでしてきたのだ。悪魔には頑張ってもらわないと困るのだ。


天から彼らを見学する彼女は、口元を歪めて小さく笑い、阿修羅の行く末をただ待つ。


「さぁ、やっちゃいなよ。快斗くん♪」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「やってやるぜ。阿修羅よォ!!」

「ぐぅっ!?」


阿修羅の腹に足をねじ込んで暁から受け取った草薙剣の柄で阿修羅の頭を殴打する。


その力は今までの比ではなく、衝撃が頭を突きぬけ脳みそを掻き回す。阿修羅が吹き飛び、先にいた暁が阿修羅を打ち上げる。


「せぇぇい!!」

「オーケーよくやった!!」


もはや阿修羅には抵抗する気さえ起きないようだ。なされるがまま、目の前の悪魔の思い通りに傷つけられる。


神位を失った自分がどれほど弱いか、阿修羅はここでやっと理解する。弱いと言うよりは快斗の中に残る力が強すぎるだけなのだが、それでも阿修羅は力を失った彼を簡単に倒せると踏んでいた。


だが、現実は阿修羅に厳しい。やはり油断するくせは治ってはいないようだ。


阿修羅は降り注ぐ攻撃の中でヒバリに視線を向ける。ヒバリは剣を握りしめてこちらに向けているが、全く戦闘に入り込めずに、ただずっと、自身の中の『魔神因子』と向き合っているようだ。


阿修羅は、ヒバリは『魔神因子』に馴染むのが難しいと感じた。因子がヒバリを拒絶しているように見えた。


すると、遠くの方に凄まじい魔力の感覚が2つ出現し、そして瞬く間にその2つは消え去った。


その術者と思われる片方の魔力は途切れ、もう1人は疲労困憊と言った様子だ。


快斗は口元を歪めて笑い、


「終わったみてぇだな。本命はよォ!!あとはお前だけだぜ!!阿修羅!!」


快斗の口からでた本命という言葉は、阿修羅の壊れかけの精神に更に深い傷を刻んだ。自分との戦いが、本命とも思われていなかった。置いてけぼりにされた感覚だった。


きっと、阿修羅は快斗の気軽い雰囲気の攻撃で消滅するだろう。当の快斗は、阿修羅よりも自分の力の制御の方に集中しているようだ。


怒りは湧いてこない。あるのは虚無感。寂寥感。邪神の元で修行をしていた気だったが、やはりどこまで行っても、彼には勝てないようだ。


全て空振りした。油断も何も言ってる暇ではないが、きっとこれは、阿修羅の天性の精なのだろう。そして気がつく。


阿修羅が見下していた人間共の中には、七つの大罪と呼ばれる七つの感情が存在する。


阿修羅は自分をその中の一つの怠惰だと思った。悪魔どころか、人間さえ、超えることは出来ていなかったようだ。


これ以上考えてもキリがない。目の前の悪魔も、加担する人間達も、それに負ける自分も、みんながみんな、クソだったということなのだろうと、阿修羅はそこで思考を打ち切った。


「悪魔よ………」

「あ?」

「私を………」


阿修羅は縋るように手を伸ばした。快斗は首を傾げてその手を見つめる。


「私を、なんだよ?」

「………私を………」


阿修羅は苦虫を噛み潰したように苦しそうな表情で、快斗に言った。


「許してくれ……」

「あ?」

「助けてくれ……殺さないでくれ……私に今一度、機会を………」


阿修羅には快斗が過去にいた彼に見えていた。あの時の彼は、この言葉を聞いて阿修羅を殺さずに放ってくれた。


だからこそ、もう一度、阿修羅は快斗に懇願したのだ。


そして、それは誤りである。


「………あ?お前、ナメてんのか?」


快斗が阿修羅を地面に叩き落とす。それから鳩尾に踵をねじ込んで、心臓に絶大なダメージを与える。


「お前、あんだけ俺らに攻撃して、死に際にはそれかよ。気色悪ぃ。」

「…………。」

「お前を生かすとか、有り得ねぇから。色々理由はあるけど、1番はヒバリを傷つけやがったことだ。まぁ、1番傷つけたのは『魔人因子』だけどなァ。」


頭をかいて、快斗はそう呟いた。それから阿修羅の顔面を踏みつけて、


「まぁ、何があってもお前は殺すってことよ。だから助けるとか生かすとかは無しな?」


快斗が笑いながら言う。阿修羅はその笑みが何よりも恐ろしく見えた。奥深く、なにか底知れぬ闇を抱えている笑みだ。


「私は………」

「あーもういい黙ってろお前。喋らしたらムカつくことしか言わねぇクソ野郎だからよ。」


快斗は阿修羅を天高く蹴りあげる。暁とヒバリの視線が同時に上に向く。快斗は左手を阿修羅に向ける。すると、阿修羅の周りに黒い魔塊が出現する。


「『魔技・死滅の魔塊』」


阿修羅は悟る。自分の死を。抗えない真実を。だからこそ、恐怖はそこにはない。


「あぁ、何とも………」


受け入れてしまっている自分が情けない。弱くみすぼらしい自分を逆恨みするでもなく、阿修羅は小さく、消え入りそうな声で呟いた。


「怠惰な、ことだな。」


快斗が手を握りしめる。魔塊が凄まじい威力で爆発した。空が紫色に染まり、阿修羅はその爆撃で消滅はしなかったが、体の大部分は消え去った。


地面に落ちてくるその残骸を、快斗は草薙剣で粉々に切り裂いた。血が頬に着いた。


快斗は溜息をついて草薙剣を背中の鞘に収める。それから魔力を切って、普通の状態へ戻った。十字架は消え、『スカーレット』も解けて今では左目は閉じている。


「はぁ。暁、ヒバリ。おつかれさん。」

「……あぁ。」

「うむ。」


暁は刀を収めて頷き、ヒバリは少し後味があるそうな表情になった。振り返った快斗の表情もそんな感じだった。


「………んま、これにて、ここは治まったな。」


なんとも言えない雰囲気で、『鬼人の国』の戦いは終戦を迎えた。


だが、ここからヒバリと快斗の仲は不安定なものへと変化していく。今はまだ、快斗はそれを知らないし、考えることも、なかった。


ヒバリが、『魔神因子』を引き抜こうとした快斗に、嫌悪の視線を向けていたことも。

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