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罪深い男の想像話  作者: 病み谷/好きな言葉は『贖罪』
《第一章》 怒る彼は全てを殺し尽くす
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違和感

「『魔術終了マジックキャンセル』!!」


ピンク色の魔光線が、魔力の紐で椅子に縛り付けられた琉音を撃ち抜いた。


「あ、ぉお……」


琉音は呻き声を上げ、血を吐きそうな程に苦しみながら、少しずつ邪気をその体から消化していく。


「う、……ぁ……?」


何が起こったのか分からないと言った様子で、琉音が辺りを見渡す。べリランダはふぅとため息をついて、


「じゃ、青年大臣君。諸々の説明も含めてあとは頼むよ。」

「はぁ。最後の最後は私なんですね……。ボーナスは期待しますよ。」

「うん。悪魔から女王に頼ませるよ。」


べリランダはひらひらと手を振って青年に琉音を任せ、隣に傷の手当をして座っているフーリエに意識を向ける。


「大丈夫?フーリエ。少し鈍くなったんじゃない?」

「そうですかねぇ。久しぶりの戦いでしたから。少なくとも、もうベリーには届きませんねぇ。」

「そんなことないでしょって。フーリエ以上の魔術師、この世にいないっての。」

「傷を受けていないのはベリー、あなただけですけどね。」


足の擦り傷を回復させ立ち上がるフーリエがベリランダの頭を優しく撫でる。ベリランダは撫でられる感覚を堪能した後、少し拗ねたような表情でフーリエを見上げる。


「みんなそう言うわ。フーリエの方が凄いのに。」

「そう思ってくれてるあなたがいるだけで幸せですよ。」

「そういうものなの?」

「そういうものです。」


フーリエの言い分にベリランダは難しそうな顔をして、


「どうして私しか見ないのよ。みんな。」

「まぁ、それは置いておいて。やっちゃってくださいな。ベリー。」

「……はーい。」


ベリランダは納得がいかないような表情をしていたが、直ぐに頭を振って浮き上がる。


それから、綺麗に並べられた兵士や剣士達の死体に向かって両手を伸ばした。


「?。ベリランダ様は何を?」

「これから分かります。」


青年がフーリエにベリランダの行動の意味を問うと、フーリエは微笑んでベリランダを見るように促した。


ベリランダは薄紫色の魔力を死体の周りにベールのように纏わせ、魔力を高めていく。


すると、黄金に輝く魔力片が幾つも出現し、それがベリランダの手の中で小さなハープが形成された。


「おー。」


青年がハープの美しさに声を上げる。それを見たフーリエは得意げな笑みを浮かべて、


「見ていてください。あれが、ベリーがエレスト王国の王宮魔術師の位を持ち、そして世界一の魔術師と呼ばれる理由です。」


ベリランダがハープに手をかけてゆっくりと弾き始める。耳に優しく響くその音は、聞くもの全てを魅了し、生者も亡者も関係なしに引き寄せる。


そう、亡者さえも。


「イテキナリオサ ドマヨルエヨマタエモシイ」


だれも聞き取れないような早口で呟かれた言葉。その声音に誘われて、ベリランダ以外には見えない魂が天から降りてくる。


「おかえりなさいみんな。そして起きて。」


魂はゆっくりとそれぞれの体に降り入り、傷が修復された体が動き出す。


「死の呪縛から目覚めよ亡者よ。我今1度、汝らに生の機会を与える。」


魂が体に完全に根をはり始め、自由が取り戻され始める。


ベリランダはその兆候を見て頷き、ハープの弦を3本鳴らして最後に小さく呟いた。


「『川飛び帰り』」


言い切った瞬間に、死んでいた兵士達が一斉に起き上がった。


「凄まじい技だ。ベリランダ様は死人さえ生き返らせられるのですか。」

「その感想を持つ割には、あなたは驚いていなさそうですね。」


青年の呟きに、フーリエが苦笑して言葉を返した。それからベリランダをまっすぐ見て、


「流石、私の一番弟子です。」

「そうですね。」


青年は困惑して動かない琉音を縛っている紐を解いて答える。


「ベリランダ様は素晴らしい方です。」

「分かってるじゃないですか。」


青年はフーリエにそう伝える。フーリエは小さく答えてから振り返る。その顔は笑顔で、しかし何故だか暗みがあって、


「それで?私に媚びを売っても、ベリーに売っても報酬は上がりませんよ?」

「えー………」

「もともとのボーナスが高いのですからいいでしょう?」

「私としては、ここで一攫千金。大臣を辞めて一生遊んで暮らすって予定だったんですが……」

「そんな大金、女王様よお気に入りの悪魔でさえ持っていませんよ。まぁ、彼なら女王にお願いをしてお金を貰えるでしょうけど。」

「じゃあ、悪魔と仲良くなればいいんですね。」

「あなたはお金のためならなんでもやる人なんですね……私なりの推測ですが、彼は本気で信頼している人と女性以外、頼み事を聞きませんわよ。」

「えー………。」

「あなた、何故大臣になりましたの………。」


フーリエの言葉一つ一つにやる気のない返事をする青年に、フーリエは呆れたようにこめかみを抑えている。


「一応聞いておきますが、あなたのお名前は?」

「あぁ。そういえば言っていませんでしたね。」


青年は立ち上がり、藍色の髪をかきあげて、


「僕の名前は、ヴィクトリ・ヴィクティム。好きな言葉は『勝利』。座右の銘は『金こそ正義』。何卒よろしくお願いいたします。」


そう言って青年、ヴィクティムは礼儀正しくフーリエに頭を下げた。フーリエは少し苦い顔をして


「ヴィクティムですか。珍しい名前ですね。」

「そうですか?天野快斗の方がよっぽど珍しいと思いますよ。」


ヴィクティムは笑って


「まぁ、よく言われることですけどね。」

「………ふむ。」


フーリエは考え込むようにして顎を抑えたあと、いつも通りの笑顔を向けて、


「とりあえず、琉音様への説明は頼みました。」

「ええ。この俺がどうにかしておきますよ。」

「…………。」


ヴィクティムが琉音に向かって歩き出そうとする。ヴィクティムの話し方に少しの違和感を感じつつ、フーリエは最後に1つ気になったことを問う。


「ところでヴィクティムさん?」

「はい。」

「天野快斗とはどちら様?」

「え?…………あー。悪魔ですよ。エレストを救ったあの悪魔の名前です。」

「何故知っておられましたの?」

「そりゃ……大臣ですから、一応国の英雄ですし、名前程度は私だって知っていますよ。」

「ふむ。そうですか。分かりました。もう行っていいですよ。」


フーリエはヴィクティムを笑顔で送り出す。未だ困惑状態の琉音に、ヴィクティムは少しずつ現状を話し始めた。


やはり話し方に違和感がある。何故だか寒気がする。今まで意識しなかったが、名前を知ってから急に突出したように目の前に現れた。


だが、今はそれどころではない。とりあえず、この邪気をどうにかしておかなければ、快斗達を助け出すことは出来ない。


フーリエはベリランダの方へ歩いていく。ヴィクティムのことを少しばかり警戒して、違和感を小さく吐き出した。


「一人称は、1つにするべきですよ。」

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