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罪深い男の想像話  作者: 病み谷/好きな言葉は『贖罪』
《第一章》 怒る彼は全てを殺し尽くす
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ヤマノケ討伐

「『崩御の刃』!!」


青く揺らめく炎の斬撃が、水面を大きく揺らしてヤマノケに迫る。ヤマノケは、その細く長い腕からは想像もできないほどの腕力で斬撃をねじ切った。


右腕が勢いよく振り下ろされ、真下の高谷は逃げきれずに腕を受け止める。重撃に動けない高谷に、ヤマノケは容赦のない追撃を繰り出す。


左手の鋭い鉤爪を水面に沿って滑らせるように振り上げる。刀に匹敵する長さの鉤爪は、動けない高谷に猛然と迫り来るい……


「くっそぉぉぉおおおああああ!!!!」


瞬間、火事場の馬鹿力と言わんばかりの怪力を高谷が発揮し、押さえ込んでいた右腕を肥大化した両腕で弾き上げ、鉤爪の通り道の内側へと滑り込む。


そのまま水面を蹴り飛ばし、回転による遠心力と纏った青黒い炎で勢い付いた右拳をヤマノケの顔面に叩きつけた。


「ヒィイアアア!!!!」

「まだ……まだぁ!!」


発せられた奇声に鼓膜が大きく震えたが、脳の痛みを無視して倒れたヤマノケの顔面を殴り続ける。


炎の効果も相まって、ヤマノケの顔面は徐々に焼け焦げ、所々が潰れて血が吹き出す。


どうにか打撃の雨から脱しようとするヤマノケだが、一向に止むことのないその雨が邪魔で思考ができない。どれだけの体力があるのかと、ヤマノケは無限とも思える高谷の体力が尽きるのを待つが、いつまで経っても限界というものが高谷に訪れないのだ。


だが、それもそのはず。


高谷が繰り出しているのは、単なる拳撃では無い。それは、そのを尽きない高谷の体力を最大限生かした、地獄のようにいつまでも続く拳撃。


快斗との協議のすえ生み出されたその技の名はどシンプルなもので、快斗がちょっとかっこよく名前を改造したものだ。


その名も……


「『無限の攻撃インフィニテッド・アタック』!!」


終わりなき攻撃は、ヤマノケの顔面を粉砕し、どす黒く汚れたその血液で水面を汚すが、高谷はそれすら見逃さず、『崩御の炎』で全ての血を焼き尽くす。


「消え、ろぉぉおおおお!!!!」

「ヤメ、ロォォオオオオ!!!!」


ほぼ同時に叫ばれた2つの言葉が響き渡り、ヤマノケはついに反撃を始める。


攻撃に躍起になる高谷は、後ろから迫る長いヤマノケの腕に気が付かず、体を引っ掴まれて水面に叩きつけられる。


「ぐ、は………」


体の中の空気が全て無理矢理外に押し出されたような感覚になり、咳き込む高谷。


顔面を隅々破壊されたヤマノケは、元から気色悪かった顔面が更に醜く成り果て、瞼を失った左目は剥き出しのギョロ目になっていた。


「コロ、ス!!」

「はぁ、はぁ、よいしょ!!」


薙ぎ払うように振られた鉤爪を屈んで避け、そのまま水面を蹴って前転するように倒れ込み、踵を剥き出しの左目に直撃させた。


潰れた瞳が、ドロドロの赤黒いヘドロになって水面に落ちるが、その前に炎に焼かれて消えた。


「グ、ギ、ガァアア!!」


高谷はヤマノケの顔面に突き刺さった踵を軸に回転して頭をつかみ、そのままもう一方の足で勢いよくヤマノケを蹴り飛ばす。


水面を転がるヤマノケ。『崩御の炎』の追撃をなんとか躱し、高谷の顔面を掴んで水面に叩きつける。浅い水面は直ぐ下に地面がある。


叩きつけられた拍子に鼻血が流出。水面が真っ赤な血で染る。


「はぁ、はぁ、せぇい!!」


根性とばかりに足を振り上げた高谷は、右手と左手を交互に交差し足を180度に開く。


「くらえ!!」


腕に力を込め、思いっきり回転を始める。広げられた足がヤマノケの頬を何度も蹴り飛ばし、その回転を残したまま足を畳み、鼻を狙って両足で蹴りをかました。


回転する踵が鼻を捻り潰す。骨が砕ける音と血が巻い、ヤマノケが痛々しい奇声を上げる。


「ルアァッ!!!!」


雄叫びを上げ、肥大化した右腕でヤマノケを引っつかむ。腕にさらに力を込め、ヤマノケを握りつぶしていく。


「グ、ギギ、ギギィィイイ!!!!」


ヤマノケの悲鳴を聞き流しつつ、高谷は『崩御の炎』で、自身の鼻から流れ出た血を焼き消そうとした。


他人の精神の中に、他人の精神の欠片、高谷でいえば血が残るのはあまり宜しくない。


エリメアの精神に高谷の血が残れば、その精神は1部のみだが、血の残骸による影響を受けることがある。


しかし、血を焼き尽くすことを今してしまえば、抵抗し続けるヤマノケが腕から逃げ出してしまうかもしれない。


「あぁああ!!」


逃げ出そうとするヤマノケ。右腕の力を必死に維持し、高谷は掌に生み出した炎で水面を漂う血を焼き消そうとした。


「高谷殿!!」

「ッ………」


と、檻に囚われたエリメアが、高谷の背中に大声で叫んでいた。


「俺の精神のことはいい!!そう簡単に影響が出るほど、俺の精神は弱っちいもんじゃない

!!」


エリメアは1度息を吸い込むと、落ち着いた声でゆっくりと、語りかけるように叫んだ。


「気にするな。」

「ッ………なにそれかっこいい。憧れるよエリメアさん。」

「おう!!どんどん憧れやがれ!!」


高谷は後ろからの声を声援として受け取り、水面に落とそうとした炎を躊躇なくヤマノケに叩きつけ、両腕でヤマノケを包み込むように握りしめた。


両掌から噴出される青黒い炎は、密閉されたような手の中で温度をぐんぐん上昇させていく。


ヤマノケの肌は焼けて溶け始め、肘や脛などの肌が薄い部分は既に骨がむき出しになっている。


流れ出る血液さえ一瞬で消え去り、ついに炎が内臓へと届いた。


それを感じた瞬間、高谷は思わず笑みがこぼれた。


「はい。終了。」

「ギィイアアァァアアァアア!!!!」


内側と外側から焼かれるヤマノケの体は既に限界を迎えていて、残るは痛みを感じ続ける頭脳のみだ。


「オノレ………ハ、オニノ、ムスメノ、タメニィィイイイイイ!!!!」

「知ったことじゃないよ。俺は俺の敵を排除する。特に……」


高谷はエリメアに視線を向け、満面の笑みを浮かべて


「俺の仲間に害を加えるやつは………『絶対に許さない』。」


最後の1文の声だけが、明らかに憎悪と怒りが大量の含まれていて、これまで見せたことの無いような、それこそ鬼の形相と言える表情で、高谷はヤマノケを睨めつける。


高谷は、何に対してそんなに怒っているのか自分で理解ができない。ヤマノケに対して、と言えばそれで終わりなのだが、少し違和感が残る。まるで、過去にも同じようなことがあったような。


その外から高谷の言葉と表情を見たエリメアには、その全てが美しいものに見えた。かけがえのないものに見えた。あれが真の、『情』というものなのか。そう感じて。


未だ感じる違和感を頭を振って振り落とし、高谷は最後のひと押しとばかりに言葉を紡ぐ。


「消えなヤマノケ。女の人が好きなのは分かるけど、節度と限度ってものがあるでしょ。」

「ギャ!?」


その言葉を言い終わった瞬間、水面に漂っていた高谷の血が刃と化し、勢いよくヤマノケの頭脳を撃ち抜いた。


「『真・崩御の炎』」


最後の臓器を完全に破壊され、残るのは肉の残骸のみ。抵抗すらしない肉塊を焼き尽くすなど楽な作業。灰になることも許さないほどの高温の炎で、今度こそ高谷はヤマノケを、まるでこの世に存在していなかったかのように全てを消し去った。


「………ふぅ。」


肥大化させていた腕を元に戻し、高谷は勢いよく水面に倒れ込んだ。


精神だけで戦うというのは、無限の体力を持つ高谷にとっても耐え難い苦行であったようだ。


「やったな!!高谷殿!!」

「うん。勝ててよかったよ……。檻、今壊します。」

「うむ!!頼む!!」


高谷はふらつく足取りで檻の鍵穴まで向かい、檻に触れたところで『崩御の炎』を発動。檻は偽のエリメア同様に、ドロドロとヘドロのように崩れて焼き消えた。


「はぁ、これで、良し、と。」

「おっと。」


途切れ途切れの声で告げて倒れる高谷を、エリメアが優しく受け止める。


と、エリメアは高谷の体が異常に軽い事に気がついた。視線を向けると、既に高谷の精神がエリメアの意識世界から追放されかけている。


体の端々が粒子となって消え去り、映像のように透明になっている。


「恩に着るぞ。高谷殿。」

「ん。大きな貸しとして覚えておいて欲しいな。」

「ハハ。気にしなくていいと言って欲しかったんだがな。」

「いや、流石にここまでやってそれはないでしょ………」

「確かにな。」


珍しく真面目に話すエリメアが、消えかけの高谷の頭を撫でる。


予想外の行動に、高谷は目を見開いて驚いたが、すぐに笑って「ありがとう。」と告げた。


エリメアの記憶に、その笑顔が色濃く焼き付いた。大切のもののように、大切に記憶をしまい込み、エリメアは同じように笑った。


「ご苦労だったな。もう、戻っていいぞ。」

「分かってるさ。ていうか、留まれるほどの気力がないし、何よりエリメアさんの喉に指突っ込んだままだからね。」

「そうだったな。では早く戻らないと俺が死んじまうな!!早く戻れ!!」

「はいはい。」


高谷はそう答え、完全に粒子となって意識世界から消え去った。


最後、高谷は消える瞬間に見えたエリメアの表情が妙に印象的だった。


泣いていたからだった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「は………」


目覚めた瞬間に、仄かに暖かい感覚を左手に感じて、手を広げる。


エリメアの首から流れ出た血の量は致死量の1歩手前まで来ている。だが、意識が戻った高谷ならこの程度を回復させるのも余裕だ。


「よい、しょ。」


首の傷に、手首を切り裂いて流れ出た血液をかける。白い蒸気を上げ、エリメアの首筋の肉が再生。傷は塞がり、顔色も良くなってきた。


「よし。完璧。はぁ………危なかった。」


正直ギリギリ、と言ったところだったが、結果良ければ全てよし。及第点としておこうと高谷は考え、その場に立ち上がった。


「さて、次にやることは……」


高谷は懐から快斗から貰ったものを取り出して、次の戦闘場に向かおうとした。


その瞬間、


「うわっ!?」


高谷の目の前で巨大な爆発が起こり、吹き上がる噴煙の中に黄色の雷が見えた。


「あ………」


それは、衝撃に吹き飛ばされて血まみれのライトだった。額に生えた角にはヒビさえ入っている。


「不味いな………。ライト!!」


高谷が声を上げる。必死にライトに聞こえるように、できるだけ大きな声を。


「ライト!!聞いてくれライト!!」


だが、ライトからの反応はない。重力に任せて地面に落ちてくるその体を受け止めるには、高谷からは距離がありすぎて不可能だ。


「なら………」


ライトと呼んでもダメなら、と、高谷は叫ぶ言葉を変える。


これが届いてくれる事を祈って、血が出そうな程に大きな声で叫ぶ。



「光ーーー!!!!」

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