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罪深い男の想像話  作者: 病み谷/好きな言葉は『贖罪』
《第一章》 怒る彼は全てを殺し尽くす
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意識世界

煙と灰で何も見えなくなった瓦礫の中から、高谷は勢いよく起き上がる。


「ごほ………」


咳払いと同時に吐血。口を抑えた手のひらが朱に染る。食道がガッツリ切れていた。しかしすぐ回復し、高谷はふらつき足取りで立ち上がった。


「はぁ、はぁ。あれ?俺何して………」


高谷は頭を抑え、今まで起きたことを少しずつ思い出していく。


「そうだ………エリメアさんを吹き飛ばして、それで俺も吹き飛んで………」


そこまで思い出したところで、高谷の首元に嫌な寒気が走った。


「だから、今エリメアさんは瓦礫のどこかに………!!」


高谷が言い切る前に、高谷の首から上が潰れて消える。瓦礫から飛び出したエリメアに寄って、頭蓋を破壊された。


首から大量の血を吹き出して倒れる。しかし3秒もすれば、高谷は完全に回復して立ち上がった。


痛みと過ぎ去った一瞬の死の恐怖で、高谷の頭は強制的に冴え始める。


その目は身体中火傷だらけのエリメアを捉えた。高谷の瞳に宿る感情は、優しさでもなんでもない、何かである。高谷自身、それが何なのかは分からないが、今ものすごく戦いたいと思っている。だが、一旦そのことを高谷は忘れて、


「はぁ………やりたいことは、思い出したさ。」


『血獣化』を発動。赤いマスクに、胴体には大きな口。両腕は肥大化する。


「剣、なくしちゃったな。まぁ、しょうがないや。」


エリメアは何を言わずに高谷に振り返る。その額に角はない。


『鬼人化』できるほどの魔力はもうない。今、エリメアは単純な戦闘力だけで高谷と戦わなければならなくなった。


完全に体力勝負。そしてこの勝負は既に勝敗が決まっている。


無限回復。不死。絶対に死ぬ事の無い高谷が、この手の戦いに負けることは無いのだ。


エリメアが少し頷いた。高谷はそれを合図として受け取った。


『俺を倒してくれ』という合図だと。それが、今エリメアができる小さな抵抗だったと信じて、高谷は攻撃を開始した。


「『崩御の炎』!!」


青黒い炎が、エリメアに向かって放たれた。エリメアは地面を蹴り飛ばして飛び上がり、炎を飛び越えて高谷に蹴りをかます。高谷は咄嗟に左腕を構える。


凄まじい衝撃が高谷の体内を駆け巡り、逃げ場を失った残りの衝動は空気を震わせた。


片腕で防ぎきった高谷はエリメアの顎を右腕で突き上げ、その先へ先回り。


拳をエリメアに叩き込む。エリメアもその拳を相殺しようと拳を突き上げた。


ぶつかりあった2つの拳。肉が崩壊する音が聞こえ、血が花のように吹き出した。


それが誰の血なのか、理解した2人は同時に驚愕した。血を吹き出したのは、エリメアの方だった。


殴るという行為で、高谷が『拳豪』に勝った。その事実が、高谷の勢いを加速させる。


「おぉおおぉぉおおお!!!!」


顔以外の全身に惜しげも無く拳を叩き込む。骨が崩れ、内臓がいくつか破裂した。至る所から血が吹き出し始め、腕や足は既に原型がない。


返り血が高谷を汚す。そんなことを気にしている場合ではないが、高谷は他人から吹き出した血を見て、小さな嫌悪感を抱いた。


「せぇえい!!」


最後の一撃を、エリメアの顔面にぶち込んだ。鼻血を出して地面に落ちるエリメアを、高谷は申し訳程度に作り出された翼をはためかせて追いかける。


地面に落ちて跳ねるエリメア。体の中はもうボロボロで、生きているのかさえ疑うような状態。


しかし、高谷はその絶好の殺人機会を、殺害に使うことは無い。


エリメアに馬乗りになるように乗り、右腕でエリメアの右腕を抑えた。


左手の猛攻が迫る。顔面に受けるが、高谷はその痛みを無視してエリメアの首筋に爪を突き立てた。


「最後の抵抗。ミスしたら即死。プレッシャー凄いけどやるしかない!!」


エリメアの首筋に指を突っ込んだ。重要血管が破れたことにより、大量の血が吹き出した。


襲う嫌悪感を忘れるために目を閉じ、指に感じる暖かい体温を消滅させないように慎重にことを進める。


「『崩御の闇』」


左腕に顔面を殴り続けられる。高谷は死覚悟で、最後の術を発動した。


意識が落ちていく。エリメアの中へ、魂の一つ手前の『精神』が、エリメアの意識の中へと溶け込んで落ちていく。


暖かいものを感じながら、高谷はエリメアを助けるために、意識を落としたのだった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


目が覚める、という表現は少し違うが、とにかく視界が開けると、そこはどこまでも続く水平線だけの世界だった。


地面を見下ろすと、そこには薄い水が張っていて、全く揺らぐことない水面は、少し体を動かしただけでどこまでも波紋が続いていくような、そんなことを思わせる景色、そう、ここはエリメアの意識世界だ。


「おおい!!こっちだこっち!!」


水平線を見て動かない高谷の後ろから、大きな女の声が聞こえた。振り返ると、そこにはエリメアが立って手を振っている。


拘束も何もされていない彼女は手を振って高谷を呼ぶというのに、あちら側から1歩も近づいてこない。


「こっちだよ!!来てくれ!!」

「はいはい。今行きますよ。」


一層大きな声で呼び始めたエリメアに、高谷は近づいていく。歩く度水面に波紋が生まれ、世界に均一に広がっていく。


水面が揺れるということはつまり、そこに実体、つまり精神が存在しているということ。高谷は水面を揺らすことが出来る。


だから、全く水面を揺らさずに止まっているエリメアを、高谷は本人だと思っていない。


「ごめんなさい。」

「は………」


肥大化させた右腕の鉤爪でエリメアの上半身を切り飛ばす。


その肉体は『ヒト』のように血を流すことなく、グズグズとヘドロのように崩れて水面を侵し始める。


「させない。『崩御の炎』。」


青黒い炎がゆっくりと高谷の掌から落ちる。それはヘドロに命中すると、ヘドロのみを焼き尽くしていく。


『崩御の炎』は精神に直接ダメージを与えることが出来る技である。外側からだと微々たるものであるが、意識世界の中でなら、精神はむき出しの状態。本体を消し飛ばすなら困難なものだが、その分ダメージは大きく、本体ではない紛い物ならば一撃で殺せる。


「エリメアさんを探さないと。とは言っても、探すのはこの景色の中からではなく、」


高谷が辺りを見渡して苦笑いをする。


「偽エリメアさんの中から、なんだけどね。」


高谷の周りには、いつの間にか数十人もの数のエリメアが居た。そのエリメア達は、一斉に高谷の事を大声で呼び始める。


「こっちだ高谷殿!!」

「こちらへ来てくれ高谷殿!!」

「はぁ………。」


呼びかけられる言葉が、その声が、短かったとはいえ仲間として居た頃の声と酷似していることに、高谷は嫌悪感を抱く。


紛い物が、本体の真似をするなど、烏滸がましい。消さなくてはならない。ここで全て、高谷がこの手で殺さなければならない。


抵抗は、ない。既に1人殺っている。今更現れたところで、簡単に殺すことができる。


走り出した高谷の足取りは迷いが無い。偽物を完璧に見極め、掌に出現する青黒い炎で焼き尽くす。


何故だか偽者達はそれに抵抗しない。既に受け入れているのか、それとも何か策があるのか、それは高谷には分からない。だが、今はなんとしてでも、目の前で仲間の振りをする愚かな者共を消し去りたい。


「はぁぁああああああ!!!!」


雄叫びをあげる。戦うわけでもなんでもないだだの蹂躙だというのに、高谷は何故か息切れをして焦りを感じてしまう。


それは、意識世界へ入る前の、エリメアと戦闘していた頃の感情と同じで。


「偽物!!偽物!!偽物!!偽物!!偽物!!」


狩りが進んで行く。水面をゆらさない偽物を、次々と排除していく。その数はみるみるうちに減り、あっという間にのこり数人にまで追い詰めた。


「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ。」


肩を揺らして息をする高谷。残りはもう10人もいない。


高谷は飛び掛る。

1人、右半身を押し潰してから焼き尽くした。

1人、足払いで転ばした先に炎を置いて焼き尽くした。

1人、腹に手を突き刺して内臓を引きづり出してから焼き尽くした。


三体の偽物は消失した。最後の一人、その顔は煽るような笑みを浮かべている。それが妙に現実味を帯びているもので、高谷は反吐が出る思いをした。だが、それで偽物だと確信した。


高谷が大腕をその顔に高速で突き出した。偽物の肉体は、それだけで散り散りになるほどに脆い。簡単に倒すことが出来る。


だが、その拳が顔面に直撃する直前、拳が急に止まった。


高谷が水面を見て驚愕している。


偽物の足元の水面が、しっかりと揺れたのだ。高谷が走っている時のように、世界を揺らすように、水面に波紋を作り出した。


つまり、このエリメアは本体、又は、


「別の、精s………?」


高谷が言い終わるよりも早く、拳が高谷の頬を撃った。水面を転がる高谷。強いその一撃は、高谷の歯茎を傷つけ血を流させた。


水面に高谷の血が染みる。高谷はゆっくりと立ち上がると、自身を殴ったそれに視線を向ける。


それはもはや人間の原型を留めていないほどに変化していた。骨格が変わり、首が無くなった。全身が真っ白になり、体はふた周りほど大きくなり、人間の体で言う胸の部分に顔が浮き出できた。


その不気味かつ気色の悪い姿を見て、高谷は嫌悪感とともに驚愕した。


「ジャマシタ。ジャマシタ。ジャマシタ。ジャマシタ。ジャマシタ。ジャマシタ。ジャマシタ。ジャマシタ。ジャマシタ。ジャマシタ。ジャマシタ。ジャマシタ。ジャマシタ。ジャマシタ。」


片言で狂ったように言い続けるその生物に、高谷は見覚えがある。見覚えがあると言っても、実際に見たことは無いが、その姿特徴から、もっともその可能性が高い生物を思い浮かべた。それは、、


「ヤマノケ。主に山奥に生息し、女性にだけ取り憑くと言われる霊だけど、都市伝説だと思ってたなぁ。」


高谷は苦笑して構えをとる。その笑いとは裏腹に、高谷には余裕が無い。


ここに来て強敵と思われる存在が現れた。だが高谷は一刻も早くエリメアを助け出してからここを出なくてはならない。


高谷は現在、エリメアの首筋に指を突っ込んで意識世界に干渉している状態だ。その間、体を動かすことは出来ない。今と刻一刻と、エリメアは首から血を流し続けている。


大量出血で死んでしまうリスクがあるこの所業。一旦出直そうかと考えた高谷に、振り上げられた鉤爪が直撃した。


「ぶは………」

「キエロ。キエロ。キエロ。キエロ。キエロ。」


大量の血を流す高谷。だが、その傷はいつまでたっても回復しない。


精神に回復という概念はなく、時が経つにつれ、その傷は癒されるのではなく忘れられていくのだ。


つまり、この状態でダメージを受けるのは、非常にまずいことなのだ。


「はぁ、はぁ、はぁ。」

「高谷殿!!」

「?」


高谷が真後ろからかけられた声に振り返ると、そこには檻に閉じ込められたエリメアがこちらを見ている。水面を揺らしている為、あれが本体だとわかった。


同時に、高谷はここから一旦抜けるという選択肢が封じられたのがわかった。ここから抜け出してしまえば、エリメアはヤマノケに切り刻まれ、植物人間になってしまう。


それは、何としても避けたい。


「しょうがない。早めに倒さないとね!!」


高谷が両頬を叩いて今気合いを入れた。両掌に『崩御の炎』を出現させ、ヤマノケへ飛びかかって行く。


ヤマノケは奇声を発しながら、高谷に鉤爪を振るう。


意識世界の中で、高谷とヤマノケの戦闘が開始された。揺れる水面を感じるエリメアは、高谷を心配そうに眺めていることしか出来なかった。

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