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罪深い男の想像話  作者: 病み谷/好きな言葉は『贖罪』
《第一章》 怒る彼は全てを殺し尽くす
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戸惑い

「『一刀』!!『二刀』!!」

「『水流陣・漣』!!」


無垢で純粋な魔力を纏う2本の刀。その刃を、一振で生まれた2つの刃が迎え撃つ。


火花が散り、視界の端々が彩られる。そんな色彩に目もくれず、阿修羅は目の前の敵を切り殺そうと必死に刃を振るう。


対抗する暁は、たった1人で阿修羅の斬撃を捌き切り、さらに隙をついて阿修羅に傷をつける。


「もうあいつ一人で勝てるんじゃねぇの?なんか力がどんどん増してる気がするんだが。」

「そう思うのも無理はないが、彼女にも限界はある。 」


快斗とヒバリは、暁の攻防に加わりつつ、しっかりと2人の戦況を分析していた。


「暁の固有能力は1つじゃなさそうって考えていいのか?」

「あぁ。間違いないぞ。天野が彼女の能力をどこまで把握しているかは知らないが、私の知っている限りのことを話そう。」


飛んできた斬撃を打ち据え、ヒバリは話を続ける。


「最も有名なのは、『全ての魔を統べる者』。天野もこれは聞いたことがあるんじゃないか?」

「ん。本人から聞いた。」

「そうか。この能力は全体特化型で、どんな敵でも弱点をつくことができる。確かにこれも強いが、彼女が最強の武士と歌われる所以はここからだ。」


ヒバリが暁に視線を向ける。


「彼女のもう1つの能力は『下克上』。戦えば戦うほどステータスが上昇し、現時点で確認された最高獄値は30000を超える。」

「それだともう阿修羅よりも強ぇな。」

「あぁ。凄まじいものだ。あんな小さな娘が、私よりも強いなんてな。」


快斗は小さく呟いたヒバリの顔を見る。その瞳には、ほんの少し、ほんの少しだけ、嫉妬の感情が混じっているように感じた。


「『暗黒陣・死海』」

「なっ!?」


そんな快斗とヒバリの視線の先では、暁が地面から突飛させた闇で阿修羅を吹き飛ばしていた。


「く………おぉおお!!!!」

「む!!」


阿修羅が空気を蹴り飛ばして方向転換。そのまま全ての体重を載せた一撃を、暁に真上から叩きつけた。


刀で真っ向から受け止める暁。その強い衝撃に足が震えたが、何とか持ちこたえ、自身に刃が当たらぬよう、その場から飛びず去る。


「『死歿刀』」


空振りに前のめりになった阿修羅の左脇腹に飛び込んで刃で斬りつける。獄炎が深い傷口を更に抉り焼き、痛みを増す。


「おぉおおお!!!!」


獄炎を纏う刃が、黒い閃光の元で阿修羅の肉体を求め、阿修羅の周りを踊り踊り舞う。


「死ね。」


率直な意志を述べる。その言葉がどれほどまでに阿修羅の心に突き刺さるかなどはどうでもいい。


ただ、目の前にいる敵を葬り去るために、自分を踏み台にするために。


「ほざくな………悪魔がァ!!」


負けじと吠える阿修羅は、突っ込んでくる快斗に刀を振り下ろす。が、全く快斗からは見えないその斬撃は、快斗を切り裂くことは無い。


「『暗技・飛来龍風牙』!!」


快斗に刃が当たるより早く、横から現れた風の刃が阿修羅の手を深く傷つける。痛みは何とか耐えられる阿修羅だが、手の筋が切られたせいで刀がその手から落ちてしまう。


「なっ…………」

「今の俺じゃ何も見えねぇからな。囮だぜ囮ィ!!」


防御を突破され、懐に入り込んだ快斗はにやりと邪悪な笑みを浮かべる。見下ろす阿修羅の眼力に少しビビりながらも、快斗は『魔技』を発動する。


「『魔技・踊れや踊れ』」


快斗の足元から、真っ黒な花びらが竜巻のように舞い始め、それに合わせて快斗も舞う。


回転に回転を重ね、威力を上げた斬撃を阿修羅に叩き込む。


肉が傷つく感覚と匂いがする。返り血が快斗の視界を埋める。真っ赤な鮮血は、その傷の深さと痛みをひしひしと教えてくれる。


しかしそれはつまり、血以外の何も見えていないということ。


「調子に乗るな悪魔!!」


真上から凄まじい速度で肘が落とされた。視界を血で支配された快斗は、当然その攻撃を見ることは出来ない。


だが、それ以外で攻撃に気づくことは出来る。


「上!!」

「了解!!」


踊り狂う快斗の耳が、ヒバリの明瞭な声がを捉える。その声の内容を信じて首を傾けた。すぐ側を肘が通り過ぎ、かすった肌が裂けて血が吹き出した。


「ちぃ………!!」

「残念賞だぜ。そしてお前は既に、俺の術中ってことは知らねぇよな!?」

「何?」


快斗は全力で今まで抉り続けていた傷口を蹴り飛ばす。内臓に直接ダメージが伝わり、心臓が鼓動以外の衝撃に震えた。


吐血する阿修羅はキッと快斗を睨むと、3本の刃で、左肩、右膝、右手首を斬り裂いた。


顔を顰めた快斗だったが、反撃することはなく、その場から飛び跳ねて離れた。


「逃げるか悪魔!!」

「俺が逃げてもそいつがやってくれんのさ!!」


睨めつけるのを辞めない阿修羅へ、快斗が笑って言い返した。その言葉通り、阿修羅は快斗のものでは無い斬撃に背後から切り裂かれかけていた。


「ぬん!!」

「せぇえいや!!!」


刀と刀がぶつかり合う。真正面からの斬り合いは、激しい割には弾かれる刃の音を奏でない。全く音がしないのだ。


「な、なんでだ?」

「斬撃や拳撃などの攻撃は、真正面、それも同等の力同士なら、衝撃は逃げ場を失い、攻撃主へと直接跳ね返る。」

「ならつまり、暁の体にゃめっちゃすげぇ衝撃がはね返ってるってことだが………」

「それとは同時に、彼女の現在の力が、阿修羅と全く同じだということだ!!」


ヒバリが感動したように叫んだ。その言葉は大正解で、暁は現在、阿修羅の1本の腕と同等の力を手にしている。


阿修羅もその事実に気づいており、奥歯をギリギリと噛み締めているようだ。目の前にいる少女が、自身と同等の力を持っていると言うことが、相当お気に召さなかったらしい。


阿修羅は刀を振る速度や力を強めるが、暁もそれに全く同等の力を維持したまま着いてくる。


刀が持てなくなった1本を除いた5本の腕をフル稼働で振り回し、何とか状況を打開すべく奮闘するが、その5本の刃に1本で対抗する暁の勢いは失速するどころか、阿修羅が力を強めれば強めるほど加速していく。


そして、2人の勢いが加速するほど、その反動は膨れ上がっていく。腕が悲鳴をあげ、骨が軋み、切れた血管から飛び出した血液が肌を突き破って外界へと進出する。


腕だけに留まらず、脚や肩に首筋、背中に眼球までが、衝撃に耐えきれずにひび割れる。


だがそれは、阿修羅だけなのだ。暁はそうなっていない。


「あれもなにか理由があるんだろヒバリ先生?」

「その呼び名は…………案外しっくりくるものがあるな。」

「しっくりくるのかよ。」

「説明しよう。」

「ノリノリかよ。てかそのネタどこで知ったの。」

「彼女の周りをよく見れば分かると思うが、彼女は風を纏っている。あれは私が作り出した風だ。」

「ふむふむ。それで?」

「話すと長くなるが、簡潔に言うと反動となる衝撃を、体に響く前に空気に伝わせて逃がしている。」


ヒバリが得意げに豊満な胸を張って答えた。先生という呼び名が相当気に入ったらしい。


快斗はこれからヒバリの機嫌を損ねた時はこの言葉を使おうと考えた。


「まぁ、暁がすげぇってのと、ヒバリがすげぇってことが分かった。」

「随分と安直な感想だな。」

「本当にこう思ってんだよ。でも、足りない。」

「?」


渋い顔をする快斗の言葉に、ヒバリが首を傾げた。


快斗が阿修羅の体を見る。暁は既に気がついているだろうが、その体躯に刻みつけたはずの傷は既に消え去っている。つまり、再生しているのだ。


「やっぱり元神って言うぐらいだから再生能力はあるのな。」

「ふむ………。」

「実力の割に体は脆いとか思ったけど、再生能力が凄まじいならしゃーない。多分、高谷と同じくらい回復能力あるぞ。流石に頭ぶっ飛ばしたり体を手のひらサイズにバラバラにされたら死ぬだろうけどよ。」

「高谷殿はそれでも死なないのか…………」


快斗の例え話を聞いたヒバリが高谷の再生能力に呆れる。ヒバリは今の状況が自分達に優位に見えているようだが、快斗にはそうは見えない。


「あと、5分。」

「?」

「俺がこの状態でいられるのがあと5分。暁がいるから余裕そうに見えるが、あいつだって人間だから限界あるし、現に阿修羅の攻撃について行ってはいても、超えることはねぇ。」

「…………そうか。」

「あと5分したら俺は心臓がないことに対するダメージが来る。まぁ、それは対策方法を考えてるからいいけどな。」


快斗の言葉に、ヒバリが顔を顰めた。快斗が危ない橋を渡っていることが意外だったようだ。


快斗はため息をついてから、決心したようにヒバリに振り返った。


「ヒバリ。」

「なんだ。」

「お前…………『魔神因子』、取り込まねぇか。」

「……………ッ。」


突然の言葉に激しく動揺するヒバリは目を見開いた。快斗は話すことを辞めずに、なかば責めるような口調で続けた。


「頼む。お前がこれを取り込むだけで戦況が大きく変わる。今の状況でも俺達は大丈夫かもしれねぇが、他の場所はそうでもねぇ。策っつったって、ただ人員を配置しただけだ。必ず何処かに見落とした部分がある。」


快斗が手のひらに浮かぶ『魔神因子』を見せる。ヒバリはその強力な魔力が封じられた因子を目の当たりにして息を呑んだ。


「決めんのは、今じゃなくていい。でも、この戦い中で決めて欲しい。」

「……………。」

「ライトのためってのもあるしな。」

「ッ!?」


最後の言葉にヒバリの肩が大きく跳ね上がった。快斗はヒバリに『魔神因子』を渡し、草薙剣を持って阿修羅の方へ歩いていった。


「お前の意思は尊重するし、絶対にやらなきゃ行けねぇってわけじゃねぇ。最後に決めるのは、お前だってこと、忘れんなよ。」


そう言い残して、快斗は暁の加勢をすべく走っていく。ヒバリは鼓動する心臓の音が聞こえてくるほどに動揺した様子で、『魔神因子』を見つめていた。


ヒバリには、躊躇する理由があった。快斗が直接言うことは無かったが、これを取り込むことに対する、大きなデメリットを、ヒバリは恐れている。


魔人が『魔神因子』を取り込めば、そのからだは人間ではなく、『悪魔』の体となるのだ。

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