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罪深い男の想像話  作者: 病み谷/好きな言葉は『贖罪』
《第一章》 怒る彼は全てを殺し尽くす
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ベリランダにお任せ(丸投げ)

全ての戦闘が開始された。あらゆる場所から強い魔力波が飛び交い、大爆発や竜巻、炎の大花に雷鳴など、様々な現象が、原野の視界を支配していた。


原野は今現在、皆からは反対側の少し背の高い建物の中で、未だ目覚めないサリエルとリンを見守っていた。


「ふぅ…………」


原野はサリエリの髪を弄りながら、深いため息をついた。


「サリエル。リンちゃん。」


2人の髪を掻き分け、隠されていた美顔が晒される。開かれない瞼を撫で、原野は2人が瞳を見せることを期待している。


そして同時に、原野の心の中は後悔と申し訳なさでいっぱいだった。


いつまで経っても、原野は自信を蔑むことしか出来ず、挙句の果てに、自身の存在価値まで疑い始めた。


人間、堕ちる所まで堕ちるもの。真っ暗な心の深淵まで堕ちることを防ぐストッパーは、背中を摩ってくれた高谷の温情と、快斗の無邪気な笑み。


崩れ掛けの精神を、同じ世界から来た2人が残していった『代物』で支えている状態だった。


この世界の人間の基準と地球の人間の価値観は大いにズレている。サリエルを気絶させ、死の間際まで追い込んでしまったが、サリエルは生きている。この世界の価値観では、相手が生きていれば後悔することは少ない。


逆に、暴力や誹謗中傷にはとことん厳しかった現代社会で生きてきた原野には、自分の失態で友が傷つけてしまったことは相当堪えることだった。


血を吐きそうな程に反省し、何度も誤っているし、皆それを受け入れ了承してくれているが、結局誰の力にもなれず、直接は言われなかったものの、こうして2人を見守るという戦力外通告を受けている現状。


反吐が出るほどに自分に失望していた。それはもう酷く荒々しいほどに。


「はぁ……………」


壁によりかかり、抱えた自身の膝に顔を埋める。暗い空間に更に暗い空間を作り、その中へと意識を埋め込んでいく。


考えれば考えるほど、その考えは暗い方向、つまりはネガティブ思考に変わっていく。


なんとなしにこの事態を予想していた快斗は、原野に『予想していない敵が来た時のため』というていで原野に高谷の血の入った瓶を渡していた。


その気遣いはかなり有効で、原野はその瓶を抱いて心を落ち着かせられている。


大抵の人間は、その血を見て少し躊躇するものだが、今の原野にとっては1番の心の支えだ。


狂う訳では無い。が、想い人の血液は何故だか嫌悪感を抱かない。


むしろ好感だ。ずっと見ていたい。そう思うほどに。


「高谷君………快斗君………」


今まさに雄叫びを上げて奮闘する2人を想像して、原野は瓶を掴む力を強めた。


「ヒバリさん………ライト君………暁さん………ヒナさん………」


2人に協力して全力で手助けをしてくれている4人の名を口にして、原野は祈るように建物の天井を仰いだ。


「みんな………ごめんね………」


消えてなくなったその涙声は、何度も訪れる爆発音に掻き消されていった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「ふわぁ………」


指や手首に大量の宝石類を付けた可憐な少女は、気持ちのいい夜風に吹かれて欠伸をした。


今日は特に風が吹いておらず、あまり肌に空気の流れを感じることは無い。なら何故、少女はそれを感じるのか。


浮いているからだ。少女、ベリランダはエレストの城の屋根の上で眠そうに欠伸をしまくる。


「ふわぁ………」

「ベリー?」

「うわぁびっくりぃ。」


気を抜いていたベリランダに声が掛けられた。ベリランダは姿勢を正して、声の主の側まで降りる。


「なにぃ?フーリエ。」

「ベリー。女王様がお呼びです。なにやら急用のようですので、お早めに行った方がよろしいかと。」

「ふーん。」


エレスト王国の城、その最上階にある窓から身を乗り出してベリランダに応えるのは、ベリランダ専属メイドのフーリエだ。


ベリランダはやる気なさそうに鼻を鳴らすと、くるりと逆さまになって、


「私じゃなきゃダメなやつ?」

「えぇ。女王様はベリランダ様をお望みです。」

「珍しい。私じゃないとダメなんて、結構面倒なこと任されそうだなぁ。…………リューネのせいにして逃げていい?」

「ベリー?今夜のスイーツはなしでしょうかね。」

「嘘嘘!!嘘だってフーリエ?行くわよ行けばいいんでしょ。」


ベリランダは1日での一番の楽しみが危ぶまれる可能性を危惧して渋々王の間に向かう。


向かい方は簡単で、ベリランダは指を鳴らしただけで王の間に着いてしまった。


魔術師として長年生きてきたベリランダは、今では1度言った場所には『瞬間移動テレポート』できる。


距離が離れていたり、その場所を何となくしか覚えていない場合は、魔力の使用量が大幅に増えるが、ベリランダは魔力量が常人を遥かに上回るため、あまりに気にしていない。


「はい。とうちゃ~くぅ。」


ウザったらしい声音で声を放つベリランダに、その場にいる全員の視線が向けられた。


「あり?大臣が沢山。女王様は?」


ベリランダは、そこに求めていた人物が居ないことに気がついて、近くの大臣に声をかけた。


まだ若そうなその大臣は、その若さにしては落ち着いた態度でベリランダに答えた。


「女王様は現在、城の入口で食い止められております。」

「食い止め?なんで?」

「なんでも、『私の騎士様の身に危険が!!』とかなんとかで、金色槍を持って出ていかれようとしたので、兵士何人かが食い止めている状態です。」

「ふーん。『私の騎士様』ねぇ。もうあの人、それ言えるほどの歳じゃないと思うけど………まぁいいわ。情報感謝感謝~♪」

「えぇ。」


ベリランダは軽く大臣の方を叩いて感謝を告げる。若い大臣は軽く会釈すると、すぐさま他の大臣との話し合いを始めた。


「若いのに、なんか仕事出来そう。女王様に昇格の報告でもしようかしら。ていうか、大臣から昇格したら何になるのかしら?気になるぅ~~。」


可愛く首を傾げたベリランダは、指を鳴らして城の入口まで『瞬間移動テレポート』した。


「ふぅ。さてさて、たらい回し食らっちゃってるけどどうだろうって危ない!?」


ベリランダが溜息をつきながら右に視線を向けた瞬間、金色の槍の切っ先がこちらに迫っていた。間一髪で躱したが、その衝撃で髪が乱れてしまった。


「あぁ~~整えるの結構時間かかるのにぃ~~…………」


涙目のベリランダは、槍の切っ先を自身に向けた人物を睨みつける。


「離しなさい!!」

「じょ、女王様!!その、落ち着いて!!」

「落ち着いてなど居られますか!!快斗様が!!快斗様が危険なんです!!」


女王と呼ばれる人物、ルーネスが必死に兵士を掻き分けて突き進んできている。


華奢な腕からは想像もできない程の腕力を発揮するルーネスの進行を、誰もくいとめることは出来ない。


「もう。えい!!」

「なっ!?これは………!?」


ベリランダが両手をルーネスに向けて突き出す。すると、ルーネスの動きが止まり、そのままルーネスが浮かんでいく。兵士達も困惑していた。


「『サイコキネシス』。」

「は………!?ベリランダ様!!いい所にいらっしゃいました!!」

「あなたが呼んだんでしょって、私が来る前に飛び出したみたいだけどね。」


ベリランダはルーネスを地面に下ろす。ルーネスは金色槍を地面において、涙目でベリランダにつかみかかった。


「ベリランダ様!!どうかお力をお貸しくださいぃ………!!」

「わ、分かったわよ。分かったから、離れて離れて痛い痛い!!」


骨がへし折れそうな程に強い握力を直に受けて、ベリランダは悲鳴をあげてルーネスを突き飛ばす。


「はぁ、はぁ、全くなんなのよ………あなたの騎士様がどうかしたの?ていうか、なんであの悪魔が危険だって分かるのよ?」

「快斗様のピアスの片方は、私からのプレゼントなんです。あのピアスは、回復以外にも効果がありまして、その効果というのが、『ピアスを付けた対象者とは逆の耳にもう1つを付けると、互いに位置がわかる』んです。快斗様は意識されていないようで気づいていませんが、私は不安だったのでこれを発動してみたんですよ。そしたら……」

「反応がなかった。的な?」

「はい。」

「ありゃ~~………やっぱり鬼人の国でなにかしら起きたのね…………」


ルーネスの言葉にベリランダが頭を抱えて溜息をついた。ルーネスは懇願するようにベリランダに縋る。


「お願いします!!快斗様を助けてください!!私は激務に追われて中々動けず、『勇者』様も今は魔獣狩り中で、ベリランダ様しか頼める方が居ないんです!!」

「私しかいないって………ルージュさんがいるじゃない。あなたの妹の。」

「ルージュに快斗様を助けて貰うのは駄目なんです!!快斗様の気があっちに向いてしまったら…………」

「そんなことで………はぁ、まぁいいけど、あの子達には『剣聖』も『拳豪』もいるから大丈夫じゃない?普通にぱっと出てきそう。」

「それが、快斗様の反応が消えて既に1週間経つんです。」

「えぇぇ………どうりで帰りが遅いと思ったら………」


ベリランダがさらに深い溜息をついて浮き上がる。


「とりあえず、私を選んだ理由を聞いていいかしら?」

「ベリランダは魔術師ですから、なにかしらのカラクリを解いてくださるかと………」

「あ~~確かにあの子たちをそんなに長い間閉じ込めてられるなんて相当手の込んだ魔術なんでしょうね。いいわ。報酬は最高級スイーツ100個でいいかしら?」

「快斗様を助け出せるならどうとでも!!」


ルーネスの言葉にベリランダは頷いて、指を鳴らした。


「それじゃ、行くわね。」

「頼みます!!」


ベリランダの小さな体が消え去り、その体は鬼人の国の近くの森へと転送された。


「ふぅ。鬼人の国ってなんか怖いから入ったことないのよね。まぁ、でもエリメアもなんかなかなか来ないし、私から迎えに行ってあげましょうかね。」


天空をベリランダが駆け始める。行先は鬼人の国。夜ということもあって、見えるその国は灯火が国を彩っている。


と、鬼人の国が見え始めた瞬間、ベリランダはとてつもない『嫌な気配』を感じた。


「何?これ。」


あまりの気持ちの悪さに国から目を逸らしたが、流石にダメだと思って魔力眼に切り替えた。


不可視の魔術を視認化できるその眼は、ベリランダに衝撃的な事実を伝えた。


「何…………?これ…………。」


黒い瘴気のような物が、ドーム状に国全体を包んでいる。


「これは………」


想像以上に不味い状況になっていることに、ベリランダはここで初めて気がついた。


「しょうがないわね!!」


ベリランダは指を鳴らす。その場から姿を消した。瞬間、ベリランダをじっと見つめていた何個かの視線はそっぽを向いた。


既に鬼人の国は、魔術要塞と化していたのだった。

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