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罪深い男の想像話  作者: 病み谷/好きな言葉は『贖罪』
《第一章》 怒る彼は全てを殺し尽くす
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爆ぜ飛べ

快斗、ヒバリ、暁の3人が阿修羅との戦闘を開始したころ、高谷はある人物と対峙していた。


その人物は、額に美しい角を携えた女性、エリメアだ。


今も変わらない虚ろな瞳が、高谷をじっと捉えて動かない。


高谷は腰の剣を抜いて構える。


「俺一人じゃ逃げられちゃいそうだから不安だけど、早々に方を付けたいところだね。」


高谷が強く踏み込んでエリメアを睨めつける。エリメアは視線を、爆音が鳴り響く快斗達の戦闘場へと向ける。


エリメアの足がそちらの方向に動き出した。高谷を無視して。


「ッ…………」


その足の進行方向の地面に、青い炎が直撃した。炎は炸裂し、近くにあったエリメアの左足を焦がした。


瞬間、エリメアの左半身全体に凄まじい衝撃が走り、エリメアはそのまま吹き飛ばされて瓦礫に突入する。


「俺は足止めかがりさ。だから、そっちには行かせない。役割は果たすつもりさ。」


肥大化した左腕を元に戻し、高谷は青い炎を纏う剣を回す。


聞こえるはずもない呟きを言い終えたところで、エリメアに対する宣戦布告は済んだ。互いにそれを理解し、ほぼ同時に地面が蹴り飛ばされる。


「ぢぁああああ!!!!」

「……………。」


手首にできた傷口から鮮血が勢いよく吹き出す。左腕が肥大化し、剛拳がエリメアに放たれた。が、ほぼ同時に放たれた小さな拳の方が、破壊力が大幅に高かった。


ぶつかり合うかと思われた拳と拳は、衝撃波も何も産むことなく、ありえないほど緩やかに貫通した。


エリメアの拳は、高谷の左腕を超えて心臓をも貫いていた。


が、それは同時にエリメアの動きを封じることに成功し、一撃をかますことができるということ。


「ごふ………ァァああ!!」


右足で強く踏み込み、姿勢は低く。重心を勢いよく前へ押し出し、できる限りの力でエリメアの腹を蹴り飛ばした。


心臓から流れ出た血で濡れた足は、血から変貌した赤黒い炎を纏う。その炎は寄生するようにエリメアの腹に張り付き、その熱を持って肌を焦がした。


「ッ…………」


痛みに躊ぐエリメアに、心臓と左腕を再生させた高谷が追い討ちをかける。


手首を噛みちぎり、流れ出た血を愛おしいものを見るような目で見つめた。


左手を肥大化し、口元は赤いマスクで覆われ、髪と瞳は赤黒く染る。胸から腹にかけて、縦に出来た大口で声を上げた。魔人因子を鼓動させ、高谷は覚醒する。


つまり、『血獣化』だ。


「るるるァァァああああああ!!!!!!」


怒号が響き、高谷が振り下ろした拳が地面に直撃して世界を震わせる。揺れる地面に赤い光が迸り、その瞬間、その光に反って地面が割れ、エリメアを柱のように突き上げられた地面で吹き飛ばした。


「くらぇぇえええ!!!!」


次々と隆起する硬い地面を、覚醒高谷の怪力で殴り飛ばす。崩れて破片となる地面は、それでもエリメアの2倍ほどの大きさを持つ。


狙いは疎かでも、たまが大きければ数打てば当たる。高谷は1000にも及ぶ石の破片を、エリメア目掛けて殴り飛ばした。


体をよじり、躱し、流し、受けては殴り崩す。


巻き上がる噴煙の中、爛々と輝くエリメアの角を頼りに、高谷は石を殴り続ける。


手応えがないのはわかる。当たる音が、違うのだ。故意にぶつかる音と、不意にぶつかる音では鈍さが違う。


故意に当たれば音は小さく低い。逆に不意に当たれば音は大きく高い。


高谷が聞き取った、肉と石の演奏は、低すぎて聞き取るのも苦労するほどだ。


つまるところ、エリメアにはダメージが無いに等しいということ。


これだけの大仕事。ハイなリスクの割にリターンがローすぎる。


だが、それでいいのだ。思惑は、狙いは、ダメージでは無いのだから。


「これで、、最後だァア!!!!」


左腕で引っ掴んだ石を、最大威力で投げつける。視界が閉ざされたエリメアは、恐るべき戦闘センスでその石の最弱点を正確に拳で撃ち抜いた。


「はぁ………はぁ………」


胴体から直接吐き出される空気は、口で呼吸することよりもずっと早く酸素を取り入れられる。


剣を地面に突き刺し、高谷は剣に魔力を伝わせる。エリメアはそれを見て首を傾げた。自我から来るものではなく、敵の能力を分析した上での疑問だ。


高谷の能力は『血を操ること』。つまり、血液がない状態では現実に魔術を権限させることが出来ない。


ならどこに干渉しているのか。その答えはシンプルなものだった。


「………………。」


ゆっくりと自身の体を見たエリメアの目が見開かれる。そこには、大量の血液が付着していた。地面は池かと思えるほどに血溜まりが出来上がっており、その中心にエリメアが立っていた。


いつの間にできた血の池なのか。その予想が頭によぎった瞬間、血液が鼓動を始める。


「さっキの石ノ攻撃、なァにもしていなァいとでも、思っタ、カイ?」


魔人因子の自我に対する干渉力は尋常ではなく、常に気を張る必要がある。高谷だからこその理由もあって、言語は少しぎこちないものとなってしまう。


問われたことに対してエリメアは答えないが、その雰囲気と態度は、既に解答を知っているようなものだった。


「そう、石二、チを練りこんだり塗りこんだりして………血をばら撒イタ。その石ノ、雨の中には、オレの腕も、マザッてたはず、だよ。」


高谷が右腕を揺らしながら、血の付着した剣を見せる。確かに高谷の右腕には切りつけたようなあとがあり、腕を切り裂いた事が容易にわかる。


血が体外に存在するなら、高谷は1滴の血液を水溜まりほどに増すことも可能。血の池は、エリメアが気づかずに潰していた腕から飛び散った血が増殖して池ができたようだった。


エリメアは鋭い眼光で高谷を睨め付け、飛びかかろうとした。


「『血晶』」


が、エリメアの体に付着していた血が結晶と化し、伸びた結晶が地面に突き刺さって、一時的にエリメアの動きを封じた。


「ウゥウアァァアア!!!!『血壊破乱』!!」


高谷が両手を空に掲げる。すると、血の池が禍々しい赤黒い光を発し、獄熱を放つ。


徐々にその熱と量を増す血の池から逃れようと、エリメアは力ずくで『血晶』を破壊したが、もう既に手遅れだ。


血は既に、エリメアの膝まで水かさが増していた。


「爆ぜ飛べぇぇぇえええええええ!!!!!!」


大きな高谷の雄叫びに答えるように、周囲から熱と光を奪っていた血の池が、今全てを放出する。


視界が爆光で真っ白に染まり、高谷は自身諸共エリメアを最大火力で大爆裂した。


体が焼けていくのを感じ、高谷は薄れていく意識の中、清々しいほどの笑みを浮かべていた。


笑みを浮かべる意味は、全くないというのに。

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