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罪深い男の想像話  作者: 病み谷/好きな言葉は『贖罪』
《第一章》 怒る彼は全てを殺し尽くす
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傷つくのは、、、

高谷と快斗が避難場所に着いた頃、そこには既に暁が居た。


「マジで来てるのかよお前………」

「路地裏に時空の裂け目があったら、誰だって入ってしまうでござるよ!!」

「逆だろ。訝しめよそれを。」

「でも、快斗君もどっち側かって言うと入る側でしょ?」


手頃な瓦礫に横たわり、快斗は弁明しようとする暁に呆れて顔を抑える。


しかし、暁がいたからこそ乗り越えた場面もあるため、邪険にすることは出来ない。


「まぁいいじゃん。暁さんいなかったら俺もっと戻ってくるのに時間かかってたし。」


高谷が1人でメドゥーサを倒すことは時間をかければできることだった。石化をくらったとしても対処可能であり、能力も本気を出せば快斗ほどに強くなることは可能だろう。


だが、高谷は決め手にかける。『崩御の剣』は確かにダメージを与えることが出来るが、未熟な高谷では傷をつける程度で留まる。


そもそもの戦闘スタイルが、流血による広範囲の攻撃とデバフなのだ。地面まで石に変えられれば、血液まで石になるため、高谷の能力自体が機能しなくなる。


「暁さんが居たおかげで早く終わって快斗を助けられたわけだしさ。まぁ、足切られたり酷いこと言われたりはしたけど…………」

「むぅ?」


高谷の言葉に、暁は心当たりがないというふうに首を傾げる。そんな様子の暁に、高谷は苦笑した。


「んで?零亡はどうしたんだよ暁。」

「む。女帝殿からはとりあえず逃げてきたでござる。」

「あ?逃げたのか?」


暁の意外な受け答えに、快斗は聞き返した。暁は頷いて、


「いつもの女帝殿とは少し違かったので逃げたでござる。」

「具体的に言うと?」

「狂気を感じたでござる。近くにいると少し気分が悪くなるほどに濃い狂気を纏っているでござる。」

「狂気、か……また新しい単語が………」


邪気や石化の次は狂気。考えるべきことが多すぎて、快斗は頭を抱える。


「女帝殿は、拙者が知っているよりも遥かに強くなっていたでござる。急な身体強化とあの濃い狂気のことを混じえて考えると………」

「まぁ、大体予想はしてたけどな……」


快斗は上半身を起こして、


「狂気ってことは、それは『狂神因子』だろうな。」

「えっ!?」

「うむ。」

「まぁ、そうなるよね………」


快斗の言葉に原野が驚愕し、高谷は深いため息を着いた。暁は納得したように何度も頷いている。


「ここに入る前は邪気を感じていたけど……」

「あれは多分阿修羅のもんだろうな。あっちが強すぎて零亡に気が付かなかった。」


忌々しいとばかりに、快斗が歯噛みした。その視線は、苦しそうな寝息を立てる4人へ向けられている。


ヒバリ、リン、サリエル、ライト。傷こそ修復したが、身体の奥深くに刻まれた傷は大きく、未だ目覚めることは無い。


「サリエル………」


快斗の視線を追い、寝ている4人に向けられていることに気が付いた原野は思い出したようにサリエルの頭を撫でる。


原野はサリエルがこうなってしまった理由を自分だと考えている。だからこそ、その罪滅ぼしを兼ねて快斗達をサポートする必要があるのだが、今の原野にはそれをこなす気力がない。


俯く原野に気が付いた高谷が、原野の背中を摩る。ちなみに、高谷はサリエルのここまでの経緯を知っている。


「気に病まないでよ。何も原野が全部悪いんじゃない。」

「うん………。」


頷いてはいるものの、やはりその表情は暗く、なかなか晴れることは無い。


話題を変えようと、ヒナが大きな声で喚き始める。


「でも神様が言ってきたデスゲームに参加させられてるなんて、快斗さん達は不幸ですね!!」

「なんで笑って俺を見るんだよ。ざまぁみたいなふうに見えるだろ………」


反応するのが疲れてきた快斗はため息をつき、再び岩の上に横たわる。


「まぁ、ヒナとリンと暁は完全なる被害者だろうな。妙な諍いに巻き込んですまねぇ。」

「え、あ、べ、別に気にしてないですよ!!仲間は、その………助けたいですし………」


快斗の意外な言葉に、ヒナはおどけてみせるが、語尾がだんだんと弱くなり、最後には聞こえなくなった。


気を遣わせるのも嫌になってきた快斗は、ヒナと同じように話題を変える。


「女帝は今どういう状態なんだよ?」

「『火炎陣・炎帝』に、『氷結陣・雹乱』を重ねてダメージを与えると同時に、目くらましの『冥光陣・輝光』を放って逃げてきたでござる。」

「ん。高温から一気に冷却して、最後に目くらましねぇ。まぁ、ここはバレないだろうな。暁は足速そうだし。」


説明から想像するに、炎で熱を上げ、氷で冷却し、通常よりもダメージを蓄積させ、念押しの目くらましで視覚を潰した。


暁の技は威力が高く、常人がなせる技以上の技を持っている。そう早く回復することは出来ないだろう。


「時々出てくる技名が気になるね。」

「中二心くすぐられますね。」


快斗が分析をしている間、高谷が呟いた言葉にヒナが同意した。原野は「そうなの?」と首を傾げている。


快斗はそんな原野の顔が不意に気になって、その顔をじっと見つめる。その視線に気がついた原野が身を震わせて快斗に向き直る。


「ど、どうしたの?私の顔になにか着いてる?」

「…………いや。」


快斗は原野から目を逸らし、今度は高谷に視線を向ける。高谷は快斗に問うことなく、視線と首を傾げることで疑問を表した。


それから再び原野に視線を戻すとため息をついて、


「原野………お前黙ってたら綺麗なのにな………」

「………なにそれどういう意味!?」


凄まじくどうでもいい事を告げられた原野は、その言葉の意味を理解して絶叫した。高谷とヒナは苦笑いし、暁は未だ理解していないようでキューと戯れている。


「んま、なんだ。ここにいりゃ死ぬ事ァねぇし。そんなに気張るなよ。ストレス貯めたっていい事はねぇからな。経験者の意見に反論は許さねぇからな。」


快斗が腕を組んで宣言する。高谷は少し考えたあと、ポンと手を打って、


「経験って………あぁ、中学校の……」

「言わないで上げて高谷君。快斗君思い出しイライラしてるから掘り下げないでおこう。」

「思い出しイライラって………まぁ、そうだね。」


ギリギリと歯を鳴らし、明らかにイラつき始めた快斗を見て、原野が悪意なく黒歴史を掘り下げる高谷を止める。


選び抜かれた言語に違和感を覚えつつ、物分りのいい高谷はそれ以上生前のことを思い出させることはやめた。


「気張るといえば、生前だと勉強ってのがあったな。」


意外なことに、その言葉は快斗から放たれたものだ。高谷と原野が快斗を見ると、両目を腕で覆って、出来るだけ余計なことを考えないようにしてるようだ。


2人は顔を見合わせてからくすりと笑うと、


「そうだね。模試やらなんやら色々とやってたね。」

「中高一貫校だったから良かったけど、それじゃなきゃその時は受験勉強してたのかな?」

「そうだろうな。つか、模試とか嫌いだったわ。定期テストだったら1位取れんのに、模試だと150位代なのは何故なんだ………」

「あぁ、それで悩んでるって言ってたよね。」


快斗達が元いた学校は中高一貫校で、快斗達の学年は全員で180人ほど。快斗は定期テストならこの人数を全て越せていたというのに、何故だか模試だと実力を発揮できなかった。


「あれじゃない?模試ってほら、日々の積み重ねって言うし。私そんなに積み重ねてないのに60位ぐらいだったけど。」

「原野は定期テストだと悪いけどな。」

「う…………それは言わないで。」


模試が出来れば定期テストも出来ると思っていた快斗は、そんな原野の成績が不思議でならなかった。


「高谷はどうだった?」

「俺は両方同じくらいかな。50位くらいだよ。」

「いいよな。安定した成績でいられるやつ。」

「それね。滅びて欲しい。」


勉強に嫌悪と怨みがある2人は、高谷に恨めしい視線を向ける。高谷は苦笑いして頬を掻く。


「普通に毎日勉強して、テストも普通に解いてるだけだよ。」

「それが出来ねぇんだよ……」

「ホントマジ、日本学力主義すぎて嫌だったなぁ。オーストラリアに移住したかったよ。」

「原野英語喋れねぇだろ。」


勉強を全否定したがる原野に、快斗と高谷は同時にため息をついた。


「正直、英語は凄く嫌いだったなぁ。」

「私も。同意同意。」

「んあ?あれそんなに難しいか?」

「快斗は得意教科でしょ。俺は1番の苦手教科なの。あんなの異世界の言語だよ。覚える必要が見当たらない。」

「将来絶対使わないしねー。」


英語が嫌いな2人は、口々に英語に対しての悪口を言い合う。


何の話か分からないヒナと暁は3人を見回したあと、


「仲良いですね。」

「仲がいいでござるな。」


同時に同じことを呟いた。快斗は嫌なことを思い出し過ぎて疲れ始めてしまった。大きなため息をついて、眼帯が無くなった左目に触れる。


痛みはないが、少し違和感を感じ、何となく触れるのを躊躇してしまう快斗。その様子をみた高谷が、


「大丈夫?血、飲む?」

「なにその『おっぱい揉む?』みたいな問い方。別に大丈夫だ。気にすんな。」

「そう。ならいいんだけど………」


大きな切り傷の着いた左目は、快斗の力で開くことは無い。決して癒えることの無いその傷は、未だ何かに取り憑かれているような感覚を覚える。


眼帯をしていて見えなかったが、快斗の左目は時折独りでに開くのだ。それを見せないための眼帯だったのだが、阿修羅との戦闘で斬られてしまった。


「本当に大丈夫?」

「なんだよ高谷。そんなに俺が心配か?」

「いつも無茶ばかりするのは快斗だし、後処理とか回復は俺がやるからね。普通に快斗には傷ついて欲しくないし。」

「何お前ヒロイン枠狙ってんの?凄くキュンと来るんだけど。」


高谷の心配を、快斗は軽口で流してから苦笑い。それは単に、快斗の痛みを隠そうとする、一種の欺瞞であることは、高谷も気づいているだろう。


軽口を聞かせても表情はそのままの高谷に根負けしたように快斗が両手を小さくあげた。


「わーったわーった。降参だ。正直、もの凄く不安事が多い。仲間は4人寝てて、目覚める兆しもなし。目覚めたところで戦えるかわかんねぇしな。俺はなかなか魔力が回復しねぇし。暁がいるからって安心は出来ねぇ。」


淡々と述べられる快斗の言葉に、原野が暗い表情で俯いた。背中を高谷が優しく摩る。


「まぁでもどうにかするさ。俺の頭脳使ってな。」


快斗を自身の頭を指して、原野に聞こえるように言う。


「痛い役は俺が引き受けるさ。危険な役は、体力が必要じゃなきゃできる。時間稼ぎとか、肉壁とかな。」


笑う快斗の言葉は非常に勇気のいる言葉。自己犠牲だけを考えた快斗の案に高谷達は反対したいが、それを許さないように、快斗が最後に明瞭に響く声音で、


「傷つくのは、俺だけでいい。」

「ッ…………。」


その声は妙に大きく聞こえ、その場の全員の記憶にこびりつくように記憶された。


「サポートはよろしくな。出来るだけ傷がないケースを考える。だから少し1人にさせてくれよ?」


そう言って、快斗はおぼつかない足取りで、皆から離れていく。


後ろからの視線を感じるが、振り返れば問いや反対が飛んでくる。快斗はそれを意識せずに、出来るだけ前を目指して歩いていった。

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