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罪深い男の想像話  作者: 病み谷/好きな言葉は『贖罪』
《第一章》 怒る彼は全てを殺し尽くす
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足斬り暁

「く………疲れたでござる……!!」

「俺の背中に背負われ続けてるのに!?暁さん俺の足切ってるだけじゃんか!!」


石でできた平坦な土地を、暁を背負う高谷が走り続けている。その横を、真っ赤な光線が通り過ぎていった。


「キャハハハハ!!待ちなよ待ちなよ待ちなよ!!」


背後からは、不気味な笑い声を上げながら走り迫ってくるメドゥーサが居る。既に全面石となった世界で、高谷とメドゥーサはかけっこをしていた。


地面が石ということは、触れる高谷の足も石になるということ。なぜ走り続けられるのかと言うと、石になる度斬っては再生を繰り返しているのだ。


暁が左足を、高谷自身が右足を、一歩一歩切り裂きながら走っていく。


無限の再生力を持つ高谷が死ぬことは無いが、やはり痛いのは変わらず、走れば走るほど、両足に激痛が走る。


仮に走るのを辞めれば、背後からのメドゥーサの斬撃によって、どの道石になってしまう。


空へ飛んだとしても、高谷は未だ快斗ほど飛行能力が発達していない。故に、浮かべば最後、メドゥーサの光線で石にされる。


唯一生き残る道が、言葉通りのデスランなのだ。高谷は痛みを叫ぶことで無視しながら、必死に背後から放たれる光線を暁の指示で躱し続ける。


「いたいたいたいたいたいたいたいたいたいたいたいなぁ…………」

「不死殿。その言葉はなんか気分が闇に落ちるのでやめて欲しいでござるよ。」

「自分だけいいご身分だね!?これぐらいは許容してよ暁さん!!」


高谷の足が通過するところに刃を置き、跳ねて石になってゆく足を眺める暁は、疲れたとばかりに欠伸をする。


「いいご身分と言われ申しても、この世界で走ることが出来るのは不死殿だけでござる。拙者がこうなるのは不可抗力でござるよ。」

「だったらせめてメドゥーサに魔術くらい放ってはくれないかなぁ!?」

「拙者は魔術がこれっぽっちを出来申さん。拙者が出来るのは、地にしっかりと足を着いて斬り掛かることだけでござるよ。」

「本当に四大剣将なのかなぁ!!暁さん!!」


流石に怒りで脳内がいっぱいになってきた高谷が、背中で余裕ぶっこいている少女を罵倒する。が、普段悪口を言うことの無い高谷は、悪口のボキャブラリーが少なすぎて、暁には全くに響かない。


暁にとって、悪口なんて何を言われようが傷つくことは無いのだが。


「とにかく、あの者をどうにかしないと行けないでござるなぁ。」

「案は任せるよ。俺は足が痛すぎてそんなの考えてる暇がないからさ!!」


暁が光線を放ち続けるメドゥーサに目を向ける。やはりそのフォルムは不気味で歪。不で塗り固められた彼を、暁は斬り殺そうとビジョンを想像する。


「そろそろ、本気出しちゃおっかな!!」

「ッ!?」


メドゥーサが飛び上がる。メドゥーサを中心に沢山の眼球が出現し、それぞれが赤く発光する。


「『石連魔』!!!!」

「暁さん!!」

「承知!!」


流星群のように大量の光線が放たれた。それを感知した高谷が跳び上がる。


暁は高谷を足場に回転。『火炎陣』を発動し、炎を纏った刀を横凪に振るう。炎の斬撃が全ての光線を受け止め、石と化した炎が地面に落ちる。


高谷は1度地面に足を着いたあと、もう一度跳び上がり、暁が地に足を着く前に受け止めた。暁は高谷の両足を斬り裂き、全身が石になる前にそれを食い止めた。


「はぁ………また痛いのが……」

「我慢するでござるよ不死殿。どうにか活路を見出すでござる。」

「言いながら足斬ってるけどさっきより強くない!?すっごく痛いんだけど!!」

「口がそう叫べるならまだ大丈夫でござるよ。本当に痛い時は、声も出ないでござる。」

「俺が嘘ついてるみたいに言わないでくれる!?」


既に通常なら数千は死んでいるはずの痛みを体験している高谷にとって、暁の言葉はかなり怒りを煽るような言葉だが、今はイラついている場合ではない。


今、この状況下で、高谷の固有能力はほぼ封じられたと言っていい。


『不死』はともかく、主に血を滴らせて戦う高谷は、接近戦でその能力の強みを発揮することが出来る。


剣での斬り合いならば、高谷が傷つけば傷つくほど返り血が相手に降りかかる。しかし、高谷は『不死』であるため剣で死ぬ事は無い。だが相手は血を浴びている。高谷の最大の武器である血を。


そこからは容易に敵を倒すことが出来る。侵食させるもよし。燃やすもよし。爆発させるもよし。刺し殺すのもよし。殺しのレパートリーは大量にある。


だが、メドゥーサは斬った相手を石に変え、遠距離戦でだとしても、地面が石ならば、当然地面を滴る血も石に変わるため、能力を行使することが出来なくなる。


石になるのであれば、『不死』の能力は完封される。再生の仕様がない。石になりきる前に、その部位を切り落として再生するしかないのだ。


つまり、今の高谷は完全に暁の足場、ということになる。足を切らなければ機能しないお荷物なのだ。


「まさか全域を石に変えるなんて………」

「しかし当たり前の話であったでござるな。触れた物を石に変えるのであれば、石と化した地面にはまた新たな地面が触れている。つまり、この世界のどの地面を石にしても、全域を石に変えるなど容易だったということでござる。」

「本当にもうどうしようもないね。俺は戦力外だ。暁さんだけが頼りだよ。」


頬に血をつけた高谷が暁に告げる。暁は「合点。」と答えると、メドゥーサに刀の先を向ける。瞬間、髪と瞳が黒に染る。


「『暗黒陣・逆恨み』」


暁が高谷の背中で一回転。メドゥーサの胸の辺りに、唐突に魔力が生み出される。


「『暗黒陣・反逆』」


暁が印を結ぶように、人差し指と中指を付けて伸ばした。


「爆ぜろ恨み。灼けろ怒り。」

「んんッ!?」


暁がメドゥーサに指を向ける。瞬間、メドゥーサの胸のすぐ近くを何かが通り去ったと思うと、気づいた時には体に深い斬り傷がついていた。


「やるねぇ四大剣将。でも僕はこの程度で死なないのさ!!」


傷口を強引に手で閉める。白い糸のようなものが体から生え、傷口を縫い止めてゆく。


暁は顔を顰め、刀を引いて構えを取る。髪と瞳が緑に染る。


「『暴風陣・天津風』」

「今度は何を………おおっ!?」


暁が大きく刀を振るう。下から上へ切り上げるように。刀からは風が放たれ、熊の爪のように鋭い風の刃がメドゥーサに殺到した。


「当たらないよ。そんなに遅いならさ。」


メドゥーサは体をかたむけ、風を躱した。風はメドゥーサに当たることなく空高く飛んでゆく。


そして、ゆっくりと曲がって起動を変え、先程よりも上昇した速度でメドゥーサに迫る。


「なるほど。追尾式なのね。しかも、僕を追いかければ追いかけるほど速度が上がるのか。これは面白いね!!どんな器用な魔力制御をしてるのかなぁ!!」

「拙者は世界で1番魔術が苦手故、どのようにしてるかと問われ申しても分かりもうさぬ。」

「ハハハ!!感覚で操作してるのか!!気持ち悪いことしてるね!!さっさと殺してあげるよ四大剣将!!」


飛び回るメドゥーサを目で追う暁。風は暁の見つめる点に沿って移動するため、メドゥーサはどんなに素早く飛び回っても風から逃げ切ることは出来ない。


「ハハ!!」


だがメドゥーサが大人しく風に追いかけ回され続けるわけがなく、メドゥーサは風に対して光線を放った。


風は石になり、地面に落ちる。暁は更に顔を顰めた。


「風は空気。貴殿の光線では石にすることが出来ないはず。」

「僕は魔力持ったものなら、空気だろうと空間だろうと等しく石に返られるのさ。覚えておきな!!」


何度目とも分からない。メドゥーサは光線を2人に向けて発射した。


暁は光線を炎で相殺し、高谷の背中から跳び上がる。


「ちょ、暁さん!?」

「しばらく、空に浮かぶでござる!!」


無防備にも、暁はたった今光線を放ったばかりのメドゥーサに単身で突っ込んでゆく。


流石のメドゥーサも、これには笑いが起こらず、


「ちょっとちょっと四大剣将。簡単に石になってくれるなよ。」


失望したような、落胆したような、そんな呟きと共に、光線が暁目掛けて殺到する。


足場がないこの場所で、暁が軌道を変えるのは不可能。光線までの距離が足りず、炎を放つための時間が足りない。


「え、ちょっと!!」


高谷が暁の位置を少しでもずらそうと飛び上がろうとしたが、石化した足は言うことを聞かず、1拍の時間が空いてしまった。


暁は迫る光線を見つめて、笑った。


「『冥光陣』」


暁が発光する。今までとは違い、莫大な量の魔力が放出される。


「『天照大神』」


暁が手を振るう。すると、暁の背中には天使のような翼が生え、光線を紙一重で躱した。


高谷はそれを見た瞬間に、目を見開いた。その時の感情は言わずもがな、


「なんでもっと早くそれ使ってくれなかったのさぁ!!」


自身のあの地獄の痛みはなんだったのかと、何に対する訳でもなく、高谷は失望した。


『血獣化』を発動し、石化した足を切り落として翼で飛び上がる。


「酷いよ暁さん………」

「これはかなりの魔力を消費いたす。正直使いたくなかったでござるが、あまりにも不死殿が不憫故………でござる。」

「俺を奴隷を見るような目で見ないで欲しいな。ていうか、あの方法を提案して強引にやらせたのは暁さんでしょ!!」

「?」


実は敵は暁なんじゃないかと思い始めた高谷。再生した足をさすって、暁に非難の目を向ける。暁は首を傾げて無邪気に笑った。


「拙者は魔力制御なるものが苦手でござる。不死殿………」

「どこかでヘマしたら、俺が助けてあげればいいんでしょ。」

「話が早いでござるな。」

「いや、暁さんの目がそう言ってたし、顔に書いてあったよ。」

「む。いつの間に。」


暁が高谷の冗談を真に受け取って、自身の顔をペタペタと触って確かめる。そんな暁を見て、高谷は面白くなって笑ってしまった。


「楽しそうだね。僕の事は忘れるのかい?酷いなぁ。確かに僕は気持ち悪い見た目だけど、それだけに忘れられないはずなんだけどなぁ?」


メドゥーサが独り言を呟きながら、暁の真後ろへ高速で移動。刃を暁のうなじ目掛けて振り下ろした。が、


「わぁお。」

「その程度。」


刃が肉に届く寸前、刃と肉の間に刀が割り込んだ。暁が後ろを振り向いた訳ではなく、刀自身が暁を守るように。


「刀に頼ったのかい?」

「拙者の刀には、命はあっても意識はござらん。」


暁は身を翻してメドゥーサの腕を斬り裂いた。メドゥーサは一瞬にして暁から距離をとった。


「命があるのかい?1本の刀如きに。」

「拙者の刀は、ただの刀ではないでござる。」

「へぇ。名刀なのかい?なんという名前なのかな?」


刀をそっと撫で、魔力を纏わせた暁はメドゥーサに殺意の瞳を向けた。


「拙者の刀に名は無い。あるのはただ、先祖の意志と、拙者の心構えだけでござる!!」


刀を振り切る。波動が舞い、高谷は後ろへ吹き飛ばされた。暁はメドゥーサに刀の切っ先を向け、高らかに自身の名を叫んだ。それは、高谷もよく知る、戦士の作法だ。メドゥーサは予想に反し、忠実にその作法を守った。


「斬嵜家十四代当主、斬嵜暁。」

「嫌われ者の『ヒト』メドゥーサ。」


互いに睨み合う。メドゥーサはケラケラと笑い声を上げて、


「いいのかい?空中戦とはいえ、僕は強いよ。」

「元々知ってのことでござる。空での戦いは拙者は慣れていない故、不利な状況ではござるが、その程度で怯む武士ではないでござる。」


脅しの意味が籠ったメドゥーサの言葉に、暁は食い気味に言い返した。


「僕の獄値は、5945だよ?」


メドゥーサは自慢げに、暁にそういった。暁はそれに聞いてニヤリと笑うと、ゆっくりと口を動かした。


貯めに貯めたその言葉を、暁は希望に満ちた済んだ笑顔で、メドゥーサへと言い放った。


「拙者の今の獄値は7777。拙者は貴殿に負け申さん。」


誰もが驚愕する。有り得ないほどの強大な力だった。メドゥーサはその言葉を聞いて、まるで石にでもなったかのように固まってしまった。


「これは………暁さんの勝ちだね。」


高谷は遠くで独り、戦況が大きく翻されたことを悟ったのだった。

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