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罪深い男の想像話  作者: 病み谷/好きな言葉は『贖罪』
《第一章》 怒る彼は全てを殺し尽くす
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嘘の笑顔

迫る『ヒト』。その行く手を、地面から唐突に生え並んだ白い腕が阻む。


破壊を試みる『ヒト』。が、傷つければ傷つけるほど、白い腕は分裂し、増殖する。


やがてそれは、1人の『ヒト』の体を覆い尽くし、その強力な握力で握りつぶした。


血飛沫は上がらない。偽物の肉体は、真っ赤な内臓と内面を曝け出しながら地面にころがった。


別の『ヒト』が、崩れ落ちた仲間の肉体を喰らう。微量に能力が上昇し、目の前の腕を、刃と化した右腕で斬り裂いて強引に進んだ。


鋭い爪で肉体を抉られ、大腸小腸が露出する。だが痛みを感じない『ヒト』は、そんなことお構い無しに進んでゆく。


第1ウェーブ突破。


『ヒト』の視界に、たった今殺された仲間の姿が写った。


先程と同じように、地面から生えのびた白い腕に握りつぶされてしまったらしい。『ヒト』はその遺体の一部を手に取り、ゆっくりと自身の口に運ぶ。


無味の肉が胃に届いた瞬間、傷が塞がり、能力が微量に上昇する。


目の前の腕を斬り裂く。今度は一斉に。肘から上を失った腕は、瞬く間に増殖して再生する。その前に、『ヒト』はその腕を飛び越えて先へ進む。


第2ウェーブ突破。


歩む『ヒト』は、片腕をなくし、所々に大穴が空いた仲間を発見。


既に虫の息で、今にも闇の中へ意識を投じそうな、ほぼ屍のような状態だった。


『ヒト』は刃を振り上げ、死にかけの仲間を助けるでもなく、命の根源、心臓を1寸の違いなく刺し潰した。


肉を切り裂き、口に運び、それが喉をすり抜けていく感覚を味わいながら、『ヒト』は立ち上がった。


瞬間、高速で迫った光に、右腕をもぎ取られた。


もがれた腕が宙を舞う。そして、力なく落ちる腕は、地面に接する前に、続けざまに迫る光に消し飛ばされて灰となった。


痛みはない。だが驚きがある。『ヒト』は仲間の死体を切り分けて口に運び、腕を再生。ストック分として、一欠片の肉を握りしめて歩き出した。


その先には、またもや白い腕が生え並ぶゾーンがあり、『ヒト』を通らせまいと、今までの腕よりも積極的に『ヒト』の肉体を潰そうとした。


『ヒト』は、伸ばされた腕を躱すと、刃と化した右腕で斬り裂き、蹴りあげる。


全ての腕が見えなくなるほど小さく細かくなるまで斬り裂いた。白い粒子が舞い、『ヒト』は、腕の再生速度が完全に遅くなったのを確認して、その先へと進んでいく。


第3ウェーブ突破。


歩み続ける。前方から迫る光を躱し、地面から飛び出す腕を斬り裂き、仲間の死体を喰らっては歩んでゆく。


そして、ついに最後の壁と思わられる、今までの腕の2倍以上はあるであろう腕が生え揃うゾーンへと辿り着いた。


腕は高速で『ヒト』に迫る。能力が底上げされた『ヒト』は、傾けた体の横をとおりすぎてゆく腕を見つめながら、丁寧に全ての腕を斬る。


その戦いがいつまで続いたか。15分ほど経った所で、『ヒト』はついに、最後の難関を突破した。


第4ウェーブ突破。


内蔵は剥き出し。目玉は片方が何処かへ消え、左腕は失われた。


『ヒト』は、後ろの腕が再生する前にその場から離れていく。


その先は、腕が生える気配はなく、前方から飛んでくる光もない。


安全な場所へとたどり着いた。『ヒト』がそう感じ、はみ出す内臓を、ゆっくりと体内へ戻そうとした。真っ赤な、忠実に人間の物を再現した内臓を見つめながら。


『ヒト』が見た景色は、それで最後だった。


天空から振り下ろされた、金色に輝く鎖。それは瀕死の『ヒト』の体を容赦なく縦に真っ二つに叩き割った。


『ヒト』は、自身に何が起こったのか理解することが出来ぬまま、理不尽に意識を地獄へと叩き落とされたのだった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「結構ギリギリじゃない。」

「うん………サリエルが来てくれなかったら危なかったよ………」

「そうですねぇ。近づかれると私も撃ち抜けませんし、まだ上手く急所を狙えませんから。サリエルさんさまさまですよ。」


崩れゆく『ヒト』を見つめながら、鎖を纏う少女サリエルは、原野の隣に降り立った。


岩に寄りかかりながらぐったりとした様子の原野。広範囲に『死者の怨念』を配置、制御するのは、原野にとってはかなりの負担だったようだ。


だが、それもこれも全ては今の今まで寝ていたヒナを守るため。


回復して魔術を使える程まで元に戻ったヒナが寝ていた場所には、今はリンが寝ている。


両腕の骨が粉砕し、他の骨にも多大なダメージを受けている。


サリエルが少し使える回復魔術を何度もかけているが、一向に骨が治ってゆく気配がない。


「高谷君の血が欲しいね。こんな時こそ。」

「高谷さんはまだ異空間でしょうか。なかなか、帰ってくるのが遅いですねぇ。何かに手こずっているのでしょうか?」

「分からないけど、多分あっちも、私達みたいに何かを倒したらこっちに戻ってこれるんだと思う。何かと戦ってるのは間違いないと思うよ。それに、高谷君はきっと1人だけだと思うし………」


近づいてきた『ヒト』を鎖で引き裂き潰すサリエルは、自身が戦った『神殺し』を再現した諸刃を思い出す。


再現したといっても、その力量は大分劣っている。だからといって、全く手こずらなかった訳では無い。むしろ限界スレスレだったのだ。リンが両手を犠牲に捧げなければ、勝つことは出来ても、多少なり大怪我を負っていただろう。


リンには感謝しかないが、やはり『神殺し』の本来の力量は計り知れない。サリエルが本気を出して限界スレスレの諸刃。その諸刃は、本人の力の10分の1にも満たないのだから。


「……………」


快斗達の飛ばされた空間がどうだったかは知らないが、少なくとも、異空間では何らかのアクシデントを起こさない限り、時空の裂け目を作り出すことは出来ない。


だが、単に巨大な力で空間に傷を作ればいいという訳では無い。先ず、そんなことが出来る者はそうそういないが。


空間というものは複雑で、1つの空間は、別の空間といくつも繋がっている。異空間への道は、その空間の場所によって異なる。作り出された異空間だとしてもそれは同じことで、快斗、ヒバリ、原野、サリエル、リンは当たりを引いた、ということだ。


まぁ、当たりといっても、元の世界に通じる時空の裂け目は、目の前の試練を突破すれば出現するなど、容易に想像できるものだが。


そこら辺の知識は、このメンバーの中では高谷がダントツで詳しい。それに、魂に干渉されない限り死ぬことは無い高谷だ。心配入らない。と言いたいところだが……


「最悪、高谷君の『不死』に対抗しうる固有能力がある可能性だって十分にある。もしかしたら石になって帰ってくるかも。」

「こ、怖いこと言わないでよ……」


予想を無意識に口にしたサリエルに、原野が怯えたような様子で言う。サリエルは原野の頭を撫でて、


「大丈夫だよ。仮に石になって帰ってきても、原野ちゃんだったらそれを部屋に置いて楽しむでしょう?」

「何その偏見!?私はそんな変態じゃ……」

「えー。部屋でコソコソ1人で何してるのかなってこの前覗いたらさぁ。原野ちゃんはぁ、」

「ッ!!もう!!サリエル!!黙ってて!!ていうかいつ見たのそれ!!」

「さぁ?」


サリエルは原野に軽口を叩いて雰囲気を和ませる。怒り心頭な原野が、サリエルの体を何度も何度も殴る。「痛い痛い。」というサリエルの顔は笑っている。なおも続く原野の攻撃を、ヒナが後ろから捕まえて抑えた。


「余裕ですねサリエルさん。私なんてずっと気を張ってるのに。」

「私だって気張ってるよ?今だってほら。あっちで『ヒト』が鎖で死んだでしょ?」

「あ~~………ご愁傷さまです。」


『死者の怨念』でも、ヒナの矢でも死ぬ事が出来なかった『ヒト』は、無惨に鎖で叩き潰されていた。転がる死体の1部を見て改めて吐き気を催したヒナは、リンを寝かしている岩の上へと移動した。


「とりあえず見張りを続けますね。サリエルさんは少し休んでください。」

「大丈夫?」

「ええ。これくらいは。耳長族エルフは索敵能力が優れてるんですよ。戦闘時になれば、ハーフの私でも落ち着いて索敵できます。」

「そう。じゃあ、頼んだわ。」


サリエルはヒナにそう声をかけると、岩の下敷きになっている輪廻の目の前に降り立つ。


「堕天使………!!」

「私の事、覚えてるんだ?」

「忘れるものか。貴様のせいで、どれほどの命が………!!」

「私には関係ないわ。それに、死んだのは人間とか動物とかじゃなくて、『天使』でしょう?」


サリエルは輪廻の前で煽るように体を回して、


「私にとって、天使なんてこの世界に必要ないのよ。死んだ方がマシ。」

「なにを………」

「よく聞きなさい。」


輪廻の首に鎖が巻き付けられ、その顔が力ずくで上に引き上げられた。


「私の声は、阿修羅にまで届いてるはずよ。」

「く…………」

「阿修羅、お願いだから、私の友達を傷つけないで。快斗君だって、傷つけたら許さないんだから。もし傷つけるのなら、あなたは昔から何も変わっていないのね。」


サリエルは、乱暴に輪廻の頬を叩いて弾いた。


鎖をしまい、サリエルは大きくため息を着いて原野の横へ座る。


「サリエル……?」

「なんでもないわ。気にしないで。原野ちゃん。」


綺麗な顔を笑顔で彩り、サリエルは原野に心配無用と伝えた。


その時の表情と裏腹に、原野はサリエルの内なる怒りと悲しみを感じ取った。


嘘で塗り固められた笑顔が、原野の記憶から離れることは無かった。

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