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罪深い男の想像話  作者: 病み谷/好きな言葉は『贖罪』
《第一章》 怒る彼は全てを殺し尽くす
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『胡蝶の夢』

「んー………」


高谷と暁は現在、石でできたゲートの前に立っていた。


ゲートと言っても、魔力が感じられる訳ではなく、ただ、3つの平らな石が門の形に組み立てられているだけだが。


「裂け目は見える?」

「見えないでござる。拙者が未熟故、視認できないのかもしれないでござるが。」

「暁さんに見えないってなると、手がかりはなしかぁ。」


何度もゲートをくぐり抜ける高谷。が、何度抜けても、何かが変わることはない。


「もっと先へ進むしかないのかなぁ。」

「しかしこの平坦な世界でここだけに石門があるのは、いささか妙でござる。」

「確かに。今のところ、花畑以外だとこれしか見て無いしね。」


高谷がゲートに触れる。特に何も起こらず、高谷の持つ全てのアニメ知識を、これで使い果たした。


「触っても唱えても、叩いても殴っても駄目。そうなるともうやる事は破壊するぐらいしかないけど……」

「ふむ。石門、石門………なにか逸話があったような気がするのでござるが……」


暁が空を見上げて考える。高谷はゲートを何度も切りつけ、叩き、血を付着させて燃やすが、何も効果はない。


「全く……なんだって言うんだ……ん?」


剣を鞘に収めた高谷が面倒くさげに呟いた。と、その時、高谷の目の前を、1頭の蝶が通り過ぎて行った。


それは、ゲートをゆっくりと通り抜け、一瞬で消え去った。


「え……」


高谷が蝶が消えたことを不思議に思い、ゲートを潜る。


と、「うーむ。」と唸っていた暁が閃いたように体を震わせた。


「思い出したでござる!!確かこれは……て、不死殿?何処に行ったでござるか?」


暁が振り向くと、そこに高谷は居ない。いるのは、ゲート付近を飛び回る蝶達だけ。


「?」


暁が首を傾げる。と、後ろから声がかけられた。


「暁さん。」

「……不死殿。そこにいらっしゃったか。」


その声に振り返ると、先程と変わらない様子の高谷が、薄い笑みを浮かべて手招きしていた。


「あっちにひび割れが見えます。行ってみましょう?」

「む?石門はいいのでござるか?というか、拙者にはひび割れなんて見えないのでござるが……」

「俺の固有能力ですよ。それで見えるんです。行きましょう。」

「む?分かったでござる。」


笑みを崩さないまま、高谷は唐突に暁の手を引いて、石門とは逆方向へと歩いていく。


暁は少々不穏な空気を感じながらも、高谷の笑みを見て、そんな気も薄れていくのだった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


(まずいまずいまずいまずいまずいまずい!!)


漠然とした不安を、心の中で繰り返し叫ぶ。


口にして叫ばないのは、叫ぶことが出来ないからだ。できることは、精々美しく巨大な羽をはためかせて飛ぶことだけ。


(まずいことになったな。まさか蝶になっちゃうなんて……しかも偽俺が現れるとか……詰み状態だよ……。)


小さい体を必死に動かして飛び回る1頭の蝶、高谷は、ゲートの向こうで偽の高谷と歩いていく暁を見て頭を抱える。(心の中で)


(ていうか、なんだろこれ。なんで俺、蝶なんかに……)


蝶高谷は、現在の現状を思い返して嘆く。


偽高谷を見ても、暁はなんの疑問も抱いていないようだ。


短時間しか共にいなかったとはいえ、ずっと薄い笑みを浮かべてる不気味な高谷を見て、少しを訝しまない暁に、少なからず落胆した。


所詮、自分には個性が何も無い普通人のようだ。自分じゃなくても、自分自身ではなくても、誰も違和感がないのだ。


(…………あれ?)


ゲートの上に乗って、蝶高谷は偽高谷を見て、1つ、疑問に思った。


自分は本当に、『高谷』という1人の男子中学生だったのか?元から自分は、ここに存在している蝶だったのではないか?元からここに存在している蝶だから、目に映る2人は本物の人間達なのではないか?


存在を疑問に思う蝶。


これが何らかの術なのではなく、これが本物なのか?今まで見てきた物が、何らかの術で見せられていた幻想なのか?


蝶は思う。


そう。自分は蝶であり『高谷』ではない。ただ、優雅に空を飛ぶ回る1頭の蝶だ。


だから、今までのものは全て………


(ッ!?)


そんなことを考え始めた蝶高谷に激しい痛みが降りかかった。


全身の神経が悲鳴をあげる。と、今まで風に揺れるだけだった花の花びらが、風もなく吹き上がり、1つの人型のモノを作り上げる。目の前に誰かがゆっくりと現れた。


(ッ……!?)


それが誰なのか、蝶高谷にははっきりと分からない。だがそれは絶対に忘れてはいけないもので。


その存在を、その存在が示した価値を求めて、自分は生きてきたというのに。だと言うのに自分は………


『殺して。』

(ッ………)


切実な、しかし何処か高揚とした雰囲気が混じった、女性の声。


『殺して。』


続く。何度も同じ言葉が繰り返される。


『殺して。壊して。』


増える。


『殺して。壊して。嘆いて。』


増える。


『殺して。壊して。嘆いて。泣いて。苦しんで。傷ませて。崩して。爆ぜて。溶かして。飲み込んで。取り込んで。』


呪詛のように唱えられる言葉が、蝶高谷の耳を打つ。感情が揺さぶられ、意識が覚醒する。


響く声の声量が、格段と上がった。


『コロシテェ!!!!』

「が、あがぁ……あ……!!」


深い憎しみに飲み込まれ、高谷は全身の痛みに飛び起きる。


「あああ!!はぁ………はぁ………」


ジンジンと痛む頭を抑え、高谷はゆっくりと起き上がる。


「う………おぇ……」


気持ち悪さに、ゲートに向かって吐瀉物を吐き出す。


「はぁ……はぁ……なん…だっ……た……?」


立ちくらみを乗り越え、開ける視界に高谷は目を擦る。


「今のは………夢?」


高谷はゲートに振り返る。その付近を、何頭かの蝶が飛び回っている。


「これはあれか……」


高谷は頭に真っ先に浮かんだ言葉を口にする。


「『胡蝶の夢』。」


『胡蝶の夢』とは、有名な思想家が考えたことで、夢の中で蝶になった時、自分が蝶になっている現在が夢なのか、はたまた今までの人間だった日々が夢だったのか、というものだ。


「まさにそれじゃん………危なかった……」


高谷はゲートから距離を取り、暁達が歩いていった方向へと走っていく。


「偽の俺は………どうなった……!?」


高谷は、何者か分からない自分と共に歩いている暁の身を案じる。


込み上げる焦燥感を抑え込み、高谷は1人、花畑の中を走っていくのだった。

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