表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
罪深い男の想像話  作者: 病み谷/好きな言葉は『贖罪』
《第一章》 怒る彼は全てを殺し尽くす
106/369

ついに……

投稿遅れましたすみません。


最近忙しいのです。

「す、すみません………。」

「別に気にすんなよ。」


立ち上がると同時に襲う目眩に、ライトは足がふらつく。倒れかける細身を、快斗が優しく受け止めた。


「あんなことあったら、そりゃ目眩ぐらい起こすわな。俺だったら萎えてずっと部屋の隅で寝てると思う。」


ライトを支え移動しながら、快斗は空気を軽くしようと小ネタを挟む。ライトは小さく笑いつつも、やはりいつものように元気は出ていない。


快斗は心配そうにライトを見つめた。ライトは「大丈夫です。」と言って支えから離れる。足取りは元通りになったが、雰囲気は重い。


それはたった一言から受けたダメージのせいだ。


ライトの脳内から離れない1つの言葉。


『この程度。』


何故だか、この言葉を思い出す度に心が痛くなる。まるで、自分の存在を否定されたような。積み上げたものを、一蹴りで崩されたような感覚だった。


ライト自身、本物の戦士ほど自身を強化している自覚はない。比べるのも烏滸がましい。今まで、ただ姉の心配をするだけの貧弱な少年だったのだから。


元々の能力が、一般人より上だっただけだ。


なのに、自分は何故少女に負けて凹んでいるのか。当然の結果と言えるというのに。それは、自分は他人より強い、という意識があったせいだ。


無意識に、自惚れていたようだ。そんなことに気づいてしまったから、怒りを感じているのか。


否、この怒りは、自身を負かした少女に対してだろう。怒りの矛先でさえ、自分に向いていない。傲慢で最低な、そんな考えにライトは………


「はいストーップ。」

「わっ!?」


どんどん思考に沈んでいくライトを、快斗が足払いで浮かせる。天地がひっくり返り、体が地面に引き寄せられていく。


が、ぶつかる寸前で、再度天地がひっくり返る。ライトは快斗に一回転させられたのだ。


「ライト。その考え方は辞めておけよ。自分を見失うぜ。」

「え?」

「誰もお前が最低なヤツだなんて思っちゃいねぇ。思い込みは行き過ぎると体に害を及ぼす。だからよ、昨日のことはさっぱり忘れるか、乗り越えるか。選択肢は2つだけだ。それ以外は解答欄に書いたらバツだぜ。」


ライトの頭を優しく撫でて、快斗は背伸びをして食堂へ向かう。


ライトは自分の思考が読まれたことに動揺していた。声にも出していないのに、何故彼は暗い思考を感知したのか。


「なんで分かった?って顔してんな。」

「ッ………」

「簡単だよ。その顔とため息で分かる。俺もそんな思考ばっかだったからな。」


ライトの額を指で弾いて、快斗は笑う。自然と、その笑顔が眩しく見えた。


「とにかくよ。今はその事忘れて飯食おうぜ。もう出来てるだろうし、いつまでも腹ぺこの姉さん待たせらんねぇだろ?」

「………はい。そうですね。」

「ん。それでよし。」


快斗がライトの手を引いて歩いていく。


ライトはその背中を眺めながら、純粋に思った一言を、小さく呟いた。


「すごいなぁ。」


呟きは快斗にも聞こえた。が、気配りと言えるのか、快斗はそのことを口に出さない。


だが、自身が賞賛されているということを自覚し、快斗はニヤニヤが止まらなかった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「さて、これからどうするか。考えるとしよう。」

「んあ?」


朝食の鮭にかぶりついた快斗が、ヒバリが切り出した話題に意識を向ける。


「これからって、女帝に会うんじゃねぇのか?」

「まぁ、そうなんだが…………」


ヒバリは手を組んで考える。思い出されるのは温泉。アカツキが飛び込んできた時だ。


『拙者の私欲でもあり、拙者の任務でもある、拙者の魂の使命でござる。』


任務、ということは、誰かに任命されたということ。以前にも予想したが、それは女帝の零亡レイナでは無いかとヒバリは推測している。


なんのために決闘を命じたのか。単に遊戯としてなのか、はたまた力量を知るための策なのか。


だが、そうだとしたら何故、ライト1人だけにそれを挑ませたのか。真相はまだ分からないが、不安が大きいのは確かだ。


「なんか気になることがあるんだな?」

「あぁ。アカツキ殿の言動に加え、ここ最近エリメアを見かけないということもある。」

「ちょっちおかしい雰囲気になってきやがったってことか。」


骨になった鮭をゴミ箱に放り投げ、快斗は立ち上がる。


「どっちにしろ、今日は女帝に会わにゃなんねぇんだろ。」

「拒否するっていう手もあるけど………」

「ここで引いたところで、だろ。拒否ったら拒否ったら面倒だし………ここは真っ向勝負ってな。」

「まぁ、そうなるよね。」


出来るだけ安全策を取ろうとする原野に、快斗は真っ向から受けると言い切った。高谷はやれやれと首を振って、快斗に同調する。


「高谷君がいうなら……しょうがないよね。」

「俺には原野を動かす権限がねぇみてぇだな。これからは高谷、宜しく頼んだぜ。」

「世話係みたいだな。まぁいいよ。」

「あれ。私お荷物みたいな評価されてる?」

「原野さん。私の仲間ですね!!」


いつの間にか悲しい評価をされていた原野に、ヒナが笑ってお荷物を歓迎する。


「あんま実戦でのイメージないな。俺。」

「快斗は直接原野の戦いを見てないからね。」


今までを思い返す。原野との共闘など、ニグラネスを貫いた時ぐらいだろうか。


6つの魔力を受け止めたが、その中で一番弱かったのは確か原野のものだ。


「まぁまぁ。そんなに言わない。原野ちゃんが悲しんでるでしょ?」


サリエルが俯く原野の肩を掴んで笑っていう。快斗は「まぁそうだな。」と言って原野に謝罪する。


と、賑やかな一行の傍へ、流音が歩み寄ってきた。


「快斗様方。」

「ん。」


静かに話す流音はどこか真剣味がある。快斗は短くそれに応じる。次に続く言葉を予想して。


零亡レイナ様のご準備が整いました。60重塔へご案内致します。」


一行の空気が張りつめる。快斗は茶を飲み干して、


「んじゃ、行くか。」

「軽いね。まぁでも、そんなものだよね。」


宿の出口に向かう快斗に続いて、高谷がついて行く。原野が高谷を追いかけ、サリエルが原野の隣に並び、ヒバリに促されてライトも歩き出し、ヒナとリンも歩いていく。


「しゃあっ。いっちょ行きますかね。」


大きく背伸びをして、快斗は振り返る。皆はその視線に頷く。その反応に、快斗は笑う。


「お気をつけて。」

「ん。」


出口で礼をする流音に、快斗はまた短く応じた。それから、


「1個聞きてぇんだけどさ。」

「なんでしょう?」

「60重塔ってどの道通ればいい?」

「………分かんないんだ。」


かなり初歩的な事を理解していないことを、流音と高谷に呆れられたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ