ついに……
投稿遅れましたすみません。
最近忙しいのです。
「す、すみません………。」
「別に気にすんなよ。」
立ち上がると同時に襲う目眩に、ライトは足がふらつく。倒れかける細身を、快斗が優しく受け止めた。
「あんなことあったら、そりゃ目眩ぐらい起こすわな。俺だったら萎えてずっと部屋の隅で寝てると思う。」
ライトを支え移動しながら、快斗は空気を軽くしようと小ネタを挟む。ライトは小さく笑いつつも、やはりいつものように元気は出ていない。
快斗は心配そうにライトを見つめた。ライトは「大丈夫です。」と言って支えから離れる。足取りは元通りになったが、雰囲気は重い。
それはたった一言から受けたダメージのせいだ。
ライトの脳内から離れない1つの言葉。
『この程度。』
何故だか、この言葉を思い出す度に心が痛くなる。まるで、自分の存在を否定されたような。積み上げたものを、一蹴りで崩されたような感覚だった。
ライト自身、本物の戦士ほど自身を強化している自覚はない。比べるのも烏滸がましい。今まで、ただ姉の心配をするだけの貧弱な少年だったのだから。
元々の能力が、一般人より上だっただけだ。
なのに、自分は何故少女に負けて凹んでいるのか。当然の結果と言えるというのに。それは、自分は他人より強い、という意識があったせいだ。
無意識に、自惚れていたようだ。そんなことに気づいてしまったから、怒りを感じているのか。
否、この怒りは、自身を負かした少女に対してだろう。怒りの矛先でさえ、自分に向いていない。傲慢で最低な、そんな考えにライトは………
「はいストーップ。」
「わっ!?」
どんどん思考に沈んでいくライトを、快斗が足払いで浮かせる。天地がひっくり返り、体が地面に引き寄せられていく。
が、ぶつかる寸前で、再度天地がひっくり返る。ライトは快斗に一回転させられたのだ。
「ライト。その考え方は辞めておけよ。自分を見失うぜ。」
「え?」
「誰もお前が最低なヤツだなんて思っちゃいねぇ。思い込みは行き過ぎると体に害を及ぼす。だからよ、昨日のことはさっぱり忘れるか、乗り越えるか。選択肢は2つだけだ。それ以外は解答欄に書いたらバツだぜ。」
ライトの頭を優しく撫でて、快斗は背伸びをして食堂へ向かう。
ライトは自分の思考が読まれたことに動揺していた。声にも出していないのに、何故彼は暗い思考を感知したのか。
「なんで分かった?って顔してんな。」
「ッ………」
「簡単だよ。その顔とため息で分かる。俺もそんな思考ばっかだったからな。」
ライトの額を指で弾いて、快斗は笑う。自然と、その笑顔が眩しく見えた。
「とにかくよ。今はその事忘れて飯食おうぜ。もう出来てるだろうし、いつまでも腹ぺこの姉さん待たせらんねぇだろ?」
「………はい。そうですね。」
「ん。それでよし。」
快斗がライトの手を引いて歩いていく。
ライトはその背中を眺めながら、純粋に思った一言を、小さく呟いた。
「すごいなぁ。」
呟きは快斗にも聞こえた。が、気配りと言えるのか、快斗はそのことを口に出さない。
だが、自身が賞賛されているということを自覚し、快斗はニヤニヤが止まらなかった。
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「さて、これからどうするか。考えるとしよう。」
「んあ?」
朝食の鮭にかぶりついた快斗が、ヒバリが切り出した話題に意識を向ける。
「これからって、女帝に会うんじゃねぇのか?」
「まぁ、そうなんだが…………」
ヒバリは手を組んで考える。思い出されるのは温泉。暁が飛び込んできた時だ。
『拙者の私欲でもあり、拙者の任務でもある、拙者の魂の使命でござる。』
任務、ということは、誰かに任命されたということ。以前にも予想したが、それは女帝の零亡では無いかとヒバリは推測している。
なんのために決闘を命じたのか。単に遊戯としてなのか、はたまた力量を知るための策なのか。
だが、そうだとしたら何故、ライト1人だけにそれを挑ませたのか。真相はまだ分からないが、不安が大きいのは確かだ。
「なんか気になることがあるんだな?」
「あぁ。暁殿の言動に加え、ここ最近エリメアを見かけないということもある。」
「ちょっちおかしい雰囲気になってきやがったってことか。」
骨になった鮭をゴミ箱に放り投げ、快斗は立ち上がる。
「どっちにしろ、今日は女帝に会わにゃなんねぇんだろ。」
「拒否するっていう手もあるけど………」
「ここで引いたところで、だろ。拒否ったら拒否ったら面倒だし………ここは真っ向勝負ってな。」
「まぁ、そうなるよね。」
出来るだけ安全策を取ろうとする原野に、快斗は真っ向から受けると言い切った。高谷はやれやれと首を振って、快斗に同調する。
「高谷君がいうなら……しょうがないよね。」
「俺には原野を動かす権限がねぇみてぇだな。これからは高谷、宜しく頼んだぜ。」
「世話係みたいだな。まぁいいよ。」
「あれ。私お荷物みたいな評価されてる?」
「原野さん。私の仲間ですね!!」
いつの間にか悲しい評価をされていた原野に、ヒナが笑ってお荷物を歓迎する。
「あんま実戦でのイメージないな。俺。」
「快斗は直接原野の戦いを見てないからね。」
今までを思い返す。原野との共闘など、ニグラネスを貫いた時ぐらいだろうか。
6つの魔力を受け止めたが、その中で一番弱かったのは確か原野のものだ。
「まぁまぁ。そんなに言わない。原野ちゃんが悲しんでるでしょ?」
サリエルが俯く原野の肩を掴んで笑っていう。快斗は「まぁそうだな。」と言って原野に謝罪する。
と、賑やかな一行の傍へ、流音が歩み寄ってきた。
「快斗様方。」
「ん。」
静かに話す流音はどこか真剣味がある。快斗は短くそれに応じる。次に続く言葉を予想して。
「零亡様のご準備が整いました。60重塔へご案内致します。」
一行の空気が張りつめる。快斗は茶を飲み干して、
「んじゃ、行くか。」
「軽いね。まぁでも、そんなものだよね。」
宿の出口に向かう快斗に続いて、高谷がついて行く。原野が高谷を追いかけ、サリエルが原野の隣に並び、ヒバリに促されてライトも歩き出し、ヒナとリンも歩いていく。
「しゃあっ。いっちょ行きますかね。」
大きく背伸びをして、快斗は振り返る。皆はその視線に頷く。その反応に、快斗は笑う。
「お気をつけて。」
「ん。」
出口で礼をする流音に、快斗はまた短く応じた。それから、
「1個聞きてぇんだけどさ。」
「なんでしょう?」
「60重塔ってどの道通ればいい?」
「………分かんないんだ。」
かなり初歩的な事を理解していないことを、流音と高谷に呆れられたのだった。