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罪深い男の想像話  作者: 病み谷/好きな言葉は『贖罪』
《第一章》 怒る彼は全てを殺し尽くす
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息子殿は、弱いでござる

時は経ち、正午。


「え、えっと………」

「ドンと来いでござるよ!!」


鬼人の国、60重塔の目の前。武士の鍛錬場で、ライトは戸惑いながらアカツキと相対していた。


武装した武士達が、2人を囲んで戦闘を心待ちにしている。快斗達もその中に混じっている。


「ライト。真っ直ぐ殴りに行け。どうにかなるはずだ。」

「わ、分かった姉さん。」

「そんなテキトーでいいのか?」


戦闘のスペシャリストのはずのヒバリのアドバイスは当てにならないようだ。とはいえ、相手も今回は拳で戦うことになる。


刀使いのアカツキからすれば圧倒的不利。だが、


「『雷鳴陣』。」

「ッ………」


髪色と瞳が真っ黄色に染まり、雷を纏うアカツキを相手に、気軽に戦えと言う方が無理な話だ。放たれる闘気と覇気が只者ではないと素人でも分かる。


「い、行きます。『鬼人化』。」


ライトの額から美しい角が生える。魔力と体力が底上げされ、纏う雷も段違いに増える。


周りの光を吸い込み、神々しい雰囲気を纏うライトに、アカツキは心躍る。


「さて、どう来るでござるか。」

「真っ直ぐ一直線に!!『光の矢(ライト・アロー)』!!」


光線となったライトが、快斗でさえ見えないほどの速度でアカツキに迫る。


「速いでござるなぁ!!」


が、アカツキにその攻撃は当たらない。恐るべき反射神経で、ライトの足の下に手を滑り込ませ、体をかがめてその下を潜る。


すれ違いざまに、身体的な弱点に拳を叩き入れる。


「ぶ………」


地面に着地したライトは、盛大に吐血した。


「ひ、1殴りで………」

「耐久力がないでござるよ。息子殿。」

「ふぅ……えぇい!!」


全身に雷を纏い、アカツキに連撃を叩き込む。が、どれも全てが躱され、流され、空を切る。


「遅い。」

「なっ!?」


いつの間にか後ろに回り込んだアカツキが、ライトの心臓部に手を当て、電撃を放つ。心臓にダメージを受け、ライトは痺れるからだを酷使して距離をとる。


「逃げるでござるか?」

「はぁ……うぅ……」

「よもや、これで全力ではないでござるよな?」


本気で拍子抜けした表情で、アカツキは首を傾げた。本気で苦しんでいるライトは、やっとの事で立ち上がった。


「はぁ……はぁ……『雷神』!!」

「おお。」


更に爆上がりする魔力に、アカツキは感心したように声を上げる。


「『ライトニング』!!」

「む。」


天高くから落ちる雷が、アカツキに叩きつけられた。が、アカツキはその極太の雷の中に、平然と立っている。


「『水流陣』。」


髪色と瞳は瑠璃色に。纏う水が雷を受止め流し、本体のアカツキに雷鳴が届くことは無い。


「この程度。」

「う!?」


雷の光線から飛び出したアカツキが、ライトの鳩尾に拳をねじ込む。


内臓を揺すられるような感覚がライトを襲い、気持ち悪さに吐血する。


「くぅ……!!」

「む。」


龍のようにうねるライトの拳が、アカツキに殺到する。黄色い閃光が、矮躯を撃ち抜かんと迫るが、


「『火炎陣』。」


瞬時に属性が変わったアカツキから炎の玉がいくつも出現。全ての拳の威力を相殺した。


「な………」

「『火炎陣・剝炎』。」

「づっ!?」


滑らかに、されど素早く回転したアカツキが伸ばしていた手に纏われた炎が、ライトの体を削いで行く。


斬撃の炎は、ライトが生み出した雷の盾で受け止められた。


「はぁ……く…………」

「ふむ。」


必死に息をするライトの前で、アカツキは頷いてため息を着く。そして、落胆を隠せないと言うふうに俯いて、


「こんなものでござるか。」

「え………」


片手で盾を破壊。目にも止まらぬ速度で回転してライトの懐に潜り込み、腕を掴んで飛び越える。てこと重力が重なり、ライトの左腕が棒切れのように折れる。


痛みを感じるよりも早く、アカツキはライトの足を蹴って転ばせ、落ちる上体の隅々に拳を入れ、右足を踵と肘で上下に挟んで骨を外す。


それからライトの後頭部を強く掴んで地面に顔面を叩きつけた。脊髄に正確に衝撃を与え、痛み感じさせる前にライトを気絶させた。


「…………マジかよ。」

「ライト!!」


快斗は唖然とし、ヒバリをライトを踏みつけるアカツキを睨みながらライトを取り返した。


「む。」

アカツキ殿。やりすぎではないか。」


明らかに怒りの混じった声音で、ヒバリは必死に爆発しそうな情を抑えながら聞いた。

アカツキは首を傾げて、


「この程度の怪我、拙者が5つ行く頃にはよく父に付けられていたものでござる。」

「あなたと私の弟は違う。同じ感覚で傷つけるな。………傷つけないでいただきたい。」

「うむ。気をつけるでござるよ。」


つい強く言ってしまったヒバリは、悔しそうに言い直した。アカツキはケロッと笑って言って、いつもの真っ白な髪と瞳に戻った。


ヒバリはライトを抱いて高谷の元へ歩いていく。快斗は笑い続けるアカツキを見てゾッとした。


その力に、言動に、気配に、佇まいに。


笑顔に。


「あいつは、まだ信用できそうもねぇな。」


快斗はそう呟いて、ライトの元に駆けていく。


周りの武士達は、「また、四大剣士の勝ちか。」と思い、ぞろぞろと修行に戻る。


アカツキは欠伸をして、快斗達の方へと向かおうとしたが、先程の行動をしたことに対する快斗達の怒りを感じとったのか、静かにその場を去っていった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「急すぎるんだが。色々と展開が。いやマジで。」


骨組みと傷を全て治癒し終え、気絶したライトを背負って宿に向かう快斗はため息を着く。


「全く見えなかったよ。アカツキさんの動き。」

「速すぎだよ。ライト君でさえ追いつけないなんて。」

「このメンツじゃ、1番速いのがライトだってのによ。ちなみに、1番遅ぇのは原野な。」

「余計なこと言わなくていいよ!!」


やはりアカツキは人外らしい。快斗だけ見えなかった訳では無いようだ。


「…………。」

「心配すんなよ。高谷がちゃんと治癒したんだ。死にゃあしねぇよ。」

「分かっている。ただ………アカツキはあそこまで追い込むやつだったか?」

「んあ?」


ヒバリの自問に、快斗は立ち止まる。


「前にあった時は、もう少し手加減を知っている少女だった。歳を重ねた訳だ。もっと加減できると思うのだが………」

「ちょっと待て。あいつって昔からあんな馬鹿強かったのかよ。」


アカツキの強さに、快斗は目を剥く。


「今のアカツキ殿は何かに圧迫されているようだった。」

「圧迫?」

「ああ。まるで追い込まれているような、追い詰められているような、どうしようもない不安が……あるような気がした。」


少し遠くを見つめて、ヒバリは不思議そうに言った。快斗は「ふーん。」と呟いて、


「んま、悩みくらいはあるだろうよ。誰だって。それでも、なんとなく本気出しすぎだったけどな。あいつ。まぁ、今回のことは、こういう時もあるって割り切ろうぜ。」

「………気にするなという方が無理だろう。」

「分かってる。俺だって模試でやべぇ点数とったときゃあ相当凹んだよ。長い間。それでも、やっぱ忘れたらなかったことになってさっぱりスっぜ。」


快斗はヒバリに笑いかけ、


「ライトだって、そんなに心配されたら逆に大変だろうよ。ここひとつ。失敗を殺すより、失敗した自分を殺して乗り越えようぜ。」

「快斗。表現が残酷だよ。」

「つまり忘れろってこと。忘却は人間だけの特権なんだから良く使おうぜ。」


快斗は宿に向かって歩いていく。ヒバリには何だか、その姿に違和感を感じた。


「忘却は人間の特権………か。」


復唱し、ヒバリは納得したように頷いて剣の柄に触れる。


「そうだな。割り切るとしよう。」


眠るライトを心配する方が先。自身に言い聞かせて、ヒバリは快斗達について行く。


快斗はその気配を感じて安心した。そして、『忘却は人間の特権』という言葉を思い出し、1人快斗は空を見上げる。


今は亡き昔の親友。従兄弟だった彼は、親の離婚によりどこかへと消えてしまった。蒸発と言うやつだ。


何でも相当貧乏だったようで、立て続けに事件が起こり、そんな中で従兄弟は気を病んでいってしまったらしい。


そんなこんなで両親は離婚。従兄弟は母親に引き取られ、今はどこかで暮らしている。


きっと、従兄弟は快斗が想像も出来ないほどの苦しみは味わっただろう。だからこそ、快斗はその従兄弟が気になって仕方なかった。


だが、どれだけ調べても、従兄弟の所在はつかめなかった。会いに行きたかったし、慰めてやりたかった。気休めにもならない自分の存在を使って。


「あいつ……今何してんだろうな。」

「ん?」


小さな呟き。それを耳にした高谷が振り返った。快斗は「なんでもねぇよ。」と笑って言って、


「昔の事を思い出してただけさ。」

「従兄弟のこと?」

「そう。従兄弟のことを考えて………あ?」


快斗は一瞬、頭の中が?で支配された。


理由は明白。何故、高谷は今、快斗が考えていた内容を知っていたのか。


そもそもこの話は誰にも話していない。今も昔も、ずっと自分が抱えてきた悩みだ。


なのに何故………、


「あ、流音さん。」


必死に考える快斗。その前で高谷が宿の前で待つ流音を見つける。


快斗はその話を一旦忘れる。考えたってわかることでもない。ただ、1つ思ったのは………


高谷に、何か秘密があると言うこと。


思えば何時だって何を考えているのかがよく分からない。もっと言えば人間味がない。


1つのことに対して少し冷静すぎるような……そんな気がしたのだ。だが、今この場で、皆に混ざって楽しそうに笑う高谷を見ると、そんな考えも薄れていく。


結局、快斗の疑問は晴れぬまま、一行は宿に戻っていく。


「そういや、エリメアはどうしたんだろうな。」

「あ、そういえば。」


そして、エリメアが案外軽く考えてられているのが明らかとなった。この後、快斗の頭を大いに悩ませる事になるということに、快斗は気づかないのだった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「女帝殿には悪いでござるが、彼はそこまで強くなかったでござるよ。」

「……………ふむ。」


その夜、涼し気な夜風が吹き抜ける中、アカツキ零亡レイナに、ライトの力量を報告していた。


零亡レイナは唇を噛む。


「戦力には未だ数えることは出来ぬ、か。」


扇子で口元を隠して悔しげに呟く。が、直ぐに冷静になり、


「まぁ、よい。妾の息子がどうであろうと、我が息子に変わりはない。必ず、妾のものにする。」

「そうまでして息子殿を欲しがる理由は如何に。」

「ふむ。」


アカツキ零亡レイナに問う。零亡レイナは視線を空に浮かぶ月に向けて、


「神々の遊戯。16人の戦士が選ばれ、そのもの達が殺し合うというのは知っておるだろう?」

「うむ。」

「単純に考えれば、勝つにはそこらの人間よりも、1段階2段階高い戦闘能力を持っている人間が必要じゃ。例えば、妾やお前のような人間じゃ。」

「成程。」

「我が息子は、お前には適わなくとも、そこらの人間と比べれば実力は上じゃ。それに、その神々の遊戯の駒の悪魔が近くにいる。息子が駒に選ばれてしまう可能性は大いにある。」

「うむ。」

「だからこそ、妾の傍において離したくないのじゃ。我が息子を死なせる訳には行かないのじゃ。鬼人の国の女帝として。1人の母親として。」


切実な思いが込められた言葉には重みがあった。それは母親の、子供を心配する気持ちと同じ。それが本気の気持ちであることは、アカツキには簡単にわかる事だった。


そんな零亡レイナの気持ちを感じ取り、アカツキ零亡レイナの親心を賞賛しようと口を開こうとして、


「じゃから、出来れば悪魔はここで始末したいのじゃ。」

「………むぅ?」


次に続いた零亡レイナの言葉に大きな間違いを感じた。


「始末する理由などないのでござるのでは無いか?」

「奴から引き離したとて、どの道我が息子に害があるのに変わりはない。悪影響なのじゃ。」


零亡レイナはピシャリと扇子を閉じて、


「奴の命日まで、残りは2日。その時は必ず息子を取り返す。アカツキ。お前はその時まで大人しく待て。この命令を違えた時は容赦せぬぞ?」

「………うむ。承知。」

「それでよい。」


獰猛に笑った零亡レイナは、アカツキにそう言って闇に姿を消していく。


尋常ではない狂気を感じて、アカツキ は少し恐怖を感じた。


「………帰るでござるか。」


窓から飛び降りはしない。前とは違い、なんとなく気分が良くないのだ。


吐き気がする。目眩がする。どうしてか、アカツキの頭からは、零亡レイナの獰猛な笑みが離れない。


それは、自分が思っていた思案とは、また別の思案を持ち合わせていた零亡レイナへの失望のようなもののせいかもしれない。


アカツキはひっそりと、大きな危機感に駆られながら、ゆっくりと闇に紛れていった。

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