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罪深い男の想像話  作者: 病み谷/好きな言葉は『贖罪』
《第一章》 怒る彼は全てを殺し尽くす
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『全ての魔を統べる者』

「んん~~………」


重い瞼を開け、日差しとともに快斗は目を覚ます。外からはスズメを囀りが聞こえてくる。


全身の疲れが一気に抜けたような、そんな爽快感を感じて、快斗は大きく伸びをして、なんとなく左に目を向けると、


「おおぅ………ビクッたわ。」

「すー………」


小さな寝息を立て、可愛げのある寝顔を向けるヒバリが目に入った。


「少し口を開いてんのがまた可愛い。」


誰に発したとも言えない言葉を呟いて、快斗は物音を立てないように起き上がる。


膝の上に、猫のように丸まってリンが寝ている。快斗はそっとリンをどかし、洗面所へ。


「ん……ぶは……」


魔水晶から流れる水で顔を洗い、口をゆすいで服を着替える。


「キュイ。」

「ん。起きたのか。」


陽の光を浴びようと外に出ようとした快斗の後ろから、小さな鳴き声が聞こえた。振り向くと、布団からゆっくりと這いずり出てきたキューが、欠伸をしていた。


「寝てるか?一緒に来るか?」

「キュ、キュイ。」

「来るのか。まだ寝ててもいいんだぞ?」


快斗の問いかけるに対する答えとして肩に飛び乗ったキュー。何だかものすごく可愛くそれが見えた快斗は、キューを優しく撫でながら、外へと向かう。


「おはようございます。」

「ん。はよございます。」


既に受付に佇んでいる役員に挨拶をして、扉をゆっくりと開けた。


太陽は地平線から出始めたぐらい。朝露がついた植物達が、心地よい風に揺すられる。


身を洗われるような感覚。思いっきり背伸びをして、快斗は街中を散歩でもしようかと歩き出す。


未だ静まり返っているかと思えば、店はほぼ全てが準備に取り掛かっている。既に準備を終え、客を待っている店もある。


「大変だなぁ。」

「キュイキュイ。」


他人事と言うふうに軽く言う快斗の頭の上で、キューも意見に賛成する。


「む。」

「あ。」


と、なんとなく空を見上げながら歩いていると、角を曲がったところでアカツキと出会った。


「なんでこんなとこいるんだよ?」

「朝の散歩でござるよ。いつもこの道を通るのでござる。この先にある海辺へ向かうために。」


刀を触りながら呟くアカツキに、快斗はアカツキの進行方向と思われる方へと目を向ける。


山に囲まれた鬼人の国。その中で唯一海に向かうための通路がある。


山と山の隙間に出来上がった道は、漁師が早朝に通る程度で、ほぼ誰も通らない道である。


「同行してもいいか?」

「構わないでござる。こういうのは人数が多い方が賑やかになって心躍るでござる。」

「否定しねぇ。」


快斗は時間つぶしに、アカツキについて行く。なぜ自分がそれを選んだのか分からなかったが、たまにはこういうのもいいだろうと、この状況を少なからず楽しみながら快斗は歩いていくのだった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「~~♪~~♪~~~♪」

「む。そなたは歌が上手いでござるなぁ。ジャムやギターというのは分からないでござるが。」


透き通るような歌声で歌い続ける快斗に、アカツキが感心したように頷く。


一旦歌を中断して、快斗は大きな欠伸をする。


アカツキも歌ったら点数高いと思うぞ。声綺麗だし。」

「そんなこと言われたのは初めてでござるよ。意識されたこと無かったでござる。」


なんとなく快斗が言うと、アカツキは少し儚げに呟いた。何処か悲しそうな声音に、快斗は振り返る。


「どうした?」

「なんでもないでござるよ。さて、そろそろ到着の時。」

「んあ?」


笑って話を逸らしたアカツキ。その真っ白な瞳が見つめているのは高い谷に挟まれた入江のような場所だった。


浜辺のような砂が平らに有り、その真ん中に海の水が前後している。


「なんか風味のある場所だな。」

「おっと悪魔よ。その先には迂闊に行くかない方がいいでござる。」

「あ?」


砂場に踏み込んだ快斗に、アカツキが手を伸ばして忠告した。疑問符を浮かべながら快斗が振り返ったその時、


「せぇい!!」

「む。速いでござるな。」


何かが地面から勢いよく飛び出した。それは、真っ赤な甲羅に覆われた、巨大なハサミだった。


順次に反応した快斗はキューをフードにしまい、草薙剣を抜刀した勢いでハサミを迎え撃つ。が、隙をつかれたこともあり、その威力はそこまで強くない。


故に、盛大に弾き飛ばされた。


「うおぉおおぉぉおお!?」

「おーらいおーらいでござる。」


吹き飛ぶ快斗を、アカツキが後ろに下がって受け止めた。お姫様抱っこで。


「ふぅ。無事でござるか?」

「ちょっち心にキュンとくる傷を受けた。」

「すまぬ。拙者は心の難病を治せる術士を知り申さぬ。」

「真に受けんなよ。」


アカツキの手から降りた快斗は、巨大なハサミが出現した砂場に目を向ける。ハサミはしばらく何かを探すような仕草を見せたあと、静かに砂浜の中に戻っていった。


「なんだあれ。」

「あれはヤドカリの魔獣でござるよ。」

「正式名称は?」

「ないでござる。あの魔獣はここに一体しか生息しておらず、そのからだを未だ研究することは出来ていないでござる。」

「掘り出すのは?」

「1部の鬼人達からの反対があったのでござるよ。なんでも、何代も前から御神体として祀ってる家庭がいくつもあるらしいのでござる。」

「宗教上の問題か。この世界でも大変だな。」


いわゆる謎の魔獣。宗教か何か、それに影響された反対運動によっての開拓中止。前世でもよくあったことだ。


「にしても、この世界にここに1匹だけってのが探究心をくすぐるよな。アカツキ、キューを預かっておいてくれぃ。」

「承知。」


キューをアカツキに投げ渡し、快斗はもう一度砂場に降り立つ。草薙剣を構えて重撃に耐える準備をする。


少しの間が空いて、いきなり真下から巨大な魔力反応が迫ってきた。


「はぁあ!!」


魔力を纏った草薙剣を地面に叩きつけると同時に地面から飛び出したハサミが斬撃を受け止める。


そして数秒の間があり、押し負けた快斗が吹き飛ばされた。


「ふ………」

「おお。」


草薙剣を地面に投げつけて『転移ワープ』。地面に倒れる前に、地面に着地した。初見のアカツキは、何故だかそこまで驚かなかった。


「滅茶苦茶速い上に威力は馬鹿でけぇし、タイミングはランダムと来た。こりゃ……」

「うむ。いい修行になるのでござるよ。」


快斗の呟きに、アカツキは大きく頷いて、キューを快斗の頭の上に乗せて刀を引き抜いた。


「次は拙者の番にござる。」


その矮躯に似合わない大きな刀を構え、アカツキは目を閉じる。快斗はキューを抱いてじっとアカツキを見つめる。


「風の悲しみ。炎の怒り。雷の笑い。水の囁き。………全てが、拙者の礎となる。」


アカツキはそう言うと、なんの拍子もなく真後ろから現れたハサミを受け止めた。


力は押し負けるようで、踏ん張る足が地面を抉るが、それでも吹き飛ばされないのは、さすが四大剣士と言ったところか。


「せぇい!!」


大きな掛け声を上げて、アカツキはハサミを弾き返した。刀は水を纏っている。跳ね返されたハサミは直ぐに砂の中へと戻っていった。


「ッ…………」


快斗はその集中力と精密な狙い、そして少女がもつにはあまりに大きな力を感じて震える。


そしてもう一つ。それは、先程まで白かった髪と瞳の変化だ。


どちらも、ラピスラズリのような深い藍色に染まっていた。


そして、その魔力は先程の膨大な量だけでなく、それらが全く別のものに変化したのを感じた。


アカツキ。」

「なんでござるか?」


アカツキは砂場から快斗のいる所までひとっ飛び。大きな瞳を快斗に向ける。


快斗は少し考えたあと、


「お前の固有能力ってさ。」

「うむ。」

「…………全属性使える的な感じ?」

「うむ?」


酷く曖昧な問いかけをした。


「それは拙者の固有能力のことを指しているのでござるか?」

「まぁそうだ。髪の色変わったり、目の色変わったり、気配が変わったり、使う魔力の属性が変わったり。コロコロ変わるもんだからな。」

「うーむ。まぁ、悪魔の推測は微妙なところでござる。百点満点中九十九点でござるよ。」

「ほぼ満点じゃん……」

「まぁ、隠していても普通にバレるものでござるからな。今ここで明かしておくでござるよ。」


アカツキは腰の鞘に刀をしまって両手を広げて、


「拙者の能力は『全ての力を統べる者』。現時点で、この世界にある全ての属性を操れるでござる。」

「…………勝てっこねぇよ。」


とてつもなく恵まれた能力に、快斗は戦う前から両手を上げて降参した。アカツキはムッと顔を顰めて、


「戦う前から無理など言うべからず。やってみないと分からないでござるよ!!」

「うおっ!?刀を振るな!!しかも速い速い!!」


勢いよく抜刀したアカツキは、防ぎながら逃げる快斗を追う。


「シィッ!!」

「む。」


力強く踏み込んで、快斗が斬撃の隙間から反撃を突く。アカツキは驚くべき身体能力と柔軟性でその突きを防いだ。


「はぁ……はぁ……」

「いい突きでござるよ。もっと修行すれば、拙者をも凌ぐかもしれないでござるよ。拙者も本気で修行するつもりでござるが。」

「はぁ……お、お前が俺の敵にならねぇことを祈るぜ……」


力なく言って、快斗は草薙剣を鞘にしまう。アカツキも同じように刀をしまう。


「なぁ、アカツキ。」

「なんでござろう?」

「………お前の獄値ってさ。いくつ?」

「拙者は確か………5480だった気がするでござるよ。」

「悪ぃ。急用ができたわ。勘違いするなよ。決して逃げるわけじゃねぇ。逃げるわけじゃねぇから追ってくんなよ!!」

「待つでござるよ!!その言い方は絶対に逃げる時の言い方でござる!!逃がしはしないでござるぅ!!」


高速の鬼ごっこが開始された。無邪気な笑顔の強者は、慌てる悪魔を追い続ける。


なんとも面白い絵面に、快斗は少し笑った。


馴染みやすいのに、難しい。憎めない。いつかそれが、快斗を苦しめるのだった。

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