表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
罪深い男の想像話  作者: 病み谷/好きな言葉は『贖罪』
《第一章》 怒る彼は全てを殺し尽くす
103/369

何か

「ふわぁ………」


眠気を感じて、快斗は1人大きく背伸びをして倒れる。


「わ!?」


倒れた先にはライトの素足があり、快斗とライトで膝枕をしているような光景になった。


「ん~。お前は本当に男なのか~。」

「お、男ですよ…。か、快斗さん!!」


豪勢な夕食を食べ終え、酒に酔う快斗はライトに大胆に寄りかかる。


脇を擽られるライトが、ビクンと震えた。


「うり~。ここか?ここがいいのかえ?」

「か、快斗さん!!わ、くすぐった……」

「はぁ……天野。ライトから離れろ。」


調子に乗ってくすぐり続ける快斗を、ヒバリが首を掴んでひっぺがす。


「絡み酒だね。面倒な事だな。」

「快斗君。お酒好きだよね。特にルーネスさんお手製の。」

「ふわぁ……」

「あ、寝ちゃった。」


ヒバリが快斗を高谷に渡す。真っ赤な顔のまま寝こけてしまった快斗を見て、高谷と原野は笑ってしまう。


「キュイキュ~イ?」


綺麗に畳まれた服の中からキューが飛び出し、快斗の額に乗っかって眠ってしまう。


「この2人、全く同じ動きをするんだよね。」

「なにか繋がってるのかな?」


気持ちよさそうな寝顔を晒す2人を布団に寝かせ、高谷も自身に用意された布団に滑り込む。


「なんか、修学旅行に来たみたいな……」

「ね。本当は前世で行くはずだったけど……」


前世、という言葉に、高谷は顔を顰める。


バスの中、嫌な雰囲気に包まれた空間。嫌悪感を催すような泥沼。1人を皆が嘲笑う光景を思い出して、高谷は反吐が出る思いだ。


「だから、こっちの方がいいよね。」

「そうだな。」


原野も同じことを考えたようで、高谷の表情を見てその言葉を発した。快斗の気持ちを代弁しているような、そしてその言葉には、明らかにクラスメイトへの怒りが混ざっていた。


「まぁ、もう終わった話さ。今楽しければそれでいい。」

「凡人の考え方だよそれ。嫌いじゃないけど。」


原野も笑って、仰向けに寝る高谷の隣の布団に潜り込んだ。自然すぎるその動きに、サリエル以外の全員が違和感を持たなかった。


「原野ちゃん、だんだん高谷君に近づいてきてるね。」

「最初からそういう気配はありましたけどね。いや~いいですね~。青春って感じがしますよ。」

「そんな年配みたいなこと言って。ヒナさんっていくつなの?」

「22です。」

「へぇ。その身長で?」

「明らかに煽り混ぜて言わないでくださいよ!!」


ニヤつきながら言うサリエルにヒナが食いつき気味に言い返す。


と、そんな暖かな雰囲気に包まれた空間に、うるさいという爆弾が放り投げられる。


アカツキ、参上でござる!!」

「うひゃー!!」


勢いよく窓から飛び込んできたアカツキに、ヒナが押しつぶされる。


幼げな笑顔で、アカツキはライトを見つける。


「ここにござったか。」

「え?え?」

「息子殿!!明日の昼。拙者と手合わせ願いたいでござる!!」

「えぇ!?」


ライトは理解が出来ぬまま、アカツキの言動に流されていく。


「もちろん!!刀は使わないでござる!!息子殿の武器は拳と伺い申した故、拙者も拳で挑むでござる!!」

「ぼ、僕はやるって言ってないんですが………」

「対戦の場はここ!!紙に記しておいたでござる!!正午に開始でござる!!遅れぬよう頼み申すでござる。では!!」

「あ、ちょっと!!」


言いたい事をすべて吐いて満足したアカツキは、ライトの言葉を全て無視して、再び窓から飛び出していった。


「話に聞いてたけど、すごい元気だね。」

「あんなに子供みたいに見えるのに四大剣士?」


高谷と原野が、無造作に開けられた窓を眺めて言う。ヒバリは大きくため息をついて、


「どうするんだ。」

「姉さんならどうする?」

「真っ向から受けるぞ。」

「じゃあ、僕もそうする。」

「ライトさん。絶対独り立ちできないですよね。」


全ての決定権をヒバリに預けるライト。将来が心配になってくるヒナは手を交差する。


「とりあえず、もう夜だし、みんな寝たらどう?」

「そうだね。一足先に寝ちゃった人達の後を追おうか。」


布団の中から呟く高谷に、サリエルが納得して、原野とは逆側の、高谷の隣の布団に潜り込む。


「えっと、男女は分けた方がいいんじゃ……」

「別にいいでしょ。原野ちゃんも高谷君の隣がいいみたいだし……ね?」

「そ、そんなわけ………」


サリエルの言葉を聞いて、赤面した原野がガバッと起き上がる。サリエルはニヤリと笑って、


「えい。」

「わ。」

「ッ!?」


高谷の右腕を、自身の胸に挟むようにして抱きしめた。高谷が小さく驚いて目を見開き、原野が大きく驚いてサリエルを睨んだ。


「隣に寝たくないなら、私が貰っちゃおうかな?」

「ね、寝る!!私も隣に寝る!!」

「え。ちょ、ちょ、腕取れちゃいそうなんだけど!?痛い痛いって!!」


サリエルに対抗しようと、原野も高谷の腕をもぐ勢いで抱きしめる。サリエルも負けじと力を強めると、高谷の両腕からギシギシミシミシと嫌な音がした。


「私は原野さんの隣に寝ますね。」

「私は……どうしようか。天野の隣でいいだろう。」

「僕は姉さんの隣にするよ。」

「私、快斗お兄ちゃんの上にする。」

「リンちゃん。駄目ですよ。快斗さんが窒息してしまいます。特にそこ塞いじゃったら本当に死んじゃいますよ!!」


リンが快斗の上に乗っかって、喉の上に手を置く。ヒナの警告を聞いて、面白くなったヒナは腕に力を込めた。慌ててヒナがリンを止める。


「むぅ。お兄ちゃんは何があっても死なないもん。」

「いやいや呼吸止めたら死んじゃいますよ。リンちゃんの手で快斗さんが殺られるなんて、そんなの見たくないです私。」

「むぅ。分かった。」


注意してくるヒナに頬をふくらませながら、リンは大人しく快斗の上で猫のように丸まって眠る。


「美少女と美女に挟まれるなんて、快斗さんは幸せ者ですね。高谷さんもですが。」

「ちょ、腕から血が出始めてる!!そろそろ離して2人とも!!」

「嫌!!」「嫌だ!!」

「………訂正。あっちは地獄でした。高谷さん。ご愁傷さまです。」

「言ってないで助けてよ!?」


涙目になって助けを乞う高谷にお辞儀をして、ヒナは布団に潜る。ヒバリとライトは既に眠りについており、快斗は変わらず小さな寝息を上げている。


残り、サリエルと原野が寝付くまで、高谷は腕がもげる痛みに悶絶し続けたのだった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「何用だ?」


暗い部屋の中、エリメアは目の前に横たわる女に問いかけた。


「ふむ。何故そう怒っておる?妾にそこまでして会いたくなかったか。」

「黙れゲス鬼。何故ここに俺を呼んだのかだけ教えろ。そしたら俺はここを去る。」


高圧的な態度で、エリメアは目の前の鬼人、鬼人の国の女帝、零亡レイナを睨みつけた。


零亡レイナは軽く笑って、


「そう妾を嫌うな。怒りは人生に不要な感情じゃぞ?」

「うるさい。とっとと話せ。時間稼ぎをするな。」


遠回しに話をしようとする零亡レイナに、さらに機嫌を損ねてエリメアが怒る。


だが、零亡レイナが動じることは無い。


「妾にそこまで高圧的にてきたのは、お前で2人目だ。」

「…………。」

「妾はお前を誇り思っているのだぞ?妾の国の出身者であり、妾と関わりを持つ子供であり、そして何より、妾と同じ鬼人であるからこそ………」

「黙れ。」


殺気の混じった短い言葉が発せられた瞬間、エリメアの足元の床がバリバリと音を立てて崩壊する。


飛び散った破片が零亡レイナの頬をかすめ、小さな切り傷を作った。


流石の零亡レイナも、その魔力の波動でこれ以上はマズいと悟ったのか、


「ふむ。本題に入るとしよう。」


扇子を広げ、そう言って顔を覆った。


「先ず、お前を呼んだ理由じゃが、お前には邪魔をして欲しいのじゃ。」

「何?なんの邪魔をしろと言うんだ。」

「お前と一緒に来たヤツらの邪魔じゃ。」

「あ?」


エリメアは一瞬何を言われたのか分からず、情けなく聞き返してしまった。


「なんでさ。」

「そんなものなんでもよかろう。お前は知らなくても良い。」

「ッ………手伝ってもらってる立場だってこと、忘れてんじゃねぇのか。」


殺気立つエリメアを「まぁまぁ」と宥め、零亡レイナは黒髪をかきあげる。


「お前には感謝しておる。」

「態度で示せ。」

「示しておるだろう。今この言葉を口にしておるではないか。」

「いい加減にぶち殺すぞ。」


鬼気をぶつける。その覇気だけで零亡レイナの頬の傷がさらに深く広くなり、血が吹き出す。


「ふむ。どうしたものか。子供をあやすのは苦労するものよのう。」

「てめぇ……!!」

「まぁ、よい。はなからお前が、この交渉に前向きになるなんて思っていない。」

「何?てめぇ、何言って………」

「『狸乱』」

「ッ!?」


零亡レイナが扇子を裏返す。そこに描かれていたのは金色の狐と黒色の狸。そのうちの狸の目が光り、一瞬にして、エリメアは視覚を封じられた。


「何……しやがる……!!」

「すまんのぅ。哀れな失敗作の鬼、エリメア・グレイシャール。」

「その、名前で……呼ぶんじゃねぇぇえ!!!!」


研ぎ澄まされた感覚で、消えた視覚を補う。


なんとなくしか掴めない零亡レイナの気配に追いすがり、その顔と思われる部位に剛拳を叩き込んだ。


はずなのだが、手応えがなかった。


エリメアは首を傾げる。零亡レイナでない、何かに攻撃を防がれた。それは感触からして生物。だが、生物にあるはずの気配と生気を感じない。


思考しているうちに、防がれた剛拳が強く握られた。咄嗟に引き抜こうとしたが、圧力が強くて抜け出せない。


「ッ!?」


と、エリメアの顔面に、1つの大きな衝撃がぶつかった。鼻血を撒き散らしながら、エリメアは壁に激突する。


全く気配を感じなかった。何に泣くられたのか分からない。『勇者』のパーティーの中でもとりわけ索敵能力に長けているエリメアが気づけないとなると、相当な手練。


「チィッ!!」


舌打ちをして、エリメアが立ち上がる。


気配に意識を集中させ、次の攻撃を防g………


「ぶっ!?」


その前に、またもや何もわからず叩きのめされた。床に顔面が埋まる。


「ぶはっ。」


勢いよく飛び出し、相手がいると思われる方へ蹴りを入れる。が、それはなんの手応えもなく空を切る。


「ぐおっ!?」


次は腹に強い衝撃が放たれた。くの字に曲がったエリメアが血を吐く。


「な、なんなんd!?」


呟きさえ許されず、エリメアの体に、エリメア以上の威力の剛拳が次々と叩き込まれる。


その速度に圧倒され、連打したエリメアも簡単に吹き飛ばされた。


「かは……」


流れ弾が腹にぶち当たり、口からは血が止まらない。


「づ……」


ボロボロになったエリメアの髪を何かがつかみ、持ち上げる。


想像以上の大きさの相手であることを悟り、エリメアは唇を噛む。自信を掴む腕を取り外そうともがくが、エリメアの力を持ってしても、それは取り外せなかった。


「な……ぶっ!?」


無意味にもがくエリメアの身体中に重い一撃がぶち込まれる。


骨がひび割れ、爪が剥がれ、歯が折れ、腕が折れ、内臓が傷つき、吐瀉物が撒き散らされる。


「げぇ………」

「お前は負けず嫌いな小鬼であったのぅ。」

「ぶっ!?」

「みすぼらしい姉妹の姉であったか。」

「ぐはっ!?」

「だが、それでも、」

「ぶあっ!?」

「そこまで登り詰めた精神と度胸。」

「…………。」


意識薄れゆく中、零亡レイナが近づいてくるのを感じる。エリメアがそちらに顔を向けると、


「大儀であった。誇れ。誇るがいい。妾がそれを許そう。さぁ、今この時、妾が認めた1人の鬼人よ。」


零亡レイナはピシャリと扇子を閉じ、


「眠るがいい。」

「ま………」


待て。と発する前に、最後の重撃がエリメアの頭部を襲う。意識が弾け飛び、エリメアは死の手前で気絶した。


全身の力が抜け、人形のようにだらりと落ちる。


零亡レイナは「ふむ。」と納得したように頷くと、


「おいお前。」

「…………。」


エリメアを掴む巨人と言えるほどの大きさの何かに言う。


「よくやった。」

「…………。」


何かはその言葉に頷いて、エリメアを運んでいく。零亡レイナはその後ろ姿を見つめながら、


「息子を取り返す。その為には手段を選ぶことは無い。たとえ、息子が妾を拒もうとも。」


呟きには怒りでも悲しみでもなく、ただ強い決意が込められていた。


闇夜に紛れ消えゆく女帝のその背中は、誰が見てもこう感想を述べるだろう。


『死のうとしてる』と。

作「あまり酒に詳しくないんだが、快斗は何が好きだ?」

快「ラム酒とか?でも1番はルーネスさんの作った酒だな。」

作「そうか。」

快「あと、スピリタスは飲んでみてぇ。」

作「あれ、アルコール濃度96%だぞ。」

快「何事も挑戦が大事。スピリタスもってこい!!」

作「死ぬ気かお前!!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ