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罪深い男の想像話  作者: 病み谷/好きな言葉は『贖罪』
《第一章》 怒る彼は全てを殺し尽くす
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温泉騒動、『覗き流血事件』

「お待ちしておりました。」

「ん。ちょっち遅れたが……まぁ、まだあいつら来てねぇし、別にいっか。」


月が浮かぶ夜、快斗達は記されていた宿の前に来ていた。既に流音が浴衣で待機しており、漂ってくる香りから察するに、夕食も出来上がっているのだろう。


と、流音が快斗達の中に紛れる人物を発見して目を見開いた。


アカツキさん。」

「おお!!流音でござるか!!久しいな!!」


名前を呼ばれたことが嬉しかったのか、アカツキは流音に勢いよく飛びついた。

胸に顔を填め、流音はその矮躯を優しく抱きしめる。


「快斗さんと師匠の図と同じですよあれ。」

「嘘。俺って抱きつく時あんな感じだった?」

「正確には、もっと鼻の下が伸びていました。」

「俺が変態みたいに言うなよな。」


ルーネスに抱きつく時の自身の幼稚さに何となく呆れ、後ろからやってくる気配に目を向ける。


「遅かったじゃねぇの。」

「ごめんごめん。原野とサリエルがあれが欲しいこれが欲しいってうるさくてさ。」

「あ!!高谷君人のせいにしないの!!高谷君だって、そこらの木刀見つけて欲しい欲しいって言ってたじゃない!!」

「修学旅行生かよ。」


なんとも子供らしい一面を見せた高谷が原野の口を慌てて塞ぐ。まだ何か言いたげな原野を抱えて、高谷は「先に行ってるよ!!」と叫んで宿に入っていった。


サリエルは「ふふ」と笑って、


「みんなお茶目だね。」

「そのみんなには俺も含まれてんのかな。」

「ヒバリさん以外は大抵含まれてるよ?」

「ええ!?私もなんですか!?」


自身が含まれてることが心外だったのか、ヒナは反発する。だが、


「でもヒナお姉ちゃん、背ちっちゃいから子供じゃない?」

「んなっ!?」

「確かに。」

「ええ!?」

「背を伸ばす努力をしなかった、怠惰な子供だね。」

「なんでそこまで言われなきゃ行けないんですか!!」


リンの言葉に乗っかった快斗とサリエルに、ヒナは涙目で叫んだ。「悪かった。」と快斗は呟いてリンを抱き上げ、


「んじゃ、宿に行きますか。アカツキ。お前はどーすんの。」

「拙者はもう少し流音に甘えるでござる!!あとから追いつくので心配は無用でござる!!」

「なんか敵を相手取る時に先に行けって言ってる見てぇだな。だけど胸に顔埋めてるからだせぇ。」


流音に抱きついたまま顔だけこちらに向けて言い放つアカツキに苦笑して、快斗達は宿に入っていった。


このメンバーに何故かアカツキが混じってる事に、誰も疑問を抱かなかったのは何故だろうと、快斗は1人不思議に思ったが、何を考えても今は無駄と考え、その思考を切り捨て、肩車されたリンとじゃれながら、温泉へと向かうのだった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「快斗お兄ちゃんはこっちに来ないの?」


風呂の入口前、男と書かれたのれんと、女とが書かれたのれんを前に、リンは涙目で快斗を求めていた。


「しゃーね。リンが俺を欲するなら、俺をそれに従うっきゃn…………」

「駄目だよ!!」

「駄目です!!」

「ぐおっ!?」


しょうがないと言った感じで、自然に女湯に侵入しようとした快斗を、原野とヒナが魔力波で吹き飛ばした。


先に居た高谷とライトが、快斗を受け止める。


「クソ。行けると思ったんだけどな。」

「俺は最初から無理だと思ってたよ快斗。」


無念とばかりに体の力を抜く快斗を引きずりながら、高谷とライトは男湯に入っていった。


数分後、


「あれ。お前意外とちゃっちいな。」

「う、うるさいなぁ。」

「まぁ、ライトは想像通りだったけどな。」

「え?何がですか?」


タオルで股間を隠す高谷と、なんの話しをしているのか分からないと言った様子のライトが、ゆっくりと湯船に浸かっていく。


空気が一瞬で緩んだのを感じた。


「ん。やっぱ風呂ってのはいーねー。疲れと汚れ取れるし、女の体見れるし。」

「一つ余計なのが入ってたよ快斗、って何してんの!?」


露天風呂の壁。男湯と女湯を分ける竹でできた壁に、快斗が飛び乗った。


「あ!!快斗お兄ちゃん!!」

「おーリン!!」

「ええ!?快斗さん!?」

「な、なんでこっちみてるの!!!」


湯気に紛れてチラと見える原野達の体。下心丸出しでそれをガン見する快斗の顔面に、勢いよく鎖がたたきつけられた。


「ぐほぁっ!?」

「駄目だよ快斗君。女の子の体を覗いちゃ。」


壁から落ちて、頭から血を流す快斗に、タオルを巻いたサリエルがニヤつきながら注意をしてきた。


「原野ちゃんは体を見せる相手を決めてるんだから。」

「あー、そうだったな。」

「ちょっとー!!聞こえてるんですけどー!!」


小さな声で話すふたりに、壁の向こう側から大きな声がかけられた。


「俺が見ると言ったら、原野駄目ならエリメアとヒバリぐらいしかいねぇんだが……」

「あの鬼人の人なら、体洗って出ていったよ。熱いのは嫌いなんだって。」

「あんなに暑苦しいのに?」


流血の収まった頭をかいて、快斗は意外とばかりに目を見開く。それから、近くにあるサリエルの胸に目を向ける。


「ん。結構でけぇじゃん。」

「こーら。そんなに見ないの。」

「ぶっ!?」


優しげな雰囲気の言葉と裏腹に、またもや顔面にたたきつけられた鎖の攻撃には、明らかに怒りが混じっていた。


塞がった傷からさらに血を流して、快斗は勢いよく湯船の中にダイブする。


「ぶはっ。クソ。俺ぁ諦めねぇぜ。せめてヒバリの胸ぐらい覗かせろや!!」

「はぁ………」


再度壁を越えようとする快斗を、高谷が後ろからがっちり捕まえる。


「んなっ!?裏切ったな高谷!!」

「別に俺は快斗みたいな変態思考を持ち合わせてはいないよ。それじゃサリエル。俺達はもう上がるね。ライトも行こ。」

「はい。」

「うん。分かった。」

「ちょっち待てぃ!!美人の素足は!?美人のへそは!?美人の巨乳は!?おいおい!!まだ早ぇって!!まだ俺しっかり湯につかってねぇ!!」

「はいはい。騒がないで快斗。」


肥大化し、赤い甲羅を被った高谷の左腕に捕まえられ、快斗は無理矢理男湯を退場させられた。


残ったサリエルは「はぁ……」とため息を着くと、原野に向かって微笑んだ。原野が何かと首を傾げると、サリエルは人差し指を上げて、


「高谷君のアレ……見えちゃった。」

「ッ!?見たの!?見ちゃったの!?」

「ついでに快斗くんのもね。まぁ、あれは不可抗力だったけど。て、うわっ!?」

「見ちゃったの!?なんで!!なんで!?私より先に!!」

「私より先って………」


原野が勢いよくサリエルの肩を掴んで振りまくる。サリエルの首がもげそうなほど揺れる。


「元気なものだ。」

「そうですねぇ。多分いちばん元気なの快斗さんの快斗さんだと思いますけど。」

「全くだ。」


湯船の中で疲れを取るヒバリとヒナが、騒ぎ立てる原野とサリエルを見て微笑む。


と、露天風呂の入口が勢いよく開けられた。全員が音につられてそちらを見ると、


「うむ!!今宵は拙者でも珍しく疲れたでござる。故に!!全力でそこに飛び込ませてもらうでござる!!」


真っ白な髪を盛大に揺らしながら、真っ裸のアカツキが風呂の真ん中に飛び込んだ。大きな波がたち、ヒナが「うきゃー!!」と叫びながらそれに飲まれていった。


押し寄せる波を風で押し返しながら、ヒバリは元気にお湯の中を泳ぎ回るアカツキに問いかける。


アカツキ殿。」

「む。なんでござるか『剣聖』。」

「あなたは昼間、ライトのことをつけ回っていたように思えた。その理由を聞きたい。」

「む。」


真っ直ぐに質問をされたアカツキは腕を組んでから、


「簡単なことでござる。」

「簡単なこととは?」

「単に、拙者とライトで手合わせをしたかったのでござる。拙者の私欲でもあり、拙者の任務でもある、拙者の魂の使命でござる。」


無駄に大袈裟な発言内容に、ヒバリは眉を顰めて困惑する。


私欲、というのは理解ができるのだ。多少、ブラコン補正が効いているが、ヒバリはライトの実力を疑ってはいない。


闘いたいと思われるのは、特に不思議に感じることではない。問題は次の言葉だ。


アカツキは任務と言った。ライトとの闘いを。


誰に命令され、誰に求められたのか。ヒバリにそれは予想できないが、四大剣士に命令できる人物は限られる。


少なくとも、この国の女帝なら命令することは可能だろう。だとしたら、なんのために……。


ヒバリはじっとアカツキを見て止まる。悩めば悩むほど、無意識に気配が鋭く繊細になっていく。


「考えるな。『剣聖』。」

「ッ…………」

「拙者はただ、闘えと言われただけでござる。それ以上のことは拙者はしないでござる。他の者が何をしでかすかは知りもうさぬが。」

「………。」


考え込むヒバリに、アカツキは小さく微笑んで答えた。微笑みが少し、悲しみに満ちているような気がした。


が、直ぐに先程までの天真爛漫な笑みへと戻り、アカツキは湯船から飛び出して、出口に手をかける。


「先のことを考えたところで、それが訪れないことは滅多にないでござる!!考えるのはどう避けるかではなく、どう乗り越えるか、それを考えるでござるよ『剣聖』!!」


白髪を大きく揺らして、アカツキはそう答えて扉から出ていった。


残った物は静寂。だがその静寂が、ヒバリには妙にうるさく感じた。


様々な感情のぶつかり合いが、不気味な音を立てて今も続いている。どうすればそれが消えるのか、ヒバリは思考する方向性を見失いながら、静かに湯からあがる。


ヒバリは本能的に、快斗の歌を求めていた。

昔の人間の喋り方が分からない……

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