表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
罪深い男の想像話  作者: 病み谷/好きな言葉は『贖罪』
《第一章》 怒る彼は全てを殺し尽くす
101/369

夜になるまでの間、一行は別行動をすることとなった。


「俺とリンとヒバリとライトとヒナ。で、高谷と原野とサリエルとエリメア。でいいんだな?」

「うん。夜7時にここに集合でいいんだね?」

「そ。俺はもう覚えたからお前が持ってけ。」

「分かった。」


宿の場所と名前が記入された紙を高谷に渡して、快斗達は繁華街に向かう。


「んじゃ、また後で。」

「後でね。」


大声で別れを告げて、いい匂いを漂わせる繁華街に誘われるように走っていく。


「わわわ!!皆さん早すぎです!!」

「おっせーぞヒナ。」

「僕が背負います。」

「ひゃ!?」


走り出した快斗達に置き去りにされかけるヒナを、ライトが持ち上げて背負う。


「ヒナお姉ちゃん。私より下だね。」

「おいヒナ。幼女よりも下にされてるぞ幼女に。」

「なんでリンちゃんはそんなに早く走れるんですか!?体力と脚力がおかしいですよぅ!!」


巨大戦斧を背負いながらも、平然と快斗達と並走するリンに驚愕して叫ぶ。


そんな不思議な集団に、周りの鬼人達はなんの感情も感じられない視線を向ける。


「?」


その瞳の奥に何かを感じて、しかしどうでもいいと、快斗はこの時それを切り捨てた。


それが後に、快斗の頭を大いに悩ませるとも知らずに。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


鬼人の国には、多数の塔が設置されている。


理由は、単に国を見渡せると言うだけであって、特に意味は無い。その上に、自力で登れるものたちにとってはそうではなかったが。


「ふむ。あれがそれでござるか……。」


塔の頂点。咲き誇る藤の花の隙間から、アカツキは髪飾りをヒバリに試着させて楽しむライトを見つめていた。


「不思議なものでござる。女帝殿には似ても似つかない上、髪を伸ばして1つ結びなど、姫方の格好ではないか。」


可愛く首を傾げて、アカツキは自身の白髪を撫であげる。


「して、どれほどの力があるのでござるか。」


白い瞳に強い闘志を抱く。


「………もう少し見るでござるか。」


アカツキは楽しげに笑うライトと、それに釣られる白髪の少年を見つめ、その行動を少し観察したいと考えた。


と、ライト達は一通り店を漁って満足したのか、次は湯気のたつ蕎麦屋に入っていった。


「ふむ。思えば拙者も腹が減ったでござる。ここはひとつ、観察という名目で食事をするでござるか。」


アカツキは塔から飛び降り、懐に金銭があることを確認して店に入っていく。


「む。いたでござる。」


ライト達は店の1番左奥に座っている。アカツキは右のカウンターのような形の席に座った。


「店主イチオシの蕎麦を1つ頂きたいでござる。」

「はいよ。」


やる気のなさそうな店主は、アカツキの言葉に面倒くさげに答えて蕎麦を作り始める。


「ふむ。手際が良いでござる。数ある蕎麦屋を見てきたでござるが、その態度に反して、腕前は折り紙付きかもしれないでござる。」

「そりゃどうも。」


店主はその言葉にも同じようにぶっきらぼうに答えて、アカツキの前に1杯の蕎麦を置いた。


アカツキはズズズと音を立てて麺をすする。


「美味。」


一言呟いて、アカツキは夢中になって蕎麦を平らげる。膨れた腹を押え、アカツキはハッと思い出したようにライト達がいた方向を見ると、未だライト達は蕎麦を啜っている。


「ふむ。まだでござるか。なら、先に出て出待ちするでござるか。そこで持ちかけるでござる。」


アカツキはテーブルに代金を置き、のれんを勢いよく飛ばして元気よく飛び出して行った。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「なんなんだ。あのポニテの美少女は。」

「わからん。ただならない気配だったが……」

「こっち見てましたね。」


アカツキが出ていった直前、楽しげに話す演技を辞めた快斗達は身を寄せて話し合う。


「ライトさんの事ずっと見てましたね。」

「まさか、ライトを女子って勘違いして狙ってるレズっちなのか!?」

「絶対違いますよ。」

「いや、ワンチャンある。」


先程購入した、ライトの金髪を結ぶ蝶をモチーフにした髪飾りを弄りながら快斗が言う。


否定したヒナも、改めてライトを見ると「そうかもしれませんね。」と納得してしまった。


「ぼ、僕は姉さん以外の女性は好きになれないです……」

「それはそれで超大問題なんだが?」

「?何が問題なのだ天野。」

「快斗さん。この姉弟はもうダメですよ。」

「シスコンブラコンの末期だな。」


引き気味に2人から距離をとるヒナと快斗。膝の上のリンは首を傾げている。


「気配は出口に残ってるな。多分、この中の誰かを待ってる。」

「あれだけライトを見ていたということは、ライトを待っていると考えていいだろう。」

「どーする?こういう時って裏口から出た方がいい?」


快斗が空になった丼を置いて立ち上がる。


ヒバリは「待った。」と声を上げ、


「敵意はないようだ。むやみに避けるものでもない。」

「敵意を隠してる可能性は?」

「低い。風に乗ってくる敵意があまりにも少なすぎるからな。」


出口を指さすヒバリの言い草に、快斗はどうしようかと頭を捻る。


「別に出ても大丈夫じゃないですか?」

「なんでだよ。」

「だって敵いないんでしょ?それに戦いになったら超高速で逃げて流音りゅうねさんにチクればいいんですよ。」


ヒナはそんなことを言うが、快斗はどうにも嫌な予感しかしない。


「何かあれば、私が斬ればいい。相手は刀の使い手のようだ。」

「剣と刀の戦いとか、面白すぎ。まぁ、別に大丈夫なのか?」


快斗は疑心暗鬼になりながら、退所を促すヒバリの意見に乗っかった。


「しゃーない。ガチで何かあったら全力でライトを守るっきゃねぇ。」

「ぼ、僕はそんなに弱くないです。」

「まぁまぁ。ここは快斗さん達に任せましょうよ。ほらあの人、絶対に『お前の笑顔は俺が守る』って言おうとしてますよ。」

「なんで分かったんだ。」


冗談を先に見切られた快斗は苦笑い。店主に代金を払って外に出る。


のれんを掻き分け、快斗は警戒しながら大通りまで出る。それに続いて、ライト達も店から出てきた。


それから数秒間、周りに気を配る。あり1匹でさえも逃さない程の覇気。その中に、あの美少女の気配はなかった。


「ふぅ……」と息を着いた快斗は振り返って、


「大丈夫見てぇだ。なんだったんd……」

「天野!!」


完全に油断したところで、快斗の視界から死の刃が迫る。ヒバリが声を上げると同時に気がついた快斗は、恐るべき反射神経でその刃を両手で挟むようにして受け止めた。


が、その勢いは強く、また、不自然に手のひらが熱くなった。


「づ!?」


刃をよく見ると、さっきまで冷血な氷のように冷たかった刃が赤熱化している。


快斗は反撃しようと、刀を持つ者に目を向けると、


「はっ!?」


やはり、刀を持っているのは先程の美少女だった。しかし、先程とは決定的に違うことがある。


髪と瞳が真っ赤なのだ。真紅に染まる長髪は、爆炎を思わせる雰囲気であり、瞳には間違いなく闘志が漲っていた。


「む?」


と、その少女と目があった。瞬間、美少女は首を傾げたあと、ハッとした表情になり、刀を引いた。


「すまぬ。人違いだったでござるな。拙者が狙う殿方の強さと同等だった故、すまない。」


美少女は刀をしまい、頭を深く下げて謝罪をした。


快斗はまたもや驚いた。その謝罪の行為にでは無く、髪の変化に。


真っ赤だった髪は、ゆっくりと色を失っていき、最終的に、先程の真っ白な紙へと元に戻った。


「む。手の傷の治療費は拙者が出すでこざる。」

「いんや、別にそんなことしなくったっていーよ。」


懐を探る少女に、快斗は魔力で傷が塞がっていく手のひらを見せた。少女は目を見開いて、


「要らぬ心配をしてしまったな。重ねて謝罪するでござる。」

「ん。別にいちいち謝罪しなくていいんだが……」


再び下げられた頭に、快斗は頬をかいて笑った。


「んで?あんたの狙ってるやつって?」

「む。それは言えないでござる。これは拙者と女帝殿との約束故、口外は禁止でござる。」

「じゃあ、1個確認。見た目金髪の女みたいな男じゃなねぇよな?」

「………何故わかったでござるか……!?」


大袈裟に後ずさりする少女。


「そなた、もはやエスパーでござるか!?あの伝説のエスパーでござるのか!?そうであろう!!それで拙者の心を読んだのか!!」

「いや、別にそんなんじゃねぇんだけど……」

「それを教えて欲しいのでござる!!拙者、魔術はどうも苦手故、専門の教師に教わってござるが、未だ理解できないのでござる。しかしエスパーは魔術ならぬ能力と聞いた。それを教えて欲しいのでござる!!」

「だから違ぇって!!」


目を輝かせて迫る少女に、快斗が叫んで押し返す。


「ヤバい。想像と全く違った。ミステリアスな白髪美少女路線だと思ってた。」

「元気な方ですね。」


落胆する快人に、ヒナが少女を間近で見つめた。


「ここまで元気だと逆に邪魔だな。なぁ、2人とも……2人とも?」


快斗が苦笑いで振り返ると、ヒバリとライトは硬直したように全く動かずに、少女をじっと見つめていた。


「どったの。」

「快斗さん。この人はすごい人ですよ。」

「何が。」

「天野は知らないだろう。この世界に来てまだ間もない。」


ヒバリは咳払いをして、少女を真っ直ぐ見つめると、


「四大剣士が一人、斬嵜暁。神童と呼ばれた、刀の使い手だ。」

「………ええぇ………」


意外すぎる答えに、驚きも何も現れない快斗は少女、暁に視線を向けると、暁はにっこり笑って、


「いかにも!!拙者は最強にして最小の剣士!!斬嵜暁でごさる!!拙者の招待を見破るとは、やるな『剣聖』!!」

「見た目でわかったぞ。」


飛び跳ねる暁に、ヒバリは呆れてそう答えた。


快斗は「はぁ……」とため息をついて、


「また、面倒くせぇのに会っちまった……」

「快斗お兄ちゃんは悪魔だから、こういう出会いはよくあると思うよ。」

「いつそんな正論が言えるようになったんだリン。」


宇宙一正しい正論を叩きつけるリンの頭を撫で、快斗は暁を見つめる。


そして顔を顰めて、


「頼むから面倒事起こさないでくれよ。」


と、小声で祈ったのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ