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罪深い男の想像話  作者: 病み谷/好きな言葉は『贖罪』
《第一章》 怒る彼は全てを殺し尽くす
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鬼人の国、到着。

暗い暗い。風も入ってこない。光を届かない。


だが、複数の人間が話しているのが聞こえてくる。伝わるのは振動。馬車に乗せられていることは直ぐにわかった。


蹲り、人間達の隙を伺い、魔力を高める。いつしかこちらに意識を向ける人間達に対抗しようと、戦闘準備を怠らない。


そして、魔力が十分に高められたところで、再び人間達の隙を伺って………


「おい、キュー?魔力高めて何してんだ?」

「キュイン!?」


と、フードの中で『誘拐から逃げ出すごっこ』をしていたキューを、快斗が取り出した。


「キュ、キュイ~~。」

「なんだよ。露骨に残念そうな声出して。」


持ち上げられてモフられるキューが、目を細めて快斗を見つめる。苦笑した快斗はキューを頭に乗せて、馬車の外を眺める。


かなりの速度なのだ。地面が横に流れていくのが速い。遠くに見える山も、少しずつ右にズレていく。


だというのに、その空間に1つだけ動かない物があった。それは、


「エリメア。あんまり走るなよ。汗かいたら馬車には入れないからな。」

「問題ない!!俺は元からその中に入ろうと思ってなかったからな!!」

「なんだコイツ。」


ポニーテールを盛大に揺らしながら、エリメアが馬車と並走する。


快斗は「すげぇな。」と感心しながら、際どい服装のエリメアのポロリを期待してじっとその体を眺める。


「なんだ?そんなに俺を見まくったりして。」

「いや、別になんでもねぇ。ただよく走るなぁって思っただけだよ。」

「いつだって体は鍛えておくべきだぞ!!筋肉を重点的に痛めつけなくとも、体力だけは絶対に必要なんだ。体力が上がれば、自然に魔力量も増える。仲間を大切に思うならば、まずは自身を虐めるんだ。さぁ、天野快斗!!お前も仲間を守る立場ならば、俺と一緒に走らないか!!」

「丁重にお断りするぜ。」


楽できる時は楽する主義の快斗は、エリメアの誘いをスパッと斬り捨てた。


「ふぅ………脳筋野郎が入ったな。大丈夫なのか?」


頭を抑えて、快斗は唸り続ける。どうも嫌な予感が尽きないのだ。特に、エリメアを見ていると。


「はぁ……」


ため息を着く快斗は、気分転換に場所の前方に向かう。


「?快斗さん。危ないですよ?」

「ん。大丈夫。」


ライトから馬術を教わり、今では馬と完全に仲良くなったヒナが、手綱を握りながら快斗に声をかける。


快斗は手をヒラヒラと振って軽く答えると、馬車から飛び降りた。


「!?快斗さん!?」

「だから大丈夫だっての。」


本気で仰天したヒナの頬が優しく抓られる。何かと目を向けると、黒い翼で羽ばたいて飛び続ける快斗が目に入った。


「お、脅かさないでくださいよぉ。てっきり心中だと思ったじゃないですかぁ。」

「こんなタイミングで心中なんかしねぇよ。それにここから落ちたところで、俺は死なねぇし。」


正直な意見を叩きつける快斗に、ヒナはさらに仰天する。


そんないつも通りの反応に、快斗はまたため息をついて上空へ浮かび上がる。


「ヒバリは何してんだ?」

「ただ、風を感じてるだけだ。」

「黄昏てんなぁ。」


馬車の上に胡座で座るヒバリの隣に降り立つ快斗が、靡くヒバリの長髪を眺めてふと首を傾げる。


「ただの黒色じゃねぇ。ちょっぴし緑が混じってんな。」

「私の髪か?意識したこと無かったが。」

「髪質めっちゃ良さげじゃんか。綺麗なもんだな。」

「そ、そうか?」


髪を撫でて呟く快斗に、ヒバリは困惑した表情を見せる。


「ヒバリはポニーテールが似合うかもな。」

「1つ結びのことか?」

「そ。シュッとしたイメージになるぞ。いつものお前みたいにな。」


快斗はサラサラの髪の毛を手放す。ヒバリは手放された髪を自身で掴み、


「天野はその髪型が好みなのか?」

「似合う人にはそうしておいて欲しいって感じだな。ツインテールが似合うならそれにして欲しいし。」

「そうか。」


髪が風邪で靡く。腰に着いた風龍剣を撫でるのは、心を落ち着かせるための癖だ。


無意識に起こるそれをライトは知っていた。だからその反応を見せたことに驚きを覚えた。


「姉さんまさか……」

「快斗さんとヒバリさんは仲がいいですねぇ。これは生涯のパートナーになる可能性も高いのでは?」


目を見開くライトの横で、ヒナは面白いというふうに笑って冷やかした。


「俺的にはヒバリはタイプのど真ん中だからそうなりたいんだが……」

「?」


快斗の発言に更に困惑した表情を見せたヒバリを見て、快斗は堪えきれずに笑ってしまう。


「伝わるのはいつになるかな?」

「るせぇよ高谷。」


またまた冷やかすように笑いかける高谷に、快斗が手を振って答えた。


「そんなことより皆。前のあれを見て。」


苦笑いのサリエルがそういうと、皆が馬車の進む方向へと目を向ける。


そこに見えた景色を見て、快斗は息を飲んだ。


「あれが………」


見えるのは橙色の世界。イチョウや紅葉が可憐に組み合わさり、流れる清流には落ち葉が浮かんで静かに流されている。


人々は着物を着揃え、下駄や草履を履き、布や食べ物を持って走り回っている。


そしてなんと言っても、1層目立つのはその再奥にある建物。


法隆寺などには5重塔があるが、この世界のものはスケールが違う。


ざっと数えて60重の段がある巨大な建物だ。雲に届きうる高さの建物は、異様なほどの魔力を放っている。


ぞくりと、快斗の肩が震える。それは、何か嫌なものに逆なでされたような。異様な感覚だった。


高谷とサリエルも、それを感じたようで、


「快斗。」

「快斗君。」

「……あぁ。わーってる。」


険しい表情になる3人を、他の皆は不思議そうに見つめる。


「高谷君。何かあったの?」

「うん。確定とは言えないけど……」


心配そうに問いかけてくる原野に答えて、高谷は60重塔を睨む。


「確定とは言えない。だけど……」

「これは、何かあるみてぇだな。」


今回のライトの呼び出しに隠された考えを、天才的な頭脳で考え込む快斗。


重々しい雰囲気になった所で、ヒナが言い出す。


「あの、どうします?何かヤバいのがあるみたいな雰囲気なんですけど、行きます?ヤバいのがあるなら、私は絶対に行きたくないんですけど……」

「………分かんねぇ。何があるのか知るには行ってみるっきゃねぇ。」


快斗は手を叩いて、


「ドンと来いだ。真っ向から斬り殺してやる!!」

「そんな物騒な言葉を言うほどなんですか!?」


鞘に収まった草薙剣を掲げて宣言した快斗に、ヒナがイヤイヤと首を振る。


が、そんな快斗の雰囲気に乗っかったライトが馬を操って進めさせる。


「あ!!待ってくださいライトさぁん!!この先はまずいですよぅ!!快斗さんのあの佇まい見てください!!完全に死地に乗り込む戦士の顔ですよ!!」

「快斗さんならきっと大丈夫です。僕も、全力で行きます!!」

「なんでそんなに好戦的なんですか!?」


燃えたぎる闘志を抱く2人の少年に圧倒され、ヒナは渋々黙り込んだ。


高谷と原野は呆れ、サリエルとヒバリとリンは楽しげに笑い、エリメアも同じように闘志を燃やし、キューは快斗の頭の上で寝ている。


なんとも様々な反応を見せながら、一行は鬼人の国へ。


陰謀と裏切りにまみれた世界は、彼らを快く迎え入れた。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「うまうまですね!!」

「懐かしいな。」

「そうだね。」

「美味しぃ~!!」


ヒナと快斗と高谷と原野が、勢いよくうどんを啜る。ヒバリ達は初めての麺に興味津々で、既に一行は合わせて10数杯を食べ尽くしている。


「お気に召したようで何よりです。」

「ん。奢りだなんて悪ぃな。」

「いえ。お気になさらず。」


そんな快斗達を微笑ましげに見つめる着物の女性。黒い髪を美しい髪飾りで纏めた美人。


外交担当の鬼人、流音りゅうねは、快斗達を快く迎え入れ、60重塔の前、冒険者のギルドの中で食事を提供してくれていたのだった。


古来日本のような木造の美しいギルドは、沢山の鬼人の冒険者達で賑わっていた。


なぜギルドで食事をしているのかと言うと、単に場所がなかったのである。


着く時間は曖昧なものだった。エレストから鬼人の国までは馬車でおよそ5日とされているが、今回の馬車馬は馬の中でも体力が多いブランド馬で、乗っているのも全員戦闘員ということで、予定よりも大幅に早く着いてしまったのだ。


「すまねぇ。」

「お気になさらず。」


度々謝る快斗に、流音りゅうねは微笑んで言い返す。


「つか、これからどうする?あと2日は女帝にゃ会えねぇんだろ?」

「零亡様は未だ準備中とのことなので。」

「化粧してんのかな。」

「快斗さん、化粧は長くても30分で終わるものですよ。」

「はい。零亡様は化粧中でございます。」

「長すぎません!?」


ヒナが、驚愕でツッコミをいれずにはいられない。


「やっぱそうだよな。」と納得する快斗は、空になった丼をドンと置いて、


「んじゃ!!それまでここの名物、温泉、飯!!全部楽しみますか!!」

「いいね。」

「賛成!!」

「気分転換にはちょうどいいな。」

「姉さん!!一緒に髪飾り買いに行こう!!」

「快斗お兄ちゃん!!髪飾り買って!!」

「おわっ!?」


快斗の提案に乗った全員が、ギルドを勢いよく飛び出していく。通り過ぎる一行に、冒険者達は驚いて道を開ける。


「天野様。こちらが皆様に用意された客室でございます。」

「ん。分かった!!ここ行けばいいんだな?」

「左様でございます。」

「んじゃ、またよろしく!!」


旅館の場所と名前が記入された紙を持って、快斗は走り去っていく。


その背中を、流音りゅうねは微笑ましげに見つめていた。

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