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異世界制作進行:高山花  作者: TaK@2516
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第四章 そして私はアニメの作り方と美味しいお酒の飲み方を教わるのであった。

 不思議な気分だ。辺りを見渡すとそこは本当に私たちが暮らしている街とは違う、よくアニメに登場する城下町、といったところであろうか。

 昨日見たアニメ、浪人生の俺が異世界で無双主席になった巻!の一話で出てきたその場所で間違いない。

 モブキャラがひったくりにあい、それをヒロインAが取り返そうとしたところに主人公が出てくる。

『観念しなさい!』

 その断片的な部分を見て主人公がヒロインAを強盗だと勘違いして、そこらへんにあった樽を投げて撃退しようとしたシーンがあった。

 その樽に水が入っていてそれを浴びたヒロインAが水浸しになって下着が透けるみたいなお決まり展開

 私は水がたくさん入った重い樽をどうやって持ち上げたんだよってテレビを見ながら一人笑っていた。

 その後主人公とヒロインAがバトルを始めて、何だか知らない力で主人公が圧勝し、

『その力、学校で使おうとは思わないかしら』

 たまたまヒロインAが理事長の娘で主人公は入学する~みたいな場面で一話が終わったはずだ。超展開すぎて私は着いていけなかった、今ほどでは無いけど。

 零の部屋から突如飛ばされた私はまず聞くことにした。

「今って零しかいないの?」

「アニメは一人で作るものじゃないんだ。紹介する。それにこの格好じゃ目立って歩こうにも好きに歩けないから別の衣装にする」

 辺りを見渡すと私たちはそこにそぐわない格好しているのに気づく。なんかスーツ着ている金髪のキャラって謎の強キャラ感あって良いと思うけど。

 私のブルゾンは凄く浮いてるから違うの着たいな……。

なにそれ、変な恰好!って言われるお約束展開を演出しないためにも早く着替えたい。

 周りに見られないように身を小さくするように両腕を抱えて歩く。

 にしてもきれいな街だ。あまり高くはない建物、それがある程度の均一さを保ち並んでいる。雰囲気がすべて一緒?一緒の建設会社が建てたのだろうか、大儲けですね。

 夜の風変わりした、ダークで街灯の仄かな明かりを求め歩くのも楽しみだ。ご飯は美味しいのかな?ワインは香るかな。

 観光に来たような気分でいる。だめだめ、今回は仕事を見学してそして内定を勝ち取るんだ!遊びでやってるんじゃないだ!

 まあ、でも少しくらい……SNSとかで注目集めそうだし……ダメダメ!そんなのアップしたらそれこそ最近流行りのバカッターしかり、バイトテロってやつだ。

 内定どうのこうのって話ではなく、犯罪者になってしまう。

 落ち着け、落ち着け。この景色は心というフォトアルバムに収めて、自分一人でしか見れない状態にしないといけない。

「……写真に撮っても良いが、意味はないぞ。戻ったら無くなってしまうからな」

「べ、別に撮ろうなんてしとらんし!」

 取り出そうとした上着のポケットにあるカメラを急いで奥に突っ込む。あれだね。何かあったら携帯を取り出して写真を撮りたくなる、若者特有の衝動……依存症だ。

「着いたぞ」

 零が足を止める。私も一緒に足を止める。

 分からないが周りと少し雰囲気が違う気がする。色が少し違う?生きている?何か分からないが少しの違和感がある。

 例えるならゲームで入れる家と入れない家みたいな。

 ジャケットのポケットから古臭い鍵をカチャカチャ鳴らしながら取り出すと差し込み、戸を開く。

「戻ったぞ、プラス客人付きだ」

「お、おじゃましま、す」

 三回目のおじゃまします。新喜劇並みに決まりきった文言である。

 室内は……これがナーロッパって言われる所以か……本当中世ヨーロッパ好きだよね。

 でも少し違う……酒場風のバーカウンターに、広い木製の机。そして暖炉!これだよこれ、最高だよね、暖炉。

 薪が割れ、火の粉がパッチと跳ねるあの感じ、室内でパッチて音が聞けるなんて最高かよ。

「おかえりなさい、監督」

 奥のカウンターに座り、この場所に不釣り合いなタブレットで何かをまとめていた女性。タブレットを置くと清純で落ち着いた印象で柔らかい笑みを浮かべこちらを見る。

「は、はじめまして……」

「はじめまして、演出を務めております。田中二見です。よろしくお願いいたします」

 ニ見さんは私の緊張を解すように優しい声音で丁寧に名乗る。どんなすばらしい方なんだろうか。

 名乗れたからには返さないとな……なんて名乗ろう?

 怪しい者じゃないけど名乗る肩書なんて無いし。

「浪人でそうろう、高山花でそうろう?」

 決まった、浪人って事でなんかそれっぽい感じになったはず。それにこの変な喋り方で印象が付いたはず。

「聞かれても困るんだが……しかも恥ずかしそうに」

 零は呆れたと言わんばかりの態度で頭に手を当て、目を細めていた。

「ちょっと!一生懸命考えたんやからそんな風に言わんでよ!」

「その考えた、みたいな思考がまる分かりの言葉が恥ずかしいんだよ。素直に言えよ、ニート!って」

「誰が、ニート!なんよ!今は人生のターニングポイントで慎重になってるの」

 ちょっと小ばかにしたような言い方がムカつくし!

 確かに、一回目のそうろう辺りで死んでしまうくらい恥ずかしかったけど!

 あ~もうなんでそんな余計な事しちゃうんだろう!個性、個性言ってやって色々やってるから……もう!

「ふふ、監督面白い方を呼んできましたね」

 その守りたい笑顔、ニ見さん、あなたが笑ってくれたならそれで良いです。

 にしてもこの人どこかで見たことある気がする。どこだっけな……?

 まあ、そのうちどこかで思い出すだろうから今は良いか。

「んだよ、人が休んでるって時にドタバタ騒ぎやがって」

「良いじゃん、自分もいつもうるさいんだから」

 階段から二人降りてきた。燃える激しい炎のような髪色、そして特徴的な二本の髪が上に跳ね、刺さるような鋭い目をしている……おぉ!

「ライガ!」

 竜人族で最強と言われた剣士の一人!アレンの右腕としてレイと激烈な戦いを繰り広げたイグナイトクレストでも屈指の人気キャラ!

 最後は故郷の村に帰って静かに暮らしたみたいなモノローグが流れ消えていったんだっけ。あれは若干笑えたけど。

「えっ?何で知ってるの……?怖いんだけど」

「良いじゃん、こんなに可愛い子が名前呼んでるんだよ。ほら喜ばないと」

 その隣で妖艶な雰囲気を出しているこのエッチな感じのお姉さんは!

「カノン!」

「お!私の事も知ってるんだ」

 アレンを守るドラゴンメイドの統括で出てきた。仲間になるまでは狡猾で手ごわい敵だったけど仲間になったときは頼もしかったな……。てか女の私でも思うくらいエロイな……。

 私も一時期そんな風に立ち舞えるようにしようって真似したっけ……思い出すの止めとこ、なんでか知らないが叫びたくなるし。

 竜人族のトップ二人をここで同時に見れるなんて……眼福、眼福。

「えっと!高山花です、ニート!」

「お前、正直気に入ってるだろ」

 零が笑い、私も笑う。そしてそれにつられニ見さんも笑う。そして、

「なんだ、こいつ」

 キョトンとした表情を浮かべるライガ。

「こら、そんな風に自分を下げるようなことをふざけて言わない」

 年上らしく優しく注意してくれるカノン。

 他に誰がいるのかまだ気になるが、今はこの面々だけでお腹いっぱいである。

 今日という一日は忘れられないだろう。生きててよかった。

「それにしても監督、ちゃんと持ってきたんだろうな」

 ライガは零の方へ指を指す。それを受け零は弛緩した空気を締めなおすような間を作り、答える。その表情はとても真剣だ。

「無論だ。私を誰だと思っている」

「ふん、伊達にアレンが認めただけあるな」

「何十年前の話をしている」

 この原作ファンなら痺れる、そんな会話であるが零は何を持ってきたのであろうか……もしかしてさっき私が触ってしまった両刀?

「さあ、見せろ」

「ほら、受け取れ」

 そう言ってよく見慣れた筐体を出す。

「……なるほど、こいつがあれば良いってわけか」

「基本料金、四千円」

 渡されたのは持ち運びができるWi-Fi……は?

「なに伝説のアイテムを苦労して手に入れたみたいな顔してるの!さっき回収した漆黒の孫と白銀の祖を使おうよ!」

 社内で携帯が繋がりにくいからWi-Fi買ってきたみたいな社内告知はいらないよ!もっと冒険らしいことしようよ!昔懐かしい武器を片手に冒険みたいなノスタルジックファンタジーを私に見せてよ!

「ちょっと、高山さん……これは今必要な大切なアイテムなんだよ。ね、それにその二つの剣を持ってきても使えないし」

 使えない?ぶきやぼうぐはそうびしていないといみがないぞ!的なおふざけじゃなくて……そっか!さっき言っていた撮った写真が消えるって言ったのはそういう意味やったんやね。

「持ってきた物は本来この世界で存在していない物、つまりこの世界を構築している概念からは除外され、構築演算からオーバーフロウして意味のない使えないものになるって事であっとるやろ?」

 伊達にアニメをたくさん見てきたわけじゃない……どや!と言わんばかりに胸を張る。

「知識だけは一人前……あ~あれだね。花ちゃんはまだ知らないんだね。若いね~」

 ……あれ?この世界の本質を知り、そしてその力を遺憾なく発揮できると思って言ったのに……設定だけしか書けないオタクみたいなどうでもいいことをペラペラ喋ってた?

「この世界の信管を触れた、みたいな事を言いたいみたいだが違うな、だとしたらお前はこの場所に燦然と立っている」

 そうだよ!そう、私も言っている時にじゃあ私は何なのだ?って思っていたくらい!

「なあ、こいつ何なんだよ。さっきから色々喋るけど。ガス抜きのおもちゃか?」

 アニメで見たいたけど、やっぱり怖い……、敵を見るような眼光、私何かやった?やってるけど。

「ああ、そうだな。名前は言っていたが何者かは言ってなかったな。まず言う、高山花、敵ではない……なんでいるんだ?」

「いや!アニメ作りを見せてくれるって言ったやん!」

 宇宙飛行士の玩具みたいな紹介ありがとう。でもそうだよ、零に私の事を何も話していない。私が何をしに東京まで来たのか、そしてどうなりたいのか。

「私はアニメを作りにここ、東京まで来ました。そして色々なところを受けてはいるけどどこも受からないで……その時たまたまニャンドラゴー、そして零……監督に会いました。今日という一日を今後に生かせるよう勉強させてください。そして皆さんの邪魔はしません………………なのでお願いします!」

 これが私の本音だ。何一つ嘘のない、心から出た言葉。でも……言えなかった、そして分からなかった。

 たぶんその分からない部分がアニメ制作会社に受からない理由であろう。

 それさえ……それさえ形に出来れば私はきっと。今拳を握りしめる事しかできないがそれはいつか必ず、

「って?え!」

 周りを見やるとみんな涙ぐんでいた。

「高山さん……そんなにアニメガ好きなのね!私に答えられることは何でも聞いて!分かる事なら何でも答えるから!」

「そっか、そっか。花ちゃんは真面目だね。うんうん、良いよ良いよ!もう雇おう!明日から一緒に働こうね!」

「なんだか知らねえが、良いだろう。そこまでの覚悟を見せたならそれが嘘じゃないと俺に見せろ!良いな、もしそれが嘘なら……容赦しねぇが」

 三人は私に優しい言葉をかけてくれた……正直に言ってよかった。

「まあ、好きなだけ勉強しろ。そして今日は飯を食って明日に備えろ。良いな」

 その私は報われたような気持になった。

 そして私はアニメの作り方と美味しいお酒の飲み方を教わるのであった。

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