6.闇増幅器日本人
ちょっと十話で休載するよ。
……理由は、受験ですね! 人生掛かってるから! ごめんね!
3/12.旧六話.消、メェェツッ!
……ごめんね、ふざけ過ぎだよね。
「んふふ~、美味しいなぁ」
そうして妖精は笑みを溢し、ボクの持つ綿飴に張り付いている。また、全身で綿飴を感じると言う謎の行為をしながらその小さい口でパクパクと綿飴を食べている。
羽虫が。と思わなくはないが、綿飴を餌付けする事で怒りを抑えてくれるのならば安い物だ。……それどころかチョロい位だ。
「エミィ、その、ちょっと腕が疲れて来たんだけど?」
しかしながら、エミィの一口で消費できる綿飴の量などたかが知れている。子供たちが満足するような量の綿飴を食べ尽くす為の所要時間が凄まじい事になる事は、目の前の様子を見ていなくとも推測は出来る筈だ。
更に言えば、ボクは残念ながら、長時間同じ姿勢を保つ美術部の連中の様な酔狂な訓練は行っておらず、そもそもとして筋肉が貧弱なボクが気合で数十分。持った事を讃頌して頂きたい程だ。
今も、綿飴を持って腕をプルプル痙攣させて……ボクは一体、ゲームで何をしているんだろうか。
「う~ん、もうちょっと頑張って!」
しかしエミィには、ボクの現状やら筋肉の疲労度やらを勘案する気は無い様で、適当かつ朗らかに戯言を宣う。……勿論、この状況で「戯け、羽虫が」等と宣言する程、ボクは常識が欠落してるわけではない。
しかもボクは、現代日本人だ。横暴で、横柄な性格をしているとはいえ、本質的陰険を磨いてきて、それと同時に建前と本音の使い分けも十年以上学んできた。だから、この程度の理不尽は慣れきっている。イラついていたとしても耐えきればいい。……その後ネットに拡散すればいい。
……今も思うが、なんて糞ったれた国民性なんだ。
「ごめん、あと五分くらいにして」
そんな、未来も希望も、それ所か本質的平穏すら存在しなさそうな日本人と言う人種に生まれた事に絶望を感じながらも、現在進行形で発生している筋肉の破壊に伴う痙攣等に意識を向ける。
ボクは普段から体を動かす事はしない。……とはいっても一定時間同じ姿勢で制止し続ける事もしていないのだが、其のお蔭で、今の今まで、筋肉の破壊と超再生など、大して実感していなかったのだ。……したとしても体育祭やらでの後でのみだ。
つまるところ、ボクの筋肉は全く持って強化されていないのだ。
「OK! 分かったよ!」
そんなボクをあざ笑うかのように、表面上はそんな言葉を吐くエミィだったが、食べる速度に変化はない。……何故こいつはこんな成りをして『煽り』と言う物をここまで理解しているのだろうか。
やっぱり、ゲーム世界の住人では無くて、日本の電子世界の住人ではなんじゃないのか。……所謂、ネット民。
……でなければこれほどまでに煽りの上手な子供が生まれるだろうか。と言うかそもそもエミィは子供なのだろうか。
「ところで、質問なんだけどさ」
だが、如何にせよ、この憎たらしい笑みを浮かべている妖精が綿飴を食べ尽くすよりも早く、ボクの筋肉が崩壊する事は決定したに等しいのだ。そんな事を腹に隠しながら平然を装う為に質問する。
本心では、もう外聞など、周りの目など、警察など、倫理だの法律だの、動物愛護団体なんて無視して、出来る事ならば今すぐ、ピコピコと羽ばたいている翅を毟り取って、力一杯握りしめてミンチにしてやりたいのだ。
……まあ、ボク程度の握力じゃあ、ミンチどころか、痛みを味合わせられるかさえ不安な位だけれど。
「なに?」
「妖精って、街にはいないの?」
まあ、遺言ついでに聞きたい事も聞いておく。それがデキる陰険旧皇国民の務めでもあろう。
……ただ、エミィの台詞を聞いている限り、妖精と言う物はうじゃうじゃといるようなイメージだった。
何せ「うじゃうじゃ」等と言う表現を使うのは虫か人程度の物だったから、気持ち悪いくらいいると思っていた。しかし、辺りを見渡してみれば、エミィ以外の妖精はどこにもいない。
……エミィの様な図太い、厚かましい精神力が有るのならばゴキブリ以上にうじゃうじゃしていそうな物だと思うしさ。
「妖精ってのはね、臆病なんだよ。だから、あんまり人の居る所だといないよ?」
「……臆病?」
その言葉を聞いた瞬間。遂にボクは理解した。
これまで、ほんの少しだけ話がかみ合っていない様に感じられていた理由は、きっとあれだ。ボクの友人が偶に言っていた「日本語に究極的に近しい別言語で会話している」と言うそれだ。
でなければ、エミィの口から「臆病」等と言う戯言が出てくるわけが無い。……そもそも、エミィが臆病なのだとしたら、この世界ではあべのハルカスの上から戦時中の空挺部隊装備を付けたまま飛び降りる様な奇人でない限り、全員が臆病扱いされる。
普通に考えて有り得ないし、本気で有り得てほしくない。そんなのディストピアだ。
「そうだよ。人間みたいに死ぬ事が分かってるのに、無謀な突撃を繰り返す様な連中に比べたら臆病だよ」
……一瞬だけ、ファンタジーテイストのディストピア系ゲームを購入してしまったのかと錯覚してしまったが、エミィは何故「万歳二等兵」共を比較対象に選んだのだろうか。
あいつらは無謀に突撃して行っているが、それは治安維持法だとか国家総動員法とか、専制的で絶対的な権力に怯えてるだけだ。
……と言うかなんでエミィがその情報を知ってるのさ。やっぱにちゃんねるの住民じゃん。
今は、ごちゃんねるだったっけ?
「違うよ、違う。あれは比較対象としては可笑しいよ。アレが普通だったら、全ての生物が臆病になるよ」
まるでそれを常識だと言う風に語るエミィの姿を見て、ボクは切実に、真剣に否定した。……その下手したら近代人類史上最もたる汚点であるそれが人類の常識と認識されているのはやばすぎる。
特にどこぞの半島にある二ヶ国と其の隣国にある巨大国の人達に聞かれたらヤバイ。と言うか冗談でも触れちゃいけない事柄だよ。
「……? でも運営は『人間には気を付けろ、特に日本人とか言う奴等は死を恐怖だと思わないからな』って言ってたけど」
……あれ?
もしかしてこのゲームの開発陣って、太平洋戦争を生き抜いて、今も生きている数少ないアメリカ海軍の人達で固められてるの? と言うか運営本気で頭大丈夫なの?
ていうかエミィの情報源は運営だったのか。
「うん、とりあえず、それは忘れようね。……忘れるのが無理だったら、せめてそれは日本人以外には絶対に言わないでね」
「分かったけど……なんで?」
誰だって「ゲームの中にいるNPC」が原因になって人種的な争いが起きた、等と言う事は、一部の極端な連中以外は望まない事だろう。……しかもボクの立ち位置的に、ボクはエミィの保護者になりかねない。
……そうなった時の責任問題に対する予防線。
等とエミィに言ったら、どうせ腹黒くなるだろうから言わないけどね。……子供って怖いよ。
「……二億一千万人位に糾弾されたくない」
「におっ? 何でそんなに?」
……なんで、と言われても、ボクには「ボク等の祖先が異質な覇権主義国家だったから」と言う回答しか出来ないけれど、このままの勢いだと所謂「究極の問い」レベルの哲学的な話をしなければいけなくなってしまう。
残念ながらボクはそこまで饒舌でも無いし、有識者でも無いのだ。
「う~ん、それを続けてくと世界の真理への探究になるからやめて置くけど、とりあえず二億一千万人に叫ばれ続けたくはないでしょ?」
……下手したら慰謝料を要求してくる。とまでは流石に言わなかった。ボクはアウトプットが緩すぎるかもしれないが、そこまでボクはゆるゆるでは無いのだ。……下ネタでも無いよ?
でも一人種相手に喧嘩を売るなんて真似をする程、ボクはバカじゃないのだよ。
「良く分かんないけど、そうだね」
そんな所で、会話の区切りもよくなったのだが、残念ながらボクの中のエミィに対する殺意は、見事に消え去っていた。
「ごめん、もうむりだわ」
……同時に、ボクの筋肉の耐久度も無くなっていたのだ。
因みに数学の最低点は、100点中34点とか言う、終わってるのですよ。
社会は97点とか取れんのにね