5.腹黒妖精と天然女子(?)
テレビドラマ眺めてたら、時間が十分ほど過ぎちまってたよ。
3/12.大幅改、テェエイ!!
「殺す気なの!?」
ポーションの液体にぷかぷかと浮かびながら、瓶を叩こうとして、失敗し、結局叫びをあげる事しか出来なくなったエミィは、そんな滑稽な状況が無かったかの様に、真剣な表情を見せる。
……やっぱりエミィはエミィだった。
「いや、まあ、悪かったとは思ってるけどさ……」
しかしながら、そんなエミィを見ながらも、ボクはどうすれば、エミィ相手に言い訳できるのだろうか。と言う点において、人生において最もと言って良い具合には脳みそを回転させた。
勿論、口から飛び出ていく言葉の中に「キミも悪いには悪いよね?」と言う言葉はギリギリのところで抑え込めたとは思う。
……流石に、瀕死していたエミィに対して「キミも悪いじゃん」と言う様な台詞を吐ける程、ボクは身勝手じゃないし、外部の評価を気にしない程馬鹿でも無いし。第一として、この妖精がSNSを駆使出来ない訳が無いとすら思っているので、下手な事は言いたくないし、怖い。
「……え? あれって意図的じゃなかったの?」
しかし、エミィの発言で、エミィはボクの事を、子供を拷問に近しい何かに掛ける事を率先的に行う鬼畜生とでも思っている、と言う事にはじめて気付いた。
……勿論、ボクはボクの事を性格の良い人間とは思っていない。よく友達と陰口だってするし、学校では猫しか被っていないし……それどころか性格は悪いとすら思って居る。でも、流石に嬉々として子供を虐めたり、傷つけたり、それで悦楽を感じてしまう様な狂気キャラでは無いのですよ。ボクは。
「ち、違うよ?」
その否定をするボクの言葉に、ポーション瓶の中から飛び立ちながら、エミィはわざとらしく眼を見開き、体全体で驚きを表現する。……如何にも嘘くさい、演技臭いその行動に、一瞬だけツッコミを入れたくなってしまったが、流石にこの状況でツッコむほど、KYでは無い。
……もしかしたら、本気でそう思っている可能性すらあるにはあるし。
「……そうは思えないけど」
ただ、どうやらボクの否定は嘘をついている様に見えていたらしい。……ボクはそこまで胡散臭い性格をしている訳でも無いし、顔をしている訳でも無いのだけれど。……まあ、根に持っているんだろうね。あんなことして許すのは、聖人か、馬鹿の何方かだ。
「こんな、現実的な世界をみたら、エミィの事なんて忘れちゃって」
そうして、懐疑的な目でボクの辺りを飛び回るエミィに対して、確りとした事実を伝える。
……今みたいに、蠅の様にボクの辺りを飛び回るエミィを鬱陶しく思い、紐で括り付けた事は事実です。その後に、テンションが可笑しくなって、エミィの事を忘れて、人混みの中に入りながら、女児の様にぴょんぴょん跳ねた事も事実です。
ですが、意図的にやったわけではねえのですよ。
「……まあ、いいよ、起きてしまった事を責めても仕方は無いし」
しかしながら、唐突に、エミィから出たとは思えない理知的で、合理的な発言に、今度はボクが眼を見開き、エミィを凝視してしまう。
……エミィは、妖精の癖に、合理的と言うが、現実主義者的な、ファンシーとは正反対を行くような性質があるようには感じていたが、まさかここまで理知的だとは思わなかった。
「……でも、賠償って物は必要だよね?」
エミィの評価を、ボクの中で上方修正し、エミィを見る目を改めようと思った瞬間、エミィはボクに向かって、ひっじょーに、下種な笑みを浮かべながら、耳元で、静かに、そんな事を言う。
……やはりエミィはエミィだった。どうせそんな事だろうとは、考えていたには考えていたけれど。
「……でも、法律なんてないじゃん」
それに、別に、法律があったとしても、ボクはその法律には縛られないと思う。と言う意思を込めて、下種顔をしているエミィを、真正面から眺めながら、ボクは言う。
「うん、そうだよ?」
しかし、素直にそれを認めるエミィに対して、拍子抜けするとともに、微妙にかみ合っていないその返答と、その拍子抜けする台詞をしたのにも関わらず、未だに下種顔をしているエミィに対して不安感を抱いてしまう。
……正直言って、まだ一時間もエミィと付き合ってはいないが、こいつの言葉が驚く程信じられない、と言う事だけは分かっているんだ。
「妖精を守る法律も……人を守る法律もね」
ここまで聞いて、ボクがエミィに対して感じていた腹黒さの評価を、さらに上方修正する。
……こんな小さくて、ファンシーでファンタジーな輩が、法律を盾にこちらに攻撃してきていい訳が無いだろうに。何だこのゲーム。
AI。なんだよね? プレイヤーキャラじゃないよね?
「あぁ、でも別に殺す事はしないさ。……ひん剥いてLimeを如何わしい店の前に放置する事は有るかも知れないけど」
「――よし、じゃあ、何が欲しい?」
な、何でこんなにエミィはボクの扱いがこれだけ長けているのだろうか。……もしかしたら他の同性愛ではない男の人は『死ぬ位ならば野郎に掘られた方がまし』と言うかもしれないが、ボクは『死んでもヤられたくない』と思っている質なのだ。
……ボクはボクの事を最も信用していないからね。一回でも許したら、ボクの容姿相応の事を喜んでやってそうだし。
「う~ん、そうだなぁ」
もし、ここでエミィが『家』だとか『国家』だとか『世界』だとか『全て』とか言うのだったら、こんなクソゲーすぐ様に売り払ってやる。そんな事を考えながら、この妖精を冥府にでも送り込めないだろうかとも考えていた。
「う~ん、じゃあ、あれでいいや」
そうして結局エミィが指差した物は、小さな子供たちが大量に纏わり着いている屋台であった。
……おっと、これは、オークション案件かな?
「……屋台を買える様なお金なんて持ってないけど」
屋台なんて買ってどうするのだろうか、とは一瞬思った物の、どうせこの腹黒い妖精な事だ。ちゃんと経営して大量のお金でも稼ぐのだろう。……『妖精の居る屋台』なんて言う、結構な付加価値を自ら演出できるのだから、楽勝なんだろうけど。
下手しなくても、洗脳とかできそうだし。
「――いや、違うからね!?」
そこまで考え付いて、エミィの事を最低妖精と、資本主義的最低妖精と、罵っていた所、本人から、意外な事に、否定の言葉が飛び出てくる。
……土地か、土地を所望しているのかこの妖精は?
「……土地も買えるお金もないよ?」
そうか、土地を貸して安定的収入を得るつもりなのか。働かずして収入を得るのならば、一番いいのかもしれないが、何故ファンタジーゲームで安定的収入を得るために妖精が画策するんだ。
……わけわからないよ。
「いや、だから、違うって!? わたしはなに、商人にでもなるの!?」
しかし、土地と言う面でも否定してくるエミィに、もうボクは分からなくなった。……エミィの指差した子供のまとわりついているやた――。
……え、まさか――子供?
「……さ、流石に、人身売買は良くないよ?」
ファンタジーゲームならば、奴隷商と言う職業は可能ではあるが、幾ら何でも妖精が就くべき職業ではないだろうに。……いや、まあ、女顔の、と言うかゲーム内では女であるボクを裸にして、そう言う店の前に放置する、と言う考えが浮かんでくるような奴だから、あり得ない事でもないけど。
容姿と正反対な事は、良くないよ。
「違う! 違うよ! 子供が持ってる手を見てよ!」
しかしながら、これまた否定され、もう何を要求するのかが分からなくなった時、エミィが具体的なヒントをボクに与えてくれた。
そうして、ヒント通り、子供たちが手に持っている物を見てみれば、綿飴を皆持っていた。……どうやらあの屋台は綿飴を売っているみたいだけれど。
……って、あれ? 砂糖って江戸時代あたりだと高級品だった気がするけど、良いのかな?
魔法があるから近代化に近い事が出来るって事なのかな?
「ごめん、この世界の文明が中世レベルだったら、砂糖って高級品だと思うんだけど」
結局、いくら考えても、ボクはこの世界の情報は全くないので、エミィに聞くしかなく、声に出してエミィに聞いてみた。
「……いや、まあ、それは後ででいいから! 早く綿飴買ってきて!」
ああ、そうだった。
と、目の前で発生している世界観の矛盾に忘れていたが、エミィに献上する物を探していたのだった。
……しかし、なんでまた綿飴なんてものを買わせるのだろうか。いや、まあ異常な位高価だったらゲームをやめてるし、ボクには得しか無いけどさ。
まあ、いいか、エミィはこの世界においては、矛盾の根源だもの。混沌の根源だもの。仕方ないじゃないか。
そう諦め、ボクは何も考えずに、綿飴を買いに行くのだった。
やきどげざぁぁぁ。
意訳、深くお詫びします。