4.チュートリアルは命がけ
某TCGでは、時折ライヒの諸君らも敬意を表してしまう程の、天才的な参謀が跋扈している様です。
主に遅滞戦術を利用した、消耗抑制による相手の気力を削ぐ、と言う行為を利用して居る戦術ですね。
もしくは、二次大戦中にマジノ線に着任し、そのまま引きこもりの悦楽に気付いてしまった引きこもり、の可能性もありますが。
……ふう、こちらは兵士畑が物理的に有り得るどこぞの赤い国では無いのですから、大変なのですよ。
「すごい! すごいよ!」
あれから、少し長いデモムービーを見終え、ボクは遂に《Arcadia Online》の世界へと舞い降りたのだ。そうして眼下に広がるは、人々は活気が満ち行動を起こし、生まれる喧騒。また周囲に旧時代の遺物と見ても問題が無い程の石造建築。
其れ等が、自身を仮想現実の世界へと連れて来られているのだと認識できたものだった。
「やばっ! 何これ!」
そうして、次に感じるは肌を撫でる微風と、人々の活力の証でもある汗の匂い。
其れ等が、自身が存在して居るこの世界が、作られた世界なのか、懐疑心を発生させる。五感の質感が現実的な物だとはデモムービーを見ている間も理解はしていたが、ここまでの物とは思っていなかったのだ。
だからこそ、この人間味臭い仮想世界に、少し混乱しながらも驚愕していた。
「ふあぁ!」
そうして空を見上げてみれば、そこには鳥と、どうやってか空を飛ぶ数々の人達。その様子は、もしかしたら自らも何かしらの行動をしたら空を自由に駆ける事が出来るのかもしれないと思わせ、更なる興奮を呼び込ませる。
その為、興奮の絶頂に至ってしまったボクは言語と言う概念を知らぬ獣のように、叫びながらぴょんぴょんと幼い子供が喜びを体現するような行動をとってしまっているのだ。
「ぅぷ、ちょ、ちょっと、落ち着けぇ!!」
その行動がどれだけ恥ずべきものなのか、正気であったのならば理解できたかもしれない。しかし今は本能のままに行動してしまっているのだ。幾ら咎められようと、一度放出されてしまった感情の奔流が理性によって封じ込める事は出来ない。
しかも、今のボクはどこからか咎める声すら耳に入っていなかったのだ。
「なんか、焼き鳥の匂いが!?」
そうしてぴょんぴょんと跳ねていた所為か、何処かからかボクの嗅覚と食欲を刺激する、おいしそうなにおいがボクの鼻腔を刺激してくる。
きっとどこかに屋台でもあるのだろうと考えつつも、このゲームでは嗅覚まで精巧に作られているのかと驚愕していた。
「……み、味覚ってあるのかな?」
別に空腹を感じている訳では無かった。
ただ、現実でもなかなか嗅ぐ事の無いおいしそうな匂い。またこのゲームの精巧に作られた触覚、嗅覚、視覚、聴覚、が存在して居た事で、最後に残った味覚が存在して居るのかと言う好奇心が生れたのだ。人間が科学を駆使して味覚までも操ることが出来るのかと好奇心が沸いたからなのだ。
「は、話を! 聞け!」
そうしてその好奇心のまま匂いのする方向へと歩を進めた瞬間、何処かからか怒気を感じる声が聞こえ、それと同時に右足に鋭い刺激は走る。
「痛っ」
その痛みを感じ取った瞬間、反射的にボクは痛みが走った場所である右足を見てみると、そこにはボクのポケットから出る紐に、簀巻きになってぶら下がっているエミィが、顔を青く染めながら必死にかみついていたのだ。
「ご、ごめんエミィ! 忘れてた!」
何故エミィが簀巻きになってぶら下がっているのか、理由は簡単な物でデモムービー中の事である。
戦術的敗北を喫し、戦略的勝利を収めたボクは、デモムービーが終了した瞬間に、怒りのままボクの周りを小馬鹿にしながら飛んでいたエミィを掴み、簀巻きにしてぶら下げてやったのだ。
しかしながら、それをした後に、仮想現実とは、人間が作り出した世界とは思えない程の景色を眺め、すぐさまエミィの事を忘却してしまったのだ。
「い、いいから、ぅぷ、はやく」
そうして、ボクが忘却している間に、エミィはずっとぶら下がっていたと言う事だ。……つまりボクが興奮の絶頂に至っていた頃、跳ね回っていたので、拷問の様な状況にあったと言う事だ。
本当に、謝罪申し上げたい。
「わ、分かった、ちょっと待ってて!」
しかしながら、エミィは今にも死んでしまいそうな位、顔を青く染めていて、謝罪などいっている暇なんて無い様にすら思える。と言うか事実そんな時間は無いのだろう。
体が小さいエミィが宙ぶらりんになりながら、多大な振動を与えられ続けたらそれは死ぬ。と言うか人間だって同じ様につるされて上下前後に激しく振られたら死ぬ。完全なる拷問だ。
「ちょ、し、失礼します!」
ただ、いつの間にかボクは、正気を失っている間に人込みの中に入ってしまったらしく、手の中に大事にエミィを持っていても、小さなボクのアバター自体が人混みに押し潰されてしまい、全く持って身動きが取れなくなってしまっている。
また、強硬策で、人を押しのけようと全体重を掛けようとも、押しのける処か、一ミリでも動かす事が出来なかった。
「ぽ、ポーションでも良いから」
その言葉と共に、ボクの視界の目の前に、半透明の液晶のような物が広がる。
『
ちゅーとりあr
たすk
ストレージって念じて、ぽーしょ』
と、良く分からない事が書かれており、システムのバグなのかと思ったが、多分エミィが何かをしたのだろうと察することが出来る。……でなければ「たすk」とは言われないだろう。
「ストレージって念じればいいんだね!」
と手の中にいるエミィはボクの台詞には全く反応していなかったが、とりあえずストレージと念じてみる。すると、先程と同じ様に半透明の液晶が視界に現れ、初心者用ポーション、薬草、魔法書、初心者の杖、と言った文字が羅列している。
きっとMMOゲームのストレージと同じなのだろう。
「……初心者ポーション?」
しかしながら、ボクは両手でエミィを持っている為、その液晶に触れる事は敵わない。その為もしかしてその文字列を言えば、若しくは念じればそのアイテムが具現化されると予想し言葉を発する。
すると、腕の中に唐突に瓶に入った液体が現れる。
これがポーションと言う奴なのだろうか?
「うぎゅぅ」
そうしてボクの手のひらにいたエミィが、唐突に表れた瓶を認識すると、その瓶に向かってゆっくりと近づいていく。
「え、エミィ、頑張って」
と、ボクは腕の中に瓶が有る為腕を動かす事が出来ず、また手にはエミィがいるので手も動かせず、結局できる事は応援する事しか出来ない。
「ふー、ふー」
そして十秒ほど経ち、ポーションにたどり着いたエミィはそのままの勢いでポーションの中に、ポチャリと落下する。……唐突にそんな行動に走ったエミィに驚き、叫んでしまった。
……しかし、数秒の間をあけた後、唐突に、俯きに浮かんでいた体を、「ぷぁっ」と言う声を上げながら唐突に仰向けに浮かんでいる様子を見てほんの少し安心するボクだった。
要は遅延厨、うぜぇって事です。
敵がどこかに存在する島国の「作戦の神様」とか言う侮蔑する以外の選択肢が自動的に消滅する、迷参謀ならばよかったのですがね。
なぜ彼が「作戦の神様」と呼ばれるようになったのか、訳が分かりませんが、とりあえずそいつら全員集団幻覚にでもかかっていたのでしょう。ええ、そうに違いありません。