【新】18.気絶系ヒロインと言うジャンル。
何故かボクは何時の間にか高校でツッコミキャラになっていました。……中学でもそうだったんだけどさ。
ボクはボケキャラになりたいんだよ!
「……知らないてんじょっ――天井がない」
ふと目覚めて、ボク自身で状況の把握は全く持って何一つできていなかったが、とりあえずこういう時のお決まりとして有名な台詞を吐こうと思った途端、ここが屋外であることに気が付いた。
……なぜボクはこんな輝ける満天な星を眺めることが出来る場所で眠っていたのだろうか。
「……?」
その次に感じたことは、お腹の上に載っているであろうなにかだった。
それは何となく熱を持っており、また上下に小さく動いているのかボクのおなかの上からかなり異質な感覚が感じられていた。そのためボクは頭だけ起き上がらせ、ボクのおなかの上に乗っかっているであろう物へと視線を向けた。
するとそこには深い青色の毛玉がそこには載っていた。
「なにこれ?」
何らかの生物であることはその毛玉が上下している様子を見ると理解できるのだが、如何せんこの毛玉が何の種類の生物なのかが分からないのだ。犬でも猫でも狸でも。体毛を同じ色に染めてしまい丸くなって眠っている姿を見てどの生物なのかを判別できるとすれば、それは生物学者とか言われる類の人間だ。
もちろん、そのような知識を会得していないボクとしてはこの毛玉が獰猛な生物かもわからず、けれどボクのおなかの上に収まってしまう様なサイズ感であるため、特段恐怖を感ずることもなく、ひょいとその毛玉を持ち上げた。
「――ッ!?」
「ふべぁっ!?」
しかしその毛玉はどちらかと言えば飼いならされた愛玩動物用の種族ではなかったらしく、ボクがその毛玉へと触れた瞬間突如としてボクのお腹を蹴り上げて空中へと跳躍した。
猫だったか。
突如としてお腹をけられ、急所に入ったのか激痛にお腹を中心に今度はボクが丸くなってしまった。
「くぅ~ん」
「犬っ!?」
そうしてその毛玉こと猫に反射的に逃げられようとしたときに蹴られたお腹と急所を押えながら丸くなり続ける事二分。そろそろ痛みも引いてきたかという頃合いに、またまた再び突如としてその猫がいるであろう場所から犬のような鳴き声が聞こえた。
今度顔をあげてみると、そこには毛玉と同じ毛色をした小さめの心配に瞳を揺らした犬が突っ立っていたのだ。
……犬なのにあんなに跳ねたのか。
「はぁ、そりゃ猫よりは重いだろうけど……って、まさか――」
「――?」
そりゃあ猫なんぞよりは犬の方が圧倒的に重い訳で、猫と同じような挙動をしたときにかかる負荷がすさまじいことは理解したが……。
と、ボクがそこまで考えた途端、ボクの脳裏に気絶する前、悪魔が如き女性に嬲られ殺され遊ばれていた同じ毛色の大狼のことを思い出した。
「……いや、子供と言う可能性もあるか」
一瞬だけ、あの化物ならばあの巨大な体躯を有していた大狼さえも、ここまでの極小な愛玩犬でも小さめなサイズに入るであろう姿かたちに改変されてしまったのかと思ってしまったが、さすがにあの化物だろうとそれはない。
そもそも第一としてボクのお腹の上に載っていたのだから質量が違い過ぎる。……さすがにあの化物でも質量保存くらいは適応されるよね?
「……それだったら可哀想だな。たとえボクを襲ったとはいえ、最後はあの化物に嬲り殺されて悦楽の為に殺されたもんじゃないか」
たとえボクが第一被害者だとしても、あの大狼の嬲られ具合はひどすぎた。非人道が過ぎる。まず肉片になってしまった大狼を蘇らせるのも異常な話だが、蘇らせた後に再びぼこぼこに殴るとは一体何なんだ。
死んでも許さないのかあの化物は。
ある種の同情からか、ボクはその子犬サイズの犬を抱えていた。
「よしよし、大丈夫だよ。あの悪鬼羅刹の首魁が現れたとしても、あの悪魔どもが児戯に思えてしまう程の魑魅が現れても、頑張って逃げよう」
「――?」
本当に可哀そうなことだ。
今だってどんな化け物がいるという事を知らないで、可愛らしく小首をかしげているのだ。哀れ極まりない。けれどもしあの魔王がこの子供の様子を見たらいったいどんなことをするだろうか。
そんなものは想像に容易い。
「……きっと生きたまま鍋にぶち込まれる」
瞬時にボクと犬が火にあぶられた大鍋に投入され、その後ふたをされ熱く苦しみもがいた後死にそうして今度は強制的によみがえった後永続的に続く苦しみから逃れられないのかもしれない。
……な、なぜ妖精たちはボクをこの魑魅魍魎が跳梁跋扈した混沌とした森林に連れてこられたのか。
もしや、妖精たちも悪霊の類なのか。
……確かに、考えてみれば最後のエミィの行動は勇気溢れる正義のそれだったが、それまでの行動は悪霊そのものではないだろうか。
「と言うか、初めにいた街の人達が全員いなくなってるってのがおかしいんだよ」
これは全部妖精たちに仕組まれた罠、と言う可能性が初めてこの場で浮かび上がってきたのだ。
……確か妖精とかってどこかで悪霊じみた扱いをされていた気がするし。もしかしたらこのゲームもそこから妖精をとってきたのかもしれない。
だとしたら完全にトラップではないか。
「でもその可能性のほうが……」
エミィを助ける、と言う名目で連れてこられた癖して実際に連れてこられたこの森にいたのは、超巨大で獰猛な狼と、すごく美しい女性の皮を被った悪鬼羅刹の身としか出会っていない。……しかしながらあの女性の様子からして、下手したらあの大狼は人間側であって女性に殺されない様に追い返そうとしたのかもしれない。
「つまり、諸悪の根源はあの女の人ってことなのかな」
なるほど。つながった。
妖精たちはボクをだまし食べるために森へ連れてきて、圧倒的強者であるあの女性に殺そうとしてもらうためにボクを連れてきて、逆にボクを襲っていたと思っていたあの大狼は実は人間側に親しく殺されそうになっていたボクを追い返そうとしてばれてしまい、惨殺されてしまった、という事か。
「つまり妖精は悪霊だったのか」
……まあ、そうなるとエミィに関してはとても変なことになってしまうけど、どうやらエミィの身長からしてほかの妖精とは格別された存在なのかもしれない。だからこそ一人であんなところを飛んでいて最後はボクの事を助けてくれたのかもしれない。
「……じゃあ、逃げ――」
「なぁ、黙って聞いてれば面白いように貶し言葉が出てくるな?」
その瞬間、子犬を抱えたまま立ち上がろうとしたボクの肩に、手を置かれ、耳にはなんだか聞き覚えのある声が通り抜けた。
「それだけ侮辱してくれたんだから」
ギギギと、壊れたブリキの人形のように首をゆっくりと後ろへとむける。
「……私の話も聞いてくれるよなぁ」
ニタリ、そんな擬音がにあう気色悪く壮絶な笑みがボクの視界に入った瞬間。
ボクの意識は一瞬にしてぷつりと切れてしまったのだ。
くそぅ! 女子の水着が見られなくなるっ!
って言ってる奴がいそうですね。
……補泳食らって「お前ら、俺はハーレム楽しんでくる」って宣ってたやつはマジでいましたが。




