3.ファンシーとファンタジーと現実を足して生まれた何か。
三話から消去しました。……何故か分からないけど、間違えて四話からとか言っていました。寝不足の所為かな。
光がはれ、ボクの視界が正常になるにつれ当然の如く辺りが明確に見えてくる。
そうして見えてくるにつれて、どうやら自身が空中を浮遊している……様に見えるデモムービーを見させられている。
初めの映像は、雄大な自然を上空から眺めていた。次に現れる映像は人々が忙しなく動き活気にあふれている、中世欧州の様な街並みが見える。その次に現れた物は現実では絶対に有り得ない程の大きな木。そうして次は透明度が高く、きれいで大きな海。そして今度は一変し灼熱の溶岩によって植物が生えていない溶岩地帯。
不貞腐れているエミィは、ボクに背を向けているはものの、暇だからか、それとも子供っぽいだけなのか、その映像が何なのかを説明してくれる。
「一つ目の奴は、エフェラス樹海だね。特にこれと言った物はないけど、基本的に動物とかは獰猛な性格だね。だから今のLimeが行けば、秒で食われるね」
と自慢げに話している姿は、先程までの不貞腐れていたという事実がかき消されてしまう程の満面の笑みで、知識を自慢する小さな子供の様に思える。
……まあ、ぼそっと「そのまま食われて引きちぎられて、絶望を感じながら死ねばいいのに」と言う様な危険極まりない台詞を吐いていなければと言う条件を付ければ、だが。
「二つ目の所は……なんたら交易都市、だったかな?」
なんたら交易都市。
別に分からないのならば説明してもらわなくてもいいと思ったのだが、きっと何らかの矜持が有るのだろう。……ただ、きっと先ほどの映像を見れば、中世欧州の交易都市か、地方中枢都市と言った中規模の大規模の都市だと言う事は八割がたの人間が理解できるだろう。
「そして、三つめは世界樹。妖精たちがいっぱいいるね」
そうして次に言われるは、最もファンタジーな物だった。
世界樹。……名前からするに妖精やら精霊とか言われる生命体が跋扈していそうなものなのだが、またもやエミィの呟き。
主に、「まあ、今は人間共が侵略して来てるから、徹底抗戦しているらしいけど」という物によってそのファンタジーでファンシーな世界樹と言う物は崩れ去ってしまった。
もうすこし、言葉を選んでほしい。
「四つ目はホリス湖だね、ああ見えても湖なんだよ」
あれが湖なのだろうか?
ボクの脳裏に刻まれている記憶から見るに、琵琶湖よりも大きな湖などと比べても、比較にならない程かもしれない。ただ、透明度が強い為とてもきれいで一度ゲームの中だが行ってみたいと思ってしまう。
……しかしながら、これまた、エミィの「まあ、これは乾燥地帯にあるから、魔物と動物と人間の血みどろの争いが激しいけどさ」クソみたいな程に現実味のある呟きによってそんな思いは風前の塵の様にすぐさま消えていった。
「五つ目はエヌビス溶岩湖」
……あれも湖なのか。
勿論、あんな映像を見させられて行く気は全くないのだが、現実との乖離、また壮大な惑星の動きなどを実感出来得るいい所なのかもしれない。……と思う事すらもうなくなっていた。
あの阿呆が、「因みに年間死者数は千から一万だって」と言う解説が来た時点でもう、ボクはこのクソ妖精を信用する気はなくなった。
「ねえ、エミィ? その言葉遣いは意図的にやってるの?」
勿論これで、意図的にやっていたと言うのならばエミィに対して説教をやるのだが、何せエミィだ。
多分この世で一番ぶっ飛んでいる可能性すらあるエミィなのだ。
ファンシーでファンタジーな生命体だとしても、地でリアリズムを通す変な奴と言う可能性が、万が一、と言うかきっと八割がた、存在して居るのだ。
その為その事を聞かなければならないのだ。……ボクは合理的な事はどれだけ残忍な事だろうとしてやるのだが、事実確認もせずに理不尽な事を行う気は無いのだ。エミィの様に理不尽で人を陥れる事はし無いのだ。
「言葉遣い?」
そうして、エミィは首をかしげながらボクの事を見つめて来る。
やはり、天然だったらしい。……ただ、そうと分かれば一つ目の樹海の時の呟き以外の言葉は許容できるものとなったのだ。
まあ、どう頑張ってもね、エミィみたいな奴に「そのまま食われて引きちぎられて、絶望を感じながら死ねばいいのに」とか言う台詞を天然で済まし、笑っていられるほど、ボクの心はそこまで寛容では無い。
「じゃあさ、絶望を感じながら死ねばいいのにって、言った事についての説教だけするからさ、そこに座ってよ?」
「ふんっ! やだね! そもそも誘拐するのが悪いじゃんか!」
そうやってボクはシステムによって身体の動きを固定されているながらも、口だけを動かしエミィに宣告する。しかしながら、なぜかシステムに身体の動きを制限されないエミィはボクの周りをぶんぶんと回りながら抵抗しようとする。
……そうだね、それもあるだろうけれど、ボクの周りを飛び回るのは止めて頂きたい。ハエみたいな音するから怖いんだよ。
「……あれれぇ? どうしちゃったのかな? 何でわたしがLimeの周りを飛んでると嫌な顔するのかな?」
……やはりこいつには何かしらの予知能力が自然搭載されているんじゃないだろうか、もしくは人の心でも読めるのだろうか。
しかしながらこいつにボクが羽虫が嫌いな事がバレてしまったら……いや、大丈夫か。流石にハエ呼ばわりされてまで、嫌われる事はしないか。…………しないよな? するんだったら盛大に泣くぞ?
「チッ、だまれ羽虫が」
「は、羽虫とはなんだ! 羽虫とは!? わたしは妖精だ!」
やっぱり、エミィは馬鹿だ。
弱点を見せたと言うのに、自らが貶された事によってキレて、ボクの周りを先ほど以上の速度で飛び回りながら叫ぶ。
……うん、馬鹿で有る事には違いないけど、天然で其れを補う事をやって来るから嫌なんだよ。背筋に悪寒が走るからやめてくれ。
「周りを飛ぶな! 羽の音がうるさいから!」
「煩くない!」
其れからデモムービーが流れ終わるまでの時間、身体の動きが極限まで制限されたボクと、全く制限を課されていないエミィとの言論での格闘が始まったのだ。