閑話3.解説
いやぁ、語り部が三人称だと、とっても書きやすいですね。
誤字が凄く多かったからちょっとだけ手を加えました
「へぇ? それで、ねぇ?」
とある街の、普通で平凡で中庸で、どこにでもあるような住宅街のど真ん中。
そこには周囲の一般的な一軒家とは異なった、とても大きな豪奢で華やかな家が建っていた。
ふと考えてみると、周囲の人たちへ対するあてつけや、嫌がらせのようにも思えてしまう、この建物の中で二人の少年が対面していた。
「ほしいからって、普通は羞恥を耐えてまで貰おうとするもんかね?」
そのうちの一人、木下圭人はこの豪華絢爛の建造物の主である、木下家の末っ子である。
そもそも、この日本においては富豪としか言い様のない木下家、と言うものは現代社会において、別にそこまで浸透している会社ではないにしろ、大企業を経営している一族である。
古くは明治の時代辺りに起業し、そこから長らく、着々と会社としての力を蓄え続け、戦後まもなくして巨大な企業へと成長した経緯があった。
「……な、何が言いたいんだい」
そうしてもう一人の居心地悪そうに、目線を右往左往させている少年。
中島來夢は、圭人とは異なって、ごく一般的な、特に富裕層でもない中間層の両親のもとに生まれた、ごく一般的な少年だった。
強いて言えば、その少年は、少年にしては少女然とした声色や、少女然とした顔付を持っている、と言う位だ。
とはいえ、家の貧富の差や、影響力の強さなどは関係なく、この二人は良好な関係を築いていたのだ。
「いや、やっぱりお前が女装癖にめz――」
「違うからっ!」
とはいえ、この二人の関係はとても健全なものではなかったのだ。
傍から見れば、良家の御曹司と、一般的な少年の身分差などに関係なく親友でいられている、美しい関係のように見えるかもしれない。
しかしながら、この二人の関係性は、良好ではあるものの、決して健全な物ではない。
「そっ、それにだよっ! 最初にやらせたのはキミじゃないか! 別にボクの意志でやってる訳じゃないからな!」
まず、今現状、顔を真っ赤にして反論をしている來夢。
こっちは、端的に言ってしまえば、中学生という割に非常に正確が悪く、究極的には自分の利益以外を全くと言っていいほど考えていない様な人間だ。
その為、昔は健全で無垢な付き合いをしていた二人も、來夢が成長していった上で、この二人の関係の中に、邪悪、不健全と言う類の言葉をまぎれさせる発端となったのは、この可愛らしい顔つきをしている少年なのである。
「”最初は”じゃないのか?」
そうして、その顔を真っ赤にして反論する來夢を性格の悪そうな不敵な笑みを浮かべて、静観している圭人。
こちらは、先程も言った通り、主犯格と言うわけではないにしろ、この二人の関係性に、異常、変態的、と言う類の言葉を付与させたことは、決して間違いではないのだ。
「”今も”、だよ!」
今この二人が口論している、『來夢の女装癖』という問題に関しても、どちらか一方が悪い訳ではないにしろ、決してどちらも悪い、と言うきれいな話ではない事も、それに関係する。
「……それに、ボクに飽きずに女装させるキミだって、ソッチの気があるんじゃないのかい?」
この二人の関係性から健全さが消失した発端は、來夢が成長したから。という言葉を先ほど残したが、それについて、少し詳しく説明をしよう。
もともと、この二人は、金銭的なやり取りもなく、無垢で純粋で健全な、まさに理想的な関係性を築いていた、ことについては、それと同じように残したけれど、そんな理想がボロボロに崩れ始めたのは彼らが小学校四年生の頃からだ。
言葉にすると、すごく些細なことなのだが、その頃になれば、金銭的な物を利用して入手するものに対して興味や欲求が生まれる。
それは來夢にも訪れていたのだ。
最も初めに來夢が欲しいと思ったのは好きな歌手のCDだった。
しかしながら、子供にお金を渡すのは危ないと、來夢の両親がお小遣い制度を導入していなかったこともあり、そのCDを手に入れることは叶わなかったのだ。
ただ、その時から性格の悪さの片鱗を見せかけていた來夢は、悪知恵を思い浮かべたのだ。『友達に借りよう!』という事。
とはいえ、お金を入手できない來夢に、お金を貸すという人はまず誰だってしない。返却する見込みがいくらなんでもなさすぎるから。
そうしてあきらめかけたときに、また一つ、悪知恵が思い浮かんだのだ。
それが、友達であり、お金持ちだった圭人を利用する、という作戦だった。
「……フフフ、あったら、お前はどうするんだ?」
にやけながら、何やら妖しい手つきで來夢へと迫る圭人も、元々は來夢は今よりは仲は良くなく、親友という事でもなく、どこにでもいるような友人だった。
その為、もちろんそんな奴にお金を貸す何てことをするつもりはなかったのだ。
……幼い來夢が言った、『宿題手伝うから!』の一言がなければ。
「うぇ!?」
あまりにも予想外すぎた回答に、阿呆のような返答をする來夢。
このように、大して物事を考えてなさそうな、阿呆そうな顔で、更にはへっぽこであって、後先をかなえていない來夢ではあるのだが、実は妙なところで狡猾な部分も存在しているのだ。
それは昔も同じで、小学四年生にして、どうすればこちらの要求を押し通せるか、という事に関しては異常極まるほど頭が回り、結果として、不真面目で宿題がたまっていた圭人の、一番の欲望に付け込んだのだ。
「……へっ、ヘンタイ野郎!」
それからはすこし省略もするのだが、この二人が中学校に入る間際、唐突に圭人の言い放った言葉により、この二人の関係性がより不健全な物へと歩みを進めてしまったのだ。
その一言、と言うものは『そんなに欲しいんだったら女装してみろよ?』という揶揄い交じりに発された言葉。
その頃になると、二人の関係は類稀なる親友と言う風になっていたのだが、馬鹿を言い合うにしても基本的には來夢が馬鹿にされ、それに反論する、と言う構図が出来あがっていたのだが、思春期が近づき、圭人に何らかの感情が発生してしまった、のかもしれない。
「……なぁ、來夢、知ってるか?」
つまりは、性への感知。
その頃になっても、女顔で、声が高いままだった來夢に対して、八割冗談二割好奇で女装をさせようとしたことが、今のねじ曲がった関係性の原因になっているのだ。
「うん?」
『女装させ喜び報酬を渡す』圭人と『女装して喜ばせ報酬をもらう』來夢との歪な関係。
「嫌よ嫌よも好きのうち、ってね?」
友人関係としては健全でも、普通に考えたら不健全な二人の関係は、そうして生まれたのだった。
「ひぇぇ!?」




