閑話2.代償(sacrifice)
期末のクラス(一部学年)順位が返ってきたぁ!!(自慢!)
クラスの方だと
生物・1位、家庭・1位、国語・2位、世史・4位、数A・8位、数1・8位。
学年の方だと
保健・10位、情報・16位。
だったね!
数1は単元テストで追試に引っかかって、その追試でも引っかかったから、結構頑張った方だと思うね!
あと、ボクの高校は一学年三百人以上は居るってことを教えとくね!
英語?
セクシーヴァンパイアと共に昏き底にでも葬られたんじゃないですか?
「うん? あぁ、ライムか、どうしたんだ?」
そうしてついに応答が返ってきてしまうのだ。
……い、いや、まあ、要求しようとしているのはボクであるんだから、そんな望んでいないような台詞を吐くのは間違いなのかもしれないけれど……やっぱり嫌だ。
そもそも、友達に電話することに対して、大量の冷や汗をかくという状況こそが大いに間違っていると思うのだ、ボクは。
「いや、ね、その、ちょっとだけお願いがあるんだけどね?」
……コネを使って馬鹿げた値段をする物を譲ってもらう事が大前提としておかしい?
何を言っているんだ。
別にボクが持ち合わせているコネクションを利用するだけで、一体何が悪だというのだろうか。……どう考えてもコネクションを利用して幅広く行動することは決して非道な行為ではないだろうに、それを悪とか、何を言っているんだか。
「ちょっとばかし、お話を、と思って、ね?」
誰だってコネを利用するくらいはあるだろう。
そんな風に自身の心中で自己を肯定しながらも、依然として冷や汗をほんの少し流しながら受話器を手にかけて、たどたどしく、普段全く使わない敬語に近しい言葉を使う様子は、まさに滑稽だった。
「……お前……女装癖が付いたか?」
しかし、受話器から帰ってきた声は、非常に呆れ切っているようなもので、さらに言えば困惑も混じっていて、更にこの状況を喜劇らしい滑稽な物へと変貌させて行く。
「なっ!? そんなわけないだろ! キミとは違ってボクは変態じゃないんだよ!」
初めに女装をさせてきたのはいったいどこの誰なんだ!
そんな意思が込められている叫びを受話器越しに挙げるが、客観的に考えてみれば、どう見てもケイトのほうの意見が正当であり、明らかにお願いと言う名目を使用し、女装をしようとしている様にしか考えられないのだ。
「……いや、だっておまえ、前にやったのどの位前だよ」
そう、最も近くで女装をケイトに施されたのは三週間前。その次に近くて十週間前。
明らかに、その頻度が高くなっているのだ。
もちろん、ケイトが一番初めに女装をさせ、さらに言えばそれを継続してきたのは事実であり、歪曲することの出来ないものであることは絶対的だ。
「明らかに、頻度高くなってるだろ?」
しかし、ケイトとて本気で女装癖をすり込もうとしていた、と言う考えは一切なく、単純に女顔だったからこそ、ふざけて着させていために、まさか本気で女装癖がついてしまうとは、と主犯であるケイトが困惑しているのである。
「ぐ、偶然だよそんなもん!」
とはいっても、ここで絶対に認めるわけにはいかない本人は必死に、一切の冗談を含まずに、講義をする。
しかしながら、帰ってそのことが、ライムの否定に真剣味を出させてしまい、ケイトの中に存在している『ライムが本気で女装の癖に目覚めた』と言う疑念を、熱心すぎる否定の所為で徐々に徐々にと増幅させて行く。
「……い、いや、まあ、女装をさせた俺にも責任はあるからな……深くは、言わない」
「話聞いて!?」
……いわゆる悪魔の証明というべき奴だろう。
本心から、本気で違う事を否定しようとしても、一度でも疑念を浮かべられてしまった瞬間に、どういった言葉を使おうと、その本人がその事実をもみ消そうとして嘘をついている、と認識されてしまうのだ。
何せ、女装癖と言う、昔ほど糾弾されるものではなくなったのかもしれないが、羞恥を感じなくなった、というわけではない。
その為、隠す、と言うのは、十分にありうるのだ。
「大丈夫、別に今の時代、女装癖を否定する人間なんていないから」
「いや、だからっ!」
しかし、ライムとて、自身が女装して悦楽を感じる人間、と言う異常性癖に近しい扱いを受けることは非常に遺憾であることにも変わりない。
なにせ、このライムと言う人間。
女顔であり、そもそも身長も男子としてはかなり低めの方であり、女子とみれば普通な方。
そんなこともあり、ライムと言う人間は男であるのに、女らしく、更に友人や、果ては家族にまで可愛らしいと言われ続けた結果、『男子だ』と言う自己意識が激しくなったのだ。
「ボクは、別に女装癖とか、そういった性癖とか区政は一切持ってないんだよ!」
その結果、大して男らしくもない。それどころか女にかなり近しい容姿をもっているライムは男らしさ、と言うものを常日頃から求める結果となり。
もちろん、それは、今回のことも等しく男らしさを求めているライムが女装癖を否定することは、普通なことだった。
「とにかく! とにかくだよ! ボクはキミに要件があるんだって言ってるのさ!」
結局、ライムに女装癖が誕生したのか否かは、ライム直々に、話が進まなそうという理由によって話はそらされ、結果として話は進むことになる。
とはいっても、この強引な切り返しがケイトの疑念をさらに深く掘り下げたことは事実だった。
……また、このことや、のちにゲームで出会った時には、もう女装癖と断定されてしまうのだったが、その時はまだ、誰も知らなかった。
英語は良いほうで15位、悪いほうで17位。
……こ、これでもしっかり勉強した方ですからね? 勉強しないで一位とか取りやがった奴いますけど。
ちなみに数Aのクラス平均は35.3点と言う驚異の低さね。
五十点以上も八人しかいないもん。まあ、授業が先生による教科書朗読会だからかもしれませんが。




