22(2/2).もう帰ってこない一番目
中間のクラス内順位が返ってきたぁ!!
結果は
生物・2位、数A・2位、国語・4位、世史・4位、数1・19位
だったよ。
数学は苦手教科だったから、大奮戦だね!
英語?
知らない子ですね。
数分間。
まったく経路も分らぬ古城の中を全力でかけ、途中にあった階段を駆け上がり、ボクは今は二階のどこかの部屋にいた。
どうやら、エミィらしき人を虐めていた、であろう人物の追跡を振り切った、だろうと推測され、今ボクは、共に逃げてきた妖精と二人で、扉に寄りかかって、肩を上下させ、そうして静かに、しかし莫大な喜びと安堵に近い感情を妖精とともに分かち合っていたのだった。
「と、とりあえずは、大丈夫だよね」
しかしながら、先述した通り、今の状況は、エミィ"らしき"人を虐めていた"であろう"人物の追跡を振り切った"だろう"。という希望的観測が複数個収束したような、大層危険な状況であることには全く変わりはなかった。
なにせ世にはマーフィーの法則、なる言葉まで存在している程であり、希望的観測が"希望的"という文字列が付属している理由は、虚構でもなんでもなく、最も人類が歴史上の中で収集してきた、信用たる経験則なのだ。
「……もちろん、どこぞの不敗帝国の作戦の神様程ではないだろうが」
さすがに、ボクだって希望的観測とはいっても、カジノでブラックジャックやっている感覚ではないんだから、例のあれよりはましだろう。
ボクだって大して頭は悪くないけど、この状況でロジックを投げ捨てて、代わりにラックを求めて、杖を片手に突撃しに行くようなバカじゃない。
「エミィ……いや、あれがエミィなのかは断定できないけど、まず、潜伏しよう」
しかしながら、相手が興奮状態であるのは火を見るよりも明らかである。
興奮した相手にやり過ごすという行為など、すさまじく楽なことは、平和な日本の子供ですらわかるだろう。……いや、ネット内での大炎上が隔週レベルの頻度で起こっている日本だからこそ、それはたぶん社会不適合者ほど理解できてると思うね。
「……妖精さんは電探みたいなことは……無理だよね」
そんな状況で、先ほど妖精さんに生物兵器化してもらいたいと願った時のように、今度は妖精さんに生物電探化してもらいたいとして、妖精さんに声をかけたがたぶん無理だ。……まず、できたら別のソシャゲだだ。
なにせ人間は電波を反射しない。……それに、風の妖精であるこの妖精が熱源探知などという技術があるとも思えない。……というか、それが出来たら妖精は、携帯万能索敵兵器としてこの世界で乱獲されてしまいそうだ。
「……ボクにはどこぞの段ボールおじさんみたいに肝は据わってないんだよ」
だから、見つかるやもしれない状況で、自ら扉を開けて、そのまま歩みを進めることなど、一切をもってしたくないのだから、勘弁してもらいたい。とボクはこの運営に愚痴を呟く。
いつからホラーやら、ステルスアクションになったんだこのゲーム。
「いつか絶対に売り払ってやる」
ゲーム性が皆無だし、滅茶苦茶だし、ホラーだし、運営が頭おかしいし、ゲームシステムも意味わかんないし、とにかく、ひどいよこれ。
「クソゲーだよ」
しかし、とりあえずとして、安全が確保されたこの状況に安堵していた、というのは間違いではない。なにせ、ここは安全だという確証はないにしても、先ほどのように追われている状況よりは好転しているという風に思っていたから。
「はぁ」
だから、愚痴を言えるほどの余裕もあったといえるのだ。
――しかし、やっぱりというべきか、ボクには運が皆無だったし、まさか最もたる絶望的観測が当てはまってしまうなんて、思ってもみなかったのだから。
だから、ボクは完全に、油断していたんだ。
「みぃつけたぁ」
「っ!?」
唐突に扉の後ろから聞こえた、歓喜に近いその言葉に、一瞬にして全身に悪寒が走った。
――ドンッ。
しかし、それはボクに何かを考えさせる隙さえ与えずに、扉を突き破って、まるで透視でもしていたかのように確実にボクの方向へと飛んできて、そうして押し倒したのだ。
「……ひ、ひぇ」
「ねぇ? ここは私のお城なのよぉ? その中にいる物の動きなんて、手に取るようにわかるのに」
その人は、顔を紅潮させ、甘いと息を漏らしながら、下にいるボクの頬をねっとりと撫でるようにして、そうして耳に口を近づけ、ささやくのだ。
……一体ボクは何をされているんだ。
そんな、虚無感に包まれかけてしまったが、確実にコトを致そうとしているようにしか見えない、その人の様相に、今すぐにでも逃げなければいけないと、意識が比較的覚醒したことによって、吹っ飛んでいた現状把握能力が復活する。
「ち、近づくなぁ!」
悲しいかな、元の世界のボクだったら……もしかしたらこの状況から逃れる力があったのだろうが、ただでさえ貧弱なボクが、女子になっていて、更に今のボクよりも体も身長も大きい女の人に馬乗りにされていたら逃れることなど、できるはずもなかったのだ。
「や、やめ――んむ!?」
そして、ボクは奪われたのであった。
……一個目の英語が22位。二個目の英語が31位です。
一クラス四十人で。
たしゅけて。




