19.まるでそれは野郎の靴下のようで
……あはははぁ、長期の休みになると、曜日感覚って狂わない? ボクは結構狂うんだよね。
…………ま、まあ、しっかり投稿できてるからいいよね、投稿できてないよりは全然ましだよね。たとえ質が悪くて、文章量も少なくても、投稿できてないよりかは――ましだよねぇ?
――――――――圧倒的謝罪!
「……さて、どう探せば良いものか」
あんまりにも程がある説教に苛ついて、あんまりな話にキレて、そのままの勢いで出てしまったのは、別に問題は無い。
のだけれど、それによって有力な情報源となりうる人物を一人失ってしまった。ということが凄まじく大問題なのである。
もうっ! ボクの馬鹿っ! などとほざいている暇はないというのに。
「戻ってきたけど、やっぱり、人がいない」
そうして、街へと戻ってきていたボクと、一人の妖精はすかさず人のいそうな場所や、家などの扉をノックしたりして、人に情報を聞こうと思ったが、やはりこの街には人が一人もいないのだ。
ボクがこのゲームへとログインした当初は人であふれかえって、かなり広い幅の大通りがアメ横のように人込みであふれ、少しだけキレそうになっていたあの騒がしい街とは、本当に大きく異なっていたのだ。
「……こうなってくると、やっぱり偶然じゃあ、ないよね」
確かエミィが誘拐された時も街には人ひとり存在しておらず、その中で唯一ボクへと向かってきた妖精と、それを追っていた謎の人物以外は街には誰もいなかった。……歩いている人がいないのはもちろん、冒険者ギルドの受付の人だっていなかった。
しかも、驚くべきは戸締りはされていなかったという事なのだ。
やっぱり、どこぞの魔法少女物のアニメみたいに、そういう空間に押し込まれたとしか思いようがない。
「さすがに、ボクだってこの状況で街全員がドッキリを仕掛けに来ているなんて馬鹿なことは思わないよ」
コツコツコツ、と小さな手で頑張って扉をたたいている、妖精を見て、どれだけ焦燥しているのかは分かったが、さすがに無為だとわかっていることを必死こいてさせるわけにもいかず、妖精を包み込むようにしてその行動をやめさせた。
不安がっている妖精の頭をなでるようにして落ち着かせる。
「……はぁ。でもどうしようか」
しかしながら、いろいろなところを歩いてみても、人がいないし、かといって変な方向へと走っていくのも、あまり勧められたものではないのは明確なのだ。……先ほどの妖精ほどは焦燥していないものの、実際焦燥しているのは事実なのだ。
頭を撫でていると落ち着く、ことはあるのだが、ただそれでは意味がない、という事はわかってもいる。
「……よしっ! うだうだ言っていても何の意味もないし、とりあえず行動しよう、こうどう!」
残念ながら、人は周りにいないという状況で、きっといくら誰かが来ないかと待ち続けても、きっと誰も来ないという事は馬鹿でもわかる。
その為ボクは思い切って行動をすることにした。やらぬ善よりやる偽善とかいう言葉もあるし。
そもそも、エミィが連れ去られた、という事が衝撃的だったため、その男が逃げて行った方向はいまだに覚えている、という事もあって、杖をストレージから、引っ張りだした。
「……よ、妖精さんも、光を出せたら出してくれてもいいし、誰かが出てきたら思いっきり攻撃していいからね」
杖を両手で持ち、それを自身の目の前で構え、そうして不安そうな顔をしているボクは、それはそれは滑稽な姿だっただろう。きっとこのちんまりとした女性アバターの見た目相応な、小動物的で可愛らしい行動をしていただろう。
しかしながら、そんなことを考えている暇なんてボクにはなかったし、横にいる妖精だって神経な表情でコクコクとうなずいていたし、エミィを助けることで頭がいっぱいいっぱいになっているのだ。
「よ、よし、じゃあ行くよ」
妖精がボクの目の前に、小さい物の光る球を浮かび上がらせてくれて、更に周囲を警戒し始めたため、ボクもエミィを連れ去った人物が逃げて行った路地へと歩みを始めたのだ。
「うぅ、くさっ」
そうして、ほんの少しだけ入った瞬間に、すさまじい異臭が放たれて、思わず鼻に手を当てて声をこぼしてしまう。それくらい、今まで嗅いだこともないような悪臭が否応なしに鼻に入り込み、吐き気まで催してしまう。
「こ、こんなところに逃げてったの」
正直に言って逃げてしまいたくなってしまったが、それでも何もなかったこの空間に、今まで存在していなかった異臭が放たれているという事なのだ。……まあ、こういったにおいとかがあるときは、都市ガスだったり、そういうのを連想してしまうが、さすがに中世世界に都市ガスがあるわけがない。
そんな、一方的な決めつけで、吐き気を我慢しながらゆっくりと進んでゆく。
「よ、妖精さんは大丈夫なの?」
そんな状況で、ボクはふと、ボクよりも小さい体で、更には精神的に幼いであろう妖精は大丈夫なのか、と、言うようなことを思いつき、即座に頭の上あたりを浮遊していた妖精を見たのだ。
「――? ――?」
しかし、そこにはにおいで苦しそうな表情をしている姿はなく、それどころか妖精は何のにおいも感じていないのか、口と鼻を抑えながら吐きそうな表情をしているボクに対してぽかんとした表情を見せているのだ。
妖精には認識出来なくて、人間には認識できるにおい、なんてものを作れるのだろうか? と大して妖精とか、この世界の技術を知らなくても、不思議に思うし、何しろエミィが連れ去られた路地だけこんな悪臭がするのだ。怪しすぎる。
「……べつに、これ以外の路地もいつの間にかこんな悪臭がするとか言うわけではないよね?」
四十分前くらいに、大量の妖精によって、あの森へと連れられる際に、いくつかの路地をまたいで森へと到着したが、その通ったいくつかの路地では、これほどの異臭は感じ取れなかった。……もちろん、日に当たりにくいから、かび臭いにおいはしたが、この匂いは確実にカビなんてものではないことはわかる。
「もう、これは、行くしかないか」
においがひどすぎるせいで、それを軽減するために、わざわざ萌え袖にして、余った布部分を口に当てるのは、いささか不愉快だし、これまた見た目相応な行動をとっているし、そろそろキレたくなってしまう。
やっぱり、あの時アバターを作り直せばよかった。これではまるでボクがネカマでぶりっ子をしている変人になってしまうじゃないか。
「くっそ、エミィの奴。今度会ったらただじゃ済まねぇ」
そんな軽口を飛ばせるくらいには、ボクの精神にはまだ余裕があったのだ。
はわわ、はわわ、このままじゃ同志寺田心が主導する文化大革命で、しょっ引かれてしまうぅ。
ブックオフなのに、とかそれで弄っちゃったからいけなかったんだよぅ。
なんであんなにプロパガンダ臭いんだよぅ。
そしてそのままの勢いで再び圧倒的謝罪。




