【新】15.すべては月明かりのもとで。
※こっちにも一応。
無事改訂作業が終了の見込みが付いたので、徐々に話を変更していくつもりです。
しかしながら、元々の話とは大いにかけ離れている内容が出来上がってしまっているので、もうそれだったら初めから見てもらおう、という事で元の話を削除し、普段通りに新たに新しくなった話を投稿していくつもりです。
変更された話には、一番初めに【新】の文字がつけられるので、一度目次に戻り、その話を覗いてもらえると嬉しいです。
そこは今までの真っ暗で歩くのでさえ精一杯な真っ暗闇な森とは異なり、何故か異様に木々が開け、周囲の暗さと相まって、ここだけ光り輝いているように見える場所。
青白い光が、満天の星が、ボクたちを見守る。
「グルルル」
しかし、その青白い光が、満天の星が。
きっと、平時であれば幻想的で美しくて、自然とため息が、簡単に漏れ出し魅入られそうになるそれも、目の前の巨大な狼がいなければ、の話だ。
今ではもう、最後の死に際を彩る色でしか、ないようにさえ思えてしまうのだ。
「グガァァァァ!!!!」
ボクたちを、その大きい瞳を、ナイフのように鋭くし、睨みつけ。
ボクたちを、その大きな牙を、圧倒的な殺意とともに、のぞかせながら。
ボクたちに、生物としての圧倒的な力量をあてつけるかのような咆哮を、森中の木々を揺らし、響かせながら。
仰々しく、そこに君臨しているのである。
「……」
もはやここは、この大狼の食事場か、もしくはボクの断罪場だ。
ゲーム側が通告してくれた『紺碧の神狼』という名にふさわしき、蒼く、黒みがかった美しい体毛をまといながら、わずかながらに発光している様子さえ見られるのだ。
これが、断罪者と、罪人のそれでないと、だれが言えるのだろうか。
だれが、この幻想的で絶望的で、ちっぽけなボクが正義で、神聖の権化みたいな巨大な狼を、悪だというのだろう。
「……いや、まあ悪ではあるか」
これが油断してエミィが誘拐されしまったことに対する断罪なのだろうか。そんなことを、これからきっと殺されてしまうであろうボクは、ただ茫然とそのことを考えていたのだ。
……そんな時だった。巨大な狼が動きを始めたのは。
「ガァァッ!!!!」
突如としてその巨体を左右に揺らしながら、その巨体には似合わない俊敏な機動でボクのほうへと突進を開始したのだ。
その様子から、ボクの死因は噛み殺されるなんて言う誉れ高い死亡要因ではなく、圧倒的にあっけない圧死やら轢死の類になると想像は容易だった。
「あぁっ!!」
巨体が目の前へと急速に迫ってくるという圧倒的で、絶望的な状況で、ついには恐怖から、生への執着から、あきらめていた生というものを取り戻すため、勇気を振り絞るためにボクも咆哮をあげ、全力で右へと飛んだのだ。
「ぐっ」
しかし、ほんの少しだけ横に飛ぶのが遅かったのか、わずかに左足に大狼が衝突し、それだけだというのにもかかわらず足からは凄まじい衝撃が継続的に発され続ける。
ただ、その大狼はボクにその痛みに対してのたうち回る時間も与えてくれないのか、ボクが避けたことを確認した大狼は、その速度を落とさないように大きく回りこみながら、再びボクの方向へと突撃を行ってくる。
「くそっ」
もちろん、足には痛みは全然残っているし、それどころか立つことにさえ苦労する程度の苦痛が発されているが、ボクは再び右へと飛んだ。
今回は運よくどこも大狼には接触することはなかった。
「……はぁ、はぁ」
とはいえ、ラグビーとかをやっているわけでもないボクが、普段からタックルやら緊急回避的行動をとることなんてしているわけもなく、しかも瞬時に全力を出すという、日常でまったく行わない筋肉の使い方で、もうすでに息が上がってしまっていた。
「こ、これぇ」
しかしながら、やはり大狼は立ち止まることなく、ボクを轢き殺すべく再び大きく旋回しながら、間髪なしに突撃をしようと走っている。
今はまだ、死ぬ気で飛び続ければ避けることが可能だろうが、さすがにこのままずっと、継続的に行い続ける、なんていう事はまず無理だった。
「はぁっ」
二回。
「はっ」
三回。
「ぐっ」
四回。
「ガァァァ!!!!」
そうして、五度目の攻撃が行われようとしたとき、その大狼は大きく吠える。
その攻撃を何度も避けたボクに対し、すさまじい憎しみがその大狼の中に生まれてしまったのか、今までにないほどの殺意を込めた咆哮に、一瞬だけ慄いてしまうのだ。
いや、違うのかもしれない。
「グラァッァァァァ!!!!!!!!!!!!!!」
それは、まるでボクを慄かせ、怯えさせ、そして一瞬でもボクに隙を与えるためのようで、固まってしまったボクに向かって、今までにない殺意と怒気を感じる、すさまじい声量の方向が、周囲の木々を吹き飛ばす。
……ボクは、もう、あきらめてしまっているのかもしれない。
「あっ」
そうしてそれは走り出す。
思わず声が漏れてしまった。
やはり轢死すると、脳内にわいてきたから。
「……」
それでも、ボクは、目を瞑ることが、あきらめないという意思が、ほんのわずかに、中途半端に残ってしまったから。
あきらめることが出来なかった。
「はぁ」
だけれど、ボクの力ではここからあの大狼の突撃を避けることはできなかった。
ため息を吐き、そうして、やっぱりあきらめて、天を見上げ。
そして、ボクが想像していた衝撃は、発生することはなかった。
キィィィン!!!!
突如としてボクの前方に、半透明の幕が出来上がり、そうしてその数瞬後に、大狼はその膜に衝突した。
そうしてその時、金属と金属が、異常なほどに高い圧力を加えて、こすり合わせたような、甲高い耳障りな音がこの空間に響き渡った。
「ガァァァ!!!!!!」
その膜は、その大狼の突撃を跳ね返したのだ。
「落ち着けよ、犬っころ」
その時、そんな中性的な声が、ボクの後ろから聞こえたのだった。
一回投稿ミスった




