14.ボクは一級フラグ建築士
昨日カラオケ行ってきたんですよね。
超楽しかったよ!
まあ、大抵七十点後半しか出せないんですけどね。……友達は基本的に八十点以上出しやがってるのに。
「こ、ここって」
あれからどのくらい歩いただろうか。
あまり正確な時間というものはわからないし、それにエミィのことをかなえて罪悪やら焦燥やらが募っていくばかりで、とても体内時計がまともに動作しているようには思えないのだ。
だから、ボクが感じていた、数分程度、という指標は全く当てはまらないとは思う。
「……森?」
そうして、幾らかの時間がたって、たどり着いた場所は、草木が生い茂り、その所為で月明かりでさえも遮られ、内部が全く見ることが叶わない、真っ暗な森だった。
……詳しく言えば、ほんのわずかに、獣道らしき跡が残っている、入り口と言っては差支えしかない、草と木々の壁が、そこにはあったのだ。
「…………」
さすがに、こんなよくわからない森の目の前に連れてこられて、不安を感じないわけがなく、すぐさまに後ろを振り返り、ボク自身が、一体どこにいるのかという事を確認しようとした。
すると、エミィが連れ去られた、ボクが初めにスポーンした街は、はるか遠方に、わずかな光が見えるだけだった。
「……」
本当に、どれくらい歩いていたんだろうか。
そう思いながらも、現実を直視すべく、再びボクの前方にある深緑生い茂る漆黒の森へと、視線を向けるのである。
しかしながら、やっぱり内部はここからでは全く視認することが出来ない。
「だ、大丈夫なの?」
歩いていた最中は、エミィのことしか頭になく、周囲の様相すらまったくもって記憶していないほどにはよほど意識を集中させていたのだろう。
けれど、さすがに真っ暗な森の中へと進めと言われるのは、これまでとは違って力強く抵抗感を覚えてしまう。
……何せ、真っ暗なのだ。
「――! ――!」
相も変わらず、そのボクの疑念の声に、力強く、ぶんぶんと首を前後に振り、首肯をしているが、さすがに平成生まれのボクが整備されていない森に入っていくなんて、気がふれていると、ボクですら思っているんだ。危険すぎる。
さすがに、本物の森が、基本的に日本で見るような、だれでも気軽に遊びに行けるところではないだろう。……アマゾンみたいに危険ではないと思うけど。
「――! ――!」
そんななか、ぶんぶんと首を振り続けていた妖精のうちの三体が、唐突に自らの体をさらに発行させて、エミィを思わせる、ボクの周りをくるくると飛び始める。
光はあるから大丈夫。そんなことを伝えようとしていることはわかったが、不安でしかない。
クマの爪痕とか、獣道とかがないから、この付近で獣類に遭遇する可能性は極めて低いかもしれに空けれど、それでも不安なのだ。
「で、でもだよ」
別に光源だけの問題ではない。
ここの森にどんな生物がいるかわからないけれど、毒のある植物やら、魔物やら無視やらが、いるにはいるだろうし、それをわかっているからこそ、ボクはそこに立ち入ることをためらわせるのだ。
「――、――」
しかしながら、そんなためらっているボクを、今度こそ冷めた目で見る妖精たちに、頭を抱えて、そうして自棄交じりにボクは決意したのだ。
「うっ、ぅ、わかったよ」
エミィを救うためには、今更引き返すなんてことは遅すぎる。エミィを助けるためには、もう妖精たちの言う通りにしなければ助からない。そんなことを、頭の中で、理性で認識できていたからこそ、本能的な恐怖を、理性的な恐怖を、理性的な蛮勇で押し潰せる。
事実、道すらまともにない場所で、失礼ながら、信用するほどの知能があるかさえ分からない相手の言うことを聞いて、森の中を進もうとする行為は、普通におろかだ。勇気でもなんでもなくて、それはおろかだ。蛮勇だ。
「こ、心許ないよ」
しかしながら、そんな蛮勇を掲げて、深き森に入っていくのは良かったのだが、一番の問題として、ボクの脳裏をちらつくの光源だ。
今のボクは、三人の妖精たちが放つ、他の妖精たちとは二回り程度大きな光と、他の妖精たちが放つ小さな光しかない。もちろん、それくらいならば、ボクの周囲は見えるには見えるのだが、正直言ってランタン一つに劣る程度の光量しか出ていないのだ。
「と、とりあえず急ごう」
こんなに視界不良の場所にいるのならば、その妖精たちの目指す場所に早くついてしまおう。そして急いでエミィを助けに行こう。急がば回れにならぬ程度に足場に気を付け、できる限り急ごう。
そう決心し、ボクは歩みを早め、妖精たちが案内する方向へ、生い茂る植物をかき分けて、森林の中を進んでいく。
「こっちでいいんだね?」
妖精たちにもボクたちの考えがわかったのか、小さな妖精たちも重点的にボクの前方や足元を照らし、歩きやすくしてくれている。
これならば、妖精たちの目標地点へと歩むことが出来るだろう。
「グガァァァァ!!!」
そう思ったとたん、森の中に、一際大きな獣の猛る叫びが響いたのだ。
『レアエンカウント:紺碧の神狼』
そうして、その叫びが一通りして、聞こえなくなった途端に、今度は目の前に赤透明の液晶に、いやな予感がする文字列が表示される。
ドンッ、ドンッ、ドンッ。
確実に巨大な何かが、急速に接近している。
文字列を認識したはいいものの、混乱と、いやな予感に、目を回している中、森のどこかから再び響く巨大な質量が地面にたたきつけられるような、振動を伴った音が、一音づつに、大きくなって行くのだ。
先程の叫びと、近づいてきているであろう巨大な何かに、嫌な予感を感じない奴はイカれている。そう確信するほど、巨大な足音が迫ってきている。
「――!!」
妖精たちも、その巨大質量におびえているのか、ボクのことを力強く引っ張り、早く早くと、追い立てるようにボクは妖精たちが目指す場所へと走らされる。
その間にも確実に、ボクたちの方向へとそれは近づいてきているらしく、走っていてもだんだんと音が大きくなって行く。
「や、やばいよね、やばいよねこれ!?」
振動がさらにひどくなり、身が震えるような振動になったとき、妖精たちも目的地を目指す以上に、危機感を覚えたのか、ほんの少しだけ開けだ場所についたとたん、突如形態を変え、戦闘態勢のような態勢へと変化する。
「グラァァァァ!!!」
草木をなぎ倒し、吠えただけで、吹き飛びそうになるくらい勢いがある叫びを出して威圧する、ボクの身長の三倍以上ある、狼が、そこには王者の威風のようなものをまといながら立っていたのだ。




