13.妖精の導くまま
すごく眠いから、今日、感想を書きたいと思っている人には返答が出来ないよ。
ごめんね。
令和元年6月12日・文章表現の改訂
「……エミィ」
――どうして、だろうか。
いや、冷静に考えてみればそんなものは明白だ。……ボクが気を抜いて、完全に脱力していたから反応できなかった。
たぶん、それが原因だ。
「……」
たった数時間、そんな短い間だけの中であるエミィに対して、悲しみというには少し可笑しな、けれど悔しさとはどことなく異なった、ボクを焦燥感に引き込むような感情が襲うのだ。
もちろん、ボクが気まぐれにこんな時間帯にゲームへとログインしなければよかったし、エミィを連れ出さなければよかったし……過去を考えれば、だれが直接的原因なのか。何が最大的原因だったのか。
そのことを考えてしまえば、よりボクは焦燥してしまうのだ。
「なんで」
そんな言葉がぽそりとこぼれる。
しかし、ボクの心にある感情は一つの言葉では表し切れなかった。ボクが知る限りのすべての単語で、明確に形容できるものがなかった。
一言でまとめるのならば、焦燥と罪悪を混ぜ合わせた混沌としたもの。というものになってしまう。
「ボクは、これがゲームだとは、思えないな」
まるでボクという人格を見透かしているようで、だからこそボクに対する最も効果的に痛み付ける方法をとっているとしか、思いようがいないのだ。
生意気にも、ボクは優しくない。
むしろ悪に部類される人間だ。
他人がどうなっていても、自分が被害を被っていなければどうでもいい。将来的に障害が発生しなければ何でもよい。その利己的な考えが、ボクが幼い頃から持ち合わせていた主義志向だった。
「……悪意的すぎる」
けれど、中途半端に道徳というものを知ってしまったから。
中途半端に優しさというものに触れてしまったから、理性では利己主義を謳っていても、本心は利己と道徳、慈愛と言ったものがせめぎ合い、滅茶苦茶になってしまったのだ。
「探しに、行かないと」
だからこそ、今のようにボクの本心のわずかな、道徳と慈愛という淀みに付け込まれてしまうのだ。
ゲームだとしても、拉致された人を人力で、しかも一人と、その他の妖精たちでなんて、不可能で、無謀なことだと理解していても、エミィを救わなければと思ってしまう。
「でも、一体……」
けれど、ボクがどう頑張っても、どう足掻いてもこの世界の知識がなく、エミィ達、妖精の知識すら持たないボクが、我武者羅に行動したところで、無為に時間を消費してしまう事は、目に見えてわかってしまうのだ。
そのことに、全身から汗が流れだし、動揺を隠しきれなくなってしまうのだ。
「……もう、無駄なのかな」
そうして、脳裏にかける『無駄』の二文字。
実際、現実世界でさえ拉致されてしまえば、生きた状態で被害者を助け出すことは難しいのだ。
その事実を知っているからこそ、その最悪な可能性へと一歩一歩近づいているのではないか、という憶測に、拒絶反応を起こし、けれど冷静にそれを容認してしまうのだ。
「……どうすれば」
もう、絶望に染まり切っていた。
どうすれば助けられる、という自問に対し、不可能だ、と自答してしまう。
そんな時だった。
「――!」
座り込んで、そうして動揺していたボクの目の前に、一人の妖精が現れたのだ。
「――!」
その妖精が何を言っているのかはわからない。
どういったことを伝えようとしているのかもわからない。
……けれど、はじめて妖精の態度の中に、怒りが混じっているような気がした。
「「――! ――!」」
そうして、その一人の妖精に指さされ、背後を見てみると、小さな妖精たちが塊となって、力をいれ、ボクの服を必死に引っ張っている光景が目に映ったのだ。
「あぁ、そっか」
その様子に、ボクの心から、良く分からない感情が押しあがってくる。
「……まったく、ボクは何をしているんだ」
なぜ、ボクよりも小さくて、見るからに弱そうで、非道なことを言ってしまえばボク以上に、直接的な原因である妖精たちは、力強くエミィを助けようとしているのに、ボクは立ち止まっているのだろうか。
ボクよりも、きっと弱いのに、なぜボクのほうが立ち止まっているのだろうか。
「とりあえず、助けなきゃ」
勇気、吹っ切れた、たぶん、そのどちらかをボクは妖精達からもらったのだと思う。
ボクは、立ち上がり、決心をする。
何があっても、ボクを助けてくれたエミィを今度はボクが助ける番だと。
「ごめんね」
そうして、今までの無様な姿を謝罪するために、ボクは妖精たちに向かって手を伸ばす。
そうすると、妖精たちは破顔し、再びボクの手を引っ張ろうと、みんなで力強く手を掴むのだ。
「……そっちでいいのかい?」
しかし、その感謝もつかの間、妖精たちがボクを引っ張ろうとしているであろう方向が、エミィが謎の男らしき人物に連れていかれた路地とは、正反対の方向だった為に、感謝は疑念と不安へと変わってしまう。
「――! ――!」
その質問に、妖精はコクコクと、少しだけ過剰に首肯し、そうしてボクを物理的に引っ張る必要はないと思ったのか、指から離れて、ボクを先導するように少し先を飛び始めるのだ。
もちろん、妖精たちのことはおろか、この世界のことすらまともに理解できていないボクが、この世界の住民であり、エミィと同じ妖精であるのだから、信用するべきなのだろうが、少しの不安はぬぐい切れない。
「……大丈夫だよね」
しかしながら、ボクが何か行動を起こしたところで、事態が好転する確率は希望的観測だとしても一割未満、という事がわかっていたから、ボクは妖精たちの言葉に、黙って従うのだった。
という事で、おやすみなさい。




