幕間1.欲望が勝った状態のボクと理性が勝った状態のボクの二人のボクが同在するシュレーディンガーの猫的なボクのボク。
復活ぅ!
……は、どうでもいいのですが、ボクにとってはCygamesがまた頭の可笑しなことをやるみたいですね。
……どうやら奴等は『レガシー』などと正当化して同じ過ちを繰り返す様子です。……例のあいつらだけは抜いてよかったんじゃないかな? 本当にバフォもトーヴもなんでも、底から出でて来てるじゃないですか。ウヘヘヘヘヘ\(^o^)/
まあ、あの時現役のプレイヤーってもう少なくなってると思うから、それを許可したのかな? まあ、ボクはダークネスエボルヴの時からやってるから、ね? あの時は絶望してスマホぶん投げたよ?
「はぁー」
ログアウトして、VRギアを外し、ベットから起き、そうして近くにある椅子へと腰掛け、ボクは頭を抱え、盛大な溜息を、一人しかいないボクの自室で吐いていた。
「……」
理由はただ一つ、先ほどまでやっていた『Arcadia Online』の世界での出来事である。……もっと詳しく言うとすれば、ゲームだと楽しんでいたら、唐突にチュートリアル中に完全なるセクハラ、と言うよりも痴漢をされた、と言う事である。
「……このゲーム、本当にどうなってんのさ」
勿論、痴漢を初めてされての感想は、気持ち悪い、あいつら死ね、死にたい、と言ういろいろなネガティブな思考になっていく。
「……」
――のだが、一番の問題はそこでは無いのだ。
……いや、まあ、揉まれた、と言う部分は全く間違ってはいないのだが、問題は『痴漢をされた』と言う事ではなく、単純に『揉まれた』と言う部分なのだ。
分かりにくいかもしれないが、もう一度言わせてもらう。見ず知らずの、関わりのない輩にゲーム世界でのボクの胸が『揉まれた』のである。
「……いや、でもなぁ」
……それでも全く分からないニブチンがいるかもしれないので、もう少しだけ詳しく説明するとすれば、他人がボクの胸を『揉んだ』、それはつまり裏を返せば、ゲーム世界のボクの胸を『揉める』と言う事なのである。
……しかも、『揉まれた』と言う感覚が実際に伝わってきため、つまりそれは『揉む側』と『揉まれる側』の感覚が理解できる、と言う事なのである。
「……あれはボクではあるけど、ボクじゃないんだよなぁ」
勿論、本来ボクの性別とは違うアバターを使う、と言う行為時点で、かなり反則ギリギリの事をしているのに、そのアバターで、ボクの『胸を揉んでみたい』と言う低俗な欲求を果たしてしまうのは凄く汚い事は理解している。
……しかしながらだよ。究極的に女性的な見た目をしているボクだよ? 最新の機械にすら性別を読み取り違えられたんだよ? それ位女性的なボクなんだよ? そんなボクが女の子――空想上の感触のある女の子――の胸を揉める機会なんて、あるとでも思ってるの?
ないよ? 無いに決まってるじゃん? 男の娘は、キミ等顔が整ってない人以上に童貞の確率が高いに決まってるじゃん?
「い、いや、でもだよ、でも。倫理ってもんがさぁ」
そこまで考えていて、ボクが今すぐにVRギアを起動させて、ボク自身の胸を揉みに行かないのは、理性が今までの人生で最も強くなっている欲望を、ギリギリのところで抑え込んでいるのだ。……ボクだって、周りの目って奴が無かったら、世論の目って奴が無かったら、人道ってものがなかったら、社会倫理って物が無かったらすぐ様揉みに行ってるさ。
……それを抑えてる理由は、さっきも言った通り、世論の目と人道と、社会倫理だ。
「うぅ、なんだこの究極の二択はぁ」
もしボクがこのままゲーム世界でのボクの胸を揉みに行って、他の人にばれてしまったら、ネット中に拡散されて、下手したら住所特定されて、……下手しなくても顔バレして、そうしてボクの社会的地位は底辺になってしまう。そうして学校では屑を見る様な目で全員から見られるかもしれない。
……しかしながら、揉まなかったら揉まなかったで、例え無いに等しい様な小ささのゲーム世界でのボクの胸だとしても、一生揉む事は出来ないかもしれない。
……つまり言えば今のボクの脳内には、胸を揉みに行って社会的死を迎えたボクと、胸を揉みに行かないで、一生女の子の胸に触れる事無く、付き合う事もなく、悲しく孤独死していったボクの二人が存在して居るのだ。
つまりはシュレーディンガーのボクって事だね。……まあ、シュレーディンガーの猫と違って、さっき言った二人のボクと、今考えている三人目のボクが居るんだけどさ。
「……そりゃ、合理性を求めたら後者を選択すべきなんだろうけどさぁ。……後者も後者で悲しいし」
もしかしたら、「胸を揉みに行っても誰にもばれる事無く揉むことが出来る」等と言う絵空事を考える奴がいるかもしれないが、残念ながら、ボクは全く持って運と言う物が無いのだ。……下手したら負の数になっている位存在して居ないのだ。
個数限定の商品を買いに行けば、必ずボクの一人前で完売して、二日前に買ったシャーペンが試験中に折れて、知識として知っていた問題が試験に出たと思えば出題範囲ではなかったとして点数無効になったり、確りと勉強していたと言うのに、教師が笊過ぎて何を書いても正解する問題になっていたりと、ボクは凄く運が無い。
……だからボクがバレずにもめる可能性など、無いのだ。そう思った方が良い。
と言うか、多分エミィに見つかる。
「む、むぅ」
利益的に見れば、単純に考えれば、冷静に理性的になれば揉まないべきなんだろうが。……そこで引いて男だろうか。……いや、まあボクは男であるかどうか疑わしいけれど、生物的上は男であるボクなんだ。
「おねっ――お兄ちゃん、ご飯だって」
「ひゃいっ!」
しかし、そこまでボクが考えていた中で、唐突にボクの後ろからかけられる声に、ボクは瞬時に立ち上がり、上ずった声を上げながらボクはその声の主へと顔を向ける。
「……? どうしたの?」
振り返った先にいた妹は、そんなボクの奇行に首をかしげながらも、ボクの妹こと、ユメは、そのままリビングへと歩を進めていく。……しかしながら、一歩間違えたら、ボクがまるで性転換したがっているような台詞を吐いてしまっていたと考えてしまうと、冷や汗が流れてしまう。
「ふんふん~♪」
しかしながら、イヤホンを両耳に付けながら、鼻歌を陽気に歌っている妹の様子を見てほんの少しだけ安心する。……ボクの妹はボクとは全く異なって、性格はとても普通だ。普段から相手の弱みを掴もうとしているボクとは全く異なっているのだ。
……ボクと似て下種な妹なんて、大っ嫌いだけどね。……別にボクと似てなくても大好きと言う訳でも無いけどね。
「……はぁ、ユメは良いよねぇ、気楽で」
そんなユメの様子を見ながら、ボクはぽつりと言葉を漏らす。……イヤホンを付けながら、更に鼻歌を歌っているユメが聞き取れるわけが無いと思って、出て来てしまった言葉だが、実際考えてみたらそうだ。……性別と容姿が一致していて、更にボクよりも頭良くて、凄い恵まれてるよね。
「……はぁ、ライムは良いよねぇ、何もしてないのに男が寄ってきて」
しかし、ユメはイヤホンを両耳に付けながら鼻歌を歌っていると言うのにもかかわらず、ボクの台詞を一言一句聞き取られたのか、ボクの口調をまねながら、そんな事を言われてしまう。……別に、ボクは好きで男を侍らしている訳では無い。
と言うか、ボクは逃げたいくらいなのだ。止めて頂きたいね。
「……ボクをゲイに仕立て上げないでよ」
「……違うの?」
違うよ。……何せ、自分の胸を……やっぱ何でもない。
でもとりあえず、ゲイでは無いのだ。……別にゲイの人を否定する訳では無いが、ボクはそっちのけは無いんです。止めて下さい。
「……ユメだって、女の子侍らしてるじゃん」
「……それはまあ、私は微妙にバイセクシャルだし?」
何なんだこいつは、そんな風に考えながらも、ボクは出来上がった食卓に着いたのだった。。
因みに高校は合格したよ!
五教科合計298点で。……英語は27点だったんだけどね。




