1.始まりは女性型アバター
「キャラクリエイトが完了しました! ようこそlimeさん! アルカディア・オンラインへ!」
一時間近くの時間をかけて、出来上がったキャラを見て、一息溜息を吐き、達成感を感じていた。
このキャラクリエイトと言う物は、今やっているゲーム、アルカディア・オンライン。最近サービスを開始した、VR技術の全てをつぎ込み作り出した、MMORPG。と言う事になっている。
勿論、そのVR技術をつぎ込んだゲームと言う事で、ゲームとしての技術量とは思えないレベルのものが完成してしまい、海外の人からは「なんだこのゲームはっ!」とか、「もっとほかの所にその技術をつぎこめばよかったんじゃないのか?」とか「やっぱり日本人は変態だな!」とか、いろいろな事が言われていたりしてる。
ただ、そのVR技術の全てをつぎ込んだこのゲームの値段は、並大抵のゲームの価格とは比較にならない位高く、このゲームをするために必要な装置とゲームソフト本体で、百万円近くもかかる、利益度外視ゲームと言って良い位の値段だった。
これはテレビでやっていた事なのだが、このアルカディア・オンラインをつくりだした会社の社長は「私は、子供の頃ずっと夢見ていた、自由で、何をしてもよくて、現実的なゲームを作ってみたかったんです。……まあ、売れるかは考えていなかったので、売れてなかったらもう大変でしたよ。売れたからよかったですが、借金地獄が目に見えていましたもん」と言う風に語っている為、会社側も売れるか分からずに作ったらしい。まあ、それが、アニメ好きとか、ゲーマーとかにすごいヒットしてとんでもない利益を生んでいるらしい。
噂では小さい国家の国家予算並みに稼げているという風なものもあるけどさ。
そして、そんな超高価格のゲームを何故ボクがやっているのかの話をしよう。
ボクの生まれは普通の日本の平均的にいるような家族に生まれて、親の収入も平均的、別にボクも特殊な事をしてお金を稼いでいる訳でもない。至って、本気で平均的な過程で生まれた。……逆に平均的過ぎて怖い位だね。
そんな、一般の少年が何故この超高額ゲームをやっているかと言うと、それはお金持ちの家に生まれた友達が居たからだ。友達と言っても、流石にそんな高額のものを無条件で渡してくれるわけもなく、一応いろいろな事をやった報酬として、もらった。
やったことは大してきつい物ではなかったんだけどね。
「えっと、質問があるんですけど」
そうしてボクの前には頭の上にLimeと表示されたキャラクターが存在して居る。……このLimeと言う物はボク自身の名前であるライムから取ったものだ。
「はい、なんですか?」
しかしながら、ふと考えなおすとこのキャラクターを目の前にして沢山の疑問が噴出して来てしまっている。
例えば、名前から勘違いされたり、中性的な容姿なので良く勘違いされてしまうが、ボクの性別は男なのだ。ただ、目の前にあるキャラクターは女性型のアバター。……うん、まあ何でここまで来て気付かなかったかは置いておいて、性別の設定がおかしいことに気付いたのだ。
「なんで女性型のキャラメイクなんですか? ボク、男ですよ?」
「へっ?」
そんな事に気が付いたボクは何一つためらわず疑問を口に出した。しかし目の前の妖精AIはボクが言うまで全く気付かなかったかのような反応をする。
うん、訂正するよ。
ボクの要旨は中性的では無いんだ。……男なのに女性的なのだ。
別に骨格が女とか言う訳では無いのだが、肩幅も狭く、声変わりも全く来ない為、好きな女子からは男として見られていなくて、人形扱いされて、抱き着かれてしまうのだ。
……別に抱きしめられることはうれしいけど、男として見られていないことが本当に悲しい。今回は機械にすら間違われたし。いっそ性転換でしにタイにでも行ってこようかな。
「え、貴方みたいな可憐な容姿をしている子が? 男の子?」
「ハイ、ソウデスネー。アハハ」
ここまでくると、本当に笑う事しか出来ない。
これでも男らしいところは……あったらいいのにね。もう不細工の方がまだ良かったよ。
「むくぅー、君が男の子だったとはねぇ。でも一時間近くキャラメイクしたんだよ? もう一度やり直すの?」
「そ、それはそうですけれど」
ただ、きっと男性型アバターを用意するとなると、ボクが何故か全く気付かずに一時間も費やして出来上がったアバターを捨ててしまうと言う事なのだろうと言う事には気付いていた。
目の前の女性型アバターは蒼銀で長い髪の毛、そして優しいふうにみえる大きな新緑の色の目。そしてボクの身長と大差ない低身長の体。あまり育っていない身体。……別にロリコンと言う訳でもないけれど、一時間自らが作っていくうちに、愛着がわいてきているし、それに美しいと思うくらいの出来だ。それを一瞬にして消し去ってしまうのはつら過ぎる。
「それに、ゲームの世界なのだから女の子になってもいいんじゃないの?」
「それは……」
しかし、ボクは女性的な容姿のせいで、男の現実の時でも感じている男の欲望の不愉快さ。気持ち悪さ。それは理解しているし、これ以上経験したくないと思っている。勿論、女性に合法的に触れられる可能性もあるが、それをやってしまうと、自分自身がとても醜い物に見えてきてしまう。自分で嫌悪している、男の欲望を、わざわざ女になってまでやると。
それは絶対にやりたくない。
「う~ん、ならこうしようか! 特別に、運営側としての権限として、君の容姿を一回だけ変えることができるアイテムを先に渡しておくよ。それは性別だって自由に変えられるし、容姿も何もかもできる。それを渡しても嫌だって言うならまた作り直すしかないけれど?」
「……」
そして、ボクが黙りこくっていると、今度は向こうから妥協案として、いつでも、性別、容姿を変更できるアイテムをあげるから、一度女としてやってみたら? と言う物だった。
実際、この人が何故ここまでボクを女としてやらせたいのかもわからないし、ここまで親切にしてくれているかもわからない。しかし、このままずっと黙っていると、何も解決できないし、迷惑が掛かってしまうので、ボクは早々に意見をまとめることにした。
ボクが選んだのは――
「……はい、わかりました。じゃあボクはこのキャラを使って、何らかの不都合が出たらキャラメイクをし直そうと思います」
「そうで来なくっちゃね! まあ、ゲームをやるうえでこんな気持ちにさせるのは悪かったからね。吹っ切れてくれると私もありがたいよ」
Yes。ボクはそう答えたんだ。