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誘われ
「はっはい、幸い怪我は大した事なくて、すぐに治りました」
夕闇さんはそっかと言って微笑んだ。
思えば、夕闇さんと会話したのは久しぶりだった気がする。
最近、色々と忙しかったようだし。
「ついてきて、貴方に合わせたい人がいるから」
夕闇さんは手招きしながら言う。
私は慌ててハイっと答え、部屋を出て襖を閉め、廊下を歩いていく夕闇さんの後を追った。
まるでボディーガードのように、夕闇さんのすぐ後ろを私は歩く。
その間は終始無言だ。
途中、何か話題がないかと頭の中で模索するが、残念ながら何も浮かばない。
考えてみれば、私は夕闇さんが何を好んで、何が嫌いかなど、一つたりとも知らないのだ。
この屋敷に来て、それなりの時を過ごしたと思っていた私だが、どうやら何もかもまだ知らない事だらけらしい。
「着いたわ、まぁ変に気を遣う必要はないからね」
歩き着いたのは、前にも訪れた居間。
この屋敷に来た時、会議した時に使用されていた居間だ。
「どういう意味ですか?」
夕闇さんは入れば分かると返した。




