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暮れなずむ
洞窟の外は、既に夕焼けの空だった。
朝早く起きてここに訪れ、あれだけ怖い思いをしたというのに、私の心は妙に落ち着いている。
「何だったんですか、あの声は」
洞窟の中で不気味に響く、あの悍ましい声。
頭の奥から、壊れた管楽器を絶えず鳴らされているような、あの不快さ。
「……さあ。僕もよく分からないんだ」
朝さんは、私に何かを隠している。
それが私とどう関係があるかは分からないけれど、少なくとも無関係でないのは明らかだ。
「そうですか」
追及した所で、何も話してはくれないだろう。
この人の場合、話すべき時が来るまで決して話そうとはしないだろうし。
今は、そのときが来るまで待つしかない。
もっとも、それがいつになるかは神のみぞ知るといったところか。




