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黒煙
しばらく歩いて、いつの間にか大きな広間に出ている事に気がついた。
およそ、四メートル程の間隔で私達を挟んでいた岩の壁も、気づかぬ内に消えている。
ただ単に、歩いていた私が気づかなかっただけだろうか。
それにしては……
「うっ!?」
まるで、鼻腔を針で何度も劈かれるような、鋭い痛みを覚える刺激臭。
思わず私は、口元を手で覆い被せていた。
鬼の亡骸から出てくるモノでは、断じて無い。
明らかに、そんなモノとは濃度も質も違いすぎる、なんとも形容し難い強烈な臭いではあるが、強いて言うのなら、アンモニアなどが一番近いかもしれない。
「……なるほど」
朝さんはこの、目から涙が溢れてしまいそうな程にキツイ刺激臭の海の中で、眉一つ動かさず、神妙な面持ちで暗闇の向こうを見据えている。




